中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 マーケティング近視眼

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で8892人、そのうち東京1242人、神奈川829人、埼玉556人、千葉461人、愛知1031人、大阪1310人、兵庫528人、京都190人、福岡438人、沖縄301人、北海道117人などとなっています。2回目のワクチン接種を終えた国民が全体の5割に達したようですが、64歳以下の接種率については地域差があるようで、11月に希望者全員の接種を終えるという政府目標を達成するには中年層・若年層のワクチン接種を加速する必要があります。しかし、WHOは、ワクチンによって新型コロナウイルスパンデミックが収束するとの見通しに悲観的な見方を示しています。アメリカやイギリスなどワクチン接種が進んだ国で再び感染拡大が起きていることからさもありなんといったところです。ワクチン接種の目標は新型コロナウイルスを撲滅させることではなく、重症化と死亡リスクを防ぐことという段階にきています。インフルエンザと同じように今後も新型コロナウイルスは変異をとげて存続すると考えられ、2回のワクチン接種で終わるのではなく、3回目、更には毎年接種するなどワクチン戦略と追加ワクチンの身体への影響などの研究を通じ非常に重要な知識を集めることが急務です。2回のワクチン接種で終わるわけではありません。いま俎上に上がっている行動制限緩和案も、こうしたことを踏まえながら、状況に応じて段階的に緩和し、状況が変われば直ちに制限を強化するというアクセルとブレーキをうまく使い分けて行う方策を考えていくべきです。いつも言うように楽観論では危機管理はできません。

さて、今日も先週と同様、ダイヤモンド、ハーバード・ビジネス・レビューの論文を紹介します。セオドア・レビット氏の「マーケティング近視眼」を紹介します。

レビット氏は、元ハーバードビジネススクール教授で、マーケティング近視眼(マーケティング・マイオピア)という考えを提唱したマーケティング論の第一人者です。

企業が製品を作り販売する場合、「どのような製品を作って売ればいいのか?」この問いに答えるには、「製品とは何か」という基本的な問いをしっかりと考えなければなりません。マーケティングにおいては、製品を顧客のニーズを満たす便益の束と捉えることが重要になります。よく用いられる例ですが、女性が口紅を買うのは、単に口紅そのものが欲しいからではなく、美しくなりたいという目的のために買うのです。彼女らは口紅を単なるモノとして捉えているわけではないのです。顧客のニーズを満たす便益の束として製品をとらえたとき、企業は「その製品が誰にどのような便益を提供するのか」ということを考える必要がでてきます。

消費者ニーズという視点で製品をとらえることの重要性を指摘したのがレベット氏です。レベット氏は、アメリカの鉄道会社の例を挙げ、鉄道会社が鉄道という物理的製品に縛られて事業を「鉄道事業」と定義したために、自動車や飛行機との競争に敗れて衰退したとして、顧客ではなく製品に焦点を当ててしまうことをマーケティング近視眼と名付けました。鉄道会社が顧客に焦点を当て、自らの事業を「輸送事業」という顧客に便益を提供する事業として定義していれば、その後の戦略も変わったのではないかというわけです。

レベット氏は「主要産業と言われるものなら、一度は成長産業だったことがある。今は成長に沸いていても、衰退の兆候が認められる産業がある。成長の真っただ中にいると思われる産業が、実は成長を止めてしまっていることもある。いずれの場合も成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。失敗の原因は経営者にある」と言い、「責任ある経営者は重要な目的と方針に対応できる経営者だ」と言っています。

先ほどの鉄道会社のように、産業や製品、あるいは技術ノウハウを狭く定義してしまったがゆえに、それらを十分に花咲かせることができないまま衰退させてしまった企業は多くあります。「鉄道産業」の場合、「輸送産業」と定義できれば、鉄道に限らず輸送手段はほかにもあり、成長の可能性があったのです。事業を狭く定義することで自らの首を絞めたのは経営者の失敗なのです。鉄道会社に欠けていたものは、経営的な想像力と大胆さ、つまり創意と手腕によって生き残り、大衆を満足させようという会社(経営者)の意思なのです。

ある時期に「成長産業」と呼ばれた産業の強みは、明らかに製品の優秀さにありました。その製品を蹴落とす代替品の存在もなかったのです。しかし、どのような花形産業にも衰退の影が忍び寄ります。今急成長している産業がやがては不吉な衰退の影が忍び寄るなど、経営者は思い描くことができないでいます。しかし、これは歴史を見ればまぎれもない事実です。永遠に成長し続ける産業などありません。それにもかかわらず、多くの経営者はマーケティング近視眼に陥っているのです。

レベット氏は「実は成長産業といったものは存在しないと考えている。成長のチャンスを創出し、それに投資できるよう組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できる。何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する。すでに死滅したか、死滅しつつある成長産業の歴史を調べてみると、急激な拡大の後に思いがけない衰退が訪れるといった、思い違いの繰り返しである」と言っています。

そして、この繰り返しが起こる条件として、次の4つを挙げています。

  1. 人口増加という危うい神話・・・人口は拡大しさらに豊かになるから間違いなく今後も成長するという誤った確信を抱いている。
  2. 代替品が現れないとの思い込み・・・自社の主要製品を脅かすような代替品などあるはずがないという思い込みがある。しかし代替品が現れない製品などない。
  3. 大量生産を絶対と信じる・・・大量生産こそ絶対と信じ、生産量の増加に伴った限界コストが低下するという利点を過信している。
  4. どんな製品も陳腐化するということを忘れている・・・製品はどんどん改良され、生産コストを低下させるという先入観がある。

大量生産型の産業では、できる限り生産量を増やして限界コストを低下させるという魅力に抗える企業はほとんどありません。それによって利益が増大するならなおさらのことです。その結果、企業努力は生産に集中し、マーケティングが軽視されます。経営者は大量生産にばかり目が行き、販売部門には「売って売って売りまくれ」と尻を叩くのです。マーケティングは販売ではありません。コトラーが言うように「マーケティングと販売は対極にある」ものです。「売らなくても売れる仕組みを作る」のがマーケティングなのです。

真のマーケティング・マインドを持った企業は、消費者が買いたくなるような値打ちのある製品やサービスを創造しようとします。最も重要なことは、企業が売ろうとするものは、売り手によって決まるのではなく、買い手によって決まるということです。売り手は買い手からの誘導によって動くのであり、売り手のマーケティング努力の成果が製品になるのです。決してこの逆ではありません。

だからと言って、レベットは大量生産型の産業を否定しているわけではありません。「大量生産が利益を生むという考え方は、経営計画や戦略の中に組み込まれてしかるべきである」と言っています。しかし、それは「顧客について真剣に考えた後のことだ」というのです。

生産にかかる限界コストさえ低くすれば、何とか利益が出るという考え方は大きな思い違いで、会社を駄目にします。限界コストにばかり目が行っていてはマーケティングや顧客を重視する視点が欠落してしまいます。そうなれば成長ではなく衰退が待っています。常に変化し続ける顧客のニーズや嗜好に対して製品が上手く対応できなくなってしまいます。自社の既成製品しか目に入らないため、その製品が陳腐化していることに気づかなくなるのです。

産業活動とは、製品を生産するプロセスではなく、顧客を満足させるプロセスであることを、理解しなければなりません。顧客とそのニーズから始まるのであって、重要なのは、顧客ニーズを明らかにして顧客を満足させるには、何をいかに提供すべきかを逆から考えていくことです。顧客に少しでも多くの満足を与えられる製品を創造すべきです。顧客にとってはこの製品がどのように生産されるかということはどうでもいいことなのです。

顧客中心の企業になるためには、どういう組織を創り、どういうリーダーシップをとるか、といった大きな課題に取り組まなければなりません。

成功への情熱に駆り立てられた精力的リーダーなくしては、どんな企業も優れた業績を上げることはできません。リーダーは数多くの精力的なフォロワーを惹きつけるだけの、勇猛果敢なビジョンを掲げなければなりません。

経営者の使命は、製品の生産にあるのではなく、顧客を創造できる価値を提供し、顧客満足を生み出すことにあります。経営者は、こうした考え方を組織の隅々まで浸透させていかなければなりません。企業全体が顧客創造と顧客満足のための有機でなければならないのです。

企業は、製品やサービスを生み出すためではなく、顧客の購買意欲を促し、その企業と取引したいと思わせるような活動をするためにあるのです。