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リモートワークと暗黙知

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3680人、そのうち東京419人、神奈川199人、埼玉135人、千葉128人、愛知362人、岐阜70人、大阪382人、兵庫120人、京都103人、加山108人、広島198人、福岡282人、沖縄59人、北海道372人などとなっています。検査数の少ない休日の数字と言え、かなり低い数字になっています。東京、大阪などではピークアウトしているのではないかという声が聞こえています。そして、5月末日の期限で緊急事態宣言を解除しようという動きもあります。しかし、東京オリンピック開催をもくろむためだけに安易な緊急事態宣言解除は行うべきではありません。東京、大阪では1日の新規感染者数が100人を下回るようにならなければ解除すべきではありません。

さて、今日は、ダイヤモンド・オンラインの「リモートワーク時代に露呈する『飾り物のポスト』『本当に大事な仕事』」という記事を取り上げます。

リモートワークについては何度も書いてきていますが、コロナ禍でリモートワークを導入した企業も多いのですが、政府が提唱する7割という数字には程遠い状況です。リモートワークは、新たな働き方としてアフターコロナでも定着することが求められていますが、その割には労働の形態や職場での上司と同僚との関係性、さらには労働生産性やライフスタイルにどのような変化をもたらすのか、といった問題について掘り下げた議論が行われているとは言えません。

この記事では、「同じ空間」で働くことと「リモート」との違い、同じ「空間」で働くことの意味について考えています。

1.生産性を低下させる可能性も 「職場の創造性」が損なわれる懸念

 コロナ禍でリモートワークが増えたことによるメリットとして、①通勤時間の短縮 ②労働における自律性の確立といったものが考えられます。

 一方で、生産性の低下というデメリットも考えられます。その要因として、職場の創造性、仕事をめぐる関係性あるいは社会関係資本が損なわれる可能性があることが挙げられています。職場での創造性を高めるものとして、職場での音やにおい、自宅とは違う環境、他人の存在などが挙げられます。通常、これらは気を散らし集中を妨げる要素と考えられ生産性にとってマイナスのものとのイメージがありますが、同僚とのランダムな会話・雑談から得られるアイデア、通勤途中での新しい刺激、偶然の出会い、発見が想像力を喚起しイノベーションにつながることもあるのです。

2.社会関係資本が減少 「暗黙知」が失われることに

 対面でのコミュニケーションによる刺激という問題は、フランスの社会学ピエール・ブルデューが唱えた社会関係資本とも密接に関係すると言っています。

 社会関係資本というのは、人々が信頼関係や人間関係などともとに協調関係が活発化することにより、社会の効率性を高めることができるという考え方で、日本でいうところの「人脈」に近いものです。

 ブルデューは、人々は家族や友人、同窓生、職場の上司・同僚、仕事の上での知人などとの繋がり、さらには文化によって仕事や生活のさまざまな面で便宜を受けたり、情報を得たり、困った時に助けてもらったりしており、そのことが社会の活力になると指摘しています。

 確かに、リモートワークやSNSを通じて新しいタイプの社会関係資本が形成されつつあるともいわれますが、むしろ人々がこれまで成長の糧としてきた社会関係資本はこれまで以上に減少するように思います。この記事では、「リモートワークは公式的な情報を効率的に獲得するには有用だが、非公式的な会話を通じて得られる『暗黙知』や『個人的な情報』が失われる」と言っています。昨日も書きましたが、対話を通じて得られる「暗黙知」や「個人的な経験」を形式知化することが重要ですが、リモートワークでは、全員が「暗黙知」を共有して「形式知化」することが十分に行えないのです。

3.Zoom会議で捨象される"無駄なもの"の効用

 「暗黙知」というのは、身体的な動作や習慣として身についているが、どのような原理に基づいてどのような手順で進めるのか論理的に言語化することが困難な知識のことですが、個の暗黙知社会関係資本は相互に支え合う関係にあります。例えば、会議が始まる前や終わった後の数分間の立ち話や他部署の人との個人的な会話、飲み会での上司・部下の人間関係についての情報交換など、通常は無駄話、暇つぶしと見なされがちですが、リモートワークが行われ、そうした"無駄"が切り捨てられると、これまで得られてきた様々な情報が入らず、人脈の形成・強化ができなくなります。

4.「リモート・オンリー」で孤立や分断が進む可能性

 社会関係資本暗黙知の不足は、格差拡大や社会の分断を助長する可能性があることが指摘されています。社会的・経済的に立場が不安定で、仕事や公的制度の利用に関する情報交換のネットワークが乏しい人ほど、リモート・オンリーの状況で孤立し、仕事がしにくくなります。一方、安定した地位にある知的エリートにはリモート・オンリーが続いてもこれまで蓄えてきた社会関係資本暗黙知があります。その結果両者の格差が助長され、社会の分断が進むのです。

5.「飾り物ポスト」「無用の仕事」が露呈する可能性もある

 職場で"無駄なもの"がすべて有用なものだと言っているのではありません。中には無駄どころが人間関係を破壊し創造性を壊す有害なものもあります。ハラスメントに相当する行為やそれを許容する環境は無駄どころか有害なものです。

 昨年、デヴィッド・グレーバー著「ブルシット・ジョブ」という本が話題になりました。ブルシット・ジョブとは「クソどうでもいい仕事」ということですが、「大きな組織の中で公式的な役職として存在し、比較的高い報酬を得られるが、何をやっているのか、やるべきなのか、本人も含めてよく分かっておらず、本当に組織に必要なのか検証されたこともないけれど、業界のトレンドなので設置されているような役職」のことです。部門間のコミュにケーションを促進し円滑に業務を進めることや、職場の生産性をチェックして報告することなどを名目上の業務とするような、何をやっているのかよく分からない役職の人が増えています。さらに、ましてやその人たちの仕事の効率をチェックするための役職を置いたりするケースもあります。

 グレーバーによれば、『効率化』の名のもとに、そうした非生産的な官僚主義化の方向が進んでいるのです。

 リモートワークが本格導入されれば、こうした「ブルシット・ジョブ」のほとんどがすぐになくなっても支障はない、あるいはその方が職場の生産性向上に役立つということになるかもしれません。この記事は、「役職を作らないで、簡単なソフトウェアやツールを導入した方が安上がりで、リモートを通じて無駄の現状が暴き出される可能性がある」と言っています。

6.エッセンシャルワーカーをどのように守るか

 一方で、無用の仕事や飾り物でないのに、安易にリモートワークの移行に伴って失われる可能性があるものがあります。実際に物のやり取りをする必要のある工場や店舗、人体に対するケアを手掛ける病院や介護施設などは「リモート」に移行するのは困難です。しかし、経営者の中には従業員を雇用するよりもAⅠやロボットを導入した方が安上がりだと考える者が出てくるかもしれません。こうした傾向が続くと、リストラや賃金カットの脅威にさらされます。また、社会にとって本質的に必要な「エッセンシャルワーカー」の現場で習得される技術・暗黙知が軽視され、雇用が収縮する懸念も指摘されています。

リモートワークは始まったばかりです。このリモートワークをどの程度、コロナ後の「新たな日常」として私たちの社会・生活に取り入れていくのかを真剣に考える時期に来ています。この記事では「働き手や企業は、まずこれまでの働き方とリモートを比較検討することを通して、個々の作業や会議が、名目的でなく実際にどのような機能を担っているのか、リアルな職場で出会うことが各人の社会資本や暗黙知を向上させているのかどうか、自分の目で見て自分の頭で考えることが必要である」と言っています。

いつも言うように、リモートワークも目的ではなく手段にしかすぎません。どのような目的をもって、その目的達成にリモートワークという手段が必要・有用なのかをじっくりと考えて導入を検討すべきです。