中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 会計力と戦略思考力

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1466人、そのうち東京303人、神奈川111人、埼玉135人、千葉129人、愛知47人、大阪158人、兵庫61人、京都9人、福岡40人、沖縄44人、北海道78人、宮城100人などとなっています。3週間前に緊急事態宣言解除となった大阪・兵庫では再び増加傾向にあり、宮城・茨城(38人)・栃木(36人)など大幅に増加しています。明日をもって1都3県の緊急事態宣言が解除されますが、今後の状況が心配です。2,3週間後には大きなリバウンドが見られ、変異株の拡大によって第4波、再び緊急事態宣言発動などとならないことを望みます。そのためには一人ひとりの心構え、感染防止対策の徹底が必要です。気を緩めることなく、頑張りましょう。

今日は、大津広一著「会計力と戦略思考力」(日経ビジネス文庫)を紹介します。この本は、「ポケットMBA ビジネススクールで身につける」シリーズの1つです。この本の帯には「決算書は仮説思考でロジカルに読め」「『WHY?』『SO  WHAT?』の2つのキーワードを駆使して、会計数値から企業活動(経営環境、業界特性、戦略)を読み解く方法を学ぶ」とあります。

以前にも鳥居正直著「戦略と会計のマネジメント」(日本経済新聞出版社という本を紹介し、戦略と会計の融合の必要性を見てきました。

多くのビジネスパーソンが、会計に対して苦手意識や嫌悪感を抱き、ときに無視して、あるいは避けようとしています。それは、

 「会計=会計用語の暗記・会計ルールの理解」

といった無味乾燥なイメージを抱いているからではないでしょうか。

そもそも、会計の数字というものは、無味乾燥な数字ではなく、企業活動の結果を表すもので、その背後には、企業が置かれた経営環境、業界の特性、経営戦略が存在します。会計の数字を見れば企業活動をある程度類推することも可能ですし、逆に企業活動からその企業の会計数津の構造を類推することもできるはずです。両者を切り離してみることはできません。両者を切り離すから、会計数字を無味乾燥な面白くないものと決めつけてしまうのです。

ここで必要なのは、会計数値の作り方や会計用語の暗記、会計ルールの理解といった「会計のWHAT?」ではありません。会計数値の読み方、経営言語としての活用、問題解決への発展といった「会計のWHY?」の追求です。「なぜ?」を突き詰めた先には、本質的な原因が待ち構えています。次に、その本質的な原因から「何が言えるのだろうか?」という問いかけが必要になります。それが「SO WHAT?」です。これは解明された原因から経営の意味合いを導き出すことです。そして、それを問題解決につなげるのです。会計数字を見て「高い」「低い」といった事象だけ見ていても意味がありません。原因を解明し(なぜ低いのか)、意味合いを捉えたうえで(低いのは問題なのか)、問題解決につなげるということで、初めて会計力と戦略力が結びつきます。

第1部 会計力

 第1章 損益計算書(PL)はマトリクスで読む

  • PLの目的は1年間の企業活動が利益を生んだのか損失を生んだのかを明らかにすること
  • PLは「本業か」「本業でないか」と「経常的か」「特別か」という2つの軸によってマトリクス構造に分解できる。
  • 売上原価は「今の売上高に個別的かつ直接的に対応しているもの」。今の売上に直接結びつかない研究開発費は、売上原価ではなく販管費として計上される。
  • 業界によって売上高営業利益率ベンチマークがある。売上原価と販管費に分解しながら、自社のベンチマーク達成の可否を評価しよう。

 第2章 貸借対照表(BS)を読み解く3つの基本法

  • PLが1年間の企業活動の「入」「出」を並べたビデオテープなら、BSは年度末の真夜中24時の瞬間写真。このためPLの冒頭には期間、BSの冒頭には日付が記載される。
  • BSの右側にはお金の入りどころの明細、左側にはそのお金の運用が映し出される。左右の情報の意味は異なるが、左右それぞれの合計金額は必ず一致するのでバランスシートと呼ばれる。
  • BSを読み解く3つの基本原則は、①BSは固まりで読む。②BSは大きな数値から読む。③BSは仮説を立ててから読む。
  • BSの右側で最初に確認したいのは資本金ではなく、利益余剰金。利益余剰金の金額に対して資本金や借入金には反比例の関係がみられることが多い。
  • 間違いを恐れずに論理的な仮説を構築するためのキーとなる質問は「WHY?」「なぜその数値なのか?」と「SO WHAT?」「その数値から何が言えるか?」こうした論理的思考力を啓発する質問を問い続けることが、会計を読み解くうえで重要。

 第3章 企業名から決算書を読み解く仮説・検証のプロセス

  • 企業名から仮説・県s等のプロセスで決算書を読み解くアプローチは、①企業を想像する。②仮説を立てる(決算書をイメージする)③仮説を検証する(決算書を読む)の順。
  • いきなり決算書を上から順番に見るのではなく、まずはその企業や業界に関する知識を言葉にしてみることから始める。見てから考えるのではなく、考えてから読む。
  • 仮説を立てれば、決算書を見る時点で、既に決算書の姿がイメージされている。仮説を検証していくプロセスが決算書を読む姿となる。
  • 仮説構築の際の13のポイントは、①売上・利益は成長しているか ②粗利は高いか ③販管費は多いか ④利益率は良好か ⑤現金は多いか ⑥売掛の回収は早いか ⑦在庫の量は多いか ⑧設備の規模は大きいか ⑨株式や債券の保有は多いか ⑩買掛の支払いは早いか ⑪借金は多いか ⑫資本金は多いか ⑬利益剰余金は多いか です。これらの問いかけに「WHY?」「SO WHAT?」を考えること。

 第4章 決算書の数値から企業活動を読み解く仮説・検証のプロセス

  • 一般的にBSの試算に事業の特徴が現れる。BSのを読み解く3つの基本法則(大局観・優先順位・仮説思考)を意識して、BSを読み解くことが大切。
  • 企業名をブランクにして事業を想像することで、数値から経営環境を読み解く力がつく。決算書の着眼すべきポイント、数値から経営環境に関する仮説構築の力が養われる。さらに、顧客や戦略パートナーの決算書の評価、M&Aや新規事業の立ち上げ時の決算書のイメージなど様々な応用が可能となる。

第2部 戦略思考力

 第5章 「5つの力」で競争環境を理解する

  • ビジネスを考えるスタート地点は、会計の数値ではなく、常に経営の外部・内部環境を的確に把握すること
  • 戦略とは「勝ち続けるための仕組み」。時代が変われば顧客の嗜好も変わる。顧客が変われば企業が勝つための条件も変わっていく。必然的に企業が勝つための仕組みを変えていかなければならない。
  • 勝ち続けるための仕組みを考えるうえでは、業界の競争環境の把握が第一に重要。自社がどのような特性のある業界にいるのか、どのような競争環境にさらされているのか、そして勝つための戦略にはどのような選択肢があるのかを理解することなくして、正しい戦略は作り得ない。
  • 「勝ち続けるための仕組み」を構築するには、勝ち続けることを阻害する可能性を持った5つの要因(既存業者間の脅威・新規参入の脅威・代替品の脅威・売り手の脅威・買い手の脅威)を考察する。ポーターのファイブ・フォース

 第6章 「5つの力」で業界の競争環境と会計数値を読み解く

  ここでは、鉄鋼業界について、5つの力の分析がなされている。内容は省略しますので、詳細は本書で確認してください。

 第7章 バリューチェーン

  • バリューチェーンを用いることで、事業活動の流れを、バリュー(価値)のチェーン(つながり)として分解し、企業がどこに戦略として競争優位性を見出すか、逆に重要性を下げているかを分析できる。
  • 同業他社であっても、戦略が異なれば利益構造は異なる。常に戦略を念頭に置きながら、PLを考察すること

 第8章 バリューチェーンで競合2社の経営戦略を分析する

  • 自社開発製品比率の高い企業は、販管費(研究開発費)がかさむ代わりに、高い売価による販売から高粗利益率を実現できる。自社開発製品比率の低い企業は、販管費を抑える代わりに売値の低さから粗利益率が低くなる。
  • 製造を外部委託することで原価を抑えて粗利を確保し、その粗利を構想に打ち勝つための販管費の特定費目に投資することが戦略となりうる。一方で、そうした製造を受託する企業は、規模の経済によるコスト低減が有望な戦略となる。自社製造によって売上原価の低減を目指すが、コモディティであるため売値が低く粗利益率は低い。しかし自社製品でないため特段の販管費は必要なく、規模の経済によって売上比での低減が実現できる。
  • プロモーション・販売活動に多くのお金を投下することで確固たるブランドの構築に成功すれば、高い売値での販売が可能になる。この場合、売値が高いため粗利は高いが、販管費も高くなる。一方、プロモーション・販売活動への投資を抑える企業は、仮に同じような品質の製品であったとしても、ブランド力や販売力の欠如から高い売値の設定ができない。個のため粗利益率では劣るが、販管費の低減によってそれを補完できる。
  • 直接販売する企業は、自社で販売員を抱えるため販管費における人件費が膨らむが中間マージンを抜かれずに最終価格で顧客に直接販売することから、粗利は高い。間接販売する企業は、自社で販売員を抱えないので販管費は少なくなるが、中間マージンを販売委託先に落とすため売値は安く粗利は低い。
  • 経営戦略が異なれば数値は異なる。数値を決めるのは経営戦略。決算書を分析する者に求められるのは、戦略が数値としてどのように表れているか、表れていないかを認識したうえで、化英英戦略が正しいか否かを判断することになる。
  • 業界の競争環境を理解し、これから起きるであろうことを予測し、その中でどこで競争優位性を発揮することができるのか、定性的な経営環境と定量的な評価から。総合的な判断、そして意思決定が望まれる。
  • 仮に営業利益率10%が自社の目標とする数値になっても、それを達成するための手段、つまり経営戦略は数多く存在する。その差異には、自社のバリューチェ―ンを引いて、どこに競争優位性を築くのか、どこは思い切って重要性を下げるかを考えながら、PLとBSへの影響を考察する。

この本では、会計を取り扱っているとしても、細かいルールや用語は出てきません。会計に抵抗を抱いている人でもすんなりと読める本です。この本を読めば、会計で重要なのは数値や細かいルール・用語ではなくその背後に控えている企業活動、つまり戦略だということが分かるはずです。そして、「WHY?」(なぜその数値になっているのか?)「SO WHAT?」(その数値から何が言えるのか?)を考え続けることで、会計と戦略を結び付ける論理的な思考力も身につくと思います。

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