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休日の本棚 HARD THINGS

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1万6593人、東京では1週間平均が前週の23%増となっており、明らかに増加傾向に入っています。大阪でも4日連続で前週同曜日を上回っており、都市部を中心に増加に転じています。感染者数に占める20代、30代の割合が4割を超えており、若い世代を中心に感染が拡大しつつあることが見てとれます。また、世界的にインフルエンザが大流行しており、日本でも夏だというのにインフルエンザでの学級閉鎖が起きています。ここ数年コロナによりインフルエンザの流行はなく免疫ができていないので、今後大きな流行が起こる可能性はあります。一人ひとり、コロナでの感染防止策(マスク、手洗い、うがいなど)を徹底する必要があります。マスクは、熱中症予防の観点から臨機応変につけ外しをしましょう。政府は、コロナとインフルエンザの同時流行に備えて医療体制を整えておく必要があります。

さて、今日は、ベン・ホロウィッツ著「HARD THINGS 答えがない難問にきみはどう立ち向かうか」(日経BP社)を紹介します。この本の帯には「絶体絶命の危機を切り抜けたシリコンバレー最強の投資家からのアドバイス」とあり、永守重信が「成功者は気概と執念で修羅場を乗り切っている。国や業種を超え、仕事と人生に重要なことを教える貴重な本」と推薦しています。

この本は、著者ホロウィッツ氏の自伝的な本で、一般的なビジネス書のように系統立てて書かれているというよりも、著者の人生での苦難・困難に焦点をあてて書かれています。「HARD THINGS ハードシングス」というのは、「困難な局面」という意味で、本書の第3章まではホロウィッツ氏が経験した困難な局面がストーリー仕立てで書かれており、後半の4章からは、経験した苦難から得られた教訓について書かれています。

マイクロソフトインターネットエクスプローラーよりも先にウェブブラウザでマーケットシェアをとっていたのはNetscape Navigatorです。そのネットスケープでプロダクトマネジャーを行なっていたのがホロウィッツ氏です。ホロウィッツ氏は、ネットスケープがAOLに買収されてから1年後にラウドクラウドを設立、コア事業を売却してオプスウェアとして新たに活躍し、最終的に売却。その後はシリコンバレーを拠点にベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウッツ」の共同創業者兼ゼネラルパートナーとして活躍しています。

ホロウィッツ氏は、bhorowitz.com(ブログ)で、自身が得た教訓について発信していましたが、その教訓を得た背景について教えて欲しいというブログ読者の要望に応える形で本書が生まれました。

1.ホロウィツ氏の苦難

 この本の前半はホロウィッツ氏の自伝的内容なので、詳細は本書に委ねますが、教訓を得る背景として必要なポイントを箇条書き的にまとめます。

  • ネットスケープを華々しく上場しますが、マイクロソフトの登場により株価は大きく下落、窮地に陥ります。
  • ドットコムバブルが崩壊し、資金繰りが困難になります。
  • 妻が呼吸停止で病院に搬送されます。
  • ライバル会社が倒産し、最大顧客も倒産してしまいます。
  • ナスダックから上場廃止の可能性があると通告を受けます。
  • 3度目のリストラを敢行します。
  • 事業売却先で売上の90%を占める取引先から契約解除と返金要求されます。
  • 最終的に1株14.25ドル二氏、16.5億ドルで会社を売却

2.ホロウィツ氏が得た教訓

 ここで語られているのは汎用的な教訓・対処法ではなく、ホロウィッツ氏自身がこの難局を乗り越えたことで得られた経験です。

 Ⅰ:ありのままを従業員に伝える

  • 困難に取り組むズのは多い方がいい
  • 悪いことの方が従業員は知っている

 Ⅱ:解雇にも正しい方法がある

  • 先送りしない
  • 理由を明確にする
  • 全社員に説明する

 Ⅲ:会社を売却すべきかどうかの問い

  • 潜在市場は1桁大きくなるか
  • ナンバー1になれるか
  • 上記の問いに「イエス」と答えられるのであれば売るべきではない

 Ⅳ:CEOはやるべきことに集中する

 Ⅴ:平時のCEOと戦時のCEOとは違う

 Ⅵ:怖じ気づかず投げ出さない

 この本の第5章は「人、製品、利益を大切にするーこの順番で」となっています。ホロウィッツ氏が最も「人」つまり従業員を大切にしていたことがうかがえます。

 「ありのままに従業員に伝える」というのは、従業員はどこからか情報を得てそれが勝手に伝播していくもので、特に悪い情報は早く伝わります。しかもその中には間違った情報も含んで伝わります。それならば、はじめからありのままに真実を伝えた方がいいのです。従業員は疑心暗鬼に陥ることもなく、ありのままを伝えたCEO(経営者・リーダー)を信頼してくれます。

 人を解雇するにも正しい方法があるのです。情に流されるのが人間ですが、情に流されてはいけません。そのためには未来を見据えることが大切です。下手に長続きさせず短期間に終わらせることです。従業員に実情をありのままに伝え、解雇が必要な理由を明確に説明することです。全社員に「誰が解雇され、誰が残るのか」を話せるようになる必要があります。それができるためには全社員との間に信頼関係があること、解雇されるものが納得できることです。

 CEOは自分のやるべきことに集中しなければいけません。平時と戦時ではやるべきことも異なってきます。しかし、平時でも戦時で最も重要なことは「人」従業員です。第1に従業員のことを思って手を打つことです。

3.この本の要点

  1.  「ハード・シングス」に決まった対処法はない・・・経営の自己啓発書は対処法を教えようとしますが、人・企業それぞれ、決まった対処法などない。共通したパターンはあるので、ホロウィッツが得た教訓をもとに自分で考えて欲しい。
  2. 良い手がないときこそ集中、最善の手を打つ・・・成功するための秘訣はないが、良い手がないときには目の前のやるべき異に集中し最善の手を打つ能力があれば困難を打開できる。自分一人で背負わず分けられる重荷は社員の分け合う、もうダメだと思わず明日まで生き延びることができれば、答えが見つかる可能性がある。困難な状況を自分事と捉え、次の一手を考える。そのためにはリストラも必要である。第1に考えることは「人」、従業員のこと。リストラも従業員のため、しっかりと説明しお互いに納得すること。命がけで戦うこと。
  3. 「人」「製品」「利益」の順番で大事にする・・・「人」を大切にするのは「会社を働きやすい場所にする」ためであり、そうでなければ「製品」と「利益」は意味を持たない。教育プログラムの実施も重要であり、採用や昇進にも注意を払う。社員のパフォーマンスを評価しフィードバックを与える。これはCEO(リーダー)にとって必須の仕事である。
  4. 決断する勇気は努力で発達する・・・リーダーシップには「ビジョンを生き生きと描写できる能力」「正しい野心」「ビジョンを実現できる能力」の3つが重要である。決断には勇気が必要で、困難だが正しい決断は勇気となり、逆に多数決などの安易で間違った判断は臆病にさせてしまう。

ホロウィッツ氏は、最後に「苦闘を愛せ」「自分の独特の性格を愛せ。生い立ちを愛せ。直感を愛せ。成功のカギはそこにしかない」と叱咤激励しています。苦難を乗り越えたものだけが成功を手にすることができるのです。