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顧客起点は経営の原理原則

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で23万8735人で、12道県で過去最多を更新しています。重症者も約4ヶ月ぶりに500人を超え161人が亡くなっています。感染者数が増えれば、重症者・死者ともに増えるのは当然の道理で、重症者・死者を減らすためには感染者を押さえ込むしかありません。多くの個人はいい意味で愚直に感染対策に取り組んでいますが、それにも限界があります。これ以上国民の自覚・自助に頼ることはできません。政府や自治体が、明確な行動指針や感染防止対策を提示する時期に来ているように思います。

さて、今日は、日経ビジネスの「頭では大切だと分かりながら『顧客起点』になれないのはなぜか」という記事を取り上げます。

事業がBtoCかBtoBであるかに関わらず、すべての企業は顧客に向かって事業を展開し、提供する商品やサービスに価値を見いだしてもらうことで成り立っています。このことを思えば、顧客を起点に指定し決定していく必要があることに異論はないはずです。

しかし、多くの経営者は成長の過程で内向きになり、外にいる顧客を見失ってしまいます。そして、そのことに気づかずにいるのです。

顧客第一主義」は、言い古された言葉ですが、現実にそれを実践できている企業がどれくらいあるでしょうか。好況期には、顧客を起点に考えなくてもモノは売れていました。顧客第一と口には出しながら、実際に顧客第一主義を徹底し実践してい無くても利益は上がっていました。それは昔の話です。

時代は大きく変り、いまは混迷・変化の時代です。更にコロナ禍がそれを加速しています。「コロナが終息すれば業績が戻る」ということもありません。テレワークやリモートワーク、デジタル化、働き方改革など、そうした社会環境の変化の中で、「どうすれば儲かるのか」「どこに新たな需要があるのか」を真剣に考え、行動に移した企業のみが勝機を得るのです。頭を使わず過去に安住している企業は淘汰されます。

コロナ禍でも、常連客が根付いている企業や店舗では客の減少はそれほど深刻ではなく、通りがかりや飛び込み客を中心にビジネスをしているところは客が大幅に減少し痛手をダイレクトに被っているように思います。

これまで、口先だけで終わっていた「顧客第一主義」を真剣に考え、「顧客を育てる」という中長期的なビジネスモデルの構築、本当の「顧客第一主義」に立ち返ることが大切です。

この記事では、なぜ顧客貴店の経営ができないのか、また顧客視点の経営を実践しているJ企業の共通点は何か、について一橋大学ビジネススクール楠木建教授とコンサルタントでM-Forceの共同創業者である西口一希氏が対談した内容です。その対談の要点を紹介します。

1.「顧客起点」は、経営の原理原則

 顧客起点、すなわち顧客からすべてを考えていくということは、ビジネスや経営にとって最も大切な原理原則である事に間違いはありません。先ほども書きましたが、「顧客第一」「顧客の視点を取り入れて」と口では言うものの、実際にはそうなっていないことの方が多いのです。

 楠木教授は、顧客視点になっていない考えや活動は、企業の視点、つなり供給側の視点に立っていると言っています。企業が経営において選択を迫られたとき、企業側に失うものがなければ、顧客を最優先することを選ぶはずです。ところが多くの経営にかかる選択において、顧客の視点に立って実行しようとすると、企業が失うものがたくさん出てきます。そこで、供給側の視点で判断するのです。これは供給側にとって強い合理性があるわけです。

 顧客と企業、双方の合理性が一致しないときに企業側は顧客視点を選べないのです。

2.顧客と企業の利益は相反する

 顧客の視点と企業側の視点、つもり顧客の合理性と経営の合理性が大きくずれてしまったり、全く相反したりすることはよくあります。むしろ、顧客と企業の利益は相反するのが当たり前とも言えるのです。そのとき、「企業がどちらの合理性を選ぶのか」にその企業の経営の地力が現れるのです。そのとき大抵の企業は「企業側の合理性」つまり自社の合理性の方を優先してしまうのです。

 かつてのような好況期では、それでも物は売れ利益が上がっていましたが、今の時代には顧客視点を無視すれば、顧客からそっぽを向かれものが売れなくなるり利益を上げることはできません。

 楠木教授は、「放っておいても自然に起きることや、皆が大切と思うことを実行するだけなら、経営という仕事はいらない」と言います。放っておくと顧客にとってあるべき状態からどんどん離れてしまう項目を見極め、それを守り達成できるように全体を率いていくのが経営者の仕事であり、力量が問われる部分なのです。

 ここで、ある卸売業者の事例が紹介されています。その企業は、他の卸売業者と違って「在庫回転率」を一切追求しないのです。その理由は「在庫回転率は100%企業の都合だから」「お客様が受け取る価値と何の関係もない指標。そんなものを追求してどうするのか」というのです。この企業では、「在庫回転率」の代わりに「在庫出荷率」を算出し指標としています。「在庫出荷率」は「受けた注文のうち現状の在庫から即納できるものの割合」で、これが高井と言うことはものすごい在庫を抱えていると言うことで、企業の合理性には反します。しかし、顧客の要望は①すぐ持ってこい ②今持ってこい ③いいから持ってこい の3つしかなく、在庫出荷率が高いと言うことは顧客の合理性には合致するのです。

 これまで業界が後生大事に抱えてきた「在庫をいかに効率よく回転させるか」という合理性を真正面から否定し、在庫出荷率を追求するのは、顧客起点の経営の一例です。

3.プロダクトの性能は顧客が決めている

  個々では、三洋電機の洗濯機の話が出てきます。洗濯機には、大型の羽を回転させて水流を起こす「攪拌式」と、洗濯機自体を高速回転させる「渦巻き式」の2つの方法があります。三洋電機の井植社長は、世界中の洗濯機を集めて比較検討し、圧倒的に渦巻き式が優れているという結論に達します。渦巻き式は攪拌式よりも小さくて済み、洗う時間も短く汚れは落ちやすく、コストも抑えられ、故障もしにくいのです。いいことづくめで、日本国内はもとより、ヨーロッパでも渦巻き式の洗濯機が売れ始めます。

 ところが、アメリカでは攪拌式がほとんどで、渦巻き式が売れないのです。井植氏は、デメリットばかりの攪拌式が主流になった理由を考えた末、「アメリカでは、日本やヨーロッパとは『洗濯』の意味が違う」と突き止めます。アメリカでは、家が広いから洗濯機が大きくても問題はありませんし、「汚れたから洗う」のではなく「1回着たからとりあえず洗う」ので服もそれほど汚れておらず、洗浄力が低くても問題がないのです。つまり、洗濯という行為に求められるものが違うのです。供給側の視点で言えば明らかに渦巻き式の方が合理的ですが、アメリカの顧客にとっては逆だったのです。

 このことを一言で言えば、「性能は顧客が決める」ということです。企業としての選択は明らかにBであっても、顧客から見えていること、顧客が求めていることをしっかりと捉えて、それに基づいてAを選択できるか、ここに置いても経営者の力量が問われるのです。

「これまで通りの仕事を忠実にこなしていけば会社は潰れずなんとかなる」という時代は去りました。こうした消極的な姿勢では成長できるどころか衰退し、いずれは淘汰されます。いまこそ「積極的に新規参入し工夫を怠る企業や何もしない企業を淘汰していく絶好の機会」なのです。

「ピンチをチャンスに」と安易に言うつもりはありませんが、「顧客第一主義」という基本に立ち返り、常に「なにをすればよいのか」「どうすれば顧客ニーズに応えることができるのか」を考えて商品やサービスに活かすことができれば、コロナ禍の苦境を生き残り、混迷の時代に勝ち続けることができるように思います。