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休日の本棚 経済の仕組みを読む

 

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おはようございます。

今日は、久しぶりに(?)経済の本を取り上げます。ルディー和子著「経済の不都合な話」(日経プレミアシリーズ)と大竹文雄著「経済学的思考のセンスーお金のない人を助けるには」(中公新書)です。

まずは「経済の不都合な話」ですが、表紙の帯に「社長と経済学者は読まないでください」と書かれています。偽善・タテマエ・机上の空論ばかりで現実を表さない経済学者やビジネス論を排して人間の本性に基づいて「言いづらい真実」を書いたと言われていますが、社長や経済学者、経済に興味ある人に読んでもらいたい本です。

経済学や経営論では、企業は存続すべきもの(ゴーイング・コンサーン)とされ、存続を目的として経営が行われますが、それは欺瞞だというのです。株主は別段特定の会社の存続など望んでいません。「企業の目的は顧客を創造すること」とも言われますが、同じ顧客の維持だけを考えていては生き残ることはできません。顧客を捨てて変身した企業もあるというのです。もともとSNSの草分けだったミクシィはSNSやオンラインオークションを切り捨てゲーム事業へと変身しています。顧客データを持つ企業は結局はそのデータをもとに金融業に走り儲かると本業をないがしろにして(コア事業をおろそかにして)衰退がはじまります。会社存続というのは経営者のエゴではないか、経営者の野心や自尊心、ほこり、名誉のために存続が目的とされるというのです。また「従業員のため」というのもタテマエにすぎないと言われています。本当に、「顧客のため、従業員のため、社会のため」を目的として企業経営を行っている会社がどれだけあるでしょうか。改めて企業は何のために存続するのかを考えてみる必要がありそうです。

また、本書で、著者は「顧客は不実な愛人みたいなものだ」と言い切ります。顧客は、行きつけの店に品物がなければ他の店に行ってそこで買う、値段の安い商品が出ればこれまで使っていた銘柄から乗り変える、などまるで不倫を働く愛人のように点々とするというのです。ここで例として挙げられているのが、マクドナルド、モスバーガーロッテリアハンバーガー・チェーンの価格競争と吉野家松屋すき屋の牛丼チェーンの価格競争です。ユニクロは、低価格だけでなくある程度の品質を有しているにもかかわらず「ユニバレ」と言われて「ユニクロとばれたらダサい、恥ずかしい」というイメージ低下を払拭すべく「ユニクロは低価格をやめます」宣言を出し数度にわたって値上げを行いました。その結果、客足が遠のき売上が減少し、結局はまた値下げしなければならなくなりました。このように最近の企業は、価値と価格に翻弄されています。

また、経済やマーケティングに理論などないとして、物理学になろうとした経済学に警鐘を促しています。今の経済学を理解しようとすると大学の数学科で習う高度な数学が必要となり経済学が社会科学の一つと言えない状況になっています。そしてモデル化され数式で計算される経済学が現実の経済情勢を正確に分析できているか疑問です。

本書において、以前紹介したダニエル・カーネマンの「スロー&ファースト」の内容や行動経済学が分かりやすく説明されています。これだけでも読む価値はあります。

現代人は理性的であることに疲弊して感情的になってきています。人間は「ある程度の理性を持ったサル」なのだという事実を謙虚に受け止め自覚しなければならないと言われています。こうした立場から、人間の本性に基づいて「経済の不都合な話」が進められます。読みやすく面白い本です。

次に、「経済学的思考のセンス」です。本書の目的は、「お金がない人を助けるには、どうしたらいいのですか?」という小学5年生の問いをもとにお金のない人を助ける経済学的な意味を考える、身近にある経済的格差を考えるのです。そのためのキーワードが、インセンティブと因果関係です。インセンティブとは、誘因、意欲、動機付けのことです。人々の努力を促す手段として賃金格差が発生します。つまり努力した人の賃金は高く、努力しなかった人の賃金は低いということです。賃金格差をつけすぎると、運・不運による成果の差まで努力の差と間違われてしまうリスクが高まってしまいます。そうなると運・不運のせいだと考える人は努力をしなくなります。また逆に賃金格差をなくしてしまうと、この場合も努力しない人が増えてしまいます。所得再分配が難しいのは、このリスクとインセンティブトレードオフ(二律背反)があるからです。社会における様々な現象を、インセンティブを重視した意思決定メカニズムから考えなおすことが経済学的思考法で、そうした経済的センスを身に着けることは日常生活の場面でも役立つはずです。

まず、本書では、「女性はなぜ、背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」「いい男は結婚しているのか?」について経済学的に検討しています。

かつて女性は結婚相手に「三高」を求めました。そのうち高学歴は高収入と密接な関係を持っていますが、高身長と高収入との関係はどうか、これを調査した研究者・大学教授がいます。計量経済学的分析から、身長が1インチ高いとイギリス人男性で時間当たり賃金が2.2%高くなり、アメリカ人の白人男性では1.8%高くなるというデータがあります。また、日本でも大阪大学大学院で同様の調査を行い、学歴・勤務年齢・企業規模が同じでも1センチ身長が高いと0.8%給与が高いという結果が出ています。女性は、こうしたことを本能的にわかったうえで三高男性を選んでいるのではないかという説もあります。次に「美男美女は得か」ですが、これにも研究データがあって現実に美男美女の方が就職でも給与でも優遇されているようです(そういうことから就活前に美容整形する人がいるようです)。容貌の差による所得格差を解消する方法として、ハーバード大学のバロー教授は「美男美女税」「不器量補助金」を提唱します(冗談でしょうが)。また、「いい男は結婚しているのか?」では、いい男が結婚しているかは別として、「まともな男は結婚している」「結婚している男は経済力がある」というデータがあります。これについて一卵性双生児の兄弟を比較した面白いデータがあります。一卵性双生児全体でみると結婚している者の方が結婚していない者よりも19%給与は高く、一組の兄弟でみるとたまたま早く結婚した方がそうでない者よりも26%も給料が高いというのです。外見上も遺伝子レベルでも能力が同じ二人を比較していることからすれば「給与が高く経済力があるから結婚した」のではなく「結婚によって仕事ができるようになり給与も上がった」(労働意欲仮説=結婚し家計を担うために責任感が生じ労働意欲が高まり生産性が高くなった)とみることもできるのです。

本書には、ほかに、プロゴルファーは賞金が高くなるとやる気が出る、とか、若者が年金を未納するのは将来受給できなくなる可能性があることに対する若者の逆襲であるなど、面白い内容が書かれています。経済学的センスを身に着けるのによい本だと思います。

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