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休日の本棚 競争優位の終焉

f:id:business-doctor-28:20201107083156j:plainおはようございます。

昨日の新規感染者は全国で201人、20県で感染者ゼロとなっています。一方で下どまり、若干増えてきている地域もあり、予断は許しません。「日本はコロナに医療体制で負け国民意識で勝った」と言っていた医師がいましたが、第6波に向けて医療体制を充実させるとともに、緩んでいる国民意識を再び高めなければなりません。

さて、今日は、リタ・マグレイス著「競争優位の終焉」(日本経済新聞社出版)を紹介します。著者のマグレイス氏はコロンビア大学ビジネススクール教授で、不確実性の高い事業環境における経営戦略を研究する傍ら、アメリカ企業に対するコンサルティングを行っています。

ダイナミック・ケイパビリティ」の時にも書きましたが、ポーターの5F(ファイブ・フォース)やバーニーのRBV(リソース・ベースド・ビュー)の考え方は、企業環境が安定しているときに妥当するものです。混迷し変化の激しい時代には、一旦競争優位を獲得してもすぐに真似られてしまいますし、顧客のニーズも刻々と変わるのですぐに飽きられてしまいます。

マグレイス教授は「現在用いられている戦略のフレームワークやツールはほぼすべて、ある一つの考え方に支配されている。つまり、戦略の目的は持続する競争優位の確立だというものである」「本書で私は、この『持続する競争優位』という概念に立ち向かい、経営陣はそれに基づく戦略論を放棄する必要があると訴える」と言います。

そのうえで、マグレイス教授は「かわって『一時的な競争優位』に基づく戦略について展望する」と言い、「不安定で不確実な環境で勝つためには、経営陣はつかの間の好機を迅速につかみかつ確実に利用する方法を学ばなければならない」と言うのです。

要は、「持続的な競争優位」に基づく従来の戦略論は間違っているというよりは時代遅れ、今の環境変化には妥当しないということです。そこで、新しい「一時的な競争優位」の考え方、つまり競争優位の状態が長期的には持続しないことを前提とした新しい考え方に従って経営を行うべきだということです。

マグレイス教授は、世界の時価総額10億ドル以上の上場企業5000社から、2000年以降の10年間で収益と純利益を毎年5%以上成長させた10の企業を選び出し、分析しています。成長し続けるこの10社は「一時的な競争優位」を獲得し続ける能力を有しているとして、この10社に共通する6つのポイントを抽出し説明しています。

この6つのポイントについて紹介します。

1.継続的に変わり続ける—安定性とアジリティーの両

 この10社は、安定性とアジリティー(俊敏さ)を両立させて、常に変わっているというのです。

 一時的優位性の環境を上手く生き抜いてきた企業に見られるのは、古い優位性から絶えず資源を引き上げ、新たな優位性の開発に投資するというパターンです。私たちは、極めて不確実な事態に直面すると、どうしていいのか分からなくなり、立ちすくんでしまいます。しかし、この10社では、社員が不確実性と変化になるたけ直面しないように、ソーシャル・アーキテクチャーを生み出し、社員が組織上の役割や構造に気を揉んで時間を無駄にしないようにしています。

 安定性を保つための源泉として5つが挙げられています。

  1. 野望・・・大きすぎるくらいの野望は長期的な変革には意味を持つ。企業が独りよがりに陥って過去の優位性の追求で満足してしまわないためにも、それは欠かせない。
  2. アイデンティティと文化・・・文化および共有された価値観の創造が他社との差別化の要因になる。
  3. 人員配置・人材開発も・・・従業員があちこちに移動できる能力を身につけるための投資は、変革に対する巨大な障害を取り除くとともに、単なる人員配置から移動能力の養成に重心を移すことに他ならない。
  4. リーダーシップ・・・戦略をブレさせないリーダーシップを持つ
  5. 安定した関係・・・クライアント、エコシステムパートナーの間の関係も極めて安定している。

 アジリティー(俊敏さ)をもって変わり続けるための源泉として、次の5つが挙げられています。

  1. 痛みを伴わない小さな変革を重ねる。
  2. 予算編成で資源の抱え込みを許さない。
  3. 柔軟性=大規模な年度予算作成のプロセスや効率重視の価値観よりも、柔軟性の強化に投資する。
  4. イノベーションを本業と捉える。
  5. オプション志向で市場を開拓する=小さな初期投資をして好機を探り、上手くいきそうなものが見つかればその後もっと本格的に投資する。

 安定性とアジリティー(俊敏さ)が相乗効果を生み出し、一時的な競争優位性を獲得し続けることができるのです。

2.衰退の前兆をつかみ、上手く撤退する

 持続する競争優位という想定と、よりダイナミックな戦略との最大の違いは撤退にあります。撤退は、イノベーション、成長、活用と同じくらい事業において中核をなしているものです。撤退は、失われた栄光の落胆すべき印ではなくて、価値ある資源を開放し、再び目的を持たせる手段なのです。

 事業衰退の兆候はアンテナを巡らしキャッチすべく意識を向けていれば意外と見つかります。しかし、日々の業務の忙殺されていると、アンテナに引っかかっても見逃してしまいます。常に注意を巡らせチェックすることが大切です。

3.資源配分を見直し、効率性を高める

 一般的な企業では、資源配分は既存の有力事業によって決められ、全世代の競争優位を支配していた人が力を持っています。一時的優位を志向する企業では、資産の競争力は、会計上の価値と一致しないことが周知徹底されており、もはや競争力を失った資産は土壇場を迎える前に処分策が講じられます。

 一般的な企業では資産を所有することが重要と見なされますが、一時的な競争優位の企業では、資産の所有ではなく資産へのアクセスの方が、柔軟性や拡張性があることを認識しています。

 既存の大企業では、事態が計画通りに進まない時にも、事業の継続に頑なに固執してしまいます。不確実な環境の下でもっとも効果的なアプローチは、不確実性が減少した場合に限って資産を投じること、資産を徹底して倹約し続ける行動規範が大切です。肝心なのはキャッシュフローが黒字になる売り上げを確保できるまでは、投資を最低限に抑え、黒字になった段階でさらに投資を増やしていくことです。

4.イノベーションに習熟する

 新しい事業を立ち上げるにはイノベーションが必要になります。しかし、イノベーションには失敗はつきものです。以前から言っていますが「失敗から学ぶ」という姿勢が重要です。

 イノベーションに習熟する6つのステップは次の通りです。

  1. 現状を分析し、成長ギャップを明確にする
  2. 上級幹部から指示と資源配分を受ける
  3. イノベーション管理プロセスを作り上げる
  4. システムの構築と組織への導入に着手する
  5. 具体的かつ現実的なところから始める
  6. イノベーションのサポート体制と築く

 一時的優位性の世界では、イノベーションはやってもやらなくてもいいといったものではありません。またイノベーションは副業ではありません。専門的に構築され管理されなければならない能力なのです。

5.リーダーシップとマインドセットを変える

 持続的優位性があった時代では、今よりもよりうまくやることが求められていました。しかし、一時的優位性の世界では、変化を早く察知し、問題の本質を捉まえることが極めて重要になります。昔の成功モデルを変えなければなりません。

 かつての成功モデルを変える必要性を素直に認め、進んで受け入れる姿勢は、一時的な競争優位を志向する企業のリーダーシップには必要不可欠です。

 変化の激しい優位性という難題に対処するには、より安定した時代とは異なる組織の想定とリーダーのマインドセットが必要なのです。

 しかし、リーダーの考え方が変わっただけでは上手くいきません。社員全員の意識や考え方を変える必要があります。そのためには、リーダーが思いを込めた言葉で発信し広げていくことです。

6.あなた個人への影響について考える

 持続的競争優位性の時代には、組織への忠誠心が求められました。しかし、一時的優位性の世界では、個人のあり方が変わってきます。個人が持つ新しい知識やスキルが求められるようになりますし、個人も新しいスキルを身につけるべく自己を磨かなければならなくなります。

マグレイス教授教授が描いた状況が今や当たり前になってきています。特にコロナ禍で先行きが見通せなくなったVUCAの時代では、これまでの持続的競争優位に立脚した戦略では生き残ることが難しくなっています。

今必要なのは、この本が描く一時的競争優位の戦略であり、先日の「ダイナミック・ケイパビリティ戦略」ではないかと思います。