休日の本棚 戦略がすべて
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で1623人、そのうち東京453人、神奈川231人、埼玉64人、千葉135人、愛知106人、大阪79人、兵庫37人、京都18人、広島30人、福岡26人、沖縄86人、北海道76人などとなっています。東京・神奈川・沖縄など一部地域を除き減少傾向にあり、落ち着きを見せています。緊急事態宣言解除・まん延防止等重点措置移行に伴い、多くの自治体が一定の要件を満たす店舗に酒類提供を認める方針です。協力金も遅延している状況で苦しい飲食店にとっては朗報ですが、やり方を間違えると感染再拡大につながります。われわれもコロナが完全に収まったのではなく、今後も感染対策を取りつつ経済を回していかなければならないという意識をもって慎重に行動すべきです。まだワクチン接種率も12%程度で、集団免疫獲得には程遠い状況です。一気に気を緩ませることがないように気をつけましょう。
さて、今日は瀧本哲史著「戦略がすべて」(新潮新書)を紹介します。
著者の瀧本氏は、京都大学産官学連携センターの客員准教授でしたが、惜しくも2019年に47歳の若さでお亡くなりになりました。東京大学法学部卒業後に助手となりましたが、助手の任期終了後は学界に残らず、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、コンサルタントとして日本交通の再建に取り組むなど実務で活躍されていました。著書には「武器としての決断思考」「の句は君たちに武器を配りたい」「武器としての交渉思考」などがあります。
本書「戦略がすべて」は「ビジネス市場、芸能界、労働市場、教育現場、国家事業、ネット社会・・・どの世界にも各々の「ルール」と成功の「方程式」が存在する。無駄な努力を重ねる前に、「戦略」を手に入れて世界を支配する側に立て」と、AKB48からオリンピック、就職活動、地方創生まで社会の諸問題をち密に分析し、戦略の重要性を示唆してくれている一冊です。
本書の最初に「AKB48成功の方程式」が語られています。面白いので紹介します。
資本主義社会で成功するには「戦略」が必要です。それは芸能界でも同じです。タレントや芸能人が成功するのは難しく、その理由は、①どの人材が売れるか分からない ②生身の人間なので稼働率に限界がある ③売れるとタレント側に主導権が移る という3つの理由があるからです。これらを克服したのがAKB48だというのです。タレント一人ひとりを個別に売り出すのではなく、複数のタレントを包摂するプラットフォームを創ることで、グループ自体に価値がありその名のもとに大勢のタレントを揃えれば消費者の好みを反映しやすく、稼働率も上げられて、主導権が移るというリスクも回避できるというわけです。これは昔から宝塚歌劇団などでも採用されている仕組だということです。
さて、本書の構成は次のようになっています。
Ⅰ ヒットコンテンツには「仕掛けがある」
- コケるリスクを排除する ― AKB48の方程式
- すべてをプラットフォームとして考える ― 鉄道会社の方程式
- ブランド価値を再構築する ― 五輪誘致の方程式
Ⅱ 労働市場でバカは「評価」されない
- 「儲ける仕組み」を手に入れる ― スター俳優の方程式
- 資本主義社会の歩き方を学ぶ ― RPGの方程式
- コンピューターにできる仕事はやめる ― 編集者の方程式
- 人の流れで企業を読む ― 人材市場の方程式
- 二束三文の人材とならないために ― 2030年の方程式
Ⅲ 「革新」なきプロジェクトは報われない
- 勝てる土俵を創り出す ― オリンピックの方程式
- 多数決は不毛である ― iPS細胞の方程式
- 人脈とは「外部の脳」である ― トップマネジメントの方程式
- アナロジーから予測を立てる ― 北海道の方程式
Ⅳ 情報に潜む「企み」を見抜け
- ネットの炎上は必然である ー ネットビジネスの方程式
- 不都合な情報を重視する ― 新聞誤報の方程式
- 若者とは仲間になる ― デジタルデバイスの方程式
- 教養とはパスポートである ― リベラルアーツの方程式
Ⅴ 人間の「価値」は教育で決まる
- 優秀な人材を大学で作る ― 就活の方程式
- エリート教育で差別化を図る ― 東京大学の方程式
- コミュニティの文化を意識する ― 部活動の方程式
- 頭の良さをスクリーニングする ― 英語入試の方程式
- 入試で人間力を養う ― AO入試の方程式
Ⅵ 政治は社会を動かす「ゲーム」だ
Ⅶ 「戦略」を持てない日本人のために
各章のポイントを列挙します
1.コケるリスクを排除する ― AKB48の方程式
- 「人」を売るビジネスには「成功の不確実性」「稼働率の限界」「交渉主導権の逆転」の壁がある
- プラットフォームを創れば「リスク軽減」と「持続可能性の向上」が期待できる
- 「才能勝負」の世界ほど才能は事後的にしかわからないので「AKB48方式」で選ぶべき
- 「見える仕事」には顔をなる人材を、「見えない仕事」にはコモディティ化された人材を使う
- 選抜を生き抜く厳しい競争に参加することが、コモディティ化した人材から抜け出す道である
2.すべてをプラットフォームとして考える ― 鉄道会社の方程式
- プラットフォームビジネスの関係者は「顧客」「プラットフォームのプレイヤー(運営者)」「プラットフォームの参加者」
- プレイヤーの仕事は「集客」「ビジネスモデルの提供」「プラットフォームの管理」
- ヒト、モノ、カネ、情報をネットワーク化し、そのハブとして利益を上げる
- 強いプラットフォームは、利益を独占し、リスクを回避できる
- リアル空間においても、プラットフォームビジネスを構築することは可能である
- ブランドの打ち出し、スタイルやクオリティの提案が成功の鍵
- 国家や個人も自分の所に人を集めるプラットフォームとして戦略を練ることができる
3.ブランド価値を再構築する ― 五輪誘致の方程式
- プレゼンテーションは「聴衆が何を求めているか」で見せ方が決まる
- 固定観念や過去の経験にとられず、時代や状況の変化からメリットを導き出す
- オリンピックは千載一遇の日本ブランド再構築の機会である
- 日本独自のポジショニングは東西を超えた、技術と伝統、発展と環境の調和、融合である
- 時間とともに成長する「ブランド価値」こそ日本再生のカギを握る
4.「儲ける仕組み」を手に入れる ― スター俳優の方程式
- 給与の差は所属企業が社員に与える資源量で決まる
- 「儲ける仕組み」の外にいるコモディティは高い報酬を与えられない
- 「儲ける仕組み」に参画し、ビジネスの利益と損失を帰属された資本家に報酬は集まる
- 希少なスキルを持っていても、より大掛かりな「儲ける仕組み」との関係ではコモディティになってしまう
5.資本主義社会の歩き方を学ぶ ― RPG(ロールプレイングゲーム)の方程式
- RPGには、「職業システム」や「ショートカット」など資本主義社会の世界観、働き方がひそかに組み込まれている
- 「不確実な状況下で、効率よく解を見つけ、自分の能力を差別化し、組織目標に貢献する」というのは資本主義のルールと一致する
- ゲームのルールを内面化させている人は、実際のビジネスでも良いパフォーマンスを上げられる可能性が高い
- スマホの課金で決まるゲームをやるよりも、勝ち方が多様な麻雀をやるべき
6.コンピュータにできる仕事はやめる ― 編集者の方程式
- 既存メディアとネットメディアとの戦いは、人の知恵とコンピューターアルゴリズムの戦いだ
- 無から有を生み出せるのは「人間の知恵」だけ
- コンピューターにできる仕事しかできない人間は淘汰される
- 人の知恵とコンピューターの計算を融合させたハイブリッドモデルが勝利する
- 粗製乱造のネットメディアと、少数精鋭のクオリティメディアに二分される
7.人の流れで企業を読む ―人材市場の方程式
- 企業は、商品市場、資本市場、そして人材市場で評価される
- 人材市場とは、内部情報を基にした「インサイダー取引」なので内情が分かる
- 優秀な人材が次々と辞めていく企業は傾きかけている可能性がある
- 人の移動は定期的にモニターし、指標となる人物には定期的に会う
8.二束三文の人材とならない ―2030年の方程式
- 安易に起業を考えるよりも、社内の評価と会社の変革を考える
- 熟知している業界で足りないビジネスを始めることで、企業の成功性が高まる
- 上司を取り込んで仕事の主導権を握る「技」を身につける
9.勝てる土俵を作り出す ― オリンピックの方程式
- 「楽勝できる土俵」を見極め、徹底的にそこに資源を投資する
- 「場」を作ることで、人間が刺激し合い、ネットワークを作り、能力を高める
- 舞台裏の「ヒト」への投資が、表舞台の「ヒト」の成果につながる
- リソースの投入には「カネ」が必要。成果のためには「カネ」を集めてうまく使う
- 資金援助を切実に必要としている人に直接投資することが、「カネ」の最も効率的な使い方
- 「個人の才能と努力」を最大化するには、組織による戦略的マネジメントが重要
10.多数決は不毛である ― iPS細胞の方程式
- 合議制、効率性からイノベーションは生まれない
- 「選択と集中」は、ハイリスク・ハイリターンのチャレンジ案件を潰してしまう
- 社会も企業も個人も、一見非効率でみんなが賛成しない戦略的な投資を一定の比率で行う必要がある
- リスクを軽減するためにも、新しい産官学の連携モデルを模索する必要がる
11.人脈とも「外部の脳」である ― トップマネジメントの方程式
- 組織の方向性はトップではなく、トップが外部から招く人材で占うことができる
- トップマネジメントにとって、異見を持つ多様な人材との関りが優れた意思決定を生む
- 個人にいても、「教養としての人脈」の重要性は増している
- 付き合っている人間が同じような人間ばかりでは新しいものは生まれない
12.アナロジーから予測を立てる ― 北海道の方程式
- アナロジー(類推)から未来を予測することで、ビッグデータには導けない仮説を導き出せる
- 北海道のように、未来を読むための縮図や実験場を見つけるー「土地改良」のノウハウだけを海外に輸出、「知恵」の部分だけを輸出するというビジネスモデル
- ドラスティックな変化は新らしいビジネスのチャンスになる
- 「日本人の知恵」の部分を輸出するというビジネスモデルには勝機がある
13.ネットの炎上は必然である ― ネットビジネスの方程式
- ネットメディアはスクリーニングの機能がないものが多く、情報の精度は低い
- ネットには炎上するような情報の方が収益を生みやすい構造がある
- 怪しげな情報に引っかかる少数の「信者」を見つけることが、ネットビジネスの重要な戦略となる
- 危険な思想でもごく一部の共感者が現れる恐れがある
14.不都合な情報を重視する ― 新聞誤報の方程式
- 新聞などメディアの取材は、結論ありきのものが多い
- 「誤報」事態が増えたのではなく、発覚する機会が多くなった
- ネット媒体との競争で、質の低い記事や噂レベルの情報に振り回されることが増えた
- 読み手側は自説と「反対の考え方」を検証するという自衛策を取ろう
- より破綻のない主張を支持するという意思決定も一つの手だ
15.若者とは仲間になる ― デジタルデバイスの方程式
- 変化は日常の些細なところから始まっている
- 環境の変化に応じてコミュニケーションやビジネスのやり方は自然に変化する
- 昔を知らない若い世代の方が、新しい環境を構築しやすい
- 古い世代は未来の変化に敏感になり、若者とのコラボレーションを図るべき
16.教養とはパスポートである ― リベラルアーツの方程式
- 現在は情報をなるべき制限し、自分に都合のいい情報だけを吸収する風潮にある
- 「自分とは違う立場の考えがありうる」と知ることで狭い社会認識から脱却できる
- 社会の繋がりを再構築するには、普遍的な価値、教養を手に入れる必要がある
- イノベーションを生むには「異なる複数の考え方」を組み合わせることだ
- 教養とは、情報消費社会のカウンターとして「異なる思想」に触れることだ
17.優秀な人材を大学で作る ― 就活の方程式
- 企業の採用には、「育成」型のシステムAと「競争」型のシステムBがある
- 優秀で才能のなる人材は、システムBに集中する
- 企業が大学教育に求めているのは、「思考力」「多様な視点」「コミュニケーション能力」である
18.エリート教育で差別化を図る ― 東京大学の方程式
- 大学は社会の状況に合わせて戦略的に差別化し、競争していくべき
- イノベーションを生むには「実学」だけでは不十分であり、多様な分野の「独自性」と「ネットワーク」を両立させなければならない
- 大学のプロジェクトにも、適切な戦略目標と説明責任を持つべき
- 大学のトップには、広い知識、ネットワーク化能力、コミュニケーション能力が必要
19.コミュニティの文化を意識化する ― 部活動の方程式
- 「部活」が当人が意識しないままにその後の人生を左右することは意外と多い
- 人は社会に出てから所属した会社、業界、組織の暗黙のルールを知らないうちに身につけている
- 自らの属している「部活」の特徴、ルールを意識し、その変化に敏感であるべき
20.頭の良さをスクリーニングする ― 英語入試の方程式
- 東大入試は記憶力やある種の地頭力だけでなく、高速な論理操作や判断推理の力が求められる
- 現在の大学入試は、大学教育を受ける前提能力をはかれない
- 英語入試を廃止すると、知的スクリーニングの役割が失われる
- 英語入試によって、論理的思考力や判断推理力がある程度測定できる
21.入試で人間力を養う ― AO入試の方程式
- 大学入試改革は高校教育を変えるという意味で意味がある
- 「多面的な人物評価」は難しいが、高校生活を組み替えるように誘導する効果はある
- 大学入試には問題設定能力、仮説を立てる能力、説明能力など、大学校郁の前段階の学習を促すという価値を持たせることができる
22.勝ち組の街を「足」が選ぶ ― 地方創生の方程式
- 資本主義は常に「勝ち組」と「負け組」を作る
- 救済すべきは「負け組」の「個人」であって「企業」ではない
- 東京と地方の格差だけではなく、地方の間にも格差が生じている
- 地方自治体も提供するサービスを巡る競争によって淘汰されるべき
- 移転費用を援助して、住民の「足による投票」を行わせ、自治体の競争を促すべき
23.マーケティングで政治を捉える ― 選挙戦の方程式
- 現代の日本において政策で差別化するのは困難である
- 各党は「ニッチな政策」か「ブランドイメージ」で差別化を図るしかない
- 選挙を消費財マーケティングととらえると全体の構図、問題点が分かりやすい
- 細かい政策より、ワンフレーズのインパクトや感情的なストーリー性の方が強い
- 候補者の宣伝文句より、実際に支持している人の信用性で選ぶ
- 「抱き合わせ販売」「イメージ広告」は国民に不利に働く場合が多い
24.身近な代理人を利用する ― 地方政治の方程式
- コモディティ化、万年化によって、組織は構造的に無能な人であふれている
- 地方議員は構造的にも権限が少なく、能力が身につきづらい
- 先進的な政策に通じていて、国政の政治家にネットワークを持つ地方議員を、市民のため野呂日にストとして活用することができる
25.「戦略」を持てない日本人のために
- 「戦略」で勝つとは、横一列の競争をせず、他とは違うアプローチを模索すること
- 日本の組織の多くは、意思決定能力の低い人が上に立つ構造になっている
- 理論や手法を学ぶだけでなく、「実践」の場を何度も経験することが重要
- 日常的に身の回りのことを「戦略的思考」で分析する習慣を身につけよう
この本では、AKB48から、オリンピック、政治まで幅広く取り上げられていますが、そこで語られているのは「戦略」の立て方、使い方です。これはそのままビジネスに応用できます。面白く読めて役に立つ本です。