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休日の本棚 ダイバーシティは明らかに収益に貢献する

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で827人、そのうち東京138人、神奈川65人、埼玉25人、千葉35人、愛知42人、大阪166人、兵庫60人、京都26人、福岡15人、沖縄29人、北海道21人などとなっています。100人超は東京と大阪だけで、全国的に今年に入って最も少ない水準にまで下がっています。悦ばしいことですが、何故このように激減したのかその理由が検証されければなりません。ワクチン接種率が高くなったことも一つの要因でしょうが、ワクチン接種率8割強のシンガポールで、再び感染が拡大しています。その多くは、行動制限緩和に伴う会食やイベント・集会参加によるものです。日本においても気を緩めることはできません。

昨日、岸田首相による所信表明演説が行われました。菅首相のように誰が書いたかわからない原稿を感情なく棒読みするのではなく、力強く自分なりに語っていました。「信頼と共感を得られる政治」を掲げ、対話を重視する姿勢を前面に出しました。これは「安倍・菅路線」との違いを強調する狙いがあるとされていますが、内閣の布陣を見ると派閥の力学に依拠した安倍傀儡内閣であり、どこまで政治改革を断行できるかは疑問です。所信表明は内容的には素晴らしいものでしたが、抽象的で具体性に欠け、どこまで実現可能かも疑問です。経済対策では「新しい資本主義」による「成長と分配の好循環」を唱えています。かつて成長戦略と所得分配戦略は両立しないと言われていましたが、今では両立可能とされています。アベノミクスは成長戦略を推し進めその結果格差の拡大を生み出しました。菅首相は、アトキンソンをブレーンにして「自助・共助・公助」を掲げ、「まずは自助、公助は最後」とし、弱い立場にある中小企業を解体しようと目論みました。成長戦略を取りながらどのように格差を是正していくのか、中小企業・零細企業対策についても具体的な対策を示してもらいたいものです。

さて、今日は、ハーバード・ビジネスレビュー(2019年4月号)に掲載された「ダイバーシティは明らかに収益に貢献する」という論文を紹介します。これはハーバード・ビジネススクール教授ポール・ゴーンパースと同研究員シンパ・コバリの共同研究に基づく論文です。

これまでもダイバシティについては何度か触れてきました。ダイバーシティは「多様性」「相違点」「多種多様性」のことで、単にダイバーシティ=女性活用ではなく、性別、人種、宗教、価値観、障碍者、ライフスタイルといったあらゆる観点からの多様性が求められています。ダイバシティの基本は、多様性という言葉でひとくくりにするのではなく、色々な特性を持った存在をお互いに認め合い活かしあうことです。つまり、組織においては、それぞれが持つ特性や経験、キャラクターなどを活かし、一層の活躍を実現し、それによって組織も成果を上げていくということです。

ベテランだけでなく若者や新人の考えをアイデアとして取り入れるとか、パート社員や再雇用者の経験や知識を活かすとか、運動機能に支障のある障碍者をクリエイティブな業務で生かすとか、発想一つで既成概念を覆すような活躍の場はいくらでもあります。女性の活用もその一つです。女性だからという理由で優遇することではありません。性別ではないのです。性別に限らず同等に扱うということです。性別、人種、宗教、価値観、状会社、ライフスタイルといったような多様性に関わらず、適材適所に適切な人材を配置するということなのです。

これまで多様性の推進による効果として、分析的思考やイノベーションへの影響など定性的な面が多く、財務的な数字を明らかにしたものはほとんどありません。ゴーンパース教授らは、組織がフラットで小さく、意思決定権の所在やその成果も比較的明確なベンチャーキャピタル業界に目を付け、多様性と業績との関係について調査しました。その結果は、多様なチームが均一なチームよりも投資効果で明らかに上回っていました。

この論文はこの調査結果について解説されているとともに、多様性を取り入れるためのポイントが示されています。調査結果については敢て紹介しません。ただ3点だけ指摘しておきます。

  1. パートナーが似ていれば似ているほど、投資実績は低い。
  2. 均一なパートナーと、多様なパートナーが選んだプロジェクトは、投資判断がなされた時点では同じように有望だった。意思決定の質と成果に違いが出るのは、戦略構築、人材の採用などスタートアップが生き残って成長するのに不可欠な後の段階になってからだ。こうした段階では、創造的思考が欠かせず、多様なパートナーにはそれが実現できる体制が整っていた。
  3. 多様性の経済的インパクトはベンチャーキャピタルだけに限らない。米国で生み出された財およびサービスの価値は、多様性と正の相関関係がある。

人は、自分と似た人たちと付き合いたいと思う傾向があります。これはホモフィリー(同質親和性)と呼ばれるものです。このホモフィリーによって人は文化を共有しているという意識や帰属感などのメリットを得ていますが、逆にこのホモフィリーによって、企業は多くの額を儲け損なっているというのです。

この論文では、「ホモフィリーの傾向を早い段階でオープンにして認め、それに対応して思考と行動を少々調整すれば、多様性の好影響が長期的に波紋のように広がる」として、「多様性による事業へのメリットを実現するための提案」が行われています。

1.早い段階から始める。

 タイミングは極めて重要です。企業の設立者や起業家は、初期の優先事項のリストで多様性を下の方に位置付けてしまう傾向にあります。会社が成長した段階で対応しても遅くないと判断しているからです。しかし、白紙の段階から多様性を構築するほうが、複雑かつ均一な組織を多様化させるよりもはるかに簡単です。

 先ほども書いたように、人間は自分と似た人と交流する傾向があります。この傾向が個人的に些細なものであっても、組織がある程度大きくなると増幅され、組織全体の均一性が顕著になレベルに達します。既に均一な組織は、規模が拡大するにつれ、その傾向が助長されるのです。この段階で多様性を取り入れるのは困難になるのです。

 早い段階で会社のDNAに多様性を組み込むことが重要なのです。

 そう言っても、均一性が進んだ企業に多様性を改善することは不可能ではありません。ここでは、ブラインド採用(性別・年齢・学歴・名前を伏せる)や人事考査で客観的な評価指標を使うなど、標準化したプロセスが大きな効果をもたらすとしています。

2.ちょっとした変化でも、意図的であれば波及効果を及ぼしうることを認識する

 ほんの少数の女性や人種的なマイノリティをグループに加えると、相対的な力関係は変わります。そのような人が採用に関する意思決定を行うと、グループの将来の構成に影響が出ることが分かっています。ある研究・調査によれば、従来進出度の低かったグループの人(女性や人種的マイノリティ)は白人男性に比べ、自分たちと異なる人を求める傾向にあり、多様性のある人材が採用されるのです。

 この論文では、「これを達成するために、ある特定の異人種やジェンダーを採用する際にあからさまに選好する必要はない」と言っています。選考過程におけるちょっとした調整で、多様性が高まるのです。ここでもその方法として、プラインド採用が挙げられています。

 これは、基本的なプロセスの調整の例ですが、重要なのは意図であると言います。組織においてはなかなかそううまくはいきませんが、多様性を実現する目的や目標を明らかにして、それを行うために意図的に行うことも必要だというのです。

3.多様性は職場だけの問題ではない

 私生活の人の輪と仕事関係の人の輪は重なり合うことが多いため、均一的なネットワークは組織の多様性に有害な影響を与えるおそれがあります。

 しかし、個人のネットワークや社会的なコネは一部の業界では依然として不可欠となっています。このような企業では、同じような学歴で、同じジェンダーと人種で、以前も同じ会社で働いていたことなど、投資家の個人的ネットワークからは外れ、多くの機会を逃しています。

 個人レベルにおいて、平等な立場で社会的な接触を広げることは、バイアスを減らすための優れた戦略であるとされています。ホモセクシュアルな友人がいれば、性的な先入観を減らすのに効果的ですし、異なる人種の人と友達になれば、人種的バイアスが減ります。

 様々な人と接触することで、簡単に識別できる属人的な標識を超えて「自分のような人」とはどういうことなのかを考え直すことが大切です。こうした接触のメリットは、職場にも当てはまり、ネットワークと思考方法が拡大すれば、個人のパフォーマンスも組織のパフォーマンスも改善する可能性があるのです。

個々でも、バイアスを認め、是正しようとする前向きな意思が重要なのです。

バイアスを無視する、あるいはバイアスがあることを否定すれば、自分と同じ特質を持つビジネスパートナー。チームメンバー、従業員を求め続けることになり、多様性のメリットを見逃すことになります。この論文が言うように、多様性は収益にも大きな影響を与えるものなので、多様性を取り入れないままでいると、大きな損失を被ることにもなります。