中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 イノベーションの競争戦

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で4万9768人で下げ止まり、各地で教育・福祉施設などでのクラスター発生が増えています。ゴールデンウィークを控え、政府のコロナ対策が見えてきません。管前首相は「ブレーキとアクセルを同時に踏んでいる」と自身のコロナ対策を表して不評を買いましたが、岸田首相は「アクセルもブレーキもどちらも踏んでいない」と野党から批判されています。確かに岸政権のコロナ対策の具体案が全く分かりません。経済と感染対策の両立が必要ですが、そのために何を行なうべきか、何をするのか、全く見えてこないのです。GOTOトラベルやGOTOイーツ、ワクワクイベント割といった対策で経済を回そうとしていますが、それと平行して感染対策をどうとるのかが示されているとは言えません。管前首相のようにアクセルとブレーキを同時に踏めばクルマは前へは進みませんが、どちらも踏まなくてもクルマは前に進みません。アクセルを踏んで、どういう状況になればブレーキを踏むのか、ブレーキを踏んだ後にどのような状況になれば再びアクセルを踏むのか、といった基準が明確にされるべきなのです。

さて、今日は、内田和成編著「イノベーションの競争戦略ー優れたイノベーターは0→1か?横取りか?」(東洋経済新報社を紹介します。

編著者の内田氏は、BCG(ボストン・コンサルティング、グループ)日本代表を務め、現在早稲田大学ビジネススクール教授です。

以前にも書きましたが、イノベーションは新たなアイデアを思いつき、それを商品やサービスにすることではありません。新しいアイデアを生み出すということはある意味難しいものです。新しいアイデアばかりに気をとられていたのではイノベーションなど起こせません。既存知と既存知を組み合わせる、あるいは既存知に新しいアイデアを組み込むことでイノベーションは生まれるのです。

この本でも、「世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスを生み出すことは、企業におけるイノベーションの必要条件ではない」と言っています。「新しい製品やサービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させること」こそが「イノベーションの本質」なのです。

その意味では、イノベーションは0→1(ゼロから1を生み出す)ことではなく、横取りでもいいのです。

内田氏らは、「新しい製品やサービスを消費者や企業の活動や行動の中に浸透させること」をイノベーションと呼び、消費者や企業の「行動変容」がイノベーションのカギになると言います。

イノベーションとは顧客の行動変容に至るかの競争なので、「イノベーションの競争戦略」なのです。顧客の価値観や行動を変え、次世代の社会の常識を作ることで、自らがゲームチャレンジャーとして新しい市場やビジネスモデルを作ることができ、競合他社に対する圧倒的な優位性を築くことができるのです。

更に重要なことは、競争戦略という視点を持つことで、イノベーションに対する企業の取り組みも変わるということです。技術革新がイノベーションではなく、顧客の行動を変容させることがイノベーションのゴールということになればそのプロセスは大きく変わります。これまでのようにイノベーションを技術革新と捉えていたのでは、それは開発部門の仕事です。しかし、イノベーションを顧客の行動変容のゴールと捉えれば、営業を含めた全社的な取組みとなるのです。

この本は、顧客の行動変容を引き起こし、市場における優位性を築くイノベーションの競争戦略のメカニズムを明らかにしています。

何が正解か分からず混迷する現代において、いかにイノベーションを引き起こすか、新しい視点を得ることができる本です。

ここからは、この本から離れます。

この本が掲げる「イノベーション」と「競争戦略」の融合は必ずしも目新しい考え方ではありません。内田氏と同じく早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏も「近未来に戦略とイノベーションは融合し、理論も重層化する」と言っています。

確かに、これまでは「イノベーション」と「戦略」は全くの別物として扱われてきました。しかし、これからの世界でイノベーションを抜きに企業やビジネスを語ることはできません。混迷する時代だからこそ、企業は新しいことに目を向け前に進んでいかなければならないのです。新しいことにチャレンジし続けて切り開いて行かなければ、生き残ることが難しい時代になっています。イノベーションを「企業が新しいことをして前に進むこと」と広義に捉えるなら、これからのビジネスはイノベーションだと言ってもいいのです。その意味ではイノベーションは戦略そのものです。イノベーションと戦略の融合が必要になるのです。

これからの時代、「安定した持続的な競争優位」は難しく、「連続する変化に対応した競争優位」です。激しい変化に対応するために、企業は競合他社に先んじて新しい手を打ち、俊敏に、かつ大胆に変化させる必要があります。イノベーションは戦略の一部ではなくイノベーションが戦略そのものであり、戦略がイノベーションなのです。

不確実性が高く、変化が激しい時代においては、利益などの過去の実績ベース以上に「どのような将来・未来を世界に対して生み出せるか」ということが圧倒的に重要になってきています。求められるのは「通常の人が予見できないような未来像を提示し、その実現に向けて行動し、投資家、顧客、他のステークホルダーに『未来』を期待させる企業・経営者」なのです。

ここで重要なのは顧客視点です。顧客のニーズを捉えることなく、新しい製品やサービスを生み出しても、それはイノベーションとは言えません。顧客ニーズを的確に捉えそのニーズを満たすために、既存知と既存知を組み合わせ、あるいは既存知に新しいアイデアを組み合わせてイノベーションを起こすのです。顧客ニーズとかけ離れた新しい製品やサービスを生み出しても意味はないのです。

日本企業は、顧客から出されたニーズにすべて応えようと全力を尽くします。すべての顧客のニーズを満たすことなど不可能です。すべての顧客ニーズを満たそうとすれば中途半端なものにしか生まれません。「何をやって、何をやらないか」という選択が重要になります。

イノベーションが戦略である以上「選択と集中」が必要不可欠です。