休日の本棚 ビジネスメンタリズム
おはようございます。
今日は、白戸三四郎著「ビジネスメンタリズム」(経法ビジネス新書)を紹介します。本書の”はじめに”には、「何の武器も持っていない人でも、メンタリズムを身につけ、自分の仕事と融合させることで、ライバルのいない道を歩くことが出来る可能性がありますよ、ということです。そのために、メンタリズムとは何か、メンタリストが行う技術にはどのようなものがあるのか、どのようにビジネスに使うのか、そしてどんな効果があるのかなど、できる限り伝えようと思い、筆をとりました」とあります。白戸氏は、プロメンタリストではありませんが、セールスや職場内コミュニケーションの講師として研修や講演をする際にメンタリストが使う技術、つまりメンタリズムを駆使することから日本で唯一の「ビジネスメンタリスト」と名乗っています。
メンタリストと言えば、テレビでおなじみのDAIGO氏です(最近では弟の東大謎解き王・松丸亮吾氏の方がテレビでは見かけますが)。
メンタリズムとは何なのか、マジックとの違いは何か、などはっきりしません。「超能力マジック」と呼ばれることもあってエンターテイメントの色彩が強くなっています。DAIGO氏によれば、「科学とトリックとロジックで超能力現象を再現するパフォーマンス」ということです。マジシャンは相手の目に錯覚を与え、メンタリストは相手の心に錯覚を与えます。メンタリストは心理学などの科学を用いて、トリックと言葉を使い人の心に錯覚を引き起こすものなのです。
私自身、メンタリズムの詳しいわけでも、メンタリズムが使えるわけではありません。したがって、メンタリズムのやり方(リーディング、心理・誘導)など偉そうに書くつもりはありません。それらは本書を読んでみてください。ここでは、メンタリズムをビジネスと融合させることでどのような効果が期待できるのか、ビジネスという面から紹介したいと思います。
人と関わるビジネスにおいては、相手の心理を把握して相手をこちらのペースや世界に引き込むことが大切になります。メンタリズムの技術がそれを可能にすると言います。相手の心に「驚き」を創り出すころがビズネスに多大な効果を与えるのです。メンタリズムは相手の頭の中に驚きからくる「?」を思い浮かばせ、「この人凄いな」「何者なんだ!」「この人の話は聞かなければ」という感情を喚起し、相手の心に「この人は何か不思議な力を持っている」という意識を生み出せればビジネスで勝ったも同然です。白戸氏は、メンタリズムを身につけた方がよい理由として、①年齢・性別に関係なく習得できる一生モノの技術 ②人ができないことができる快感 ③独自の表現力が身につく ④ショーを頼まれる ⑤ファースト1になれる数少ない技術である ⑥プレゼンの技術が上がる という点を挙げます。確かにこうした利点があるなら身につけた方がよいスキルですね。
メンタルマジックで人の心に錯覚を引き起こすメンタリズムは手先のテクニックを使うマジックよりは失敗の可能性は高いと言えます。相手がこちらの思い通りに動き、思い通りの心の動きを見せるとは限らないからです。ここで重要なのが「アウト」です。これは日常でわれわれも使っている技術です。人との会話で分が悪くなったり陰湿な雰囲気になった時に、われわれは無意識に話題を変えたり逸らしたりしています。観客に失敗だと気づかれないようにするのが「アウト」です。「アウト」にはいくつかの種類があるようです。
- 事前に予防線を引いておくアウト・・・「私も人間なので、間違える時もあります」とあらかじめ言っておくことで、失敗しても「仕方ないなあ」という味方の気持ちにさせるのです。
- いくつかの結末を用意しておくアウト・・・選択肢の数だけ結末を用意するのです。「シャーロック・ホームズ」の中のエピソードです。「ワトソン君。1から5までの数字の中でひらめいた数字を言ってくれ」ワトソンが「3」と言えば「そう言うと思ったよ」と言って、電話機の裏を見るように言います。そこには3と書かれた紙が貼ってあります。しかし、もしワトソンが別な数字を言えば別な場所を指摘すればいいのです。そこにその数字が貼ってあります。
- 相手のせいにする・・・ユリ・ゲラーがよく使った方法です。ユリ・ゲラーが観客に「心に思い浮かべた絵を描く」ように言います。観客が描いた絵とユリ・ゲラーが描いた絵が似ていなかった場合、ユリ・ゲラーは「この絵を思い浮かべる前に、あなたは別な絵を思い浮かべたはずだ。それは私が描いた絵に似ていなかったか?そうだろう。私はそれを読み取ったのだ」と言うのです。
- すべてにその場で臨機応変に対処する純粋なアウト・・・失敗を顔に出さず、相手のせいにしたり、違う解釈をして相手を信じ込ませたり、それでもだめなら「今日は長子が出ない」と言って終わらせるのです。
これらはビジネスの場面でも十分に重宝します。アウトの技術は言い訳や言い逃れをして、その場しのぎをするための技術ではなく、ピンチをチャンスに変える技術と言えます。アウトの技術を鍛えるには失敗体験から逃げなかったりどれだけピンチを潜り抜けたりしててきたかという体験が意味を持ちます。例えば相手の名前を忘れてしまったような場合、「お名前は何と言われましたか?」「〇〇です」相手はがっかりします。「〇〇さん。当然苗字は存じ上げていますよ。下の名前をド忘れしたものですから」などと言うわけです。「お名前はどのような漢字を書きましたか」などと訊くのです。簡単な漢字でどこにでもある名前なら困りますが、例えば「田んぼの中、田中です」などと怪訝な顔をさられば、「実は最近、人偏の中(仲)の田仲さんという人にお会いしたものですから」と切り返せばいいわけです。
メンタリストが使う技術に「リーディング」があります。これは、相手の表情やしぐさ、筋肉の動きなどの様々な情報から、相手が嘘を言っているかどうかを見極めたり、相手から引き出した情報を基に、いかにも相手の心を読んだかのように対話していく技術です。リーディングで最も重要なのが「相手から情報を引き出すこと」です。ビジネスにとって重要なのが「コミュニケーション力」ということと通じます。相手に警戒されずに打ち解けて知らず知らずの間に情報を引き出すことです。メンタリストは、相手の内面を観察して、あいまいな言葉を与えることで相手が情報を話しやすくしているだけなのに、それを繰り返すことで、相手は「この人には何でも話してしまう。何故だろう。私がこの人を信頼しているからだ」となるわけです。信頼関係を築くということはビジネスで最も重要なことです。
「ピグマリオン効果」というのがあります。ピグマリオン効果とは、教師期待効果と言われ、教育心理的行動の一つで。人間は期待されたとおりの行動を起こす」というものです。メンタリストが「あなたならご協力してくれそうなので指名しました」と言って観客から一人を指名します。これは、相手に「こういう行動をとってくれますよね」「あなたならきっとできます」と言った期待を伝ることで選ばれた観客はそれにこたえようとするのです。「誰でもいいから私は心を読まれないぞ、という人は出てきてください」と観客を挑発するのは絶対やってはいけないことです。ビジネスの場面で、上司が部下に「いつも面白いアイデアを出してくれるから期待しているよ」と言ったり取引の相手に「きちんとした報告書を書いてくれますし、仕事が早いので助かっています」などと言えば、相手はその期待に応えようと行動するはずです。
次に「ミスディレクション」(誤誘導)という技術です。見知ディレクションは、物音や動きなどの刺激が互換に入ってきた時に、そちらに気を取られてしまう本能を利用して注意を逸らすことです。コミュニケーションでミスディーリングを使う方法は「質問をする」ということです。ビジネスでも、相手が「あの話はなかったことにしてください」と断ってくるような場合、「それはどうして?」と質問すれば、相手は断る理由・その経緯を見つけようとします。そこで「先週は、いいなと検討してもらうことになりましたが、それはどのような理由でしたか」と質問すれば「先週いいな」と思った理由に戻ります。また、「今はデメリットよりもメリットに目を向けてほしいな」と言うのも効果があります。
「アンカリング」(係留効果)と言うのがあります。これは人が何か判断するときに、一番インパクトがある情報を自分の判断基準にしてしまう心理のことです。高速道路から一般道に出たときに知らず知らずにスピードを出しすぎてしまうことも、高速道路を走っていた100キロがアンカーとなってスピードを落としたつもりでも早すぎるスピードになってしまうのもアンカリングです。アンカリングは行動経済学でも使われる言葉です。例えば定価10万円という値札の上から5万円というタグが付けられていれば、本来高いはずの5万円という金額がアンカーとなった10万円と比べることで安い(半額)と考えて衝動買いしてしまうのです。例えば保険のセールスで「月額8000円くらいしか出せない」と言った顧客に「取りあえず理想の保険、あったら助かるという補償内容を全部足したらいくらぐらいになると思いますヵ」と質問します。顧客は「3万円くらい」と答えたとします。実際は1万5000円くらいです。最初に言った「8000円」という言葉を忘れ「3万円」が顧客のアンカーになって「1万5000円は安い」と考えて保険に入ってしまうのです。
以上のように見てみますと、メンタリズムはビジネスの場面で色々と役立つことが分かります。案外メンタリズムとビジネスは相性がよさそうです。メンタリズムを単なる超能力マジック、エンターティメントと考えずに、ビジネスに応用することを考えるのもよいかともいます。