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ワークマン式「やる気を引き出す方法」

おはようございます。
ワークマンは、「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し10期連続で最高益を続け、国内店舗数でユニクロを抜きました。作業着という地味な市場でこれほどまで躍進した背景に何があるのか、読み取っていきます。それは、どのような企業においても参考になるように思います。
1.会社の夢(経営ビジョン)に、社員の夢は同居しているのか
 マズローの5段階説というのがあります。以前にも書きましたが、これは、モチベーションの内在理論の1つで、「人間を動機づけるものは何か」という点に焦点を当てた理論です。マズローによれば、人間の欲求には階層があり、それは低次のものから高次のものへと、①生理的欲求⇒②安全欲求⇒③社会的欲求⇒④自我の欲求⇒自己実現の欲求と階層をなしており、低次の欲求が充足されると、それはもはやモチベーションの要因とはならなくなり、次第に、高次の欲求の充足へと動機付けされるというものです。現在では、比較的低次の欲求は基本的には満たされているので、高次の自己実現欲求を充足する必要があると言います。
社員のモチベーションを高めるためには、この高次の自己実現欲求をどのように満たすのかということが重要になってきます。社員が何のために働くのかを考えるのが大切になるのです。
会社の夢(経営ビジョン)が語られることがあっても、そこに社員の夢が同居していることはほとんどありません。「ビジョンを共有する」と語られることがありますが、それは会社のビジョンを社員が理解せよということでしかありません。ある意味、会社の夢(経営ビジョン)の社員への押し付けです。それは「会社はこのような夢(ビジョン)を持って進めていくから、お前ら(社員)も同じ夢を抱いて突き進め」というようなものです。そういう会社ではノルマや期限を厳格に管理し、社員にそれを守るように要請します。それは経営者や上司の「不安」の表れです。経営者や上司は、短い期間で多くの目標を設定し、社員個人に責任を振りノルマ化します。社員にとっては押し付けられた夢(ビジョン)のなので、社員自身は本当に納得していないから、仕事が楽しくない・面白くないのです。これではモチベーションが上がるはずはありません。
ワークマンにはノルマも期限もないのです。「目標、ノルマ、期限があるほど、自発性が下がり、パフォーマンスが下がる」からです。ワークマンは、社員がやりたいことだけで経営が成り立つことを目指しているのです。「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」ではなく「ワークインライフ(生活の中に仕事がある)」を目指しているのです。
ワークマンでは、以前、製品開発者には「作業服以外をやってみたい」「独自のPB製品を作りたい」、営業には「作業着だけでは不安」などといった閉塞感がありました。こうした閉塞感を解放すると、すごいエネルギーになるんじゃないかという予感があり、新業態へ行く計画を立てたときも、社員は自分の夢として一所懸命に取り組んでくれたと言います。会社の押し付けではないと分かると、社員はワクワク感を持ち、大きな力を発揮したのです。
ワークマンにおける客層拡大でできた新業態の運営は、社員が「エクセル経営」によるデータを活用しながら、仕事の改善の仮説を立て、現場で試していくものです。ワークマンの「エクセル経営」というのはデータ経営ですが、AIやビッグデータ、DXなどによる高度なデータ分析ではなく、エクセルという簡単なツールを全員が使いこなすことによってデータ経営を行うことが重要なのです。ワークマンはFC店が増えても店舗をデータで管理する社員は増えていないので、売上高に対する固定費(特に人件費)の比率が年々下がっています。ワークマンは、「仮に売上高が半減しても営業赤字にならない超効率経営になった」のです。
2.社員の気持ちを高める、過激ファッションショー
 ワークマンでは、雨・雪・風が吹き荒れるボルダリングウォールやランウェイの中、ワークマンのウェアを着たアンバサダーがさっそうと登場する「過激ファッションショー」を行っています。これは一つには話題作りですが、社員の士気を鼓舞するという目的もあるのです。ファッションショーの場所も新宿ルミネや渋谷ヒカリエなど社員が夢が持てる場所にしています。自分たちの会社が「いい意味で注目される存在になった、日の当たる存在になった」と思うことができるようになることが重要になります。 
3.組織論、モチベーション論こそ、隠れた大きなテーマ
 ワークマンは『社員が楽しく仕事をし、結果的に本人も幸せで、会社も儲かる』仕組みを作っています。ワークマンの成功は、戦略面やオペレーションで語られることが多いのですが、組織論、モチベーション論こそが裏に隠れた大テーマです。
 ワークマンでは、外部の人よりも内部の人を大切にし、エクセル経営の時も外部のデータサイエンティストに頼らず内部の人間を教育し、内部の社員が成長するのを待つのです。人を育てようとする会社は、10年、20年単位で稼ごうとしています。今年の業績だけを考えれば、外部に頼った方が効果は大ですが、10年は持ちません。時間をかけて人を育てていくことによって長く生き延びることができる企業が生まれるのです。これまでも書いていますが「経営の基本は人」です。「ワークインライフ」で自分のやりたいことをできる人が多ければ多いほどいい仕事ができ、社員が夢と興味を持ちながら仕事をしてくれたからこそ、客層拡大という難しい仕事をやりきることができ、ワークマンの現状があるのです。
経営の基本は人」と言い、「人の育成が大切」ということは、以前書いている「人治」による経営につながっているようにも思います。
人治」によるマネジメントとは、「事業運営の最適化を推進するために、誰がどの範囲で、パフォーマンスを発揮するのが適切なのかを見極め配置し、責任を持たせ指導を行い人を育てる」というマネジメント方式です。より優秀な人材を組織図の上位に立たせ、その個人のイニシアティブや適切な判断、前向きの行動によって、事業や組織を発展・成長させるという考え方で人材の育成が欠かせません。
これに対して、「法治」によるマネジメントは、「どういう業務手順の組み立てがパフォーマンスを最大化できるのか」を追求するマネジメント方式です。
「人治」式マネジメントにしても「法治」式マネジメントにしても、どちらにもメリット・デメリットがあります。それぞれのメリットを生かし補完する体制を作ることが重要です。つまり、適切な「人治」と適切な「法治」を追求する文化づくりを行なう必要があります。
企業が大きく成長していくためには、パフォーマンスを最大化できる業務手順を策定しその業務手順を実行し修正していくという組織の構築が重要になります。つまり「法治」式マネジメントです。しかし、「法治」式マネジメントにおいてもそれを動かすのはあくまでも人です。人材の育成は欠かせません。「法治」式マネジメントをけん引する人材を育成するというために「人治」式マネジメントも必要になります。
「人治」と「法治」のマネジメントはどちらかを選ぶものではなく、組織を強化する二つの切り口であると捉えるべきです。
創業時(スタートアップ)には「人治」に比重を置き、自社の成長に合わせて「法治」を取り入れその比重を高めていくというように、「人治」と「法治」の両方の視点から自社のレベルを上げていくことが重要なのです。