中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 平成はなぜ失敗したのか

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おはようございます。昨日の新規感染者は全国で4717人、そのうち東京1070人、神奈川521人、埼玉325人、千葉411人、愛知246人、大阪525人、兵庫225人、京都121人、福岡214人、沖縄79人、北海道138人などとなっています。緊急事態宣言の効果かは分かりませんが、1都3県の感染者数が減少傾向にあるように思います。今後も、この減少傾向が続くのか、それとも高止まりするのか注意が必要です。大阪・京都・兵庫では、今のところ高止まりの状態が続き、緊急事態宣言の効果は見られません。駅や繁華街の人出を見ると、緊急事態宣言発令前とそれほど減っていないように見えます。密を避け、不要不急の外出をを自粛するという、一人ひとりの日ごろの心掛けがまだまだ大事です。

感染者数は若干減少していても医療体制のひっ迫は変わっていません。入院先が見つからず、自宅待機中の亡くなる方も増えています。死者も5000人を超え、重症者数とともに増加傾向にあります。特に大阪では826人と全国で最多となっています。

緊急事態宣言の期限である2月7日まで2週間となりましたが、新規感染者数が減少しても医療体制がひっ迫した状況では解除も難しそうです。栃木など、緊急事態宣言後に数字だけを見ると押さえ込んでいる地域もあり、2月7日に一部地域で解除されるかもしれませんが、新規感染者数だけではなく病床使用率、重症病床使用率など医療のひっ迫度を含め総合的に判断されるべきです。安易に解除するとその後に再び感染拡大し、3回目の緊急事態宣言発令という事態にもなりかねません。それだけは避けたいものです。

さて、今日は、野口悠紀雄著「平成はなぜ失敗したのか 『失われた30年』の分析」(幻冬舎を紹介します。著者の野口氏は、一橋大学名名誉教授でファイナンス理論、日本経済論が専攻ですが、かつて「『超』整理法」(中公新書「『超』独学法」(角川新書)などベストセラーとなりました。

本書の帯には「失敗の検証なしには、日本は前進できない!」「日本人が遅れを取り続ける原因を徹底解明」とあります。

平成の30年を一言で言えば、世界経済の大きな変化に日本経済が取り残された時代でした。平成時代を通じて、日本経済の国際的な地位は継続的に低下したのです。ここで重要なのは、「努力したけれども取り残された」のではなく「大きな変化が生じていることに気づかなかったために取り残された」ということです。改革が必要だということが意識されず、条件の変化に対応しなかったのです。

平成時代を振り返るのであれば、過去を懐かしむだけではなく、なぜこの時代が日本にとって失敗の時代になったのか、その原因を明らかにすることが重要です。

本書は、こうした観点から、平成時代の経済を分析し、重要な選択の局面において、本当はどうすべきだったのか、それらを今日本経済が抱える問題との関連で、将来に向かい日本が何をなすべきかについて検証が行われています。

昭和時代、特に戦後の経済は、紆余曲折はあったものの、原則的に成長し続けてきました。その終末期にバブル経済が始まり、その浮ついた経済のまま、人々も浮ついた気分のままで平成時代に突入しました。

平成2年に株価は下がり出し、翌3年にはこれまで高騰を続けてきた不動産価格も急落しました。平成7年から10年にかけ金融大崩壊が起こります。東京協和信用組合・安全信用組合の破綻に始まり、山一證券の廃業、日本長期信用銀行の破綻と続く金融崩壊は「やがて景気が回復し業績が上がればなんとかなる」という楽観論から「業績悪化の隠ぺい」が大きな要因でした。

野口氏は、その教訓が全く生かされていないと言っています。

平成は「痛みを伴う産業構造の改革」を行う絶好機であったにもかかわらず、政府や経済界はそれを避け、昭和時代の成功モデルを追い続けて失敗し、日本は致命的に立ち遅れ世界から取り残されたのです。

1970年代に底辺にあったイギリスやリーマンショックによって打撃を受けたアメリカが今や経済を回復してきているのに比べ、日本だけは過去の成功に固執したために時代から取り残されてしまったのです。

そして、そのまま、経済成長を見せることなく、平成は終わります。平静を振り返り、失われた30年の検証を行い、失敗の原因を明らかにして、それを反面教師としていかなければ、いつまでたっても日本の経済成長、回復はありません。

以下、本書の要約です。

第1章 日本人はバブル崩壊に気づかなかった

  1990年の初めから、株価が下がり始め、企業利益などの経済指標が悪化に転じたにもかかわらず、多くの日本人は日本経済の変調肉ぢ来ませんでした。

第2章 世界経済に大変化が起きていた

  80年代から90年代にかけて世界が大きく変貌しました。89年11月にベルリンの壁が崩壊、91年12月にソ連が崩壊、中国の工業化が本格化、IT革命が第2段階に入り、インターネットが普及します。製造業において水平分業という新しい生産方式が広がり、ITの進歩で仕事の環境も大きく変わりました。

第3章 90年代末の金融崩壊

  90年代の後半に不動産バブル崩壊に伴う不良債権問題が顕在化します。「絶対に潰れることがない」と誰もが信じていた日本の金融機関が次々に不良債権の重みで経営破綻します。

第4章 2000年代の偽りの回復で改革が遠のく

  2003年1月から翌年4月にかけて政府・二日銀によるぢ規模な為替介入がなされ、これによって円安が進行します。輸入主導の経済回復が実現し、日本経済が回復したと多くの人が感じます。しかし、これは一時的で偽りのものに過ぎなかったのです。また、製造業ではテレビの大規模工場などが建設されましたが、製造業で進行していた世界的な傾向には逆行するものでした。

第5章 アメリカ住宅バブルとリーマンショック

  アメリカで異常な住宅価格のバブルが起こりますが、これは円安・住宅価格・自動車が結合した複合バブルで、そのメカニズムは持続可能なものではありませんでした。バブルは崩壊し、2008年にリーマンショックが起きました。

第6章 崩壊した日本の輸出立国モデル

  アメリカ住宅ローン証券化商品の破綻によって、アメリカの消費需要が激減し、円高が進行し、日本の輸出が激減し、輸入立国が終焉しました。「輸出依存型成長」は、日本経済に対する本当の解決策にはならなかったのです。個の落ち込みからの回復をもたらしたのは、第1に中国が行った大規模な経済対策であり、第2に日本政府が行った製造業救済政策でした。このため、民間企業の政府依存が強まり、人々の考えでも政府に依存する度合いが強まったことが問題で、日本経済は構造を転換することができませんでした。

第7章 民主党内閣と東日本大震災

  東日本大震災で日本の貿易収支が台激変し、期待を背負って誕生した民主党政権が日本の経済構造をまったく改革できませんでした。また、ユーロ危機で円高が進み、株価が下落しました。

第8章 アベノミクスと異次元金融緩和は何をもたらしたか?

  異次元金融緩和政策はマネーストックを増やさず、円安が進行したものの。これは金融緩和政策の結果ではなくユーロ危機の鎮静化による国際的な投資資金の流れの変化によってもたらされたものです。追加緩和とマイナス金利の導入も経済の活性化の効果はありませんでした。結局はアベノミクスは、賃金・消費を増やしておらず金融緩和からの出口も見つかっていません。

第9章 日本が将来に向かってすべきこと

  日本経済が抱える課題は、①労働力の不足、➁人口高齢化による社会保障支出の増大への対処、③中国の成長など世界経済の構造変化への対処、④AIなどの新しい技術への対処などがあります。こうした問題に対処するためには、既得権の打破が必要です。

ここで、改めてアベノミクスについて見てみます。

昨年、安倍政権から菅政権に移りましたが、現在も、日銀・黒田総裁主導の下、異次元の金融緩和が継続しています。民間銀行が保有している長期国債を年間50兆円買い入れ、消費者物価の対前年比上昇率を2%にしようとしています。メディアでは、「市場に大量のマネーが投入された」と報道されましたが、野口氏によれば、これは著しい誤解で、簡単に言うと「銀行が保有するお金が激増したが、経済が元気でないので誰も借りようとせず、市場に出回るお金は微増にとどまっている」ということです。2001年に日銀は同様の量的金融緩和を行いましたが全く効果はありませんでした。その検証も行わず再び同じ量的緩和を行い続けているのです。

野口氏は、アベノミクスの実態についても暴いています。2012年ごろから円安が進行し企業は大きな利益を上げました。しかし、野口氏によれば、それはアベノミクスの効果ではなく、「ユーロ危機の鎮静化」「トランプぢ棟梁の就任」と言った海外情勢の影響に過ぎないのです。日本企業の売上高や営業利益は、為替レートの変動によってひり廻され、帳簿上の利益が増えただけで、企業が拡大・成長したわけではありません。したがって、労働者の賃金にも反映されません。

アベノミクスの最大の問題は、現在続けている金融緩和を停止すると金利が暴騰し日本の財政が破綻してしまうということです。野口氏はこれを「悪魔のシナリオ」と言っています。

コロナ禍で新型コロナ感染が拡大し経済的な支援が必要な現在、金融緩和政策を維持し財政発動が必要ですが、コロナが収束した後に、金融緩和の出口を見つけ日本が財政破綻しないために何を為すべきかを真剣に考える時が来ます。

野口氏は、日本が抱える課題として前述の4つを挙げ、「日本が抱えている問題は、金融緩和や円安では解決できない。産業構造、経済構造を変えるしかない。特に新しい情報技術の活用だ」と言います。「新しい産業の登場が鍵だ」と結論付けています。

そして、野口氏は、新しい産業の登場には、政府への依存からの脱却・人材の育成・規制緩和・移民の受け入れ、開かれた国になることなどが必要と言っています。

政府も、企業も、更に個人も失敗の検証なしには前進できません。平成という時代を振り返り検証することが重要です。平成の経済誌ですが、この本を参考にすれば、平成を振り返り、より良い未来を築くための礎にできるように思います。

因みに、この本には、「平成を振り返るための年表」がついていて、「自分史」を書き込むことができるようになっています。

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