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休日の本棚 アメーバ経営

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2万7551人で、1週間前に比べほぼ1万人減で2万人台に下がりました。このまま減少傾向が続くことを願いますが、行動制限撤廃、水際対策の緩和で再び上昇に転じないことを祈ります。

さて、今日は、稲盛和夫著「アメーバ経営」(日経ビジネス分文庫)を紹介します。

以前、稲盛経営と永守経営を比較して書いたときに簡単に説明しました。

この本は、京セラの経営理念を実現するために、稲盛四月繰り出した経営管理手法である「アメーバ経営」について、稲盛氏自身が説明してくれている名著です。

アメーバ経営」というのは、大きくなった組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団に分け、独立採算とすることで、現場の社員一人ひとりが採算を考え、自主的に経営に参加する「全員参加経営」を実現する経営管理手法です。

稲盛氏は、以前紹介した「稲盛経営12箇条」からも明らかなように「利他の心」や「無心の心」の大切さを説く反面、「数字は経営の基本」という姿勢を忘れていません。

稲盛経営の基本は極めてシンプルで、「売上最大、経費最少」で「値決めは経営」をアメーバに徹底させることにあります。企業を支えるために、会計の常識を覆す独自の管理会計の仕組みを作り、各アメーバに採算責任を担わせるのです。

ただ、それだけではアメーバ単位の部分最適に陥りやすいという欠陥が出てきます。そこでアメーバのリーダーには、フィロソフィーに基づいて行動することが求められるのです。

稲盛氏は、「リーダーは同じ会社で働く同士として、会社全体の視野に立ち、『人間として何が正しいのか』という一点をベースに判断しなければならない。自らアメーバを守り、発展させていくことが前提だが、同時に会社全体のことを優先する利他の心を持たなければアメーバ経営を成功させることはできない」と言っています。

アメーバ経営」を単に自立分散型経営、独立採算管理という一面だけで捉えると、本質を大きく見誤ることになります。「利他の心」「無心の心」というフィロソフィーが前提としてなければならないのです。

この本で、稲盛経営の本質とも言える「アメーバ経営」を具体的に見ていきましょう。

1.アメーバ経営

 大企業のように複雑化した組織をトータルで管理しようとすれば、組織の末端にある現場まで目が行き届かず、「大企業秒」と呼ばれるさまざまな弊害うぃひきおこすために、企業の収益性は低下します。

 一方、アメーバ経営は、大きな組織を独立採算で運営する小集団にウ分けて、その小さな組織にリーダーを任命して、共同経営のような形で会社を経営するものです。このような経営処方では、会社の隅々にまで目が行き届き、きめ細かな組織運営が行えるようになるため、収益性が低下していた企業でも高収益企業に変身することができるというのです。

 アメーバ経営では、会社の経営方針のもと、アメーバリーダーにその経営が任され、リーダーは小さな組織の経営者として、上司の承認を得ながら自ら経営計画を立て、実行の任に当たります。そのため、アメーバ経営では、経営者意志おきに溢れるリーダーを育成することができます。

 そのリーダーが中心となり、アメーバ構成メンバーは、自ら目標を立てて、それぞれの立場で目標達成に向けて最大限に努力し、全員が目標達成に向けて力を結集する「全員参加経営」が実践できるのです。

 京セラが、多角化を行ない、グローバル化を進めるなかで、高収益経営を続けることができたのは、このアメーバ経営を実践してきたからなのです。

2.一人ひとりの社員が主役

 アメーバー経営においても人の心がベースになっています。人体に何十兆この細胞があり、ひとつの意志のもと、すべてが調和しているように、会社にあるアメーバ(小集団組織)がすべて心を合わせてこそ、会社は一丸となれるのです。ときには競争することがあっても、アメーバは互いに尊重し合い、助け合わなければ、会社全体としての力を発揮することはできません。会社のトップからアメーバの構成員に至るまで、信頼という絆で結ばれていることがアメーバ経営の前提となるのです。

 稲盛氏は、「アメーバ経営は、世間でもてはやされているような経営ノウハウではない」と言います。経営ノウハウであれば、方法や手順を学んで真似れば成果を上げることができるかも知れませんが、アメーバ経営はやり方だけを真似てもうまく機能しません。そこには稲盛氏の経営哲学があるのです。

 アメーバ経営は、経営哲学をベースにした、会社運営に関わるあらゆる制度と深く関連するトータルな経営管理システムです。

 アメーバー経営には、大きく分けると3つの目的があります。

  1. 市場に直結した部門別採算制度の確立・・・必要なのは過去の数字ではなく、現在の数字です。経営者にとって必要なものは、会社は今、どのような経営状態にあり、どのような手を打てば良いのかを判断できる「生きた数字」なのです。「売上を最大に、経費を最少に」することが経営の原理原則です。組織が大きくなると、一人でこの原則を末端まで徹底することは難しくなります。小規模集団を一つの中小企業のように独立した採算単位とし、それぞれのユニットが「売上最大、費用最少」の原理原則を実感しながら自主的に経営することで、経営者はそれぞれのユニットから上がってくる採算状況を見ながら、どこが儲かっているか、どこが損しているか、会社の実態を正確に把握することができます。
  2. 経営者意識を持つ人材の育成・・・必要に応じて小さなユニットに分割して、中小企業の連合体として会社を再構成し、そのユニットの経営をアメーバリーダーに任せることで、経営者意識を持った人材が育成することができます。
  3. 全員参加経営の実現・・・会社を小集団に分け、リーダーが中心となり、メンバー全員が経営に参加します。その際、会社の情報をできる限り開示することで、全従業員が自主的に経営に参加する土壌ができあがり、全員参加経営が可能となります。従業員は単なる労働者ではなく、ともに働くパートナーとなり、経営者としての意識を持つようになります。自らの責任を全うすることで、仕事の喜びや達成感を抱き、生きがいを感じながら働くことができるようになります。そうすれば、従業員は故人の能力を最大限に高め、人間として成長することができます。

3.経営には哲学が欠かせない

 複雑である組織をどのように切り分けるかという問題があります。ただ細かくすればいいというものではありません。

  1. 明確な収入が存在し、かつその収入を得るために要した費用を算出できること
  2. 最小単位の組織であるアメーバが、ビジネスとして完結する単位となっていること
  3. 会社全体の目的、方針を遂行できるように分割すること

 この3つの条件を満たしたときにアメーバとして独立させることができます。

 アメーバーを切り分けていき、1度作ったら終わりではなく、経営状況・私情・技術同子婦・競合他社などの急速な変化に対応して、柔軟に組み替え即座に対応しなければなりません。そのため、経営者やリーダーは、今の事業を取り巻く環境や自社の方針と現在の組織が適合しているかを、常にチェックしておく必要があります。

 各アメーバは自分の食い扶持を自分で稼ぎ、自分を守ろうとするエゴを発揮しなければなりません。一方で、会社全体の視点で、トータルの利益を最大にする事が本来の指名です。個の利益と全体の利益の間で対立が起こる場合には、個として自部門を守ると同時に、立ちがwの違いを超えて、より高い次元で物事を考え、判断することができる経営哲学、フィロソフィーを備える必要があります。ここで重要なのは「人間として何が正しいのか」ということを判断基準とした経営哲学です。

 リーダーになるような人間は、もともと自己主張が強く、押しの強いタイプの人間が多く、自己主張が強く、少しケンカするくらいの熱意がなければリーダーは務まらないとも言えます。しかし、社内で対立が生じたとき、声や態度が大きいリーダーは自分の利益を最大限にしたいがために相手の立場を踏みにじります。そのようなことがあっては会社全体の利益やモラルを守ることはできません。自己注視音的な態度を取らないよう、自分を律する高い次元のフィロソフィーを身につけなければなりません。

4.アメーバの組織作り

 組織は会社のベースとなる大変重要な要素であり、組織作りは経営の根幹をなすものです。アメーバ経営における組織作りは、「まず機能があって、それに応じて組織がある」という原則に基づいて、最低必要な機能に応じた無駄のない組織を構築することが基本となっています。

 各組織に帰属する構成員が、自分たちの組織の機能や役割を肝に銘じ、その責任を自ら果たそうとする使命感を持つことが重要です。

 アメーバ組織を編成するには、3つの条件を満たすように組織を細分化しなければなりません。

  1. アメーバが独立採算組織として成り立つこと・・・収支が明確に把握できること
  2. ビジネスとして完結する単位であること・・・創意工夫する予知があり、やりがいを持って事業ができること
  3. 会社の目的、方針を遂行できるように分割すること・・・組織の細分化で会社の目的・方針が阻害されないこと

 部門別採算が正しく行なわれれば、どんぶり勘定で見えてこなかった経営の実態が見えてきます。「どの部門で改善すべきか」「今後どの部門に力を入れるべきか」といった商売の力点も一目瞭然になります。

 組織を細分化する際には、経営者の視点から見て、どのような単位で採算を取られれば、経営の実態がより明瞭に見えてくるのかがカギとなります。経営者が会社という船を舵取りする上で、船全体の動きが一目でわかるように、経営者の視点に立ったら組織編成を行ない、各部門の実態が手に取る容易に実感できることが大切なのです。

5.現場が主役の採算管理

 ここでは京セラで行なわれている「時間当たり採算制度」について説明します。

 先ほども書いたように、稲盛経営の原理原則は「売上を最大に、経費を最大にすれば、結果として利益が最大になる」というものです。個の「売上最大、経費最少」が、時間当たり採算制度のベースになるものです。

 一般的に売上が増えれば経費も増えると考えられていますが、知恵を絞って努力すれば、経費を増やさない、あるいは減らすことも可能です。あらゆる創意工夫によって売上を増やす一方で常に経費を徹底して切り詰めていくのです。

 この原則を全従業員とともに実践してイクには、どのようにしたら売上が上がるのか、経費はどこでどのように発生しているかを、現場の人たちが容易に李迂回できるようにしなければなりません。そのため、シンプルでわかりやすい採算管理の手法が必要になるのです。

 時間当たり採算制度では、事業活動の成果を「付加価値」という尺度で捉えます。自分がどれだけの付加価値を生み出しているかをわかりやすくするために。単位時間当たりの付加価値を算出します。

 この「時間当たり」などの指標により、各アメーバは年次や月次などの目標を設定し、実績を管理します。自分たちの活動した結果である付加価値を月次単位で正確に把握することにより、すぐさま問題点を見つけ出し、その改善に向けたアクションが素早くとれるのです。

6.アメーバ経営を支える経営哲学

 アメーバー経営では、各アメーバが「時間当たり」を向上させる方法として、「売上を増やす」「経費を減らす」「時間を短縮する」の3つです。売上を上げるには注文を多く確保すればよく、経費を下げるにはムダを省けばよく、時間を短縮するには作業効率を上げればいいのです。リーダーは、これらの方法を経営のなかで実践していきますが、採算の向上を図るためには、どうしても必要となるポイントがあります。

 稲盛氏は、「値決めは経営」と言います。売値が安ければ、いくら経費を削減しても採算は上がりませんし、鷹栖切れBナ、売れ残って在庫の山を抱えてしまいます。リーダーは営業の集めてくる情報をとことん調べ尽くし、市場や競合相手の動向を的確に把握した上で、自分たちの製品の価値を正しく認識して値決めを行なう必要があります。値決めとは、経営の死命を制する問題であり、リーダーが全神経を集中して行なわなければならないものです。

 稲盛氏は、「いつまでも現状にとらわれることなく、『常に創造的な仕事をする』ことが、アメーバを成長させ、ひいては会社を発展させていく、最も基本的な行動指針である」と言います。

 また、「経営において具体的な目標を立てることが大切である」とも言っています。各アメーバのリーダーが、自分で、売上、経費、時間当たりなど、こうありたいと思う数字を考え抜き、自分で時間アタ地裁三票を作らなければなりません。この目標数値は、リーダーがこうありたいと思う目標であり、リーダーは『目標を必ず達成する』という強い意志を持つ必要があります。そして、メンバーと目標を共有していかなければ目標達成は不可能です。そのためには、メンバーの具体的な役割と行動目標を明確にすることが重要になります。

 アメーバー経営では、一つの部署の採算が悪化しても他の部署の採算が良くてカバーできているからいいという発想はありません。すべての編めばリーダーは、自分の任されちゃ事業を立派に運営し、自ら作成した計画を遂行する責任があり、採算を向上させなければなりません。

 一方で、「会社全体のため」という意識を持つことが重要です。自分が任されたアメーバを守ることだけでなく、会社全体の視野に立ち「人間として何が正しいのか」という一点をベースに判断する必要があるのです。

稲盛氏は言います。

会社というものは、低い目標を立てれば低い結果しか得られない、業績を大きく伸ばしていこうとすれば、どうしても高い目標を立てる必要がある・・・高い目標に向かって、集団を正しく導くために、リーダーは、どのように行動すべきか、判断すべきか、あるべき姿を常に追求していかなければならない。それを繰り返すことにより、リーダーは人間として大きく成長し、メンバーから信頼と尊敬を受けるようになる」