中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 0→100生み出す力

おはようございます。
昨日の新規感染者は20万975人で、初めて20万人になりました。このまま行くと、先日専門家会議が試算した1日最大40万人という数字も現実味を帯びてきます。数日前に60万人だった自宅療養者も100万人を超えました。政府は行動制限をしないという方針で、社会経済活動を回すことを重視する評論家・コメンテーターも多く見受けられますが、沖縄をはじめ多くの地域で医療が逼迫し医療崩壊が進みつつあります。それでは一般医療にも大きな影響が出て救える命が救えなくなってしまいます。感染状況や医療の逼迫度に応じて、地域(都道府県)ごとに柔軟な対応が必要なように思います。

さて、今日は水野和敏&小泉和三郎著「0→100生み出す力」(フォレスト出版を紹介します。水野和敏氏は、日産自動車で、日産GT-Rを筆頭に、乗用車・スポーツカーの開発責任者として敏腕を振るってきました。日産退社後はカリスマエンジニアとして新商品開発の後援や取材、発信など幅広く活躍されています。小泉和三郎氏は、抗がん剤治療の権威で北里大学名誉教授です。胃がんステージ4と宣告された水野氏を自ら開発した抗がん剤「S1+シスプラチン+ドセタキセル」という抗がん剤の3剤併用療法で救った人物です。

抗がん剤治療で知り合った全く違う分野の2人が、いま日本に必要なイノベーティブな開発とは何かなど、対談形式で語られているのが本書です。

かつて日本ではイノベーションが盛んに行なわれました。しかし、今や欧米や中国・東南アジアなどの新興国にも後れをとっています。なぜ、日本の社会は活力を失い、国家は大幅に衰退してしまったのでしょうか? かつて「ものづくり大国」と呼ばれた日本に復権のカギはあるのでしょうか? 水野氏や小泉氏は「無から有を生み出し日本人の力に再び火をつける」ための方法は必ずあると言います。「日本人だからこそできる」とも言います。

  • イノベーティブなものづくりのためのプロセス
  • ピラミッド型縦割り組織に潰されないための波紋型組織の構築法
  • 画期的な発想を生み出すための感性の磨き方
  • 仲間を増やし、目標やイメージを共有するためのリーダーの言葉
  • AIの利用とAIでは補えない人間ならではの能力
  • イデアの魅力度を検証する方法

こうした観点から、「新しいイノベーティブなものづくり」「生きがいのあるライフスタイルを造り出す方法」などが語られていきます。

内容は多岐にわたっていますので、その中から、リーダー論、組織・チーム論について紹介します。

1.チームは常にファジーな領域で挑むもの(小泉)

  •  組織や会社の特性は過去の成功例への固執や知性、知識化であり、失敗による損失や運営の改革などを恐れるために、皆が言いやすいリスクばかりがクローズアップされる。したがって、イノベーティブな開発には否定的でたいていは潰しにかかる。会社や組織の中で優先され、物事が決定される基準となるのは、みんなが共有できる前例であり、常識であり、数の論理や成功体験である。

 現実の組織や開発現場、イノベーションに対する経営層の姿勢は、小泉氏が言うとおりです。人間の本性である感性、想像力を発揮し、新しいアイデアを生み出そうとすると、決まって圧倒的多数の反対派、常識派が立ちはだかり、同調圧力に屈しなければならなくなるのです。しかし、これでは、「ワーク・シフト」で述べられている輝かしい、明るい未来を切り開くことはできません。

2.チームとリーダーVS組織と管理職(水野)

  •  基本的にチームとは未来などで不確実な軸で過去に例のないことに挑戦し、失敗することを前提に運営する方式。つまり、チームとは常にファジーで未知な領域に挑むことを使命とする。したがって、チームリーダーとはファジーなものを成功に変える役割を与えられる。決して成功だけの、失敗を許さない効率論を追いかけてはいけない。そして必ずしも過去の信頼性に縛られてはいけない。
  •  組織とは、過去の軸(知見)で失敗の防止を図り、効率化と信頼性を追求するために各種ITツールを使い、社内規格を参照し、マニュアルで業務を画一化し、情報をトップダウンで流し、社内に実行させる。より確実性を高めるために「管理職」を配する。組織は、とことん失敗を防止し、そのために過去の実績を組織体系に浸透させて管理する。

 水野氏は、チームと組織という2つの枠組みがあって、チームにいるのがリーダー、組織にいるのが管理職で、そのベクトルは反対方向を向いていると考えています。ここで想定されているチームは、水野氏が携わったプロジェクト、開発チームのことです。

 商品を大量生産し、数を売って稼ぐのが組織であり、組織が決めたことを周知徹底させるのが管理職の仕事です。一方で、水平思考で常に幅広い範囲の情報を集め、未知のファジーの中で常に新しい組み合わせを素早く作り、魅力や役立つ機能を作り出していくのがチームでありそのリーダーなのです。

 両者の思考パターンは正反対なので、守りに徹する管理職をチームのリーダーにしてはいけないのです。水野氏によれば、新商品として高価格のものを開発するプロジェクトは、リーダーと少人数制のチームによって、ベンチャー方式で進めるべきなのです。確かに、チャレンジする姿勢がなければイノベーションを起こすことはできません。多くの企業は「失敗は成功の芽」であることを認識しています。しかし、目先のことを考えれば失敗は許されません。多くの企業では雇われ社長は2年、3年の任期です。管理職も2,3年で他のポストに異動します。長期的な視点、長いスパンで物事を見るということができないのです。どうしても1年単位の売上・利益の追求に終始してしまいます。失敗を繰り返したのちに成功に辿り着くイノベーションには消極的にならざるを得ないのです。

 水野氏によれば、大企業の定例会議では世界レベルのトップブランドは産まれないと言うことです。世界レベルのトップブランドを生み出すのはチームとリーダーであり、組織はベンチマークで優位な消費財を作り出すというわけです。

以前、山口周著「イノベーティブな組織の作り方」を紹介したときにも書きましたが、日本人は個としては創造性がたくましくイノベーティブですが、組織がボトルネックになってイノベーション、イノベーティブな開発を起こせていません。イノベーティブな組織を作るためには、ビジョンが必要です。社員やメンバーの志を一つにまとめ上がるビジョンやミッションが示されていない会社や組織では、社員がバラバラに好き勝手な考えで動くことになります。重要なのは「リーダーがしっかりとした夢や志を持っているか」「チームとしてどんな仕事を成し遂げたいか、その思いをメンバーに伝えることができるか」です。

水野氏の考えではチームと組織は対立構造として描かれていますが、必ずしもそうではないように思います。組織がチームを支えなければイノベーティブな開発などできませんし、イノベーションを起こすことはできません。

イノベーションを起こすためには組織文化の変革は不可欠です。組織文化とは、組織構成員の間で共有されている信念や価値観のことですが、これは理解するだけでは何の役にも立ちません。それが身について具体的に行動に起こせることが重要です。組織というのは静的な存在ではなく動的な存在です。行動に移すこと、実践できてこそ意味があるのです。

組織文化が変わると、風通しの良い職場・組織になり、多様な意見やアイデアが個人の意見やアイデアに留まらず、組織の意見やアイデアになります。そうすることで、イノベーションが起こるのです。

この本では、水野氏が編み出したイノベーティブな開発プロセスを中心に、クルマの世界と小泉氏の衣料の成果の共通点・相違点を語り合いながら、いま日本に必要なイノベーティブな開発とは何か、いかにしてイノベーションを起こせるのかが論じられています。クルマや医療と関係なくても、2人の話はイノベーションの本質を見極める役に立つはずです。