中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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中小企業不要論を吹き飛ばせ!

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2631人で、そのうち東京676人、神奈川234人、埼玉257人、千葉218人、愛知114人、大阪244人、兵庫120人、京都43人、福岡119人、北海道94人などとなっています。新規感染者は減少していますが、昨日亡くなった人は120人で、東京32人、神奈川19人など過去最多となっています。

特措法・感染症法の改正法が成立し、2月13日から施行されます。改正法は感染防止策の実効性を高めるために罰則を新設することを主眼としています。懲役や罰金刑という刑事罰を科すことは野党の反対もあり、休業や営業時短命令に応じない事業者や入院を拒否した感染者に行政罰を課すことで決着しました。これまで要請に留まっていたものを一定の強制力を持たせるための改正ですが、私権制限を強める以上、その運用は慎重でなければなりません。しかし、「正当な理由なく」という条件が付されており、何をもって「正当な理由」というのか、誰がそれを判断するのか不明確です。行政罰である以上、地方公共団体や保健所といった行政機関が取り締まりに当たり、最終的には裁判所の判断を仰ぐということになりそうですが、コロナ対策で多忙を極める地方公共機関や保健所に更なる負担を負わせ、公平な判断ができるかという懸念があります。更に、私権制限を強める以上は、それに見合った公平で適切な補償が前提でなければなりませんが、その点に対しては不十分と言わざるを得ません。現在の補償では、時短要請に応じた飲食店に1日当たり6万円ということになっていますが、1日当たり数万円程度の売上しかない零細店舗にとっては一種「コロナバブル」でボロ儲け、これに対して大型店では従業員の人件費にも満たず何の役にも立たない端金で不公平感が半端ありません。規模や売上に応じた公平かつ十分な補償が必要です。また、コロナ禍の影響を受けているのは飲食業に限りません。あらゆる業種・業態が影響を受け、苦境にあえいでいます。こうした中小・零細企業にも経済的支援がなされるべきです。

今日は、日経ビジネスの「コロナ禍で苦しむ中小企業『不要論』を吹き飛ばせ」という記事を取り上げます。

日本経済の生産性の足を引っ張る中小企業は不要だ」という菅首相のブレーンの一人、デービッド・アトキンソンの「中小企業淘汰論」が間違いであることはこれまでも何度か書いてきました。日本企業の生産性の低さは中小企業の問題ではなく、大企業の問題です。大企業が、中小・零細企業から搾取するという悪しき構造を改革しない限り日本企業の生産性は向上しません。単に中小企業の構造改革を推し進めても何の役にも立たないのです。行うべきは日本企業全体の構造改革です。

そうは言っても、経営者の高齢化や後継者不足にコロナ禍が重なり、中小企業を取り巻く環境が厳しくなっていることは事実です。2020年はコロナ対策としての給付金や金融支援策によって中小企業の倒産件数は減少しましたが、休廃業・解散数は過去最多となっています。黒字であるにもかかわらず、コロナ禍で先を見通せず、早めに事業継続を諦めているケースが増えています。

この記事が言っているように、これまでも中小企業の存在意義について、「地域経済や新産業創出の担い手としての役割があるという」貢献型の主張と、アトキンスに代表される問題提起型の主張がせめぎ合っています。この問題は古くて新しい問題なのです。

アフターコロナの時代において、中小企業は如何にして生き残りを図るべきなのか、中小企業の強みと弱みは何かなどを考えていく前提として、この記事では、中小企業をめぐる基本的な問題について書かれています。今一度、中小企業とは何か、基本的な問題を考えるのは良いことだと思います。

1.中小企業とは?

  中小企業法では、中小企業、小規模会社の定義は次のようになっています。

(1)中小企業の定義

  • 製造業・建設業・その他の業種 ⇒資本金3億円以下または従業員300人以下
  • 卸売業 ⇒資本金1億円以下または従業員100人以下
  • 小売業・サービス業 ⇒資本金5000万円以下または従業員100人以下
  • 注:会社役員及び個人事業者は従業員に含まない。飲食店は小売業に含む。

(2)小規模会社の定義

  • おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業(卸業・小売業)又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については5人)以下の事業者

 ただ、法律や制度によって中小企業の範囲は異なります。例えば、法人税の中小企業を対象とした軽減税法が適用されるのは、資本金1億円以下の中小法人です。アトキンソンは、中小企業の定義を、米国や中国と同じように「従業員500人以下」にして税優遇の基準も変えるべきと主張しています。大きなお世話です。

2.中小企業の日本経済における存在感は?

 中小企業は全企業のうち99.7%を占め、そこで働く従業員は全労働者の約7割に上っています。わが国経済において重要な役割を果たしていることは言うまでもありません。

3.中小企業の生産性は低いのか?

 大企業に比べ、中小企業の労働生産性は半分以下ですが、2020年度「中小企業白書」によれば、製造業の価格変動要因を除いた中小企業に「実質労働生産性」の伸び率は年3~5%で大企業と遜色はありません。大企業、特に製造業の労働生産性の改善は雇用削減と売上高維持により押し上げられた偽りの労働生産性改善にすぎません。真の労働生産性は大企業も中小企業も大差ないわけです。むしろ、1990年以降、中小企業の付加価値率の伸びは改善されていて、真の労働生産性は改善されています。

4.成長戦略会議での中小企業を巡る論争

 アトキンソンの中小企業淘汰論に対し、日本商工会議所会頭三村明夫氏は、次のように主張し反論しています。

  • 日本は大企業も含めて生産性が劣る。全規模での引き上げが重要。どう生産性を引き上げるかの方法がない議論は空虚だ。
  • 生産性の向上があって賃金が上昇する。生産性が上がらないまま賃金を上げれば設備投資の削減につながり、生産性向上に学効果、倒産や廃業につながる。
  • 中小企業やベンチャー企業などの規模拡大を目指す企業向けのM&Aや設備投資支援と地域の経済社会を支える中小向けの伴走型支援の2本柱だるべきだ。

 三村会頭の主張こそ正論です。経済同友会桜田健吾代表幹事も「大企業と中小企業を比べた愚論は抽象的で、同じ産業・規模でも生産性は異なる。ビッグデータ解析でなく、現場のミクロを見ないと解決しない」と述べています。

5.戦後、揺れ動いてきた政府の中小企業観。「お荷物」か「貢献者」か?

 同志社大学関智宏教授編著「よく分かる中小企業」によると、政府の中小企業観は、戦後の高度成長期には「問題型」が主流で、バブル崩壊による経済低迷期以降「貢献型」に移行していると言います。高度成長期には、中小企業の労働条件の劣悪さと生産性の低さから、中小企業の設備の近代化と企業規模の拡大が戦後の政策の中心となり、中小企業基本法が制定されました。高度成長期には好景気で中小企業の数も増え、大企業と中小企業の分業体制が確立します。しかし、1970年代のオイルショックで中小企業の倒産が増え、さらにバブル崩壊で中小企業向けの融資が停滞し、資金繰りが苦しくなると、1980年代から続く中小企業数の激減がさらに加速するのではないかと懸念されるようになりました。

 1999年に中小企業基本法が抜本的に改正され、中小企業は新産業創出の担い手となり、競争を活性化する「貢献型」の認識が主流となったのです。

 現在の中小企業法では、中小企業を「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国の経済の基盤を形成しているもの」と位置づけ、政策理念として「多様で活力ある中小企業の成長発展」を提示し、「中小企業は雇用創出や市場活性化等に重要な役割を果たす」こと等から支援が必要とされています。アトキンソンの主張や知れを信奉する菅首相の考えは、中小企業基本法の精神とは相容れないもののように思われます。