休日の本棚 二匹の悪魔 東野圭吾「ラプラスの魔女」を読む
おはようございます。
今日もまだ正月休みなので、肩の凝らない小説、東野圭吾著「ラプラスの魔女」「魔力の胎動」(KADOKAWA)を紹介します。この「ラプラスの魔女」も櫻井翔、広瀬すず、福士蒼汰の共演で映画化されています。やはり原作に及ばずと言ったところです。
「ラプラスの魔女」は東野圭吾氏の作家デビュー30年の記念作品で「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった」と言われていますが、東野圭吾氏らしい理系(物理)の作品で本当に面白い作品です。
異なる2か所(温泉)で起こった硫化水素による中毒死事故、自然災害と判断する大学教授青山、事故現場に現れる脳手術により未来予知能力を持つ少女円華、同じく未来予知能力を取得した少年、その父のブログなど、面白い展開です。ネタバレするので内容の紹介はやめにします。
「魔力の胎動」は「ラプラスの魔女」の前日譚で短編集です。最後のエピソードが「ラプラスの魔女」につながります。こちらを先に呼んでもいいのですが、やはり出版順に読むべきでしょう。ただ、若干違和感を感じたのは、「ラプラスの魔女」での円華のイメージと「魔力の胎動」でのイメージがそぐわなかった点です。
「ラプラスの魔女」という題名で思い出すのは、物理学のパラドクス「ラプラスの悪魔」です。当然「ラプラスの魔女」もこの「ラプラスの悪魔」を素材としています。
物理学には2匹の悪魔がいます。1匹が「ラプラスの悪魔」で、もう1匹が「マクスウェルの悪魔」です。物理学者は、神や悪魔が好きです。アインシュタインは、量子力学の不確定原理に対し「神はサイコロを振らない」と言って批判しました。
まず、「ラプラスの悪魔」です。フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスは、「宇宙に存在するすべての粒子について、その位置と運動の状態をすべて知り、物理学の法則をすべて理解している全知全能の悪魔がいるなら、宇宙が時間経過とともにどう進展するかを計算し、未来の状態を予測できる」としました。この全知全能の悪魔が「ラプラスの悪魔」なのです。これは、未来は現在の状態によって既に決まっているとする決定論の立場を言い表していました。しかし、量子論の不確定性原理が台頭すると否定されるようになります。不確定性原理によれば、粒子の位置と運動の状態を同時に把握することはできないからです。全知全能の悪魔は存在しえないのです。
次に「マクスウェルの悪魔」です。これはスコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが提唱した思考実験で、分子の動きを観察できる小さな悪魔を想定することで、熱力学第二法則で禁じられたエントロピーの減少を可能としたものです。この分子の動きを観察できる小さな悪魔が「マクスウェルの悪魔」です。
「ラプラスの悪魔」とは異なり「マクスウェルの悪魔」は今も研究がすすめられ、存在するのではないかと言われています。もしこの悪魔が存在すれば、エネルギーを使わずとも温度差のある部屋をつくれるということ、さらにいえば質の悪いエネルギーから質のいいエネルギーを無制限に取り出す永久機関が作れるということになるのです。これが実現できれば夢のような話です。
昨日のミステリーから歴史(戦後史)を考えるのと同様、小説の題名から物理のことを考え、学ぶのもよいのではないでしょうか。