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休日の本棚 知的創造企業

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

さて、今日は、野中郁次郎&竹内弘高著「知的創造企業」(東洋経済新報社を紹介します。野中氏は一橋大学名誉教授で、竹内氏は一橋大学教授を経て現在はハーバード・ビジネススクール教授です。

一般に知識には言葉に出来ない「暗黙知」と、言葉に出来る「形式知」があります。

スポーツは暗黙知の塊です。野球にしろゴルフにしろ「脇を締めて、腰を捻って」などと形式知だけを伝えても上達しません。指導者のバットやクラブの振りをみて、それをまねて、何度も繰り返し、指導者に手・腰を支えてもらいながらフォームを修正し、これらを何度も繰り返すことでフォームが固まっていくのです。何度も何度も繰り返し体に覚え込ませなければ身につかない暗黙知です。音楽の世界も同じです。ピアニストは何度も何度も同じ曲を引いて反復練習します。

熟練の職人が若い職人に自分の技術を伝えるときにも似たようなことが行われます。また、接客業で若い社員が先輩社員の動きを見ながら、見よう見まねで接客を繰り返すのも同じです。

知識というのは氷山のような構造であり、氷山では水面に見える部分の下に膨大な氷の塊があるように、言葉に出来る形式知の下に言葉に出来ない膨大な暗黙知が存在するのです。

「知識社会」と言われている現代では、企業に生まれる「知識」が企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。しかし、知識が企業の中でどのように作られるのかがよく分かっていませんでした。

そうした中、日本企業の事例研究を通して、「組織的な知識創造」を理論化し、世界に高く評価されたのが本書です。かつての日本企業の成功は組織的に知識を創造する仕組みを持っていたからなのです。

野中氏らが提唱する「知識創造理論」は、意識的に知識を創り出す方法論のことです。組織の中では、個人間で形式知暗黙知を交換し合って、知識が作られていくきます。

野中氏が知識創造理論を提唱した背景には「なぜ日本企業がこの20年間で急速に力を失っていったのか」という問題意識がありました。そして、日本企業における卓越性やイノベーションのあり方を問い直し、日本企業の閉塞感を打破できるような21世紀に求められる経営の知のあり方を実践の中で理論化しようとしたのです。

知的創造理論の特徴は、「人間中心の精神・価値観」に基づいた経営のあり方を前提に、実践という立場から理論を再構築しようとしています。企業内部の有形資源のみを資源とし、一企業の利益を最大化するために競争優位や利益追求に主眼を置いた従来の市場原理主義的な経営理論とは一線を画し、知識を資源として捉え重視する理論です。

前述したように、知識には「暗黙知」と「形式知」があります。「暗黙知」は言語や文章で表現しにくい主観的・身体的な経験知で、個人に体化される認知スキルや身体スキルを含みます。これに対して、「形式知」は特定の文脈に依存しない一般的な言葉や論理で表現された概念知です。イノベーションのような「新たの知識の創造」においては、「まだ言葉にならない個人のアイデア」のような「暗黙知」をうまく育てて、誰でもが共有できる価値のある知識、「形式知」に変換するということが必要になります。簡単に言えば、これが知識創造です。

「知識創造の現場で起こっていること」はもっと複雑で説明しにくいのですが、繰り返しイノベーションを起こすには、その仕組みを理解することが重要なのです。知識創造理論では、暗黙知形式知の概念をうまく活用し、知識創造の仕組みを体系化しています。SECI(セキモデル)と言われているものです。

その流れは、次のようになります。

  1. 共同化(Socialization)・・・体験を共有し、暗黙知を伝える。
  2. 表出化(Externalization)・・・暗黙知を言葉に落とし込む。
  3. 連結化(Combination)・・・他の形式知を結合し、知識体系を創る。
  4. 内面化(Internalization)・・・個々の内面に次につながる暗黙知が育つ。

このSECIサイクルによって、知識創造はこの順番で、暗黙知形式知が相互作用しながら進むとされています。

このような知識を生み出すには、知識を生み出す多様な場を社内に用意することが重要です。ホンダには「ワイガヤ」という手法があります。合宿で参加者は7~8名、具体的なテーマを3日3晩、延々と議論し続けるのです。初日は本音で自分の意見を主張し合い、2日目には互いに意見を理解しようとし、3日鬼は論理的な意見も出尽くし、初日の議論に立ち戻ると、更に本質的な議論になり、創造的な新しい解決策にたどり着くというのです。また、稲盛和夫氏が創業した京セラでは、本社12階にある百畳敷きの和室でコンパをやります。その部屋で肩を寄せ合いみんなで一つの鍋をつつき酒を飲みながら、本音で対話をします。手酌は御法度、ひたすら相手に注ぐまくるのです。そうすることで、考え方もme thinkingからwe thinking に変わるというのです。徹底的に行うことで「why?」の意識が入ってきて、共通感覚に到達し、互いに「そういうことか」というところにまでたどり着くのです。

全人格をかけた知の格闘をすることで、やがて互いが一体化して共感が生まれ、共同化が進んでいくのです。

今成長する海外のグローバル企業では、組織的な知識創造を重視しています。グーグルでは、オフィスに社員が集まり飲食しながら情報共有する環境をととのえています。ネットだけで業務が進むデジタル時代でも、直接人がふれあうことで生まれる知識の重要性に気づいているのです。ところが、今の日本の会議では、会議を開くことが目的化され、ダラダラと無意味な議論がなされ手います。そこには知識の創造などありません。

この「知識創造企業」は1995年に英語で出版され、世界中にナレッジマネジメントブームを引き起こし、世界のビジネスの現場に大きな影響を与え、日本の多くの企業も知的創造を取り入れてきました。野中氏らは、大企業の経営を中心に研究されており、この知的創造理論も中小企業を念頭に置いた理論ではありません。

しかし、大企業に比して規模が小さく、現場力がすぐに上へと上がっていく中小企業の方が現場の暗黙知形式知に変換し、それを現場に浸透させていくということは容易なように思います。

中堅・中小企業で「知的創造」に取り組むことは、極めて有用であると思います。