中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 ハーバード戦略教室

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で662人で、東京は290人となっています。そのうち感染経路不明者が158人で半数以上います。若い世代が7割を占め、特に20代の女性の感染者が増えているようです。東京近県では、神奈川49人、埼玉49人、千葉32人と増加傾向が見られます。また、大阪で10代から80代までの男女86人の感染が確認され中高齢者へも感染が拡大しているようです。大阪でも感染経路不明者が46人で約5割います。京都と愛知で1日の感染者数として過去最多の25人が確認され、福岡でも24人、北海道13人と、全国的に感染が拡大しています。

こうした全国的な感染拡大の中、22日から「GoToキャンペーン」がスタートします。東京除外の影響を受けキャンセルも相次ぎ旅行業界も混乱しているようです。東京除外と言いながら通過の場合には「GoTo」の対象となるようなので、横浜や千葉をメインにして東京に行くならOKというわけです。これでは東京除外の意味がありません。

さて、今日は、シンシア・モンゴメリー著「ハーバード戦略教室」(文藝春秋)を紹介します。モンゴメリーはハーバード・ビジネススクールの教授で、彼女が受け持つ講座は、年間売上10億円から200億円の企業のオーナー・経営者だけが入学を許されるのです。35か国から164人の経験豊富なエリート経営者が集まった秘密の講座の内容を公開しているのが本書です。

モンゴメリー教授の講座はトップエリートを対象としていますが、その内容は中小企業経営者にも十分に役立ちます。本書はアメリカで2012年に刊行され好評を博し、「空論を振りかざしビジネスを台無しにしているMBAがどれほどいるだろうか。本書は、自分はMBAだから戦略について何でも知っていると思う人にこそ読んでほしい。結局のところ、偉大なるストラテジストの多くがMBAの資格など持っていないのだ。本書のクラスで学ぶのは、そうした経営者たちがいかに成功したかである。すべてのビジネスマンの読んでもらいたい」という読者の感想が寄せられています。

モンゴメリー教授は、次のように言います。

  • 「目的地がなければ、そこに至る道はない」という言葉がある。組織には存在理由、つまり目標があるはずだ。あなたの会社はどうだろう?
  • 会社の向かうべき方向を見定め、日々の決定を下し、軌道修正していくのは、ストラテジストの役目なのだ。

こうした著者の言葉を読むと、会社や組織だけでなく、生き方自体が問われているようにも思えてきます。「人生をどう生きるか」について、「自分自身の存在理由・目標を定め」「その目標に向かって日々努力し、軌道修正しながら自分の人選を生き抜く」ということが教えられているように思えます。

企業経営に戦略(ストラテジー)は極めて重要です。世界中のビジネススクールで「戦略論」が教えられ、戦略の策定と実行は企業の経営者が担う重要な任務とされてきました。本書では、戦略とは何であり、なぜ重要で、それを導くには何をすべきか、について語られ、ストラテジストになる方法が説明されています。

ストラテジスト(戦略家)とは、モンゴメリー教授によれば、「単に戦略を策定し実行するだけでなく、正しい判断力と責任感を持って継続的にその取り組みを導く指導官」ということです。講義の終盤、モンゴメリー教授が、受講者に向かい「帰りの飛行機で隣に座った人に、どんな仕事をなさっていますかと尋ねられたら、『わたしは組織の目標の守護者です』とだけ答えておきなさい」と冗談めかしに言っていますが、この「組織の目標の守護者」こそ著者の言う「ストラテジスト」です。

本書は、第1講から最終講まで8つの講で構成されています。

第1講・・・ここでの講義は「リーダーシップと戦略の関係」

 リーダーシップと戦略は別物ではない。戦略とはリーダーシップの核心。

 戦略とは、答えを出して終わりというものではない。むしろ、それは旅の手引きであり、旅を成功させるには責任を持って継続的に導くリーダー(ストラテジスト)が欠かせない。ストラテジストはプロセスの監督・評価・決断・遂行を何度も繰り返し、それを継続していかなければならない。そして、どの機会をあきらめ、どの機会をとらえるかを決断しなければならない。こんさるたんろのいけんやはんるし、会社の幹部や現場から寄せられる情報や声は助けになるが、結局のところ、会社の向かうべき方向を見定め、日々の決定を下し、軌道修正していくのはストラテジストの役目なのだ。戦略とリーダーシップが組織の頂点で一つになる。

 「あなたはストラテジストですか」という問いに答えられなければならない。ストラテジストに求められるスキルと感受性を磨き、胸を張ってこの問いに答えられるようになってほしい。ストラテジストには勇気と自分の会社についての基本的なところを問い直し、樋続ける謙虚さが求められる。

第2講・・・あなたは戦略思考ができるか

 かつて家庭用品業界で大成功したマスコ社は、利益率が低く古い体質の家具業界に参入しようとした。この決断は是か非か、戦略教室での最初の討論となる。

 賛成派と反対派は2:1.だが、実際のところ、マスコ社の家具業界への参入は失敗だった。 

第3講・・・マスコの教訓とは

 各業界には、業界ごとの違いを生む、得体のしれない特有の「インダストリー・エフェクト(産業効果)」というものがある。

(1)業界には前進を阻むいくつもの「力」が存在することを理解しよう。それにいかに対処するかがあなたの戦略である。それらの力を理解しないまま戦略を立てても、結果は運次第と言うことになる。

(2)それらの力を理解出来たら、次はそれに対処する方法を見つけよう。巧みな段取りや、マイナスの力に対抗しプラスの力を活用する知恵が求められる。時には撤退が最善策となることもある。

(3)それらの力をなめてかかってはならない。その力はあなたの事業の運命のみならず、あなた自身の運命も左右する。

第4講・・・イケアの躍進が示す会社の「目標」の重要性

 イケアの躍進は「低価格と独自戦略」だけではなく、戦略の大本となる「良い目標」があったからだ。イケアの本質について創業者のカンプラードは「私たちには明確なコンセプトがある。それは優れたデザインと機能性を備えたホームファニッシング製品(家を快適にするために必要なものすべて)を幅広く取りそろえ、より多くの人が買えるよう、できる限り手頃な価格で提供し、『より快適な毎日を、より多くの人に』という目標を実現することだ」と言っている。

 良い目標とは何か? ①良い目標とは気高いものである。 ➁良い目標はあなたの立ち位置をはっきりさせる。 良い目標はあなたと他社の違いを際立たせる。 ④良い目標は価値創造と価値獲得の土台を作る。

 実現性のある目標は、会社のすべての活動の指標となる。それはあなただけでなく、あなたの事業に関わりのあるすべての人にとって意味のあるものでなければならない。他社にとっての価値を創造することは、あなた自身が価値を掴む最も確かな方法だ。

 あなたの会社が適切な目標を持っているかどうか、その業界で価値を創造できるかどうかを知るのは、簡単なことではない。次の問いをしてみよう。

 もし今日、あなたの会社が消えたら、明日、世界は変わっているだろうか?

第5講・・・グッチ社の復活で見る戦略を持つリーダーと持たないリーダーの違い

 高慢な目標も実現する戦略なしには絵に描いた餅だ。

 ストラテジストの主な仕事は、目標を定め、それを実現できるよう組織を整えていくことだ。グッチの元CEOデ・ソーレは「素晴らしい戦略を立てて、話し合いを重ねている企業もある。しかし、彼らは往々にしてそれを実行に移せない。私は違う。私は常に幹部を呼び出し、彼らがやると言ったことをやったかどうか、確かめるようにしている」と言う。

戦略を、目標に導かれ、組織の実情に応じて働く「価値創造システム」とみなせば、それは高慢な理想と現実的な行動を繋ぐ橋だ。

第6講・・・独自の戦略はどう立てるか

 会社の目標を達成すべく奮闘し、決定的な独自性を見出し、価値創造システムを構築し、それらすべてを自らの戦略として、明確な文章にまとめなければならない。この大変な作業をスムーズに始めるにはすべてを描きだすこと、考えていることを口に出すだけではいつまでたっても形にならないが、書きだすことで思考に骨組みが生まれ、秩序がもたらされる。

 明確な戦略は会社が進むべき方向を示す羅針盤となり、それによって、自分が、今、何を何のためにしているかを、はっきりと説明できるようになる。

 目標は具体的で明確で、理解しやすいものでなければならない。何故なら、戦略は目標から生まれ、目標を支えるから。

 起業の目標を支える価値創造システムを視覚化するために「戦略の輪」と呼ばれる伝統的なアプローチが有用である。「戦略の輪」は「どうすれば成功できるか」を津介したもので、輪の中心に「目標=企業の存在意義」を描き、その周辺部の活動と資源は何をすれば約束が果たされるかを示す。この作業の目的は自社の現状を直視し、それぞれの項目をどう変えられるか、どう変えるべきなのかを熟慮することである。

 目標を定め、それが実現するよう活動と資源を調整し、成果を確認したら、会社の内部と外部にその理念を伝えるために、戦略を簡潔な文章にまとめる。大切なのは、自社の特徴と強みを、心に訴える具体的な言葉で伝えること。

優れた戦略の特徴

  • 明確で説得力ある目標が土台となっている…組織には存在理由、目標がある。
  • 本物の価値を付加する…独自性のある組織は価値を付加することが出来る。
  • 明確な選択…優れた成果は目的の決まった取り組みから生まれる。
  • 価値創造システムを作る…戦略を遂行する最初のステップは、アイデアから行動のためのシステムを立ち上げることだ。
  • 意味のある測定基準…戦略が機能しているかROIのような一般的基準より、個々の戦略に合わせて作った業務出来高指標の方がより正確な指標となる。
  • 情熱…すべての優れた戦略の核心には情熱がある。

第7講・・・アップルとジョブスの例

 どんなに優れた戦略を立案しても、永遠に続かない。ストラテジストは常に変化し、企業価値を高め続けなくてはならない。

 ストラテジストの仕事は、戦略の感性とともに終了し、あとは結果を分析するだけという見方は短絡的で危険である。どれほど魅力的かつ明快な戦略でも、長年にわたって変化しないまま企業を導き続けることはできない。戦略の一部を作り直したり、見落とされていたことを付け加えたり、うまく機能しない部分を再考したりすることもストラテジストと仕事だ。

スティーブ・ジョブズとアップル社の物語は「企業が長続きするには何が必要とされるか?そのためにストラテジストは何をすべきか?」という問いを提起する。

初心を貫徹して自己改革すること、「今の姿を保ちながら、別のものになっていくこと」だ。ストラテジストとして組織が本来の目標から逸れないよう監視し、導いていかなければならないが、必要に応じてその目標を変更すべきだ。

 戦略を率いるには途切れることのない責任が伴う。その重責を人に任せることはできない。会社が変化するのは、業界が変化し、人々の嗜好が変化するからであり、社員が変化し、新たなスキルと強みをもたらすからなのだ。そして結局のところ、誰かが、つまりストラテジストであるあなたが号令をかけるから変化するのである。

 持続可能な唯一の戦略は、変化を予測するということだ。

第8講・・・ストラテジスト、戦略の本質

 ここでは、リーダー、ひいては一人の人間として求められる本質を名著の一節から説かれています。

 重要なのは、自分は戦略の管理者でもなければ専門家でもないということを自覚すること。それは他の人に任せればいい。何よりもまず自分がリーダーだということ、最も重要な仕事は、まだ存在しないものを想像すること。

  • 私の会社は世界に何をもたらしているのか?
  • それは重要で、わが社独自のものか?
  • その独自性は、希少で、真似しにくいものか?
  • 明日、重要な存在になるために、今日何をすべきか?

この4つの問いに正面からぶつかっていく必要がある。

 ストラテジストになるには、新しい教えを受け入れる謙虚さが必要である。柔軟心を持ち、新たな課題や自社の価値を高める新たな方法を受け入れられるようにしよう。

 ストラテジストには、推進力とイニシアティブ、厳しさと創造力、好奇心と意欲が求められます。

 選択の責任を負うのはリーダーの役目です。重大な選択を下すには多大な勇気と不屈の精神が求められる。

 ストラテジストには、「コントロールできない偶然性」を受け入れ、「心を柔軟にして自信に満ちた知恵ではなく謙虚な知恵を育むこと」すなわち、「コントロールしたい」という思いを捨てて臨機応変い戦略を見直し作り変えることが要請される。

著者は、最後に、「人生を築く過程は、決して平たんではなく、望み通りの結果になるとは限らないが、その過程こそ、が彼らの人生であり、そのに彼らのアイデンティティが存在するのだ。『だれにとっても自分がどういう人間であるかが重要なのだ』と、ノージックは言う。『人生に何が起きるかにばかり関心を持ち、人生をどう生きるかに無関心でいるというようなことがありうるだろうか」」と言っています。

最初にも書きましたが、すべてのビジネスマンにとって役に立つ本ですし、経営に関わりのない人にも「経営を人生に置き換えれば」役に立つ本です。