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休日の本棚 武器としての超現代史

、今日は、本の紹介、浜田和幸著「政治力と戦略で読み解く 武器としての超現代史」(Gakken )を紹介します。著者の浜田氏は国際政治経済学者で衆議院議員(現在無所属)です。

著者は、「目まぐるしく展開する国際政治や経済、金融の出来事に関しても、メディアやネットを介しての情報は「ナイヤガラの滝のごとく」降り注いでいるものの、そこで主役を演じる登場人物が何を考え、どのような思考回路を経て最終判断を下しているかは、まったくと言っていいほど伝えられていない。彼らが『自ら描く未来のシナリオ』を実現するため、どのように情報を駆使しているのか、その過程を知ることは、し烈なビジネスの世界を生きるすべての人々にとっても大いに参考になるはずだ。それを明らかにすることが本書の狙いである。現代史を彩った世界のリーダーたちから生きた知恵を学び、彼らを教師として、あるいは反面教師として、自身のビジネスの武器や考え方、モノの見方の羅針盤として活用していただきたい」と言っています。

本書は、次の12章で構成されています。

  1. 第1章 真珠湾攻撃ーその裏に隠された情報
  2. 第2章 広島、長崎への原爆投下ートルーマン大統領の決断
  3. 第3章 朝鮮戦争アメリカを出し抜いたスターリン
  4. 第4章 ケネディ暗殺ー通貨ドルとベトナム戦争の関係
  5. 第5章 沖縄返還ー密約に翻弄され続ける日米関係
  6. 第6章 バブル経済の崩壊ー高笑いするハゲタカ・ファンド
  7. 第7章 9.11テローブッシュ大統領の思惑の関係
  8. 第8章 プーチン習近平ーリーダーの言葉の力
  9. 第9章 ソロスとロジャーズー国際政治を操る
  10. 第10章 金正恩朴槿恵ー2世リーダーのDNA
  11. 第11章 オバマとヒラリーその野心の原動力
  12. 第12章 来るべき世界ー未来の戦争と人間

この本の情報は2016年4月までの情報に基づくもので、その後トランプ大統領が誕生し、一昨年末トランプがバイデンに敗れ、更に中国武漢から広がった新型コロナウイルスが全世界に爆発的な感染を引き起こし、更にロシアのウクライナ侵攻と世界の政治、経済、金融に大きな変化を引き起こしています。日本でも安倍政権から菅政権、更に岸田政権に代わりました。聞く力がすごいと豪語していた岸田首相ですが、国民の声に耳を傾けることはなく、演説力、指導力に疑問が投げかけられています。

ここでは、「第8章 プーチン習近平ーリーダーの言葉の力」を取り上げます。

今日の国際社会で他を圧倒する力を発揮している政治家は、「世界を手玉に取る演出力」という点で考えれば、中国の習近平とロシアのプーチンです。ロシアも中国も国内的には経済格差、エネルギー、環境、人権問題などさまざまな課題を抱えているものの、国民からは表向き絶大な支持を受けています。

習近平プーチンも、「歴史を味方につけて相手を煙に巻く」といったスピーチのテクニックを持っています。欧米から人権問題で批判を受けても、習近平は「靴が合っているかどうかは、靴を履いている本人しかわからない」と中国式の知恵を絡めた自信と迫力で切り返しています。「960万平方メートルの広い大地を踏みしめ、中華民族の長期にわたる奮闘によって蓄積された文化的養分を吸い、13億の中国人民が結集し、自らの道を歩む。わが国にはこの上ない深い歴史の底力があり、この上ない強大な前進の原動力を備えている」などと世界四大文明の発祥地という奪われることのない「歴史的な武器」を最大限に活用し、「歴史」と「自信」という言葉を繰り返すのが習近平の得意技です。プーチンウクライナ侵攻で全世界から非難を受けているにもかかわらず、「祖国ロシアは過去500年の間、たびたび西欧列国による侵略を受けてきた。この歴史を忘れることはできない」と訴え続け、民族の偉大さと膨大な天然資源を合わせた「未来の超大国」というイメージを強調します。

また、習近平プーチンもいわゆる「お世辞外交」が得意です。習近平はドイツ訪問時に「体つきがどんどん大きくなる中国を見て、憂慮し始める人もいるし、いつも色眼鏡をかけてみる人もいる。彼らは中国が発展し勃興すれば、必然的に一種の脅威になると考え、中国を恐ろしい悪魔のメフィストフェレスのように描く。まるで、いつの日か中国が世界の魂を吸収してしまうとさえ考えているようだ。これは『アラビアン・ナイト』のようなものだ。実に困ったものだ。左様に、偏見とは取り除くのが難しい」と弱音を発露した後に、「人類の歴史を振り返ってみると、人々を隔てているのは山河でもなく、大海でもなく、人間同士の相互理解、相互認識を遮る見えない壁である。ライプニッツが言ったように、各自の才能を相互交流して初めてともに知恵の明かりを灯すことができる」と歴史を味方につけ、巧みにドイツの哲学者の言葉を織り込んでいます。

習近平は「私のようなポストにあれば基本的に自分の時間はない。その中で唯一できるのは読書である」と読書によって歴史を始めあらゆる知識、知恵の吸収を行い、それを演説や発言に活かしているのです。日本の政治家の知恵、知識のなさには呆れます。

2001年9月のドイツ議会でのプーチンの演説もいまだに語り草になっています。「ロシアにとって、ドイツがいかに大切な隣人であるか」を訴えるために、ロシア語から突然ドイツ語に切り替え、自らゲーテやシラー、カントの言葉を引用したのです。これにはドイツの国会議員全員が総立ちになり、万雷の拍手が沸き起こりました。また、2007年、国際オリンピック委員会で習いたての英語で行った即興のスピーチは、2014年冬季オリンピック誘致(ソチ)の決定打となりました。更に、ロシアがウクライナからクリミアを奪い支配下に置いた直後、オーストリアの指導者から「ウクライナはかつてオーストリアの一部だった」と詰め寄られた際に、ことの成り行きが微妙だと判断したプーチンは、即座にドイツ語に切り替え「問題解決に向けてのご提案をお持ちのようですね。どんな提案か、想像するだけで恐ろしくなります」と応じ、笑いの渦を巻き越し、具体的な提案が俎上に上がるのを巧みに回避しました。「相手の意図を事前に察知し、危機を回避するために目先を変えるユーモアを繰り出す」という作戦です。

プーチンだけでなく、習近平も、その他世界のトップリーダーたちは、日ごろから相手を理解するための情報収集、そして相手を説得するための決めゼリフを相手の言語で繰り出す訓練を重ねています(日本の政治家には無理でしょうが)。

政治家だけでなく、置かれた世界や立場は違えど、ビジネスにおいても、相手との交渉を有利に進めるうえで、相手を理解するための情報収集、相手を説得するための決めゼリフや知識、知恵は欠かせません。

歴史は決して過去の物語ではありません。歴史上のリーダーが何を考えどのような思考回路でどのような判断を下したのかを知ることは、現在から未来を切り開くうえで、極めて重要な知恵の源になります。

現代の世界の政治や経済は情報戦です。世界のリーダーたちは自らその情報を収集し、その情報を自ら咀嚼し駆使して国際政治の舞台で戦っています。現代のビジネスも情報戦です。ともに共通する面があるでしょう。

世界を動かし、望むべき方向へと変えてきたリーダーたちが、自らの目的を達成するために、どれだけ綿密かつ大胆な策略を選んできたことか、特に「第9章 ソロスとロジャーズ」は希代の投資家の2人が、世界の政治を操るために情報収集や発信をどのように行って来たか、驚くとともに面白い内容です。ビジネスの世界に生きる人々に役に立つ本だと思います。