休日の本棚 結果主義のリーダーはなぜ失敗するのか
おはようございます。
今日は、本田有明著「結果主義のリーダーはなぜ失敗するのか」(PHPビジネス新書)という本を紹介します。
「部下には厳しくしている。でもその分、自分だって必死にやっている。『目標必達』を合言葉に皆を鼓舞してきた・・・それなのに、振り向けば誰もいない!? こんな目に遭う可能性は実は『会社に忠実』で『優秀』な管理職ほど高いのです。部下にいろいろ注文を付けているようで、結局は『とにかく結果を出せ』という指示しか出していない。このようなリーダーの隣には、不祥事や部下のメンタルダウンのリスクが常に存在している」のです。
結果を出すこと、成果を上げることは、あらゆる組織の原点であり目標であることは言うまでもありません。
「結果を出せ」という言葉を色々な文脈で用いられます。この本では、
・言い訳をせずに、結果を出せ!
・方法は任せるから結果を出せ!
・法令は順守したうえで、結果を出せ!
・どんな手段を使っても、結果を出せ!
といった意味合いで用いられるとしています。
法令順守=コンプライアンスは企業活動の大前提で、リーダーがこれを無視してまで「結果を出せ!」とは言うはずはありません。しかし、「不正を働け」と口には出さないまでも、それをよく似た文脈で部下を追い込んでいるリーダーがいます。2015年東芝の不正会計問題から三菱電機架空データ問題まで、すべて「結果を出せ」という結果主義・結果至上主義が原因です。
結果主義・結果至上主義というのは、「目的のために手段を択ばず」ということであり、こうした結果至上主義が世の中に蔓延しているのです。
リーダーも部下も、結局は分かりやすい数字(業績)だけを取り上げることになり、結果主義・結果至上主義に陥るのです。そうなると、思考停止の状態で数字の操作だけに邁進し、挙句の果てには不正な領域に足を踏み入れることも厭わなくなってしまうのです。「結果、結果」「数字、数字」とリーダーがアホの一つ覚えのように血眼になっていると、部下の心は倦み組織は疲弊します。その場の短期的な成果につながっても持続的な成長にはつながりません。
結果を標榜するときには、リーダーの立場にある者は、それが意味する中身を具体的に伝えなければなりません。成果を追い求めるあまり忘れがちになる「当たり前のこと」を明確な形で社員に示して、会社全体で共有することが大切です。その一番重要なメッセージが、企業倫理、人命の安全、法令順守です。こうしたことが欠落しているので、相変わらず企業不祥事が後を絶たないのです。
この本は、「まずは人を育てること。人を育てれば、結果は後からついてくる」という立場です。当たり前のことですが、当たり前だからこそ難しいのです。
この本は、第1章から第6章までの6章で構成されています。その要点を簡潔に引用(要約)します。
第1章 不祥事の温床となる結果至上主義
・1つの部署であれ会社全体であれ、結果至上主義の空気が支配的になると、「できないことはできない」「してはいけないことは決してしない」という単純な理屈が押しのけられる。「組織のため、会社のため」という理屈が、善悪の判断を無視して、まかり通るようになる。これが結果至主義の陥りやすい罠である。
・「何よりも公正の精神を重んじて法令違反の取り締まりに全力を傾ける」と言っても、どこかで撲滅したいのは「不祥事」そのものではなく「不祥事の発覚」になっている。特に隠蔽体質が風土となってしまっているところでは、「発覚することが問題だから発覚しない巧妙なやり方を考えればよい」という悪循環に嵌っていく。
・強欲資本主義や結果至上主義が社会の風潮を形成しているのは間違いない。「法令順守を徹底し、高い倫理観を持って業務に邁進しよう」と本気で言うのであれば、リーダーはそれ相応の覚悟を持たなければならない。
第2章 結果を出したければ「人」に還れ
・経営資源には人・物・金・情報・技術など有形・無形のものがあるが、とりわけ人(意欲・能力)という資源は、リーダーのかかわり方次第で、極大から極小まで、いかようにも伸び縮みする要素である。「人材育成と活用の達人」を目指すことが管理職の重要な任務に他ならない。
・結果を出したければ人に還れ。人材育成と活用の達人を目指せ。それが、目標達成と業績拡大を実現する王道である。
・上司・先輩と部下・新人とのやり取りは、どうしてもすれ違いが生じやすく、コミュニケーションのつもりが一方通行に終始しがちになる。真のツーウェイ・コミュニケーションを実現するためには、共通認識の有無を確認したうえで、個別具体的な対話をしなければならない。
・短くても上司の言葉の中に、承認・感謝・慰労・期待・日頃の目配りなど、良好な人間関係の構築に必要な要素が詰まっている。こうした上司の元では人々は生き生きと働き、生産性も高まる。IQと共にEQ(こころの知能指数)にも優れていることがリーダーの条件である。
第3章 リーダーは「モチベーター」たれ
・仕事ができる自信家のリーダーは人材の育成を怠る傾向にある。何でも自分でやってしまうほうが簡単だし即効性があるように感じるからだ。ここで大切なのは「リーダーの役割」である。チームリーダーや上司にとって大切なのは、自分で何でもこなすことではない。個々人のモチベーションと能力を引き上げてチーム全体の総合力を高く維持することである。
・活性化している職場では承認や称賛の言葉が頻繁に聞かれる。叱責しても相手が素直に聞き入れる関係を築くためには、その何倍も承認・称賛の言葉をかけておく必要がある。人は自分を承認してくれる人に関心を持ち、その人の期待に応えようとする。成果の承認だけでなく、プロセス・行動についても承認・称賛することが大事である。
・大切なのは、「普段からよく観察して相手の長所を知っておく」ことである。アンテナを高く上げておかないと情報をきちんとキャッチすることはできない。
第4章 どんなメッセージを発信するのか
・経営者や幹部が社員にメッセージを伝えようとするとき、漏れや抜けのない全方位的なメッセージを伝えようとして、総花的な項目列挙になってしまう。これではあまりにも具体性の欠けた訴求力のない単なる「挨拶」で終わってしまう。聞いている側にとって大事なのは、要するに何が言いたいのかということ、「あれもこれも」ではなく優先順位を付け、現実的な対応策を明確にすることだ。
・わかったようでわからない指示では、結局何もわからない。あれもこれも式のメッセージなど、現場では物の役にも立たない。
・リーダーにとって大切なのは、お仕着せの課題を与えることではなく、自分たちでそれを見つけさせることだ。問題発見と問題解決とを部下みずからにやらせること。管理者の役割はその道筋をうまくつけることである。初めの方針は管理者が示さなければならないが、そのプロセスは部下たちの参画によって考案した方が実効性の高いものになる。要するに、トップダウン方式とボトムアップ方式をうまく取り入れることだ。リーダーに必要なのは「巻き込む力」である。
・自分が一生懸命に働くのは当たり前のことで、リーダーとしては最低レベルでしかない。また、一握りのできる部下、気の合う部下にだけ仕事を任せるのも最低レベルに毛の生えた程度。できる部下もできない部下も、気の合う部下も気の合わない部下も、全員まとめて自己記録の更新を狙わせること。それが仕事のやりがいなのだと自覚させ、その気にさせること。そこにリーダーの責務と本懐がある。
・「人材育成は人事部門の仕事」と思っているようでは、人づくりが会社のポリシーに根付くことはない。人材育成を会社づくりの根幹に据えるためには、最高経営責任者がそれを宣言し、主導しなければならない。
第5章 残業ゼロへの挑戦が仕事の質を高める
・結果主義の問題を突き詰めていくと、プロセス管理を無視した結果至上主義に行き当たる。業務の改善や人材の育成など、結果を出すための方法をしっかり吟味することなく、「結果、結果」と連呼する。結果を求める最上の方法は、モチベーション・マネジメントの観点に立って人材の能力を最大限に引き出すこと。そこには効率的な業務運営と時間管理を徹底する必要がある。
・業務における効率的な時間管理とは、単位時間の生産性を向上させることであり、結果として残業時間の削減を意味する。可能な限り「残業ゼロ」に挑戦すること、逆説的な言い方になるが、それがモチベーション・マネジメントの要諦であり、正しい結果主義への挑戦にもつながる。
第6章 リーダーの品格と見識を磨く
ここでは、リーダーの品格と見識を磨く5冊の本が紹介され、解説されています。
・カント「道徳形而上学原論」・・・倫理の観点をカントに学ぶ
・アウレーリウス「自省録」・・・人を率いるものの心構え、「帝王学」を学ぶ
・幸田露伴「努力論」・・・人材マネジメントへのヒントを提供する
・ベネディクト「菊と刀」・・・日本人に欠落しているものは何か
安直な結果主義に陥らないために、リーダーは品格や見識を磨くことは必要ですが、これまでも書いていますが、経営は「ヒト・ヒト・ヒト」で成り立っています。リーダーの役割は、その人の育成と啓発であり、遠回りに見えても、これが最大の成果を上げる近道です。結果は後からついてきます。