休日の本棚 戦略の本質
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で531人、そのうち東京57人、神奈川33人、埼玉26人、千葉18人、愛知34人、大阪69人、兵庫28人、京都18人、福岡16人、沖縄31人、北海道27人などとなっています。首都圏、関西圏も大幅に減少し、今年で最も少ない水準になっています。しかし、北海道でやや増加傾向が見られます。これまでの感染拡大の傾向を見れば、北海道の増加から始まり全国へ拡大しているように思います。第6波へとつながらないことを祈ります。
今日は、ダイヤモンド・ビジネスレビューに掲載されたマイケル・E・ポーターの「戦略の本質」という論文を紹介します。
ポーターと言えば、ハーバード・ビジネススクール教授で、ファイブフォースや競争優位の戦略で有名です。
ポーターは、日本企業が戦略ポジションを確立したことは、ソニー、キャノン、セガなど一部の企業を除いて、めったにないと言います。ほとんどの企業は、互いを真似て、押し合いへし合いして、あらゆる顧客にあらゆるものを提供する羽目になっていると厳しく指摘しています。
このような業績を悪化させ共倒れを招きかねない闘いから逃れようとするのであれば、日本企業は戦略を学ばなければなりません。そのためには、打破しがたい文化的障壁を乗り越える必要があるのです。
日本はコンセンサスを重視し、企業間では個人の違いを強調するよりも、むしろ調整する傾向が強いと言えます。これは、一面では日本の利点ではありますが、戦略というのは厳しい選択が求められるものです。すべての顧客のニーズに何でもかんでも応じようとすることなど不可能です。ところが、日本企業は顧客から出されたニーズにすべて応えようと全力を尽くそうとします。これではポーター教授が言うように共倒れの危険をはらみます。ポーター教授は、20年前から日本企業に警鐘を鳴らしていますが、今も状況は変わっていません。重要なのは何を「やらないか」を決めることです。
ポーター教授は、「コストリーダーシップ」「差別化」「集中」という「基本戦略」を提示しています。戦略ポジションについてわかりやすく理解するためには、今なお、この「基本戦略」は有用です。ポーター教授が「異なる戦略に内在する矛盾」を回避するには、いずれかの戦略を選択しなければなりません。コストリーダーシップ戦略と差別化戦略とはトレード・オフ関係にあり、この両者を同時に追求することは困難なのです。この2つを同時に追求しようとすれば失敗します。
1.戦略は改善ではない
ポジショニングの考えはかつては戦略の要とされてきましたが、市場や技術において変動の激しい現在のような時代では、机上の理論と一蹴されることもあります。いかなる市場においても、いかなる技術においても、すぐにライバルに模倣され、競争優位も一時的にすぎないというのです。
ポーター教授は、このような考えは間違っていないかもしれないが、かといって正しいわけでもなく、かえって危険だと言っています。ポジショニングという基本戦略を放棄すれば、結局は、多くの日本企業と同じように、他社を真似て、あらゆるものを作り出す羽目になり、共倒れする危険があるというわけです。
こうした考えの問題の本質は、戦略と「業務改善」を区別していないことにあるのです。確かに「業務改善」は重要な課題ですが、業務改善だけでは、得られた成果が持続的な収益力に結実しません。それには戦略が必要なのです。
あらゆる企業において、優れた業績の達成こそが究極の目標であり、そのためには戦略と業務効果の両方が欠かせません。
業務効果というのは、類似の活動を競合他社より優れて実行することです。それに対して、戦略ポジショニングは、競合他社とは「異なる」活動を行う、あるいは類似の活動を「異なる方法で」行うことです。
2.独自の活動なくして真の戦略はつくれない
競合戦略は、他社と異なる存在になることです。あえて異なる活動を選択することで、価値を独自に組み合わせ、これを提供できるのです。
サウスウェスト航空は、中都市と大都市の二次的空港という短距離の二点間を結ぶサービスを低コストで提供し、機内食も出さなければ、座席指定もない、ファーストクラスのサービスもない、ゲートでの自動発券で旅行代理店を介在させない、といった独自の活動システムで、破天荒な戦略ポジションを獲得しています。
イケアは、低価格でデザインの良い家具を求める若い世代をターゲットにして、広大な店舗を使い、販売するすべての家具をまるで部屋に置かれているように展示することで、どれとどれを組み合わせるかをイメージするために店員に頼る必要はなく、横の倉庫から、自分で箱詰めされた製品を選んで運ぶとという独自の方法位を採用しています。イケアの低価格のポジショニングは、顧客のセルフサービスによるところが大きく、一方で他社が提供していないサービス(店内の託児所)を提供し子供を抱えた顧客のニーズに応えています。
3.3種類のポジショニング
- バラエティ・ベース・ポジショニング・・・ある業界の製品やサービスの一部を提供することでポジショニングするもの。様々な活動を通じて、業界内で最も優れた製品やサービスを提供できる場合、経済的に正当化しうる。様々な顧客に広く対応できるが、これらの顧客が抱えているニーズの一部にのみ対応する。
- ニーズ・ベース・ポジショニング・・・ある顧客グループのニーズのほとんど、あるいはすべてに対応するもの。あるセグメントの顧客をターゲティングするのに近い。
- アクセス・ベース・ポジショニング・・・アクセスの方法の違いによって顧客をセグメンテーションすること。アクセスの方法は、顧客の所在地や規模、顧客に最も効果的にアプローチために通常とは異なる活動システムを必要とする「何か」によって決まる。
バラエティー・ベースであろうと、ニーズ・ベースであろうと、アクセス・ベースであろうと、ポジショニングには、それぞれに相応しい活動群を整えることが不可欠です。なぜなら、ポジショニングは、活動の違いの関数だからです。
戦略は、独自性と価値の高いポジショニングを創造することであり、ポジショニングには活動の違いが伴います。企業に求められることは至極明快であり、ポジションを発見し、これを最初に手に入れることです。
戦略ポジショニングの本質は、競合他社とは異なる活動を選択することです。
4.戦略ポジショニングにはトレード・オフが不可欠
独自のポジショニングを選択するだけでは、持続的優位は保証されません。高い価値が得られるポジショニングならば、当然他社が真似をしようとします。模倣の方法には、①リポジショニング(ポジショニングしなおす)②ストラドリング(両天秤にかける)の2つがあります。
戦略ポジショニングは、他のポジショニングとの間にトレード・オフが存在しなければ持続しません。ポジショニングのトレード・オフは、競争にはつきものであり、戦略の本質です。トレード・オフゆえに選択の必要性が生じ、自社が提供するものをあえて制限することになるのです。また、これによって、リポジショニングや両天秤にかけられることにブレーキをかけることができるのです。
5.「適合性」によって競争優位と持続可能性が強化される
どのようなポジショニングを選択するかによって、どのような活動を行うのか、各活動をどのように組み合わせるのか、またどのように関連させるのかが決まります。戦略とは、様々なものを結びつけることに関するものです。
戦略というのは、各活動を一つのシステムにまとめ、その全体を包含したものであり、単なる部分の寄せ集めではありません。競争優位の源は、どのように活動を適合させ、どのように強化させるのか、その方法にあるのです。この「適合性」によって、各活動が最強度でつながった強力なバリューチェーンが生まれ、これが模倣者への障壁となるのです。
6.戦略を再発見する
多くの企業に戦略がないのはなぜでしょうか。何故マネジャーは戦略を選択しないのでしょうか。
戦略への脅威は、技術進歩や他社動向など、社外から生ずると、一般的に考えられています。しかし、戦略を脅かすものは実は社内にあるのです。健全な戦略も、社内における、競争についての間違った見方、組織の機能不全、とりわけ成長への欲求によって腰砕けになっていくのです。
業務効果の追求は、分かりやすく、すぐにやれるところが魅力で、可視化と定量化できる形で業務を改善することが重視されてきました。業務効果が優れた収益性につながるか判然としないにもかかわらず、業務効果を競うレースに参加し、戦略が置き去りにされているのです。
特に、戦略を機能不全に陥らせる最大のものは成長への欲求です。トレード・オフや何らかの制約は、成長を阻害するように見えるのです。
戦略を維持し強化する成長策は、戦略ポジションを掘り下げることに集中し、拡大したり妥協したりしないことです。ポジションを掘り下げるというのは、活動をより特徴的なものにし、適合性を高め、理解ある顧客に向けてより的確に戦略を伝えることです。
しかし、多くの企業は、精査や戦略とのすり合わせを怠ったまま、人気の機能、あるいは製品やサービスに飛びつくという安易な成長策に走ります。また、自分たちでは大した価値を提供できない顧客や市場を新たなターゲットとします。
成長可能性は高いが独自性に欠ける分野に専念するよりも、優位な分野において、様々なニーズを奥底まで掘り下げ、様々な種類の製品やサービスを提供した方が成長スピードも速く、収益性も高いことが多いのです。
7.リーダーシップの役割
明確な戦略を考案する、そのように立案しなおす際に、組織的な問題が障害となることが多く、リーダーシップが鍵を握ります。リーダーの役割が極めて重要になります。
リーダーは、組織を集中させて自社の独自性を守る一方、どのような顧客ニーズや業界の変化に対応すべきかを判断する規律を示さなければなりません。リーダーの仕事の一つが、組織メンバーに戦略について教えることであり、「ノー」ということです。
戦略は「何をすべきか」のみならず、「何をすべきでないか」を示すことがより重要です。制約を設けることはリーダーの役割であり、どの顧客グループに向けて、どの製品を提供し、どのニーズに対応するかを決めるのが、戦略立案の基本です。そして、それ以外の顧客やニーズには対応しない、ある種の特徴又はサービスは不要であると決めることも先着の基本です。それゆえに戦略には、明確な規律とコミュニケーションが要求されるのです。
繰り返しになりますが、業務効果と戦略は別物で明確に区別されなければなりません。
業務効果においてやるべきことは、トレードオフが存在しないところで、もれなく継続的改善を推進することです。一方、戦略においては、独自のポジショニングを定義し、まごうことなきトレードオフを作り出し、適合性を強化する、そのために自社のポジショニングを強化・拡大する方法を絶えず模索する必要があるのです。戦略には規律と継続性が求められます。排除されるべきはよそ見と妥協です。