中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 巨象も踊る

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で221人で17県が新規感染者ゼロとなっています。政府はビジネス目的の入国待機を原則3日に短縮する方針を固めました。グローバルな社会で経済を回していくためには緩和は必要ですが、日本での感染者数は減少しているとはいえ、海外に目を転じると増加している国もあり、安直な緩和は第6波の引き金になりかねません。第4波や第5波は政府の水際対策の不十分さから起きたと言っても言い過ぎではなく、同じように水際対策を間違えるとイギリスで広がっている変異株、デルタ・プラス株が侵入し、それが第6波へとつながる可能性は十分にあります。同じ轍を踏まないように、すべて一律ではなく、相手国の感染状況を見極めつつ国や地域で差を設けるべきではないでしょうか。

さて、今日は、ルイス・V・ガースナー著「巨象も踊る」(日本経済新聞社を紹介します。ガースナーはマッキンゼー出身で、IBM再建のためにCEOとなり、IBMを再建させた1990年を代表する経営者です。

この本は、IBMという巨象に単身乗り込み、復活させたIBM再生物語です。

1990年代の初め、IBMは危機に瀕し、経営陣もその問題点を理解していました。多くの社員も危機的状況にあることは認識していましたが、「IBMだから何とかなるさ」といった甘い考えで、行動を起こせず、古いやり方を変えられないまま無駄に時間を浪費していたのです。

ガーズナーは「現在のIBMに最も必要ないものはビジョンだ。必要なのは実効性のある高い戦略だ」と言い、IBMの再建に取り掛かります。

企業を変革し、企業文化を変えるには実行あるのみ」ということです。

そのために、ガースナーは4つの決断をします。

  1. 決断1.会社を一体として保持し、分割しない・・・当時コンピュータ業界では、すべてを販売するIBMは時代遅れという風潮があったが、「顧客は無数にある製品をまとめる会社がなく困っている。すべてを手掛けるIBMだけが顧客の要望に応えられる」として、分割せず統合サービスを提供する企業として生き残ることを決断した。
  2. 決断2.ムダを徹底的に排除する・・・高コスト体質であったIBMで人員削減を含め大規模な経費削減を実施した。
  3. 決断3.ビジネスのやり方を作り出す・・・社内プロセスはつぎはぎだらけで古く、管理も不十分であった。世界最大の業務変革プロジェクトを断行し、あらゆる業務のやり方をいちから見直した。
  4. 決断4.生産性の低い資産を売却して、資金を確保する・・・不要資産は売却し、いかに名門部署であっても常に利益率の低い事業は売却した。

このようにガースナーが業務変革やムダの削減を迅速に行って、瀕死の状態にあったIBMは息を吹き返しました。

しかし、それで終わりではありません。ここから新たな取り組みが始まります。

決断1の「顧客に様々な製品や技術を統合して提供する」という考えに基づいて、それを実現するために、サービス事業やソフトウェア事業を立ち上げました。

更に、「世界は、今後ネット経由でビジネスをするようになる」と考え、マーケティング部門に「eビジネス」という言葉を創らせます。今や「eビジネス」という言葉は一般用語にまでなっています。

ガースナーは、「難しかったのは企業文化の変革だった」と言います。

「企業文化」というのは、組織の構成員間で共有されたものの考え方、物の見方、感じ方に基づく組織全体の行動原理や思考様式のことです。企業文化に似たものに「企業風土」というのがあります。両者を同じ意味で使うこともありますが、厳密に言えば違います。企業風土は意図的ではなく自然に醸成されたもの、いつのまにか定着してしまった企業の習慣で、意図的にデザインし計画的に介入していく企業文化とは異なります。

企業文化は企業の成長につながるものでなければいけません。成長を阻害するような企業文化は変えなければなりません。

しかし、ガースナーが言うように難しいものです。悪い企業文化は、「まっさらな人」をも飲み込んでですぐに拡大しますし、声を上げるだけでは企業文化は変わりません。

企業文化を変えるために必要なのは行動です。

ガースナーは、社員との対話の機会を重視し、メールや対面の質疑応答などを通じて自分の言葉で語りかけていきました。

多くの社員がいる企業では、社員の考えや行動を一気に変えることは難しいものです。

まずは具体的な取り組みで成果を上げ、徐々に取り組みを浸透させていくのです。そして新しい企業文化に変わる条件を作り、社員に根気強く語りかけていくのです。

企業文化を変えるのは一朝一夕にできることではありません。時間をかけて根気よくやらなければならないのです。

企業文化を変えようと思えば、まずは実行なのです。

ガースナーは「実行こそが、成功に導く戦略の中で決定的な部分だ」と言っています。

企業文化に単一の正解はありません。それぞれの企業が自分たちにとって最も良い企業文化は何かを考えて自らの手で作っていかなければならないものです。しかし「自分たちは良い企業文化を創った」と満足してしまうと、知らないうちに社会から取り残されてしまいます。企業文化は進化し続けなければならないものです。常に行動なのです。

コロナ禍やVUCAの時代で、業績が低迷している企業は多くあります。IBMのような大企業でなくても、企業文化変革の難しさは同じです。しかし、企業文化変革を行わなければ、この時代に生き残ることは難しくなっています。

先日紹介したルメルトの「良い戦略 悪い戦略」の中でも「巨像は踊る」が紹介され、ガースナーの戦略は「良い戦略」として取り上げられています。

まずは実行であるということを教えてくれる良い本です。