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休日の本棚 座右の著「貞観政要」

おはようございます。

今日は、出口治明著「座右の著『貞観政要』」(角川新書)を紹介します。副題に「中国古典に学ぶ『世界最高のリーダー論』」とありますが、「貞観政要」は唐の第2代皇帝、太宗・李世民の言行録です。「貞観」というのは当時の元号のことで(西暦627~649年)、今から1400年近く前です。貞観の時代は、中国史上、最も国内が治まった時代と言われています。「政要」というのは、政治の要諦のことで、太宗と臣下との政治上の議論や問答がまとめられたものです。

その後、クビライや乾隆帝などの中国の皇帝が帝王学を学ぶために愛読し、日本でも北条政子徳川家康明治天皇が学んだとされています。

太宗は、約24年間帝位についていました。出口氏は、名君と呼ばれる人の絶対要件は次の2つであると言っています。

  1. 「権限の感覚」を持っていること・・・臣下に一旦権限を与えたら、その権限は臣下のものです。部下に権限を与えて任せたなら、皇帝であっても部下の決定に従わなければなりません。皇帝が自分勝手に権力を行使すれば、人民や臣下を疲弊させ、やがては裸の王様になってしまいます。高い地位に就いた人が裸の王様になれば、君主の一言一句に組織が振り回されるようになり、やがて時代の変化から取り残されてしまいます。
  2. 臣下の「諫言」を得ること・・・諫言とは上司の過失を遠慮なく指摘して忠告することです。臣下の忌憚のない諫言を聞き入れ、彼らの批判に耐えることで自らを鍛え上げるのです。皇帝であっても、決して全能ではないことをわきまえた姿勢、欠点や過失を指摘されることを望み、喜んで聞き入れる姿勢です。

出口氏は、「貞観政要」に記された太宗と臣下たちとの問答の中から、リーダーや組織がどうあるべきかを学ぶべき、と言っています。そして、「貞観政要」で述べられている「三鏡」の考え方を座右の銘にしていると言います。

三鏡」というのは「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」の3つの鏡のことです。

  • 鏡に自分を映し、元気で明るく楽しい顔をしているかをチェックする(銅の鏡)
  • 過去の出来事のほか将来を予想する教材がないので、歴史を学ぶ(歴史の鏡)
  • 部下の厳しい直言や諫言を受け入れる(人の鏡)

これらの3つの鏡、今の自分の表情、歴史、第三者の厳しい意見を知ることがリーダーには必要不可欠です。

まず、十思九徳(いいリーダーに共通する10の思慮と9の徳行)です。太宗の側近である魏徴が太宗に君主が心にとどめておくべき10の思慮と積むべき9の徳行を説いています。

10の思慮と9の徳行について現在の言葉で要約すると次のようになります。

【十思

  1. 欲しいものが現れたときは「足るを知る」を思い出し、自戒する。
  2. 大事業をするときは「止まるを知る」を思い出し、立ち止まって考え、人民を過度に働かせない。
  3. 大きなリスクを冒してまで野望を果たそうとしない。謙虚に自制すること。
  4. 満ち溢れるような状態になりたいという気持ちが起こったら、謙虚に振る舞う。
  5. 遊びたくなったら、自ら制限を設けて、節度を持って遊ぶこと
  6. 怠けそうになったら、何事にも一生懸命取り組んでいた初心を思い出すこと。最後までやり遂げたときも威張ったり自慢したりせず、謙虚さを忘れないこと。
  7. 自分の目や耳がふさがっていると思ったら、下の者の意見を素直に聞くこと。
  8. 讒言(目上の者に、ある人の悪口を言うこと)や中傷を恐れるなら、まずは自分の立ち居振る舞いを正すこと。
  9. 部下の手柄を褒める時に、恩賞を与え過ぎてはいけない。特定の部下を増長させてはいけない。
  10. 部下を叱責するときは、感情に任せて怒りをぶつけてはいけない。信賞必罰は公正であるべき。

九徳】

  1. 寛にして栗・・・寛大な心を持ちながら不正を許さない厳しさをあわせ持つ
  2. 柔にして立・・・柔和な姿勢をもってむやみに人と争わない。しかし、なすべきことは必ずやり遂げる
  3. 愿にして恭・・・真面目だが尊大なところがなく丁寧である
  4. 乱にして敬・・・事態を収束させる能力がありながら慎み深く謙虚である。
  5. 擾にして毅・・・威張ったりせず、普段は大人しいが、毅然とした態度や強い芯を持つ
  6. 直にして温・・・正直にものを言うが、冷淡ではなく、温かい心を持つ
  7. 簡にして廉・・・物事の細かい点にはこだわらない。大まかであるがしっかりしている
  8. 剛にして塞・・・剛健だが、心が充実している
  9. 彊にして義・・・いかなる困難でも正しいことをやり遂げる強さを持つ

魏徴は、君主が十思九徳をわきまえ、才能のある人を選んで任用し、善者を選んでその言に従えば、何もせず、何も言わずとも世の中が自然と治まると言っています。何もしないのが理想のリーダーであり、策を弄せずとも、物事がおのずと良い方向に導かれるように適材適所に人を配置すればいいということです。組織の強さは、人材の組み合わせと配置によって決まると言っても過言ではなく、誰に何を担当させるかを決めた段階で、その組織のパフォーマンスはほとんど決まります。リーダーの役割は適材適所に人を配置することに尽きるのです。職場の状況、社会の変化、部下の適性などを踏まえながら、最適な人材を最適な場所に、最適なタイミングで配置できれば、リーダーは、余計な干渉や口出しをせずいったん部下を信頼して任せればいいのです。これこそが理想のリーダーです。

また、貞観政要には「その身を収めるには、必ずその習うとことを慎む」と書かれています。つまり、謙虚になることです。そのために、つまらない自尊心や羞恥心を捨てて器を空にする、無の状態に戻すことです。太宗が部下の諫言を受け入れられたのは、器を無にすることができたからです。器は大きくするのではなく、中身を捨てるのです。中身を捨てて空にすると、新しい価値観や部下からの直言、新しい考え方などを吸収することができるようになるのです。

 貞観政要の中に、魏徴が文公(春秋時代の晋の君主)の逸話を用いながらリーダーの役割について説いた一節があります。文公が猟に出て獲物を追いかけているうちに道に迷います。そこで、一人の漁師に会い「私はお前の主君である。道を教えてくれれば礼をしよう」と漁師に言います。漁師は「君主のいるべき場所は広い場所であって、沢のような狭い場所ではないはずです。どうしてこんなに遠くまでやってきたのですか?」と問うのです。漁師が伝えたかったのは「自分の役割を忘れてはならない」と言うことです。君主の役割・機能は猟をすることではなく、国を治めることです。猟をするのは猟師の役割・機能です。君主といえども漁師の機能をみだりに奪ってはならないのです。

上司も部下も、組織を運営するための機能の一つにしかすぎません。チームで仕事を回すために上司はたまたま上司の機能を割り当てられただけです。上司は部下よりも人間的に偉いわけではありません。機能・役割が違うだけです。

強い組織を作るには、上司も部下も、君主も人民も、与えられた役割に注力すべきです。人間にはそれぞれ、組織上、仕事上の本分があります。自分の本分でないことに手を出すべきではありません。上司が部下に権限を与え任せたのなら、それは部下の本分であって、上司と言えども取り戻したり代行することはできないのです。リーダーにはこうした権限の感覚を身につける必要があるのです。

太宗は、古人の言葉を引用しながら、社会が良くなるも悪くなるも、上に立つ人の器によって決まると言っています。組織のマネジメントを円滑にするためには、人の心をつかむことが何より大切です。自分の地位を利用して強制的に従わせたなら単に従っているフリをしているだけになります。人事権をちらつかせ強制的に部下を動かすのと部下に権限を委譲して仕事を任せ動いてもらうのとでは天と地ほどの差があります。

 上に立つ人には、自分がやるべき仕事の範囲を把握する能力が必要です。自分の職務に関係あるものとないものの範囲を正しく理解して、関係ないことは聞かない、見ない、そして口に出さない。それが部下を伸び伸びと働かせ、かつリーダーが心身の健康を保つ最善策です。

病気は治りかけが肝心です。風邪の治りかけは、まだ免疫力が低下しているので、新たなウイルスが侵入したりすると、結果的にぶり返し悪化してしまいます。太宗は「病気は治りかけこそ気を付けるべきで、国家も同じ」と言っています。物事がうまくいかないときは、みんなが必死になって考え、努力を重ねるので気が緩むということはありません。トラブルや不祥事を抱えた時に組織が一致団結するのも、メンバー全員が危機感を持っているからです。反対に物事が順調な時は、どうしてもタガが緩みがちになります。苦しい時には緊張を保っていたのに、ちょっと良くなったとたんに、気が緩んで、それが事態の悪化を引き寄せる火種になることがあるのです。人間はアホだから慢心してつい調子に乗ってしまうことがあります。太宗はこれを自覚して、常に臣下の諫言を受け入れるようにしていたのです。どこかの政治家とは大違いです。

部下は上司の顔色を窺っています。上司が不機嫌な表情をしていると、部下は寄ってこないので、情報が入ってこなくなり、正しい意思決定ができません。上司は部下が話しかけやすいように鏡を見て、いつも元気で、明るく、楽しそうにしていなければならないのです(銅の鏡)。

貞観政要には、「いい判断」をするために大切な3つのことが挙げられています。その3つとは

  • 過去の皇帝から学ぶこと
  • 善良な人や行いの正しい人とともに、道義的に正しい道を歩むこと
  • 取るに足らない人たちは避けて、嘘、告げ口、悪口は聞かないこと

です。過去の歴史に学ぶというのは「歴史の鏡」です。「善人を進用する」と「讒言を聞かず」というのは、フラットでオープンな組織を作るうえで欠かせないものです。

小事は大事です。小さな失敗を見逃すと大きな失敗につながります。些細なことや小さなことを見逃さず、おろそかにせず、徹底することが大事を起こさないための抑止力になります。組織が傾く原因は、「わずかなほころびくらいでは大事に至らないだろう」という慢心です。太宗は、小事は大事であると考え、臣下にどんな小さな問題も放置してはいけないと周知徹底していました。

リーダーは部下に権限を与えて仕事を任せる必要があります。一方で任された部下は、自分の守備範囲については必死に仕事をしなければなりません。

太宗が偉いのは、「手を抜いたら許さない」と脅しているのではなく、何故小事を大事にしてはいけないのかをきちんと理由を付けて説明していることです。最初に道理を説いたからこそ太宗は臣下に信頼されたのです。

「善を善とし、悪を悪とする」だけで行動しなければ組織は滅びます。悪いことだと分かっているのなら、直ちにやめるべきです。良いことだと分かっているのなら直ちに行動を起こすべきです。

上に立つ人の言葉はとても重く、一度口にした言葉は簡単に取り消すことはできません。また、いくら口が重くても、人格が備わっていなければ、部下の信頼は得られません。常に言行一致を心がけていないと部下はついてきてくれません。「トップの話す言葉は非常によく考えられていて、大所高所から物事を判断できる」「悠揚迫らぬ鷹揚な人柄で誰からも好感を持たれる」そういう人物でなければ、上に立つことは難しく、仮に上に立ったとしても、部下は喜んでついてきてくれないでしょう。

リーダーが物事を考えるときは、時間軸の概念を取り入れることが大切です。目先の利益ばかりを追求すると、長期的な利益を失うことが多々あるからです。時間軸を正しく設定するのもリーダーの重要な役割です。上に立つ人は時間軸を自由に使える権限を持っています。だからこそ、その事象をどのくらいの年次で判断すべきかを冷静に考え、正しく時間軸を設定する必要があります。

貞観政要の中に、「天子はその人格がどろどろ濁っていてはいけない。かといって、輝くほど澄んでいてはいけない」と書かれているくだりがあります。リーダーの人格が濁っていてはいけないというのはもっともなことです。しかし、「輝くほど澄んでいてはいけない」というのは面白いところです。「水清ければ魚棲まず」ということわざの通り、あまりにも心が清らかで行いも正しく潔白すぎる人は他人から敬遠され孤立してしまいます。人間にはきれいな面も汚い面も両方あって、リーダーは清濁併せ呑む人物でなければならないのです。

貞観政要」は、組織に関わる人やリーダーにとって、現代でも全く色あせることのない古典の必読書です。この本は「貞観政要」のエッセンスを分かりやすく説明してくれています。