「輝かしい失敗」から学ぶ
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で13,638人、そのうち東京1915人、神奈川1719人、埼玉1106人、千葉1030人、愛知1509人、大阪1605人、兵庫433人、京都345人、福岡626人、沖縄207人、北海道266人などとなっています。東京で2000人を下回りるのは7月26日以来ですが、このところ保健所の追跡が追い付かず検査数が減っているためで、相変わらず陽性率は高い状態にあります。重症者数は2075人で18日連続で過去最多を更新し、人工呼吸器を使った治療を受けている患者は900人を超え、第3波・第4波のピーク時を大きく上回っています。第3波・第4波では高齢者が重傷者の中心であったことを鑑みれば、現在感染拡大しているデルタ株の脅威を感じます。東京医科歯科大学は、英国由来のアルファ株に類似した変異を持つ新たなデルタ株を国内で初めて確認したと発表しました。この新たなタイプのデルタ株はこれまで世界で8例しか確認されておらず、感染力の強さやワクチンの効果など全く不明ということです。患者に渡航歴はなく、日本国内で変異したものか、オリンピックで海外から持ち込まれたものかもわかりません。この新しいタイプのデルタ株が広がっていく可能性も否定できません。
さて、今日は、東洋経済オンラインの「『愚かな失敗』に終わらせないための組織風土科学者・経営者の『輝かしい失敗』から学ぶ」を取り上げます。
現在は変化のスピードが速く、かつ複雑になってきています。経済や政治、あらゆる場面で、大きな変革が起き、予想もつかない出来事が次から次へと起こっています。このような目まぐるしい変化の中で、常に成功するとは限りません。成功体験ばかりを称賛し、失敗を隠そうとする風潮では、成長も発展もあり得ません。むしろ生き残ることすらできません。「失敗は成功につながる学びの宝庫である」とは昔からよく言われることですが、今のように常に変化し続ける環境でこそ、真に生かされる言葉ではないかと思います。
この記事は、失敗研究を行っているオランダ・マーストリヒト大学ビジネススクールのポール・ルイ・イスケ教授の「失敗の殿堂:経営における『輝かしい失敗』の研究」が邦訳されたことに伴い、同書の理論をもとに日本の失敗を読み解いたものです。
1.輝かしい失敗
オランダのマーストリヒト大学に「輝かしい失敗研究所」なる機関が存在し、その最高失敗責任者がイスケ教授です。冗談ぽい肩書のようにも見えますが、この肩書こそ「失敗を恥ずべきものではなく、ポジティブに、ひたすら前向きにとらえようとする意思」の表れです。
「輝かしい失敗」は「価値を生み出そうとしたけれど、本来意図した結果が出せなかった試み」であり、「そこから学んだ教訓や学習経験」により「最終的に何らかの価値を生み出す失敗」のことです。トーマス・エジソンが言う「失敗は成功のもと」の「成功のもと」になる失敗のことです。
エジソンは次のような言葉を残しています。
- 人生に失敗した人のの多くは、諦めたときに自分がどれほど成功に近づいていたか気づかなかった人たちだ。
- 私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、上手くいかない方法を見つけただけだ。
- 私は決して失望などしない。どんな失敗も、新たな一歩となるからだ。
- 失敗したわけではない。それを誤りだと言ってはいけない。勉強したのだと言いたまえ。
イスケ教授は、「輝かしい失敗」を次の16の意類型に分類しています。
- 見えない像・・・全体は部分の総和より大きいのに部分しか見ない
- ブラックスワン・・・予見できない出来事が頻発する
- 財布を間違う・・・誰かには好都合だが、他の誰かに負担がかかる
- チョルテカの橋・・・解決すべき問題は1か所にとどまっていない
- 欠席者のいるテーブル・・・すべての関係者が参加しているとは限らない
- 熊の毛皮・・・成功する前に結論を急ぎすぎる
- 電球の発明・・・何をやっているか分かっていれば、それを研究とは言わない。試行錯誤を軽んじる
- 兵隊のいない将軍・・・アイデアはいいが、ヒト・モノ・カネ・情報・知識等のリソースが不足
- 捨てられないガラクタ・・・やめる術が分からない
- 深く刻まれた渓谷・・・染みついた思考・行動パターンから抜け出せない
- 右脳の功罪・・・合理的根拠のない直感的な判断をしてしまう
- バナナの皮で滑る・・・アクシデントが起きる
- ポスト・イット・・・失敗したけど、偶然の幸運にも恵まれる
- アインシュタイン・ポイント・・・単純化しすぎても、複雑化しすぎてもいけない
- アカプルコの断崖ダイバー・・・タイミングを誤ってはいけない
- 勝者総取りの理・・・生き残れるのは1人しかいない
イスケ教授が挙げる16の類型が本当に「輝かしい失敗」の類型と言えるのか疑問がないわけではありません。なぜなら、「成功のもと」となる失敗には、少なくとも何がしかの「成功の芽」がなければならないからです。「成功の芽」がない失敗では、いくらもがいても「成功のもと」にはなり得ないのです。
2.失敗の2つのタイプ
イスケ教授は、失敗には2つのタイプがあると言います。
- タイプ1・・・意図した結果と違うが依然として価値があり、時には意図した結果を上回ることもある。
- タイプ2・・・当初に意図したほどの価値を生み出せなかったが、学習体験が詰める。
3.ビジネスでの失敗
柳井氏は、著書「一勝九敗」の中で、「経営は試行錯誤の連続で、失敗談は限りなくある」「十回新しいことを始めれば九回は失敗する」と言っています。
「失敗からの立ち直り」と題した一節では「問題は、失敗と判断したときに『すぐに撤退』できるかどうかだ」「儲からないと判断したら、撤退もスピードが大事」と言っています。前述の「9.捨てられないガラクタ」を回避し続けたからこそ今日に至り成長があるのです。
⑵ 「伊右衛門」開発での「輝かしい失敗」
サントリーは、プーアール茶をベースとした「熟茶」という商品を発売し、「社内史上最悪の失敗」を経験します。中国でプ―アール茶は「神秘のお茶」と珍重され、これにサントリーの技術が加われば成功間違いなしと販売するのですが、通常「売れない商品」の半分程度しか売れず、1年で生産中止に追い込まれます。
競合相手は緑茶に強く、サントリーはウーロン茶でメガブランドを持っていました。そこで、競合相手が「渋味大」の緑茶で勝負するなら、サントリーは「渋味なし」の中国茶(プ-アール茶)で差別化を図ろうとしたのですが、平面的なポジショニングで差別化を図っても、消費者には意味がなかったのです。中国茶という自社の土俵で、自社の商品と争っているだけなのです。これは、「サントリー=中国茶」という思考パターンから抜け出せなかった「10 .深く刻まれた渓谷」です。
サントリーは、この失敗を糧に、緑茶に真正面から向かって、伊右衛門の開発に着手し、競合他社との戦いに真正面から挑み、大ヒットに導いたのです。
⑶ 挑戦と失敗を奨励した鈴木敏文氏
イスケ教授は、社員が失敗から学習できる「環境」を特に重視し、「安心して失敗できる場を作る」ことを奨励しています。
セブン&アイホールディングの前会長兼CEOの鈴木敏文氏は、社員に対し、徹底して新しいことへの挑戦を求める厳しい経営者でした。新しいことに挑戦する限り、失敗はつきものです。鈴木氏は「どれだけ失敗しても、店がつぶれても構いません。ただ全力で新しいことに挑戦してください」と言っていました。
また、イトーヨーカ堂では、地域の固有ニーズに応えるため、店長が自由な発想で運営する「独立運営店舗」の実証実験を行い、その際、鈴木氏は「売り上げが半分になってもいい。好きにやりなさい」と言い、セブン銀行設立プロジェクトでは「失敗してもいいじゃないか。失敗も勉強のうちだよ」と言っています。
いずれも、担当者たちはプレッシャーから解放され、思い存分、能力を発揮し輝かしい成功へを導いたのです。
失敗を恐れると「10.深く刻まれた渓谷」から抜け出せず、「9.捨てられないガラクタ」を持ち続け、試行錯誤せず「7.電球の発明」に至ることができなくなってしまうのです。
⑷ 稲森和夫氏の失敗観
自分の会社は輝かしい失敗が生まれる組織風土になっているか、イスケ教授率いる「輝かしい失敗研究所」では、次の3つの評価項目を挙げています。
- 実験・・・意思決定と行動において、リスクを取る自由度はどこまであるか
- 学習・・・成功と失敗の両方から学んでいるか
- 進化・・・どのくらい学習経験が生かされ、新しい洞察を踏まえてアプローチが変わったか
中でも、イスケ氏は、失敗により習得した知識を活かし、より高レベルへと達するスパイラル上の成長を重視しています。
「仕事で失敗した時にどうしたらいいか」という質問に対し、前述の鈴木氏は「失敗したことは早く忘れろ。忘れて仕切り直せ」と言い、稲森氏は「失敗しないために漠然と無意注意ではなく、目的を持って意識や神経を対象に集中させる有意注意」と言っています。
仕事の失敗は誰もが平気でいられないから、そう簡単に忘れることはできません。ただ、失敗したことを気にしてとどまっている限り、先へは進めません。だから、早く忘れて、次の挑戦へと一歩踏み出さなければなりません。挑戦していけば、前回の失敗がプラスに活かされてきます。無意注意ではなく、「今度はこれを目指いてやっていこう」と目的をもって意識や神経を集中させる有意注意で臨めるようになるのです。
この記事では「『実験→学習→進化』のプロセスが埋め込まれているかどうか。『愚かな失敗』で終わるか、『輝かしい失敗』が生まれるかどうかは、多分に組織風土による」と言っていますが、その通りでしょう。
失敗を「愚かな失敗」で終わらせず「輝かしい失敗」へと高め「成功のもと」となるような組織風土、組織文化の醸成が重要です。