中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 経営戦略全史

おはようございます。
今日は、三谷宏治著「経営戦略全史」(ディスカヴァー)を紹介します。
この本は、テイラーとメイヨーに始まるこの100年の経営戦略論の流れを描いた経営戦略の物語(ストーリー)です。 著者は、この本で「『当時の社会やビジネス状況の解決策としての経営理論』と『現代のイノベーション論の構造』の2つが学べる」と言っています。 この本には、ビジネス史を変えた戦略コンセプトが漏れることなく紹介されていて、
 教科書的に:経営戦略論の流れや史実、関連項目が一覧できる
 辞書的に:気になる用語の意味や位置づけを索引から調べる
 百科事典的に:関心のある項目についての関連情報が分かる
 物語的に:どうやって経営戦略論が生まれ、進化してきたかを楽しむ
というような方法で使うことができます。 経営学を学ぶというのではなく、ビジネスパーソンイノベーションのアイデアを得たいというのであれば、本書を物語的に読むことが有用だと思います。
経営戦略の歴史は、著者の言葉を借りて簡潔に言えば、「60年代に始まったマイケル・ポーターを主流とするポジショニング派と80年代以降優勢になってきたジェイ・バーニーをはじめとするケイパビリティ派の戦い」です。
ポジショニング派は「外部環境が大事。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる」と言い、ケイパビリティ派は「内部環境が大事。 自社の強みのある所で戦えば勝てる」と言います。
この2者の背後にあるのはテイラー主義ともいわれる「定量分析」と大メイヨー主義と言える「人間的議論」の戦いでもあります。
ポジショニング派は、「定量的分析や定型的計画プロセスで経営戦略は理解できる」と信じる大テイラー主義者で、「アマゾフ・マトリクス」「SWOT分析」「経験曲線」「ファイブ・フォース分析」「PPM(プロダクト・ポートフォリオ ・マトリクス)」などのなじみの分析ツールを生み出し、それで戦略を作り、商品や生産・流通を変え組織を変えてきました。 一方、ケイパビリティ派は「企業活動は人間的側面が重く定性的議論しか馴染まない」と考えています。
こうした中、ヘンリー・ミンツバーグは「すべては状況次第。外部環境が大事な時はポジショニング派的に、内部環境が大事な時はケイパビリティ派的にやればいい」とし、第3の方法が現れてきました。 21世紀になり、経済・経営環境の変化、技術進化のスピードは劇的に上がり、今までのポジショニングもケイパビリティも、あっという間に陳腐化する時代になりました。 今はイノベーションの時代です。 三谷氏によれば、アダプティブ戦略で「やって見なきゃわからない。どんなポジショニングでどのケイパビリティで戦うべきなのか、ちゃちゃっと試行錯誤して決めよう」というやり方です。
以上が、「はじめに」で書かれている経営戦略史の概略(超簡略版 経営戦略史)です。 ここから、この本で取り上げられている経営戦略論のいくつかを見ておきます。
1:テイラーの「科学的管理法」・・・テイラーが怠業と不信、恐怖が支配する19世紀の工場に「科学的管理法」を導入した。 「管理者による分析とマニュアルで生産性は上がる」
2:メイヨーの「人間関係論」・・・メイヨーが「社会的存在としての人間」を見出した。 「管理者と作業者の対話によって生産性は上がる」
3:フェイヨルの「経営・管理プロセス」・・・フェイヨルが「企業活動」を定義し、全社的「統治プロセス」を作った。 「管理者による経営・管理プロセスの遂行で生産性は上がる」
4:アンゾフの「アンゾフ・マトリクス」・・・アンゾフは「市場における競争」の概念を持ち込んだ『経営戦略』の真の父。
5:「SWOT分析」の限界と効用・・・企業戦略は、外部環境における「機会」と内部環境における「強み」を組み合わせることにある。 その考えを具現化するための分析ツールがSWOTマトリクス。 しかし、SWOTマトリクスは整理ツールに過ぎない。
6:BCGの「成長・シェアマトリクス」・・・BCGは経営戦略に「時間」「競争」「資源配分」を持ち込んだ。 「成長・シェアマトリクス」は外部環境と競争の組み合わせ
7:ポーターの「5フォースフレームワーク」「バリューチェーン ・・・ポーターはポジショニング派のチャンピオン。 経営戦略を、経済学的なポジショニングの選択の問題に還元して見せた。 ①状況は5フォースで分析できる ②答えはパターン(戦略3類型)化できる。 企業の成功のために、良いポジショニングだけでは足りず、ポジショニングを維持するための「良い企業能力」が必要。 この分析ツールがバリューチェーン
8:ピーターズの「エクセレント・カンパニー」・・・ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作が「エクセレント・カンパニー」企業の成功は①戦略と②組織構造や③プロセスや制度だけでなく、④人材やその⑤スキル、⑥経営スタイル死して、⑦共通の価値観で決まる。 特に共通の価値観が重要。
9:ストークの「タイムベース競争理論」・・・トークが日本企業ヤンマーから学んだ「タイムベース戦略論」「時間をベースにした戦略」という概念と「コストではなく時間を測る」という手法を編み出した。 付加価値の向上とコストの低下は時間短縮によって同時に実現できるもの。
10:ハマーの「リエンジニアリング」・・・「既存のプロセスを破壊しろ」とハマーは叫んだ。 ①QC的改善ではなく抜本的改革を目指せ ②社内志向ではなく徹底的に顧客志向であれ ③中央集権の管理志向ではなく現場に権限移譲せよ ④情報システムを活用し組織を一体化せよ
11:ハメルとプラハラードの「コア・コンピタンス・・・未来に向けた成長戦略。 既存の基盤事業に拘りながらも、そこから成長戦略を唱えた「コア・コンピタンス戦略」は攻めの姿勢に転じていた人々に、どの方向に進むべきかの指針を与えた。
12:マッキンゼーの「イノベーション戦略」・・・旧いイノベーションを守って儲けつつ、次の新しいイノベーションに向けて積極的に投資せよ、そのためには対話・観察・塾講の技術を組織として挙げよ。
センゲと野中郁次郎の「組織ラーニング」・・・企業をシステムとして理解する。 センゲの「学習する組織」、野中の「知識創造のSECIモデル」
13:バーニーの「VRIOフレームワーク・・・バーニーは「資源ベースの戦略論」で資源優位を唱えた。 企業が持てるすべてを「資源」と呼び、その資源の使い方を間違わなければ「持続的な競争優位につながる」と主張した。
14:キャプランノートンの「バランスト・スコアカード」・・・キャプランノートンが提唱した管理手法。 バランスト・スコアカードで「財務の視点」だけでなく「顧客の視点」「内部業務プロセスの視点」「イノベーションと学習の視点」の4つの視点で企業を評価し、すべてをつなげようとした。
15:キムとモボルニュの「ブルーオーシャン戦略」・・・強豪がひしめき戦いで血に染まったレッド・オーシャンではなく、新しい価値とコストを基にした競争のないブルー・オーションを作り出そう! 良い戦略とは敵のいない新しい状況をつくりだすこと。 戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造である。
16:ゴビンダラジャンの「リバース・イノベーション・・・新興国・途上国発のイノベーション。 今や新興国・途上国で生まれたイノベーションが先進国も含めた世界に広がるようになっている。 資源などの制限に満ちた途上国の方がイノベーションは生まれやすい。
17:グーグルの「超・試行錯誤型経営」・・・やってみて結果で決めるデータ民主主義
18:IDEO・ブラウンの「デザイン思考」・・・素早く、軽く、実際に試してみる。 「良い解決策はユーザーを中心とした試行錯誤からしか生まれない」という割り切りの下で、どんどん試作品を作って試してみる、試行錯誤を中核としたアプローチ。 デザイン思考としての5つの循環的ステップ(①理解・共感⇒②問題定義⇒③アイデア出し⇒④試作⇒⑤テスト)
19:リーヴスの「アダプティブ戦略」・・・予測しがたい事業環境変化に迅速に対応することを「競争力」の源泉とする戦略。 戦略策定は「実験」の中で行う。 失敗をどう生かすかで「実験する能力」を決める。
 
これら以外にも多くの戦略論が紹介されています。
多くの日本企業は、古典とされるポーターやアンドルーズのSWOT分析の手法を今なお採っています。 それ自体が悪いことではありません。 今なお役に立つ分析手法だと思います。 しかし、多くの戦略論を知ることで、自社の状況を真剣に見極め、自社に合った戦略タイプや戦略の立て方を見直してみることも必要です。
今主流となっているのは試行錯誤型の戦略理論です。 特にコロナ禍で先行きが見通せない時代では、なにが正解か分かりません。また、刻一刻変化する社会経済環境で熟慮実行している時間はありません。 先ずはやってみる、それでだめなら変える、そういう時代になっています。多くの戦略理論を知り、引き出しを多くして、状況に応じて当てはめ、ダメなら次の戦略に切り替えていけばいいのです。