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休日の本棚 「良き社会のための経済学」「21世紀の資本」

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 おはようございます。

本日は経済学の本2冊を取り上げます。

まずはノーベル経済学賞受賞ジャン・ティロール著「良き社会のための経済学」(日本経済新聞出版社)です。著者のジャン・ティロールは、フランスの経済学者で、産業組織論、規制政策、ゲーム理論ファイナンスマクロ経済学、経済と心理学など幅広い研究範囲で、本書は「共通善の経済学」(日本では「良き社会のための経済学」とタイトル付けがなされています)というべきものです。ティロールによれば、本書は一般読者向けに書いた最初の経済学啓蒙書であるということで、600頁にも及びますが経済学になじみのない読者にも読みやすい本だと思います。

ティロールの言う「共通善の経済学」とは、「社会全体の幸福を目指す中で、個人の幸福と全体の幸福の両方に配慮し、個人の幸福が全体の幸福と両立する状況、両立しない状況を分析する」経済学ということになります。

本書では、大きな5つのテーマについて論じられています。第1のテーマは「社会と経済学」、第2のテーマは「経済学者の仕事」、第3のテーマは「制度的枠組み」、第4のテーマは「マクロ経済学の課題」、第5のテーマは「産業の課題」です。

ここでは、「マクロ経済学の課題」の中で、「気候変動」を取り上げます。

小泉大臣のセクシー発言があった国連気候行動サミット、スペインで開催のCOP25、環境活動家グレタさんの果敢な活動・発言、ノーベル化学賞受賞吉野彰さんの環境問題発言などから日本においても環境問題への関心が高まりつつあります。しかし、日本政府は、温暖化対策に具体策や目標を提示できず、各国間で削減目標や詳細ルールなどで対立が続き、足並みがそろわないままに終わっていしまいました。

ティロールは、気候変動問題についても詳細に検討しています。そして、「地球温暖化は人間の活動が原因で起きたにもかかわらず、問題解決に向けた国際社会の努力は不十分である」とし「排出削減に取り組むには、結局のところ、良識に立ち返ることが必要である」と言います。

ティロールの結論を言えば

  1. 交渉の最優先課題は、温度上昇を摂氏1.5~2度に抑えるという目標に向けて、単一炭素価格の原則に合意することである。
  2. 独立機関による監視体制の整備が必要であることについても、国際的な合意を形成する必要がある。
  3. 基本に立ち返るという精神から、平等という困難な問題に取り組む。単一炭素価格の原則に合意が成立した後は、他の付随的な議論から切り離し、この問題に的を絞って取り組むべきである。先進国のグリーン・ファンドは、発展途上国への資金供与という形をとってもいいし、グローバルな排出権取引市場を前提として途上国に排出権を多めに与えるという形をとってもいい。現状でそれに代わるものはないと信じる。

としています。

次に、トマ・ピケティ著「21世紀の資本」(みすず書房)です。ピケティはパリ経済学校経済学教授で、NHK[パリ白熱教室」に出演しています。

本書は、「富の格差論」を膨大な歴史的データを基に分析し、格差是正について富裕層への課税を提言するものとなっています。本書も600頁を超えますが、「良き社会のための経済学」と比べれば、データー分析が多く興味のない人には読みにくい本となっているように思います。途中で挫折した人も多いのではないでしょうか。

簡単に内容を纏め一言で言いますと、「財産の成長率は賃金の成長率を上回り、労働者と富裕層との格差は広がり、『持てる者』はさらに裕福に、『持たざる者』はさらに貧乏になっていく。また、相続によっても格差が広がる。グローバル化が進む中で、タックスヘブンで税金逃れを防止して格差を是正するためには累進課税を世界で一律に適用することが必要である」ということになるでしょう。

さて、ピケティも気候変動について論じています。

ピケティも「第二の重要な問題は、気候変動であり、もっと一般的には、21世紀に起こりうる自然資本の劣化だ。世界的観点からすると、これこそが世界の主要な長期的な懸念だ」と気候変動に危惧しつつ、「先端研究が急速に進歩して再生可能エネルギー源を開発してくれるよう期待するのか、それともすぐさま自分たちの炭化水素消費に厳しい制限を課すべきなのだろうか?たぶん既存のツールすべてを活用する、バランスのとれた戦略を選ぶのが賢明なはずだ。常識だけですべて解決できるわけではない。でも今のところ、こうした課題がどう解決されるのか、21世紀における自然資本の劣化を防ぐにあたり、政府がどんな役割を果たすかは誰も知らないということは強調しておかなければならない」と言います。

気候変動については、出版時期の違いはあるものの、ティロールの方がピケティよりも一歩踏み込んだ提言をしているように思います。

経済学について考え勉強するにはよい本だと思います。一読をお勧めします。

 

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