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休日の本棚 良い戦略、悪い戦略

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

今日は、リチャード・P・ルメルト著「良い戦略、悪い戦略」(日本経済新聞社を紹介します。

著者のルメルト氏はカリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン・スクール・オブ・マネジメント教授です。「戦略家のための戦略家」と称され、戦略についての表面的な知識やノウハウではなく、戦略的なものの見方・考え方を提唱してくれています。

戦略についての基礎を学んだうえで、更に一段上の戦略的指向を身につけたい人にはうってつけの本です。

この本では、「良い戦略」(筋のいい戦略)「悪い戦略」(筋の悪い戦略)の違いを明確にしてくれています。

本書は「戦略の基本は、最も弱いところに、こちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするならば、最も効果の上がりそうなところに、最大の武器を投じることである」という書き出しから始まります。

1805年、ナポレオンが英国侵攻を狙っていました。当時の艦隊決戦の定石は、艦砲射撃でダメージを与え、接近戦で戦うという方法です。英国軍のネルソン提督は、常識を覆し、英国艦隊を突っ込ませる方法を取りました。ネルソンは、数で上回る敵を分断させるため、艦隊を突っ込ませるリスクを選んだのです。当日海は荒れており、敵は突入する英国艦隊を正確に撃つことはできないと考えたのです。状況から決定的要素を見極め、狙いを絞って兵力投入するというやり方です。いわば、「選択と集中」です。

「良い戦略」というのは極めてシンプルなのです。

1.悪い戦略とは

 世の中には「良い戦略」よりも「悪い戦略」が圧倒的に多いのです。筋の悪い戦略が戦略として堂々とまかり通っているのです。

 この本では、悪い戦略には、次の4つの特徴があると言っています。

 ⑴空疎な戦略(中身がない)・・・戦略構想を語っているように見えるが内容がありません。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想(錯覚)を抱かせのです。

 空疎な戦略の例として大手銀行の戦略が挙げられています。

 「われわれの基本戦略は顧客中心の仲介サービスを提供することである」

 「仲介サービス」というのはお金を預かって貸すことなので、銀行の本業にすぎませんし、「顧客中心」というのもサービス業であれば当然のことです。要は、「われわれの基本戦略は銀行である」と言っているのと同じで、全く中身がありません。

 ⑵重大な問題に取り組まない・・・見ないふりをするか軽度あるいは一時的といった誤った定義をするのです。問題そのものの認識が間違っていれば、当然適切な戦略を立てることはできませんし、評価することもできません。

 低迷するある会社がコンサルタントを雇って作成した分厚い「統合戦略」を見れば、来年から急成長することになっています。「ビジョン」「戦略」「目標」と資料は、詳細で一見完璧ですが、低迷の原因は何で、いかに解決するかが書かれていません。背後にある重要問題が何か、根本原因は何かを明らかにしないで、分析を行うことなく戦略を創ってもうまくいくはずはありません。

 ⑶目標を戦略と取り違えている・・・悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える筋道を示さず、単に願望や希望的観測を語っているにすぎません。

 「当社の戦略目標は売上〇〇成長だ。課題は実現に向けた全社員の士気を高めることだ」などと言う社長がいます。これは戦略などではありません。単なる希望的観測を語っているだけです。「いかに目標を達成するのか」を社員の士気に丸投げしているだけです。

 ⑷間違った戦略目標を掲げている・・・戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものです。これが重大な問題と無関係だったり、単純に実行不可能だったりすれば、間違った目標ということになります。

 なぜ間違った戦略目標を掲げてしまうのか、について次の原因が挙げられています。

  • 寄せ集めの目標・・・色々なものを単に詰め込んだだけ、例えば、様々な部署から出てきた意見を寄せ集めただけの戦略目標は戦略でも何でもありません。
  • 非現実的な目標・・・「戦略を実現するためにどうしたらいいのか」という視点が欠けています。実現不可能であれば、目標として意味はありません。

2.良い戦略の基本構造

 「良い戦略」というのは極めてシンプルで単純明快なものです。一見すると誰でも作れそうなものです。

 しかし戦略で一番難しいのは、「選択」です。ポーターは「戦略でまず考えるべきことは、何をやらないかだ」と言っています。ビジネスでは「選択と集中」によって「何をやるのかを決める」より「何をやらないのかを決める」のが重要です。「やらないことを決める」というのは戦略策定において極めて重要なことですが、これがなかなか難しいのです。しかし、これをきちんと行わないと、悪い戦略になってしまいます。

 「良い戦略」には十分な根拠に基づいた「」があり、その「核」が一貫した行動につながっています。

 この「核」が良い戦略の基本構造であり、「診断」「基本方針」「行動」の3つの要素でできています。

  1. 診断・・・状況を診断し、取り組むべき課題を見極めます。良い診断は死活的に重要な問題を選び分け、複雑に絡み合った状況を明確に解きほぐします。
  2. 基本方針・・診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示します。
  3. 行動・・・基本方針を実行するために一貫性のある行動を取ります。

 戦略で必要なことは、問題を真正面から見据え、分析し、「やること」「やらないこと」を選択し、明確な方針にしたうえで、具体的な行動につなげていくことです。

「戦略は良かったが、実行がまずかった」ということはありません。「良い戦略」には明確な行動の指針も含まれているものです。

3.戦略とは仮説である

 科学者は、知識をしっかり押さえたうえで、その先にある未知の世界を解き明かすために仮説を立てて、その仮説が正しいかを実験します。新しい戦略は科学の言葉で言えば「仮説」なのです。そして仮説の実行は「実験」に相当します。実験結果が判明したら、有能な経営者は何が上手くいき何が上手くいかなかったのかを学習し、戦略を軌道修正するのです。

  この本には「戦略は設計である」という言葉も出てますが、ビジネスの世界、特に現在の混迷する環境の下では、正確な設計図というものは描けません。そして、今はスピードが要求されます。正確な設計図でなくても、とにかく前の進んでみる、そして違うところか修正するという姿勢が重要なように思います。

4.戦略思考の3つのテクニック

    1. 良い戦略の基本構造(核)に立ち返ること・・・常に「診断・基本方針・行動」の3要素に立ち返る習慣をつけることです。
    2. 問題点を正確に見極めること・・・「何をするのか」ではなく「なぜするのか」を常に考えることです。以前も書きましたが、ビジネスで重要なのは「Why?」です。問題点を見極め、常に意識することで、戦略に一貫性が出てきます。
    3. 最初の案は破壊すること・・・多くの人は最初の案に固執しますが、最初の案は思い付きで生まれたものが多いのです。思い付きが素晴らしいこともありますが、まずは疑ってみることです。徹底的に見直し、弱点を抉り出し、矛盾点を見つけて、この最初の案をたたき台として、このたたき台を破壊することで良い戦略が生まれます。