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休日の本棚 経営戦略全史

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1320人、そのうち東京330人、神奈川95人、埼玉183人、千葉129人、愛知55人、大阪120人、兵庫54人、京都10人、福岡41人、沖縄30人、北海道58人、宮城55人などとなっています。先週よりも増加し、下止まりというよりもリバウンドの傾向が見られます。

産経新聞によれば、政府は、病床の指標が改善傾向にあることから、1都3県に発令中の緊急事態宣言を再延長せず3月21日で解除する方向だというのです。新規感染者数は下げ止まり「横ばいから微増」に転じ、感染力・死亡率が高いとされる変異ウイルスが全国的に広がりを見せ、各地の人出も増加するなど懸念材料満載です。政府や専門家の間では「現在の対策ではこれ以上の改善は見込めない」「打つ手がない」ということで、「それなら解除するしかない」という安直な発想です。第1回目のような強力な緊急事態宣言でなく中途医半端な緊急事態宣言を取ったツケが回ってきています。2週間の延長を決めた段階で効果の薄い従前どおりの対策をダラダラ継続するのではなく、さらに規制強化していればこのような事態にはならなかったはずです。打つ手を打たなかったのは政府の責任です(それを示さなかった専門家の責任でもあります)。これから3月末から4月にかけて様々な行事がありますが、万が一解除するとしてもまん延防止重点措置を取るなど解除後も何らかの措置を準備しなければ、再拡大は必至です。第4波が襲来し、再度緊急事態宣言発動となれば、経済に壊滅的なダメージを与えることになります。緊急事態宣言が解除されれば、GoTo再開という動きもありますが、緊急事態宣言を解除しても感染拡大を助長する恐れのあるGoToは、新型コロナが収束するまでは再開すべきではありません。

さて、今日は、三谷宏治著「経営戦略全史」(ディスカヴァー)を紹介します。

この本は、テイラーとメイヨ―に始まるこの100年の経営戦略論の流れを描いた経営戦略の物語(ストーリー)です。著者は、この本で「『当時の社会やビジネス状況の解決策としての経営理論』と『現代のイノベーション論の構造』の2つが学べる」と言っています。この本には、ビジネス史を変えた戦略コンセプトが漏れることなく紹介されていて、

  • 教科書的に:経営戦略論の流れや史実、関連項目が一覧できる
  • 辞書的に:気になる用語の意味や位置づけを索引から調べる
  • 百科事典的に:関心のある項目についての関連情報が分かる
  • 物語的に:どうやって経営戦略論が生まれ、進化してきたかを楽しむ

というような方法で使うことができます。経営学を学ぶというのではなく、ビジネスパーソンイノベーションのアイデアを得たいというのであれば、本書を物語的に読むことが有用だと思います。

経営戦略の歴史は、著者の言葉を借りて簡潔に言えば、「60年代に始まったマイケル・ポーターを主流とするポジショニング派と80年代以降優勢になってきたジェイ・バーニーをはじめとするケイパビリティはの戦い」です。

ポジショニング派は「外部環境が大事。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる」と言い、ケイパビリティ派は「内部環境が大事。自社の強みのある所で戦えば勝てる」と言います。

この2社の背後にあるのは大テイラー主義ともいわれる「定量分析」と大メイヨー主義と言える「人間的議論」の戦いでもあります。

ポジショニング派は、「定量的分析や定型的計画プロセスで経営戦略は理解できる」と信じる大テイラー主義者で、「アマゾフ・マトリクス」「SWOT分析」「経験曲線」「ファイブ・フォース分析」「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス)」などのなじみの分析ツールを生み出し、それで戦略を作り、商品や生産・流通を変え組織を変えてきました。一方、ケイパビリティ派は「企業活動は人間的側面が重く定性的議論鹿馴染まない」と考えています。

こうした中、ヘンリー・ミンツバーグは「すべては状況次第。外部環境が大事な時はポジショニング派的に、内部環境が大事な時はケイパビリティ派的にやればいい」とし、第3の方法が現れてきました。21世紀になり、経済・経営環境の変化、技術進化のスピードは劇的に上がり、今までのポジショニングもケイパビリティも、あっという間に陳腐化する時代になりました。今はイノベーションの時代です。三谷氏によれば、アダプティブ戦略で「やって見なきゃわからない。どんなポジショニングでどのケイパビリティで戦うべきなのか、ちゃちゃっと試行錯誤して決めよう」というやり方です。

以上が、「はじめに」で書かれている経営戦略史の概略(超簡略版 経営戦略史)です。個々から、この本で取り上げられている経営戦略論のいくつかを見ておきます。

  • テイラーの「科学的管理法」・・・テイラーが怠業と不信、恐怖が支配する19世紀の工場に「科学的管理法」を導入した。「管理者による分析とマニュアルで生産性は上がる」
  • メイヨーの「人間関係論」・・・メイヨーが「社会的存在としての人間」を見出した。「管理者と作業者の対話によって生産性は上がる」
  • フェイヨルの「経営・管理プロセス」・・・フェイヨルが「企業活動」を定義し、全社的「統治プロセス」を作った。「管理者による経営・管理プロセスの遂行で生産性は上がる」
  • アンゾフの「アンゾフ・マトリクス」・・・アンゾフは「市場における競争」の概念を持ち込んだ『経営戦略』の真の父。
  • SWOT分析」の限界と効用・・・企業戦略は、外部環境における「機会」と内部環境における「強み」を組み合わせることにある。その考えを具現化するための分析ツールがSWOTマトリクス。しかし、SWOTマトリクスは整理ツールに過ぎない。
  • BCGの「成長・シェアマトリクス」・・・BCGは経営戦略に「時間」「競争」「資源配分」を持ち込んだ。「成長・シェアマトリクス」は外部環境と競争の組み合わせ
  • ポーターの「5フォースフレームワーク」「バリューチェーン・・・ポーターはポジショニング派のチャンピョン。経営戦略を、経済学的なポジショニングの選択の問題に還元して見せた。①状況は5フォースで分析できる ②答えはパターン(戦略3類型)化できる。企業の成功のために、良いポジショニングだけでは足りず、ポジショニングを維持するための「良い企業能力」が必要。この分析ツールがバリューチェーン
  • ピーターズの「エクセレント・カンパニー」・・・ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作が「エクセレント・カンパニー」企業の成功は①戦略と②組織構造や③プロセスや制度だけでなく、④人材やその⑤スキル、⑥経営スタイル死して、⑦共通の価値観で決まる。特に共通の価値観が重要。
  • トークの「タイムベース競争理論」…ストークが日本企業ヤンマーから学んだ「タイムベース戦略論」「時間をベースにした戦略」という概念と「コストではなく時間を測る」という手法を編み出した。付加価値の向上とコストの低下は時間短縮によって同時に実現できるもの。
  • ハマーの「リエンジニアリング」・・・「既存のプロセスを破壊しろ」とハマーは叫んだ。①QC的改善ではなく抜本的改革を目指せ ②社内志向ではなく徹底的に顧客志向であれ ③中央集権の管理志向ではなく現場に権限移譲せよ ④情報システムを活用し組織を一体化せよ
  • ハメルとプラハラードの「コア・コンピタンス・・・未来に向けた成長戦略。既存の基盤事業に拘りながらも、そこから成長戦略を唱えた「コア・コンピタンス戦略」は攻めの姿勢に転じていた人々に、どの方向に進むべきかの指針を与えた。
  • マッキンゼーの「イノベーション戦略」・・・旧いイノベーションを守って儲けつつ、次の新しいイノベーションに向けて積極的に投資せよ、そのためには対話・観察・塾講の技術を組織として挙げよ。
  • センゲと野中郁次郎の「組織ラーニング」・・・企業をシステムとして理解する。センゲの「学習する組織」、野中の「知識創造のSECIモデル」
  • バーニーの「VRIOフレームワーク・・・バーニーは「資源ベースの戦略論」で資源優位を唱えた。企業が持てるすべてを「資源」と呼び、その資源の使い方を間違わなければ「持続的な競争優位につながる」と主張した。
  • キャプランノートンの「バランスト・スコアカード」・・・キャプランノートンが提唱した管理手法。バランスト・スコアカードで「財務の視点」だけでなく「顧客の視点」「内部業務プロセスの視点」「イノベーションと学習の視点」の4つの視点で企業を評価し、すべてをつなげようとした。
  • キムとモボルニュの「ブルーオーシャン戦略」・・・強豪がひしめき戦いで血に染まったレッド・オーシャンではなく、新しい価値とコストを基にした競争のないブルー・オーションを作り出そう!良い戦略とは敵のいない新しい状況をつくりだすこと。戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造である。
  • ゴビンダラジャンの「リバース・イノベーション・・・新興国・途上国発のイノベーション。今や新興国・途上国で生まれたイノベーションが先進国も含めた世界に広がるようになっている。資源などの制限に満ちた途上国の方がイノベーションは生まれやすい。
  • グーグルの「超・試行錯誤型経営」・・・やってみて結果で決めるデータ民主主義
  • IDEO・ブラウンの「デザイン思考」・・・素早く、軽く、実際に試してみる。「良い解決策はユーザーを中心とした試行錯誤からしか生まれない」という割り切りの下で、どんどん試作品を作って試してみる、試行錯誤を中核としたアプローチ。デザイン思考としての5つの循環的ステップ(①理解・共感⇒②問題定義⇒③アイデア出し⇒④試作⇒⑤テスト)
  • リーヴスの「アダプティブ戦略」・・・予測しがたい事業環境変化に迅速に対応することを「競争力」の源泉とする戦略。戦略策定は「実験」の中で行う。失敗をどう生かすかで「実験する能力」を決める。

これら以外にも多くの戦略論が紹介されています。

多くの日本企業は、古典とされるポーターやアンドルーズのSWOT分析の手法を今なお取っています。それ自体が悪いことではありません。今なお役に立つ分析手法です。しかし、多くの戦略論を知ることで、自社の状況を真剣に見極め、自社に合った戦略タイプや戦略の立て方を見直してみることも必要です。

今主流となっているのは試行錯誤型の戦略理論です。熟慮実行する時間はありません。先ずはやってみる、それでだめなら変えればいいだけです。 

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