中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 ティール組織

f:id:business-doctor-28:20201122082142j:plain

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で9万5453人で、東京1万9798人、神奈川9032人、埼玉4593人、千葉5518人、群馬1041人、静岡1799人、愛知6201人、大阪1万640人(他に過去未集計分2921人)、兵庫5598人、京都2878人、奈良1017人、氏が1129人、岡山1041人、広島1233人、福岡5120人、北海道3543人などとなっています。来週前半にピークアウトするとの専門家の見解もあるようですが、大阪のように過去の集計漏れがあり、検査キッド不足で検査ができないケースも多く、発表されている新規感染者は正確な感染者数ではありません。検査キッド不足により検査数が抑えられているだけで、感染者が高止まりしているわけではありません。実際の感染者は、この何倍もいるように思います。重症者も1000人を超え、第5波のピークに迫る勢いですし、1日の死者も100人を超えています。そのほとんどが高齢者や基礎疾患を有する者です。オミクロン株が重症化リスクが低いとしてもそれは若年層について言えることで、高齢者や基礎疾患を有する人たちを守るために何をなすべきかという観点から考えるべきです。これまで通り、気を緩めることなく、マスク、手洗い、換気、密を避けるということに尽きますが、特に高齢者や基礎疾患を有する人たちや、そうした人がいる家庭は改めて徹底していきましょう。

さて、今日はフレデリック・ラルー著「ティール組織ーマネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(英治出版を紹介します。著者のラルー氏はマッキンゼーで組織変革プロジェクトに携わった後に独立し、現在は講演活動やコーチングを中心に活動しています。

日本語版タイトルは「ティール組織」ですが、原題は「Reinventing Organizations」(組織を再発明する)となっています。

ティール組織」という言葉を聞いた人も多いと思いますが、実例が少なく、どのような組織を言うのかイメージしにくいと思われます。

1.次世代型組織モデル「ティール組織」とは

 昨年10月、品川駅のコンコースに「今日の仕事は楽しみですか」と大量に表示された広告が炎上したことは記憶にあると思います。働き方改革が叫ばれ、ワークライフバランスを考える人が増えている中でも「仕事は苦痛」「食うために働いている」という人は多いのが現状で、特に日本ほどそう考える労働者は多いのです。好きなことを仕事にしている人は一握りですし、「仕事を楽しむ」という姿勢で働いている人も少ないのです。それではモチベーションも上がりませんし、組織の生産性も向上しません。

 著者のラルー氏は「誰もがやりがいを持ち仕事ができる、血の通った新しい組織はないだろうか」という問題意識を持ち、世界中の組織を調査し、次世代型組織モデルに出会いました。それが、社員が自分の仕事を天職と考え、組織の高貴な目標達成のために働く組織です。

 現代の多くの組織では、社員やメンバーは管理され、硬直化しています。しかし、だからと言って新しい組織を作るというのがムリなわけではありません。人類は、これまでも新しい組織を生み出し飛躍的に成長を遂げてきたのです。ラルー氏はこれを進化にたとえ、5段階で表しています。ここから「ティール組織」(進化型組織)という日本版のタイトルがつけられたのです。

 「ティール組織」というのは、個々の社員に意思決定権があり、社員の意思によって目的の実現を図ることができる組織形態のことです。ティ-ル組織では、階層的な役職によるマネジメントや予算・売上の目標設定、定期的なミーティングの実施など、従来の組織では当たり前のように行なわれていた慣例・文化を撤廃できるのです。ただ、ティール組織の明確なモデルがなく、各組織や個人が独自の工夫によって作り上げた次世代型の組織モデルなのです。

2.組織の5段階

 これまでの組織をいきなり次世代型の「ティール組織」に変革しようとしてもできるものではありません。

 ラルー氏は、組織を進化になぞらえて5段階に区分しています。ティール組織になるためには、5つの進化の過程を経なければならないのです。進化の過程で生み出されたものを内包していくことでティール組織が生まれるのです。

  1. 衝動型(レッド)・・・リーダーの圧倒的な力によって支配する組織形態。1万年前に首長制と原始的な王国が生まれ、力で支配する最初の組織である部族社会が生まれました。目の前の利益を得ることを優先し、短絡的な思考に基づいた判断がなされます。メンバーはリーダーに依存し、力に従属することによって安心感が得ています。例えると「オオカミの群れ(集団)」です。
  2. 順応型(アンバー)・・・上から下へと命令を行なう組織。指揮系統が明確な組織です。数千年前に大規模な農業を始め、大きな組織を作り、国家や文化が生まれました。権力者が登場し秩序が生まれ階級社会になりました。上下関係が絶対で、多くの人を束ねることができます。ここではリーダーに依存するのではなく、ヒエラルキーによって役割分担することで、特定の個人への依存度が低下しています。例えると「軍隊」です。
  3. 達成型(オレンジ)・・・社長と社員というヒエラルキーはありますが、厳格な階級ではありません。数値によるマネジメントが重視され、評価の高い社員は出世することが可能で、社員同士の競争により、又変化を求める意識からもイノベーションが起りやすい環境です。ただ、社員はまるで機械のように動いています。例えると「機械」です。現代の組織はこの段階です。
  4. 多元型(グリーン)・・・社長や社員というヒエラルキーがあるのは達成型と同じですが、人間らしい主体性を発揮したり、個々の多様性が尊重されたりするような組織を目指します。例えると「家族」です。メンバーが多様な意見を出し合い、互いを尊重し合える組織ですが、合意形成に時間がかかるというデメリットがあります。
  5. 進化型(ティール)・・・組織自体が社長や株主のものではなく、ひとつの生命体としてメンバーが関わり、進化する目的を実現するために互いに関係し合っていく組織です。目的の実現のためには独自のルールに基づいた組織運営が行なわれます。多元型では平等主義が徹底されていましたが、ティール型では、すべての意思決定に合意を得ることは必要とされず、個々に意思決定権があります。例えると「生命」です。

3.ティール組織の事例 

【ビュートゾルフ】

 ビュートゾルフは、オランダで地域密着型の在宅ケアを提供する会社です。1チーム看護師10~12人で、担当地域にいる50人の患者を受け持ち、チームがすべてを決めます。リーダーはおらず集団で決定するのです。どの患者を受け入れるのか、スケジュール管理、業務管理、人材募集もすべてチームで決定するのです。看護師1~2人で1人の患者を担当し真剣に向き合うので、患者と看護師の信頼関係も構築され、看護師の欠勤率・離職率も低下し、モチベーションも高まっています。

 リーダー不在でも、誰も責任をとらない無責任状態にならないのは、効率的な意思決定をするスキルとテクニックを研修で学びます。また、リーダーはいませんが「地域コーチ」がいます。地域コーチには意思決定権限はなく、チームの能力を引き出す手伝い徹することが地域コーチの役割です。

【FAVI】

 FAVIは欧州の自動車用変速機製造会社です。元々は従来型のピラミッド型組織をとっていましたが、顧客グループ別に特化した21の自主運営チームに組織を変更しました。1チーム15~35名とし、人事・企画・技術・IT・紅梅などのスタッフ部門を閉鎖し。人員は各チームに異動させました。各チームの最優先は「顧客の要望に応えること」で、セールスは売上目標を持たず、セールス担当のモチベーションは自分のチームに仕事を受注することです。FAVIもすべてチーム内で議論して決定します。給与は業界平均を上回り利益率も高く、離職率もゼロとなっています。

【オズビジョン】

 オズビジョンは。ポイントサイト「ハピタス」を運営する会社です。オズビジョンの理念は「人の幸せに貢献し、自己実現する集団である」です。理念ずつ減のために全人格をさらけ出して、社員が立ち振る舞える組織作りが行なわれています。

 「Thanks day」と「Good or News」という制度があります。「Thanks day」は希望者が年に1日誰かに感謝するための休暇を取ることができるもので、現金2万円の支給もあり、福利厚生として位置づけられます。「Thanks day」の取得者には社内ブログで誰にどんな感謝をしたのか共有することが義務づけられています。「Good or News」は、仕事では関わりのない人と会話をする場を設けるもので、毎朝5,6人のグループで「Good=メンバーの長所」「News=24時間以内に起ったニュース」のいずれかを順番に話す制度です。これらの制度はマンネリ化や強制感・義務感などの弊害が出て現在では廃止されています。しかし、これらの施策を通じて、理念の浸透が行き渡り、企業風土が醸成されています。

4.ティール組織に到達するまでの3つのブレークスルー

 ティー津組織が従来の組織と違うのは、進化する目的(組織の存在目的)、セルフマネジメント(自主経営)、全体性(ホールネス)の3つがあるということで、従来の組織がティール組織に至るにはこの3つのブレークスルー(突破口)を打破しなければなりません。

  1. 進化する目的(組織の存在目的)・・・従来の組織では、組織の存在目的や将来のビジョンは固定化された者でしたが、ティール組織では、組織として成し遂げたいことなど、組織の存在目的は日々進化します。組織が進化していく目的を常に感じ取って把握し、活動内容に反映することが求められます。
  2. セルフマネジメント(自主経営)・・・ティール組織では、全メンバーが意思決定に関わる責任や権限を持っているため、他社からの指示を仰ぐことなく、個々のメンバーが目的意識を持って行動します。経営者と同じような視点で業務の遂行方法や内容を評価できることが求められます。
  3. ホールネス(全体性)・・・従来の組織では、メンバーは本来持っている能力や個性を欠くし、期待されている役割を演じることで評価されてきましたが、ティール組織では、組織内の心理的安定性を確保し「ありのままの自分」でいられる環境を構築して、能力や個性を最大限引き出すことができるようになっています。前述のオズビジョンはホールネスを達成した企業として挙げられています。

ティール組織はようやく生まれ始めているというところです。それにはITの進化や普及が大きく影響を与えています。しかし、ティール組織が次世代型の組織として定着するのかは予断を許さないように思います。しかし、言えることは、従来の組織では硬直化し行き詰まっていることは事実です。組織改革が求められていることは間違いありません。その中で、ティール組織というのも新しい組織形態の一つです。

自社の状況に合わせて、どのように組織変革していくのか、どのような組織形態をとるべきかを模索していく中で、ティール組織も参考にすればいいのではないでしょうか。