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「ジョブ型雇用」への道は「修羅の道」

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で868人そのうち東京250人、大阪94人、埼玉69人、神奈川66人、愛知39人、福岡64人、沖縄36人となっています。東京を始め感染者が減少していることから当然のことながら陽性率も下がってきています。こうした数字だけを見ると、感染拡大は下火となり落ち着いてきているように見えますが、小池都知事が言ったように、お盆休み明けの数字が出てくるのは来週からです。ここで増加せず減少が続くならば、ある程度抑え込まれて来ているとみてよいでしょう。しかし、まだまだ全国的には1000人を切ったところの数字で油断はできません。ちょっと気が緩めば猛威を振るい出します。気を抜くことなく、蜜を避け新しい生活様式を維持していきましょう。

さて、今日は、ダイヤモンド・オンラインの「コロナ禍に乗じた『ジョブ型雇用』玲さんを待ち受ける、修羅の道」という記事を取り上げます。8月20日に「『メンバーシップ雇用』から『ジョブ型雇用』へ」というタイトルのプログを書きました。

コロナ禍で「日本型雇用」の見直しの機運が高まってきています。この夏、日立製作所富士通KDDIといった企業が「ジョブ型雇用」の導入を表明しました。元々はコロナ感染以前から働き方改革が叫ばれ、日本型雇用の見直しがなされていました。しかし、コロナ以前ではこうした動きは遅々として進まず、コロナの感染拡大に伴う自粛要請から、急遽テレワークが導入され「ジョブ型雇用」への動きが加速されました。

ここで、「ジョブ型雇用」と従前の日本型雇用である「メンバーシップ雇用」の違いを見ておきます。従前の「メンバーシップ雇用」は、会社に雇用された従業員は、「君は営業、あなたは総務、君は開発」というように就職した後で配属が決まり、その後もキャリア形成の中で社内の別の部署に異動し、違う職種を経験しながらジェネラリストを育成していくという仕組みです。これに対して「ジョブ型雇用」は、最初から、営業、総務、開発、企画といった職種(ジョブ)ごとに雇用を行い、その職種でのスペシャリストを育成するという仕組みです。

「ジョブ型雇用」の特徴は、自分が何の専門家になるのかは入社当初から明確なので、何を学んで何を磨いていけばいいかがはっきりとしていることです。ジョブディスクリプション(職務記述書)という書類に基づいて雇用する形態なので、その書類を見れば、自分が行うべき仕事内容、目標、目的、責任、権限、知識、スキル、経験などが一目瞭然で、自分が何を為すべきか、自分が仕事で貢献できているかが分かります。

「メンバーシップ型雇用」の場合、麻衣閣に仕事内容が規定されていないので色々な雑用を頼まれ断ることは困難です。しかし「ジョブ型雇用」でゃ為すべきことはジョブディスクリプションに書かれているので、そこに書かれていないことを頼まれれば断ることが出来ます。

この記事は、こうした「ジョブ型雇用」の利点は認めつつも、今なぜこのタイミングでジョブ型雇用へ移行するのかについて、「光」だけでなく「影」の事情があると思えて仕方ないと言っています。経団連が打ち出しているのは日本型雇用の見直しに過ぎないのに、その文脈で「ジョブ型雇用」を取り上げると「使えない中高年社員のリストラにつながるのではないか」という懸念が生ずるというわけです。

例えば、今回の新型コロナの影響で、これまであった仕事がなくなるというケースが出てきます。「○○部門から撤退する」「○○部門は外部に委託する」「○○部門は規模を吸苦笑する」といったケースです。こうしたケースで、従来の「メンバーシップ雇用」では余った従業員を他の職種に異動することが出来ました。しかし、「ジョブ型雇用」では職種を限定して雇用されているので職種(ジョブ)がなくなれば仕事がなくなり解雇ということになりかねません。法律的にいうと、解雇が認められるためには解雇事由・解雇の必要性・相当性などの要件を満たすことが必要ですが、ジョブ型が定着した企業では、ジョブがなくなった以上解雇は適法という司法の判断がなされそうです。

また、仮に他の職種(ジョブ)に異動が認められたとしても「そのジョブのスキルは持っていない」「自分にもできるジョブは給料レベルが格段に下がってしまう」ということになりかねません。こうなれば結局は退職せざるを得なくなります。こうした手法は今から何十年も前からリストラの手法として利用されていました。営業のノルマがきつくやめさせるために営業へ移動させたり、位置からソフトウェア技術を学ぶことを断念させるためにソフトウェア開発へ移動させたりといったケースです。

先ほど述べたように「ジョブ型雇用」では「ジョブディスクリプション」が重要な意味を持ちます。「ジョブディスクリプション」で求められているジョブが達成できていないと評価されるのを恐れ、従業員が実質的に青天井のサービス残業を抱え込むという事態にもなりかねません。こうなれば本来の働き方改革から逆行します。

こうした状況から、この記事は、大企業のジョブ型雇用への移行には「影の狙い」が見えると言います。

ジョブ型雇用に移行するとジョブごとに給料が異なるということです。これは「ジョブ型になると他の企業への転職がしやすくなる」というメリットの裏返しです。優秀な人材を確保しようとすれば、タスアへ転職されないように少なくとも市場の給与に合わせる必要が出てきます。一方で、ジョブ型に移行しても同一労働同一賃金も実現しなければなりません。あまりにもジョブ型雇用を礼賛していると、日本型雇用のさまざまなひずみが表面に出てきて、労働者にとっても企業にとっても、ジョブ型雇用への移行の道は「修羅の道」になりかねないというのです。

先日も書きましたが、大前研一氏が言っていたように「中途半端なジョブ型への移行はおざなりの成果主義を導入した時と同じ轍を踏み散々な結果に終わるだろう」ということです。従前の日本型雇用である「メンバーシップ型雇用」にも多くの利点はあります。欧米型の「ジョブ型雇用」が絶対的に良いというわけではありません。欧米型の「ジョブ型雇用」をそのまま日本に持ち込んでもひずみは生まれます。日本の社会や企業文化に適した「ジョブ型雇用」とはどのようなものか、「メンバーシップ型雇用」の利点をどのように残すのか時間をかけて考えながら各企業に合った雇用方式を採用すべきと思います。コロナ禍での働き方改革といって急遽飛びつくのではなく、じっくりと時間をかけて取り組む問題です。