中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 ゲーム理論トレーニング

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で12,341人、そのうち東京4058人、神奈川1580人、埼玉1036人、千葉792人、愛知287人、大阪1040人、兵庫329人、京都199人、福岡504人、沖縄439人、北海道284人などとなっています。全国の新規感染者数は過去最多で、東京、沖縄、京都、栃木、静岡など10の都府県で過去最多を更新しています。もはや全国的に緊急事態です。しかし、東京五輪を開催しており、いくら緊急事態宣言を発令しても危機感を生み出さず効果は薄いでしょう。本来強力なメッセージを発しなければならない菅首相自身に緊張感が感じられないので、国民が危機感を共有することはできません。未だにパラリンピックを有観客と言っているようでは、話になりません。国民の安心安全を守ることを最優先に、中止も視野に入れて真剣に検討すべきです。メダリストへの称賛だけをツイートし、コロナ対策に全く触れない、新たな対策を打ち出さないというのでは政治家失格、直ちに退場です。

さて、今日は、逢沢明著「ゲーム理論レーニング」(かんき出版)という本を紹介します。著者の逢沢氏は京都大学情報学研究科教授で、情報数理、進化型知能、複雑系情報の新進気鋭の研究者です。

ゲーム理論については、以前にも紹介しましたが、この本は、ゲーム理論を実践できる戦略思考を身につけられるように96問のトレーニングを紹介しています。ゲーム理論の基礎を学びながら、ここに挙げられている96問を自分の頭で考えていくことで、自然と戦略思考が身につくようになっています。

ゲームや勝負には相手がいます。相手に勝つには、単純な足し算だけではなく、かけひきや頭脳プレーが必要です。このかけひきや頭脳プレーを研究するのが「ゲーム理論」です。日本人は、政治や外交、ビジネスにおいてもかけひきが極めて下手です。

この本は、ゲーム理論の基礎を分かりやすく解説した後、クイズのようなやさしい演習問題が載せられています。「読んで」「考えて」「身につく」新しいタイプの「ゲーム理論」の入門書です。

本書の構成は次のようになっています。

序章 頭を使えば「ゲーム」に勝てる・・・⑴「勝負頭脳」に切り替える ⑵勝負には「常套手段」がある ⑶「弱者」でも「強者」に勝てる ⑷ゲーム理論のキーワード

第1部 ゲーム理論の基礎

  1. 「先読み」ができなければゲームに勝てない・・・⑴相手の立場に立って考える ⑵多段の先読み ⑶先読みの結果を「逆転」する ⑷「先読み」の実践練習
  2. 「負け」を減らして勝つミニマックス戦略・・・⑴ミニマックス戦略とは ⑵「優位な手」を探す ⑶優位な手が存在しない場合 ⑷高級なミニマックス「確率戦略」 ⑸最適確率を探せ
  3. 投資に勝つには「損失」に着目する・・・⑴負けを小さく留める ⑵なぜ「もうけ」より「損」に注目するのか ⑶投資の不確実性に対処する ⑷現実的な利益を考える
  4. 日常にある囚人のジレンマ・・・⑴囚人のジレンマとは ⑵いま、そこにあるジレンマ ⑶「囚人のジレンマ」必勝法 ⑷それでも「しっぺ返し」が最善策?
  5. ルールを変えて打開する・・・⑴ルールは固定したものではない ⑵同時ゲームから交互ゲームへ ⑶いかにルールを変えるか?
  6. 均衡を知り、均衡を打ち破る・・・⑴勝敗には均衡点が存在する ⑵ナッシュ均衡 ⑶全体合理性を考える ⑷ゼロサムで社会が硬直化する ⑸均衡点を抜け出すには
  7. 形勢逆転の知的トリック・・・⑴論理を逆転する ⑵少ない方が得をする ⑶ビジネストリック ⑷ゲームの達人

第2部 状況別のゲーム理論実践

  1. 男と女の恋愛マッチング・・・⑴男から見たマッチング ⑵女から見たマッチング ⑶マッチングで自分に有利にする方法
  2. 多数決の投票で逆転する・・・⑴「勝ち抜き多数決」で逆転する ⑵投票のパラドックス ⑶交渉・結託・報酬による逆転策
  3. 選挙と勢力争いゲーム・・・⑴真ん中を押さえて勝つ ⑵選挙戦の戦い方 ⑶選挙区制で戦う ⑷キャスティングボードは誰の手に
  4. 新規市場に参入して戦う方法・・・⑴合理的なブタのゲーム ⑵チェーンストア・パラドックスを解決する ⑶大手企業同士を競わせて勝つ
  5. 分業と海外移転でデフレを制する・・・⑴技術移転のゲーム ⑵絶対劣位国の国際分業 ⑶デフレの克服ーグローバル化時代を考える ⑷グローバル化の国際戦略を考える
  6. 企業モラルで勝ち負けが暗雲する・・・⑴バブル経済土地神話 ⑵信用がゲームの展開を決める ⑶人を動かす方法 ⑷企業のモラルハザードに対抗する
  7. ゲームにまつわるモラルについて・・・道徳的なノーベル賞受賞者 ⑵正義の基準 ⑶戦争はやめたいときにやめられない

この本の中に挙げられているビジネスに役立つゲームをいくつか紹介します。

1.大企業A社は5年前に100億円をかけてコンピュータ関連の設備を導入しました。対抗して、新興のB社はベンチャーファンドから10億円を調達し、同じ事業に参入しようとしています。さて、勝敗はどうなるでしょうか?

 答えはB社の圧倒的な勝利です。ムーアの法則によれば、B社が導入する10億円の設備は5年前のA社の設備と同等の性能です。性能が同じで価格が10分の1、B社が圧倒的に有利です。技術革新のパワーで大企業A社を圧倒できるのです。

2.A社の株を1株1万円で勝っていたとします。過去の最高値は2万円ですが、その後400円の最安値をつけました。現在の株価は7000円です。売る勇気はありますか?

 売る勇気があればゲームに強い体質です。今売れば損失は3割、400円まで下がれば、9割6分の損失です。乱高下が激しい株では3割は誤差の範囲です。取り戻しができる範囲です。

3.1000円の株が750円に下がりました。放置すると更に500円に下がりました。どちらの下げが深刻ですか?5割の値下がりです。何割の値上がりで元の1000円を回復できるのでしょうか。

 後の値下がりの方が深刻です。どちらも同じ250円の値下がりですが、値下がり率で考えると、1回目の値下がりは25%、2回目の値下がりは33%です。損失は金額ではなく割合で考えることが大事です。5割の値下がりですが、元に回復するには10割の値上がりが必要です。割合という見方で損失を考えることができるようになると、利益を得ることよりも損失を押さえることがいかに大切かが分かります。

3.新興のA社が優れた特許を取ったところ、対抗する特許を持つ大手企業B社が、「A社の特許を使ったら、高額のライセンス料を支払う」という独占ライセンス契約の締結を持ちかけます。A社の社長は、高いライセンス料が入り有利だと判断し、契約を締結します。果たしてそれでいいのでしょうか?

 これは「特許封じの手口」です。A社は特許料だけで高成長を遂げられると甘い夢を見ただけです。B社としては、A社の特許を使う必要がなく自社の特許を使って製品を製造すればライセンス料を支払う必要がなく、B社に勝つことができるのです。

4.A社はB社を買収しようと考えています。B社の株価は現在800円、実際には1000円の価値があると評価しています。現在の株主と直接交渉しても高い値段を吹っ掛けられるかもしれません。どのような作戦が良いでしょうか。

 「今なら900円で買い取ります。2回目の価格提案では800円に下がります」という2段階の買収作戦です。株主に「今なら現在の株価よりも高い、今売ると得だ」という判断が働きます。A社としても現在の価値を1000円と見ているので900円なら特になるのです。

5.すでにチェーン店がパイの店を出している町で、小さな小売店が、参入するかどうかを決めます。それに対して大手チェーン店は「協調」か「攻撃」かを決めます。小売店が参入しなければ、小売店の利益は0、チェーン店の利益は2です。小売店が参入した場合、大手は協調で利益を分け合うか、攻撃して互いに存するかです。小売店はどう決断し、大手はそれにどう応じるかです

 小売店は先読みします。自店が参入した場合、大手はどういう作戦をとるか、協調すれば利益は1、攻撃すれば利益は-1です。攻撃で値下げ競争をするよりは協調せざるを得ないと考えるはずです。小売店は参入しなければ利益は0、参入すれば利益は1ですから、参入を選びます。その場合、大手は協調し、お互い利益1を得るということになります。

 しかし、大手がそれほど協調的かというと、そういうことはありません。大手はこの町だけでなく多くの街でチューン店を展開しています。すべての街で協調すれば、大きな損失になります。大手の戦略とすれば、「新規に参入するなら協調せず攻撃する」と宣言することです。最初の町で新規参入しようとした小売店があると、損をしてでも『攻撃』し、その小売店を叩き潰します。その情報はほかの町にも広がり、新規参入しようという店は無くなります。1つの町で損をしても、ほかの町で利益が維持できるなら、その方が得になるのです。

6.A社新興国の企業から「技術移転」を頼まれました。技術移転を行うと、将来新興国がA社のライバルになって、不利な状況に置かれるかもしれません。A社には、国内にB社というライバルがいて、A社が拒否すればB社が技術移転するかもしれません。しかも、技術移転すれば当面の増収にはつながるのです。どうすべきでしょうか?

 正解は技術移転です。A社とB社がともに技術移転を拒否すれば現状を維持できますが、B社が技術移転すれば最悪の状況になります。しかも、A社B社が技術移転しなくても国内の他の企業、あるいはほかの先進諸国の企業が技術移転するかもしれません。海外企業が技術移転して収入を得れば日本国内は丸損です。また、サラリーマン社長が多い大企業には「今(任期中)の利益は欲しいが後のことには関知しない」という風潮があり、目先の利益を追求します。そういう企業が他に1社でもあると自社としても、技術移転という判断をせざるを得なくなるのです。

7.グローバル化は弱肉強食、これを「協力ゲーム」と「非協力ゲーム」の立場で考えてみよう。

 グローバルな国際分業は「協力ゲーム」です。一方、特定の国に売りを浴びせ、その過程で利ザヤを稼ぐのは、「非協力ゲーム」です。他方の国には損、一方の国に得になります。世界には、まだ成長の余地が大きいとするなら協力ゲームの方が良い選択になります。

8.あなたの会社は、販売店に拡販を依頼することになりました。普段は月に80個程度売れています。それを100個以上に増やしたいという考えです。販売店にきちんと拡販してもらうためにどんな方法が考えられますか。

 100個以上売れたらリベートを出すなどの方法が考えられます。販売戸数が増加するにつれてリベートの比率を高めていく方法です。自社が広告を打つことで販売戸数を増やそうという戦略も有kプですし、この場合も販売店への適度のリベートが相乗効果を生みます。また、販売店が広告を出す場合に広告費の補助金を出すなど、販売店と連携していく「協調戦略」が有効になります。

多くのゲーム理論の本がありますが、難解だったり実践と無関係であったりします。ゲーム理論という言葉を知っていても、その内容について知らない人がほとんどです。ましてやゲーム理論を日常で使いこなせる人は稀です。根hンは分かりやすく、数式もなく、ゲーム理論が説明され、多くの実践問題が挙げられています。ここに挙げたのはほんの一部です。自分の頭で考えながら読み進めることで、戦略思考が身に付きます。ゲーム理論を身につけるには最適の本です。