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休日の本棚 経済学的思考のセンス

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3574人、そのうち東京1128人、神奈川547人、埼玉345人、千葉301人、愛知69人、大阪283人、兵庫71人、京都34人、福岡99人、沖縄99人、北海道118人などとなっています。検査数の少ない休日のデータとしてはかなりの数字で深刻な状況です。五輪関係者からも毎日のごとく感染者が出ておりますが、国籍や競技名が公表されないので感染ルートも明らかになりません。穴だらけのバブル方式で、このままでは五輪終了後に全国に感染拡大し、緊急事態宣言を全国的に発令しなければならなくなりそうです。ワクチン接種がスムーズに進行することを願います。私事ですが、昨日2回目のワクチン接種を終えました。自衛隊の大規模接種会場なのでモデルナ製で、1回目の時も腕の痛み・倦怠感が4日続きましたが、今朝から接種部位が腫れ固くなり、腕を上げようとすると痛みが走ります。また倦怠感も1回目の時よりもひどく若干微熱があるように感じます。90歳の両親はファイザー製のワクチンを接種し、特に副反応は見られませんでした。モデルナ製とファイザー製の違いなのか体質なのかわかりませんが、しばらく安静にしていくつもりです。

さて、今日は大竹文雄著「経済学的思考のセンス」(中公新書を紹介します。

著者の大竹氏は、大阪大学社会経済研究所教授で、労働経済学、行動経済学が専攻です。この本は、「お金のない人を助けるには、どうしたらいいのですか?」という小学5年生の問いをもとに、お金がない人を助ける経済学的意味を考える、身近にある経済格差を考えるものです。アベノミクスにより社会が分断され、持てる者と持たざる者に二分化され、コロナ禍でさらにその格差が広がってきているように思います。

大竹氏は、身近にある経済的格差を考えるキーワードは、「インセンティブ」と「因果関係」であると言います。インセンティブというのは誘因、意欲、動機付けのことで、人々の努力を促すために賃金格差を設けているというわけです。努力した人の賃金は高く、努力しなかった人の賃金は低いということなのですが、人事評価が適切でなければ不満を生むだけになります。運・不運による成果の差が努力の差と間違われてしまうリスクが高まるのです。そうなると運・不運のせいだと考える人は努力をしなくなります。また、逆に賃金格差をなくしてしまうと誰も努力しなくなります。所得再分配が難しいのは、このリスクとインセンティブトレードオフがあるからです。

社会にある様々な現象をインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すことが経済学的思考法で、そうした経済学的センスを身につけることは日常生活でも役立つはずです。

この本では、女性が背の高い男性を好む理由からオリンピックの国別メダル獲得数まで、私たちの周りにある運や努力、能力によって生じるさまざまな格差や不平等を取り上げ、それを解消する方法を、人々の意思決定メカニズムに踏み込んで考えようとしています。

かつて女性は「三高」を求めました。そのうち高学歴は高収入と密接な関係を持っていますが、高身長と高収入の関係はどうか、これを調査した研究者・大学教授がいます。それによると、身長が1インチ高いとイギリス人男性で時間当たり賃金が22%高くなり、アメリカの白人男性で18%高くなるというデータがあります。また、日本でも大阪大学大学院で同様の調査を行ったところ、学歴・勤務年数・企業規模が同じでも1センチ身長が高いと0.8%給与が高いという結果が出ています。女性は、こうしたことを本能的にわかっていて三高男性を選んでいるのではないかという説もあるくらいです。

次に「美男美女は得か」ですが、これにも研究結果があって、現実に美男美女の方が就職でも給与においても優遇されているようです。そうしたこともあって、女性に限らず男性でも就活前に美容整形を行う人が増えてきているようです。

こうした容貌による格差を是正する方法として、ハーバード大学のハロー教授は、半分冗談でしょうが、「美男美女税」「不器量補助金」などを提唱しています。

また、「いい男は結婚しているのか?」では、いい男が結婚しているかどうかは別として(いい男かどうかの基準があいまいです)、「まともな男は結婚している」「結婚している男は経済力がある」というのは事実のようです。これについては一卵性双生児の兄弟を比較したデータがあり、一卵性双生児全体でみると結婚している方が結婚していない者よりも19%給与は高く、また一組の兄弟で見るとたまたま早く結婚した方が後で結婚した者よりも26%給与が高いということになっています。外見も遺伝子レベルでも能力が同じ二人を比較していることから「給与が高く経済力があるから結婚した」のではなく「結婚によって責任感が生じ労働意欲が高まり生産性が高くなった」のではないかと考えられます。

ちょうどオリンピックが開幕しましたので、オリンピックの国別メダル獲得数について書きます。オリンピックでは毎回各国のメダル争いが関心を呼び、賭けもなされるくらいです。ダートマス大学のバーナード教授とカリフォルニア大学のビューズ教授は、計量経済学的分析により、シドニー・オリンピックの時に予測されるメダル数を発表しました。彼らによると、メダルの獲得を決定する要因は、一人当たりGDPと人口の両方だというのです。それに開催国、旧ソ連・東欧諸国、共産主義国という説明変数が加わります。さらに、一つ前の大会のメダル獲得数の比率を説明変数として加えるのです。しかし、必ずしも彼らの予測メダル獲得数は当たっていません。予測というのは水物です。

そのほかに、本書では、プロゴルファーは賞金が高くなるとモチベーションが上がるとか、若者が年金未納するのは将来受給できなくなる可能性があることに対する若者の逆襲であると書かれています。

そもそも所得格差の拡大は問題でしょうか? ヨーロッパでは不平等感が高まると幸福感を感じなくなりますが、アメリカでは不平等感が高まっても幸福感には影響しないと言われます。それは、アメリカでは所得階級間の移動率が高いので現在貧しいことが将来の貧しさを意味しないからです。日本では、実際それほど大きな格差がないのに関心がもたれているのは、所得階層簡の移動が困難な社会になっているからです。確かに、転職・起業などで新たなチャレンジを行う人は増えてきています。しかし、日本型の雇用形態では、いまだに逆転が難しくなっています。特に高齢者は若年者に比べて、将来の逆転の可能性は低いです。所得階層間の移動が小さくなると、生涯にわたる所得格差はさらに大きくなります。労働市場のさらなる整備と能力開発を促進し、将来逆転が可能な社会にしていくことが急務です。若年層に広がる閉塞感、低所得のフリーターからの脱却できるような仕組みを作らなければなりません。

社会は金銭的インセンティブだけで成り立っているわけではありません。非金銭的なインセンティブも重要で、両者のバランスが大切です。

経済的なセンスを身につけるためにはインセンティブと因果関係の観点から考えていくことが重要なのです。こうした経済学的思考のセンスを身に着けるのに、この本は面白く読めて役に立ちます。

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