中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 行動観察

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おはようございます。

東京都は「東京アラート」を解除し、ステップ3に移行しました。昨日の東京都の新規感染者数は25人となり、たった1日で、東京アラートの基準を超えてしまいました。昨日、小池都知事都知事選への出馬表明を行いました。うがった見方をすれば、東京アラート解除・ステップ3への移行はこの都知事選出馬への布石だったようにも思えてきます。まあ、大阪人としては関係ありませんが。

さて、大阪府では専門家会議が開かれ、3月以降の府内の感染状況を検証しました。それによると新型コロナウイルスの感染のピークは緊急事態宣言発出前の3月28日で、「ピークアウトしたのは、緊急事態宣言後の外出自粛や休業要請によるものではないことは明白」(京大・宮沢准教授)で「外出自粛や休業の効果は限定的」(阪大・中野教授)と否定的な意見が出ました。政府による緊急事態宣言に基づく外出自粛や休業要請はほとんど無意味だったということです。そうだとしますと、東京都の東京アラート解除やステップ3への移行は何ら問題がないことになりますが、果たして本当にそうなのでしょうか。専門家でないのではっきりとは分かりませんが、3月28日にピークを迎えていたとはいえ、その後の自粛要請や休業要請によって感染者数減少のスピードがアップしたのではないかと思います。緊急事態宣言を発動せず自粛要請や休業要請を出さなければ、感染者減少はもっと緩やかになり、今なおある程度の感染者が全国的に出ていたのではないでしょうか。

新型コロナウイルス関連の話はこれくらいで、本の紹介です。

さて、今日は、松波晴人著「『行動観察』の基本」(ダイヤモンド社)と紹介します。

今、世の中は「どうすればいいのだろう?」という課題で満ちています。

「お客様の潜在ニーズを見出して付加価値の高い製品やサービスを提供するにはどうすればいいのだろう?」「現場のクオリティや生産性を上げるには、どうすればいいのだろう?」「イノベーションを起こすには、どうすればいいのだろう?」など。

このような場合、この本は「成果を生み出そうと考えているなら、まずは、『場』に足を運んで観察すべきだ」と言っています。本質は「場」に、場における「人間の行動」に存在しているからです。「場」を観察してソリューション(問題解決策)を発想する方法論が、本書で提案されている「行動観察」です。

本書では、多くの事例をもとに、行動観察が必要とされる背景から学問的な根拠、実践方法が説明されています。本書にあげられているいくつかの事例を挙げておきます。

1 高齢者ビジネス

行動観察では、高齢者と一緒に過ごし、その中でどのような行動や実態があるのか、その背景にどのような価値観や思いがあるかを知ろうとする。

  • われわれは、ありとあらゆるものに固定観念を持っている。高齢者についても勝手にイメージを作っている。固定観念を外して考えなければ本当のニーズを見誤ってしまう。
  • 高齢者は社会との接点を求めている。「誰かのため」という言葉に弱い。
  • 通販で高級品を買うのは娘や孫に喜んでほしいから
  • 行動観察から導かれた3つのインサイト・・・(1)高齢者は「与えられる」より「与えたい」=①人に役立つことで自分の有用感を実感している②自らの価値を感じ取るため他者にサービスしたい (2)高齢者はコミュニティを求めている=①同じ悩みを持った者同士で、気楽に大勢楽しく話せるコミュニティ➁男性でも気楽に出入りでき周りを気にせず気楽に過ごせるコミュニティ (3)高齢者は「学び合い」たい(学びとコミュニティの複合)=①次から次へと新しい好奇心を刺激される②年齢を重ねたからこそできる、理解できることに挑戦する③達成感、自己効力感を実感できる。

2 中国人観光客のまだ見ぬニーズを探る。

中国人が日本に観光に来ると、様々な経験をする。そのうち、何が魅力的な経験で、何が面白くない経験かを調べれば、日本が中国人に対して提供できる価値が明確になる。

  • 「Made In Japan」を買いたい。日本にしかないものを買いたい
  • 情報はインターネット、企業の情報は信用しない。台湾の人のブログ
  • 食事よりもショッピング。膨大なお土産(買い物)リスト
  • 中国人観光客の観察から得た4つのインサイト・・・(1)行動様式は直感ひらめき型(臨機応変)(2)旅行の目的は「自分はすごい感」にある (3)膨大で詳細な土産リストがミッション (4)日本流の細やかなサービスに感動する
  • 30年前の日本人旅行者+インターネット=中国人旅行者
  • 日本人と違う点だけでなく共通点を探す

3 飲食業のサービスのスタンダードを創る。

サービスはその場で生まれその場で消えるためデータとして残りにくい。現場にいる人が圧倒的な情報を持っている。サービスの品質は、少なからずサービスを提供する個人の勘と経験に頼らざるを得ない。個人の勘と経験に頼りすぎると、企業全体でサービスのクオリティを維持し高めることが困難となる。現場でサービスに従事する人が目指すべき、確固たるスタンダードを構築する必要がある。

  • 「サービス・スタンダード構築」の3つのステップ=(1)サービスの現場での行動観察=現場に行き接客の実態を観察して知る (2)企業理念の理解=サービスは必ず企業理念に基づいていなければならない (3)ワークショップ=実態と企業理念を把握したうえでスタンダードの考えや中身を議論
  • 構築されたスタンダードの現場での活用=①スタンダードに基づいた現場での測定・評価プロセスを創る→➁OJTを含む教育の仕組みを作る→③トレーニングを通じてホスピタリティ(心からのおもてなし)を強化する
  • サービス・スタンダードは接客マニュアルとは違う。サービス・スタンダードでは、「何のためのそのサービスをするのか」「会社としてどういう価値をお客様に提供するのか」が示されている。単なる「接客作業」から「おもてなし」に
  • お客様の視点からすべてのサービスを見直し、意思統一を行い、新たなお客様ニーズや対処すべき課題を抽出し、更に担当者間、店舗間、上層部と現場が一つになる。
  • 「本社は現場が分かっていない」「現場は全体像が見えていない」=現場と本社を繋ぐ役割を担う存在が必要→繋ぐ人の存在がイノベーションのきっかけになる

本書の最後に、松波氏は、「変化の激しい世界において、生き残るためには知的な勇気が必要だ」と言われています。そして、そのために「繋ぐこと」が重要だと言います。顧客と企業を繋ぐ、上層部と現場を繋ぐ、ビジネスとアカデミックを繋ぐ、理系と文系を繋ぐ、これまでの枠組みを超えて様々な知恵を合わせることです。そのために、行動観察では必ず「場」に足を運ぶ、他者の行動を観察して「他者を理解する」のです。

「相手は何を喜ぶか」「自分はどういう思いを届けたいか」この2つをマッチさせることが「他者を知り、自分を知る」ということです。外に出て、さまざまな人に接し、行動観察し、理解し、そして自分を知ることでビジネスは変わるのです。

しかし、行動観察はできそうでなかなかできないのです。その理由をいくつかあげます。

(1)自分のフレームから出ることが難しいからです。人間は楽しようとして身体を動かさず、頭を使わないで済まそうとします。思考パターンが固定化され柔軟性がなくなっているのです

次のクイズを考えてみてください。この本に載っているクイズを簡略化しました。

  • ある男がエジプトにピラミッドを見に行き感動し「子供が出来たら絶対連れてこよう」と誓います。その男は結婚し息子が生まれます。男は息子を連れてエジプトに来て息子にピラミッドを見せます。ここから問題です。男が子供にもピラミッドを見せようと誓ったのが2000年、息子を連れて来たのが1985年のことです。この様なことは起こりうるのでしょうか?(答えは下に*)

(2)「他人も自分と同じだという思い込み」からです。「自分がこう考えるからほかの人も同じように考えるはずだ」ということです。

(3)「選択的注意が固定している」からです。カクテルパーティー効果と言われるものです。騒がしいカクテルパーティ会場で遠くから自分の名前を呼ばれただけでも聞き分けられるのに他の火との会話は聞き取れないということです。注意を払った事柄は認識できるのに注目していない事柄は無視されるのです。有名なルビンの壺のだまし絵です。何に見えますか?

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(4)「確証バイアスから抜け出しにくい」・・・第一印象で決まってしまいます。

(5)「認知的不協和に耐えられない」・・・これまで思っていたことと相反する情報が入ってくると認知的不協和が起こりこの矛盾を解消しようとします。例えば、あなたが大ファンであるタレント(渡部?)が不倫したというニュースが入ってきたとします。頭の中で「あんな感じの良い人が」「不倫をした」という2つの情報が矛盾することになります。この矛盾を解消するには「不倫をした」という情報を否定するか「感じのいい人」という思い込みを否定するかです。認知的不協和はイノベーションを阻害する要因もになります。経営者が自分の経営哲学に信念を持っていたとします。その信念は時代遅れです。しかし、経営者は「その経営哲学ではうまくいかない」という明確なデータを示されたときも「考えを変えなきゃ」と考えられず、「自分の経営哲学が間違っているはずはない。そのデータが間違っている」と考えてしまうのです。

*クイズの答え・・・2000年、1985年は西暦ではありません。紀元前です。

*ルビンの壺・・・壺に見えましたか?2人がキスしようとしているように見えませんでしたか?

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