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休日の本棚 起業家とは何か

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2万5742人で過去最多の2万5990人に迫りつつあり、今日にも過去最多を更新することになりそうです。東京4561人、神奈川1538人、埼玉1173人、愛知1480人、大阪3692人、兵庫1191人、広島1212人、福岡1098人、沖縄1829人と9都府県で1000人超えです。こうした中、オミクロン株の重症化リスクの低さから、新型コロナを今の感染症法の第2類から季節性インフルエンザと同じ第5類に引き下げようという意見もあるようですが、反対です。第5類となれば、都道府県の対策は調査のみとなり、入院勧告や感染者の隔離は不要、入院施設や宿泊施設の確保は必要なく、行政検査や濃厚接触者の追跡・クラスターつぶしの作業はなくなり、更に医療費の都道府県負担もなくなり行政側からすればいいことでしょう。しかし、これでは感染者数の正確な把握は困難となり、益々感染者を拡大させ、かえって社会機能を麻痺させることにもなりかねません。更に、オミクロン株は重症化リスクが低いとはいえ、感染力は季節性インフルエンザの比ではなく、死亡率にしても季節性インフルエンザの10倍とも言われており、季節性インフルエンザと同列に論ずることは時期尚早です。

さて、今日は、J・A・シュンペーター著「起業家とは何か」(東洋経済新報社を紹介します。シュンペーター氏は言わずと知れた経済学の権威で、企業が行う不断のイノベーションが経済を変動させるという理論を構築しました。

以前「両利きの経営」で書きましたが、「知の探索」と「知の深化」がイノベーションにとって重要であり、シュンペーター氏も「新しい知とは『既存の知』と『既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる」と言っています。

イノベーションは、新しい知や新しいアイデアを生み出すことですが、何もないところから全く新しいものが突然生まれてくるということはありません。新しいものというのは既存の知の組み合わせで生まれてくるものです。

「両利きの経営」で書いた繰り返しになりますが、「知の探索」というのは「自分の現在の認知の範囲外にある知を探索氏、今自分が持っている知と組み合わせること」で、「知の深化」というのは「新しく組み合わされた知を徹底的に深掘りして磨き込み収益化していくこと」です。

 この「知の探索」と「知の深化」の両方があって初めてイノベーションはうまくいくのです。

1.イノベーションとは

 シュンペーター氏は、その著「経済発展の理論」の中で、「イノベーションとは、価値の創造方法を変革して、その領域に革命をもたらすことである」と言っています。このところイノベーションを技術革新と捉える傾向がありますが、これは間違っているのです。イノベーションというのは単なる技術革新にとどまらず、社会に新たな価値をもたらす創造であればすべてイノベーションなのです。

 また、シュンペーター氏は「経済発展の原動力はイノベーションにある」と言います。そして、イノベーションというのは、前述のように「既存の知」と「既存の知」の「新しい組み合わせ」です。

 既にある知を組み合わせることですから、簡単なようにも見えますが、これがなかなか難しいのです。既存の知と既存の知を組み合わせることは簡単ですが、そこから新しいものを生み出すことは容易ではないのです。だからこそ、「既存の知」と「既存の知」の新しい組み合わせで、これまで誰もが思いつかなかったような斬新なものが生まれてくるのです。そしてそのイノベーションによって世の中が変わるのです。

 入山章栄著「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版の中で、入山教授が挙げている例で言えば、紙おむつの製造方法です。優れた紙おむつを製造するには、吸収力を高めるために紙に穴をあけて加工・切断する必要があります。そのために使われる技術の1つはウォータージェットで、当初はステンレスやチタニウムを切断のために航空宇宙産業で使われていた技術です。航空宇宙産業で使われていた技術と紙おむつの加工という全く異なる知と知が組み合わさることで、吸収力の高い紙おむつというイノベーションが生まれたのです。

3.新結合

 人類発展の歴史はイノベーションの歴史と言っても過言ではありません。イノベーションが生まれると、従来のやり方は根本的に変わり、世の中も大きく変わります。新しく生まれたイノベーションがさらなるイノベーションを生み出します。こうして人類は発展していったのです。

 シュンペーター氏は、このイノベーションを生み出す「『既存の知』と『既存の知』の『新しい組み合わせ』」を「新結合」と名付けました。

 シュンペーター氏は、経済発展には2つの段階があるとします。

 第1段階は「経済の循環的変化」です。この段階では、経済に起こる変化は、経済自身に委ねられる変化に限定されると説いています。ここでは人口の増加、製品・食料などの生産増に伴う経済変化です。

 第2段階は「経済の断続的変化」です。この段階での経済発展の重要な要素が「銀行」「企業者」「イノベーション」です。銀行は企業者に信用を与え資金提供し、企業者は銀行から得た資金を元に生産手段を作り、イノベーションを生み出すというわけです。この段階で「新結合」が起きるのです。

 この「新結合」には次の5つのパターンがあります。

  1. 新しい商品・サービスを生み出す・・・プロダクト・イノベーションのこと。新製品・サービスを市場に出すことによって今まで市場を席巻していた製品やプレーヤーを駆逐する。
  2. 新しい生産方法を生み出す・・・プロセス・イノベーションのこと。モノの生産ラインを変革する。
  3. 新しい組織を作る・・・オーガナイゼーション・イノベーションのこと。組織を意識的に変革することで、イノベーションを生み出しやすくする。
  4. 新しい販売市場を作る・・・マーケット・イノベーションのこと。今まで他のプレーヤーが取り組んでこなかった市場に参入する。
  5. 新しい供給源を見つける・・・サプライチェーンイノベーションのこと。サービスの元となる原料において変革をもたらす。

3.起業家とは

 イノベーションを生み出すのが起業家です。起業家は発明家ではありません。発明家はアイデアを生み出しますが、起業家はアイデアを生み出すだけでなく、そのアイデアを利用して新しい事業を行う、もっと平たく言えば「儲ける」ことです。

 例えば、アップルのジョブズは、技術を発明したのではなく、iPod、携帯電話、ネット通信デバイスという3つの「既存の知」を結合しiPhoneをつくりだし、イノベーションを起こし、世の中を変えたのです。ジョブズは、起業家の中の起業家です。

 起業家は、何か新しいことを行ったり、既に行われていることを新しい方法で行う者です。たとえ、それがどんな小さなことでも、それまでにない新しいことを行っているなら、それは起業家なのです。

 シュンペーターは、起業家と資本家を分けた上で、「イノベーションは企業者と資本家で実現される。リスクを負うのは、企業者ではなく資本家である」と言います。ビジネスが成功するかどうかは不確実です。不確実なビジネスにお金を出す資本家の役割は失敗して投資した資金を失うリスクをとることであり、企業者はリクスを考えることなく事業の成功に向けてイノベーションを起こそうと努力することです。

 日本では、資金は主に銀行の融資に頼り、企業者自身が連帯保証することになっています。これでは、企業者がリスクを負うことになり、失敗すればすべてを失い再挑戦の機会も失ってしまいます。企業者が連帯保証にならず再挑戦の機会が確保されるベンチャーキャピタルの整備が更に望まれます。

 「イノベーションの父」と謳われたシュンペーター氏は、100年以上も前に「事業を興しイノベーションを実現して新しいことを行う企業者こそが、経済発展の要である」と主張していますが、今なおこの言葉は生き続けています。むしろ、先行きが見通せない今の時代にこそ、「既存の知」と「既存の知」の「新しい組み合わせ」を真剣に模索してイノベーションを起こさなければ、どのような企業も生き残ることは難しくなっているように思います。