休日の本棚 新しい世界(2)
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で740人、そのうち東京178人、神奈川96人、埼玉101人、千葉99人、愛知30人、大阪62人、兵庫14人、京都7人、福岡26人などとなっています。東京は約3カ月ぶりに200人を下回り、検査数の少ない休日のデータと言え全国でも1000人を切り、喜ばしいことです。大阪・兵庫・京都の3府県と、愛知・岐阜の2県、福岡は期限前の緊急事態宣言の要請を行うようで、政府も月末をもって首都圏以外の府県の緊急事態宣言解除を検討するようです。確かに、首都圏以外については大幅な改善が見られますが、大阪はまだ50人を超えており、減少ペースが鈍化し安全な状態とは言えないように思います。1週間早めることのメリットとデメリットを比較すれば、まだデメリットの方が大きいようです。吉村知事は緊急事態宣言解除後も時短営業は午後8時から午後9時に繰り下げて継続するとのこと、それならば、完全にコロナが収まるように1週間我慢しても良いはずです。最近の吉村知事は、その場の思い付きと人気取りだけで行動しているように見えます。
さて、今日は先日(2/21)のクーリエ・ジャパン編「新しい世界」(講談社現代
新書)の続きです。2/21は、コロナ後の世界について、8人の賢人の考えを見てきました。今日は残り8人の賢人の考えです。
9.豊かさと幸福の条件 ― ダニエル・コーエン
コーエンはパリ高等師範学校経済部部長で、資本主義の病理を解き明かした「迷走する資本主義」や経済がいかに文化や社会を築き上げてきたかを描く「経済と人類の1万年史から、21世紀世界wp考える」などの著書があります。これは、クーリエ・ジャパンのオリジナルインタビューです。
- 人と人の間でしか生きられないのが人間の性です。そのこと自体は恥ずべきことではありません。資本主義の世界に関して残念に思うのは、お金が人間関係においてこれほど大きな意味を持つようになってしまったことです。「幸福とは義理の兄弟より多く稼ぐことだ」と思えてしまう、そんな世界を創ったのが、18世紀交換の西洋から発展していった資本主義であり、それが世界全体に広まったのは悲劇です。
- 現代のような巣本主義の世界では、豊かさの絶対量ではなく、暮らしが豊かになっていく過程が幸福をもたらします。つまり経済成長が幸福をもたらすのです。産業革命以降、人類は「イースタリンの逆説」(年間所得が増えても満足度は上がらない)という法則に支配され、豊かさだけでは人は幸福になれず、社会内の緊張を緩和させるには経済成長が必要なのです。
- 日本では「失われた20年」と言われていますが、バブル崩壊で打ち砕かれたのは、急ピッチの経済成長を無限に続けられると信じる慢心だったのではないでしょうか。日本が経済成長で恒常的に世界平均を上回れる「賢者の石」を見つけたのは幻想にすぎず、日本が現実に戻ってきたというか、経済面で現実主義に戻ったということです。
- 「幸福になろう」「幸福になるために何かをしよう」と思わず、幸福のことなど忘れた方がいいのです。フロイトによれば、幸福とは、寒くて毛布を掛けたときに味わうつかの間の感覚のようなものです。心がけるべきは、自分の内の調和を保ち、周りの人とも調和を保つことです。
- 経済政策で目指すべきは、「成長」でも「脱成長」でもありません。人間として最低限必要なものは何かを見据えることです。自国の若者に何を与えられるのか、どのような知的能力、身体的能力を持てるようにすべきか、若者が社会と調和を保ちながら生きられるようにするために何ができるのか、若者が興味を持てる職業に就けるようにするにはどうすればいいのか、こういったことが重要課題です。
- 歴史における偶然の一致とでもいえばいいのか、新型コロナの流行と社会のデジタル化が同時に起こり、社会のデジタル化が急ピッチで進みました。我々は敵のロジーの奴隷になるのではなく、技術に習得してテクノロジーの主人になれるようにしないといけません。
10.ビリオネアをなくす仕組み ー トマ・ピケティ
世界的なベストセラー「21世紀の資本」で知られるピケティの新著「資本とイデオロギー」が出版されましたが、前作同様1232ページに及ぶ大著で内容を理解するには相当の労力と時間が必要です。新著の内容について、ピケティ本人が、フランスメディア「ロプス」の取材に答えたもの。
- どんな社会の仕組みも永久に続くわけではありません。どうすれば格差を縮小できるのか、どうすれば資本が少数の手に集中しなくなるのか、新しい社会の仕組みをどんどん想像していくべきです。そろそろ「私有財産は神聖不可侵」と考えるのはやめるべきです。
- そろそろ財産権の申請化のステージを抜け出すときです。資本主義を乗り越えていくときが来ているのです。
- 富の集中を防ぐ第1の提案は、ドイツ流の「労使共同決定」を取り入れて、私有財産の「社会化」を図ることです。「参加型の社会主義」です。私有財産制を終わらせたいのではなく、財産権の「社会化」や「時限化」を通して、私有財産制を乗り越えていくことです。私有財産制は度を越さない限り、正当なものです。政治や経済の権力g七分の人に過剰に集中したり、その権力の集中が長期化することは避けなければなりません。
- 第2の提案は、資産に対する累進課税を導入し、私有財産の「時限化」を図ることです。一人の人間が持てる資産の額に時間的制約を設けることです。
- 必要なのはビリオネア(ミリオネアを超えた10億通貨長者)をなくす仕組みです。ビリオネアたちが裕福になれたのは、知識やインフラや県食う施設と言った公共財のおかげです。「世の中にビリオネアがいた方が公共の利益になる」「ビリオネアたちが経済成長を後押しした」というのは間違いです。
- 第3の提案は、経済格差をなくすには教育格差解消が重要でだということです。教育への充分な投資が必要です。
11.すべての問題を市場に任せることはできない ― エステル・デュフロ
2019年に「世界の貧困削減に向けた、実験に基づいたアプロ―ト」が評価され、ノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学デュフロ教授が、スペイン紙「エル・パイス」のインタビューに答えたもの。
- 経済回復の速度は、新型コロナウイルスがいつまで人々の間に留まるか、生産・消費・交流の方法をどれくらい変える必要があるか次第です。この調整にはしばらく時間がかかります。今回の危機が2008年リーマンショック危機と違うのは、金融システムによってもたらされた危機ではないということです。自然災害や戦争に似ています。人々が家から出ても大丈夫と感じ経済的安定を信頼できるようになれば、経済は回復に向かうでしょう。
- 景気後退や恐慌を避けるには、人々の収入を守ることが重要です。先進国は巨額の財政出動を行いました。それらが一部の企業に集中していますが、需要が落ち込んでいるときには経済の役には立ちません。必要なのはできる限る人々の雇用と収入を守ることです。
- コロナ危機によって、企業が機械化を進めるのではないかと懸念しています。人間よりも機械が適しているわけではない場合にまで機械化しようとしています。失われた仕事の分だけ新たな労働が生まれるわけではありません。企業が労働者に不利な形で機械化を進めることに危惧しています。
- 経済成長が人々の福祉になるわけではありません。貧困問題で一番注目すべきなのは「経済成長」ではなく、「貧しい人々の収入や教育」です。その改善に注力すべきです。権力・繁栄・貧困に関して、重要なのは天然資源でも地理的条件でもなく、政治です。どのようにして歴史が政治制度に影響を与え、どのようにして政治制度があらゆるものに影響を与えるか、長期的な視点が必要です。
12.世界を破壊する「資本主義の感染の連鎖」ーマルクス・ガブリエル
私たちが「新しい日常」を生きる時、そこにはどのような変化が待ち受けているのか。世界で注目を浴びる若き哲学者ガブリエルにスペイン紙「エル・パイス」がインタビューを行ったもの。
- 今回の新型コロナ危機を「生態系の危機に対する訓練」のようなものだとみていて、社会はより倫理的なものになると思っています。今後、私たちは世界経済の新たなモデルを見ることになり、それはグローバリゼーションとは異なるものになるでしょう。
- 資本主義の感染の連鎖を断ち切らなければなりません。日常の買い物―例えば子供のおもちゃ、鎮痛剤、車などを買ったりするとき、こうした製品の生産チェーンのせいで、多くの場合、誰かが犠牲になっています。私たちはみな、他者の苦しみに責任があるのです。たがいにつながった座悪なシステムを築き、チェーンの末端には、清潔な水がなかったり、作物が不さ繰ったり、あるいは搾取されたりした結果、命を落とす人が常にいます。これが、モラルに反した行動がもたらす感染の連鎖です。一つの病ともいえます。モラルに反した行動は世の中を悪くします。グローバルな新自由主義は、世界を猛スピードで破壊するものとなってしまったのです。
- 新型コロナウイルスとの闘いは戦争ではありません。軍隊もなければ、テロリストも、国家を攻撃しているような相手もいません。ウイルスからすればわれわれ人間は友達であり、攻撃する意図もありません。戦時下にあるようなことを根拠に例外的措置を正当化するのは政治的まやかしです。
- 現在のジレンマは、取られている措置が「事実」ではなく「フィクション」に基づいている点です。なぜならウイルスに関する事実が分からないからです。いくつかの可能性はウイルス学やコンピュータ・シミュレーションのおかげで把握されていま滋賀、私たちはシミュレーションを生きているにすぎません。
- パンデミック後の新しい社会の在り方を乱すには、学際的な研究が必要です。それがより持続可能な未来につながります。社会学者、フェミニスト、ダイバーシティの専門家、経済学者、ジャーナリスト、哲学者、歴史家、文学者などが、この災禍の受け止め方を分析する必要があります。人文科学の専門家も引き入れたうえで、未来の計画を立てていかない限り、それがよいものになる可能性は減ります。
「ベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」で有名なハーバード大学政治哲学者のサンデルが、「分断された今の社会に必要なのは、政治を変える前に『エリートたちが謙虚さを養うこと』が重要だ」と語っています。
- 勝ってないほどの社会が分断され、バラバラになっているときにパンデミックに襲われました。パンデミックでは、私たちがお互いを必要としており、高いレベルでの社会的連帯が必要だということを再認識させられました。社会に深い分断があったのでは連帯心を発揮してパンデミックに効果的に対処することはできません。
- ウイルスが広まっていく中で、最も多くの負担を強いられ、より大きな犠牲を払い、多くの人命を失っている人たちは、過去40年の経済発展の中で置いてけぼりにされていた人たちです。グローバル化で勝ち組になっている人たちは、ある意味、パンデミックの前から社会的距離を確保していました。
- 能力主義は一見魅力的な思想に思われました。グローバル社会で成功するのは、大学の学位を手にし、グローバル経済で競い、勝つための備えをしてきた者となります。高等教育を受ければ出世できると強調することは低学歴者に対する蔑視につながります。
- 成功の意味を再考すべきです。先ずは文化からです。人に対する態度を変えることです。本当に自分の実力だけで成功したのかを問い直さなければなりません。人生において幸運がいかに重要なのかがわかれば、謙虚な心も持てるかもしれません。今の問題は能力主義の仕組みでエリートになった人たちに謙虚な心が欠けていることです。
14.コロナ後の偽りの日常 ー スラヴォイ・ジジェク
コロナ禍も落ち着いたように見える今の「日常」は、根拠のない情報と、つかの間の自由を楽しみたいという欲求によって作られている虚構だースロベニアの過激派哲学者ジジェクが、混迷を深める「コロナ後の世界」についてイスラエル紙に語ったもの。
- 私たちはいま混乱しています。いいニュースもあれば、コロナに関する新しい情報もあります。今後、ウイルスの変異で危険性が増す可能性もありますし、何より問題なのは、現在の日常が「偽物」であることです。元通りの生活をしたいという欲望をかなえるには何かしらの明確な指標が必要なのに、私たちは自分が今どこにいるのかを把握できていません。
- 「コロナ危機は、人類を待ち受けている地球温暖化や新たな感染症といった将来の課題に向けてのリハーサルだ。」これは悲観的というよりも非常に現実的な考えです。私たちが今考えなければならないのは、健康、経済、そして精神の危機です。私たちは新しい時代に突入しつつあります。コロナはすべての終わりを意味しているわけではありません。社会生活の再構築が必要です。
- 医療に注力すべきです。世界が協力してこの問題に取り組み、感染の長期化に備える必要があります。グローバルな医療体制が必要です。各国がしっかると連携し、助け合うべきです。これこそが真のグローバル化です。
- 政府はまず、誰一人飢えさせないことを保障すべきです。そのためにはグローバルな取り組みが必要になるでしょう。出なければ、膨大な移民や難民が発生するでしょう。私たちは旅行やファッションを忘れなければなりません。誰もが自身の能力を最大限生かして、社会に還元すべきです。私たちが直面する問題の解決にはこれしかありません。
- 今後は哲学的に深く考えることがますます必要になってくると思います。これまでと違う世界を歩み始め、誰もが途方に暮れています。新世界で道に迷わないように、これからも人生について深く考え続けなければなりません。
15.レジリエンスを生む新しい価値観 ― ボリス・シリュルニク
フランスの有名な精神科医であるシリュルニクは、これでも、レジリエンス、すなわち「逆境にへこたれずに生活、成功、成長する力」について探ってきた。シリュルニクが今回のパンデミックで、人々の心、そして社会に与える影響を分析したもの。
- ロックダウンは体の安全を守るための者であり、生存のために必要な措置dすが、この措置は人の心を恐ろしいほど圧迫します。愛情あふれた家庭環境や自分を守ってくれる人がいる人は態勢を整えて困難を乗り越えていけるはずです。しかし、もともと心の不調で悩んでいる人、家庭内に振㋐がある人、経済的に不安定な人などは、ロックダウンで受けるダメージは大きくなります。
- ロックダウンが心の不調につながる原因は感情遮断です。環境からの刺激がなくなり、自分から環境へ働きかけられなくなったりすると、不安障害が出るほか、場合によっては、幻覚や錯乱も起きます。家族がトラウマを負う前に心を保護できるものを獲得できれば、楽になります。新しい日課やゲームや活動を考え出せば絆は強くなります。
- コロナ危機後の社会では新しい価値観が育つはずです。これまでの全力疾走の連続のような生活が終わり、社会がもっとゆっくりとしたものになるのがいいと思います。
- 惨事の後、私たちは必ず適応し、新しい生き方を探ることになります。生物の進化も、危機を経て起きることが理論で示されています。人類の意識が高まれば、まだ人類が救われる可能性が残っています。そうなれば新型コロナのパンデミックは有用だったと言えるはずです。今回の危機を経て、私たち人類と環境の関係、人間同士の関係も変わっていくと思います。
16.絞首台の希望 ー アラン・ド・ボトン
哲学者でベストセラー作家のボトンが、先の見えない不安定な時代に生きるヒントを語っています。
- 現代社会で生きる我々は、科学とテクノロジーで自然をコントロールできると思い込んでいましたが、それは間違いです。私たちは真の意味で環境を理解していませんし、人間はある分野には精通していても、同時に多くの無知と未知の領域に四苦八苦しています。
- 人間は愚かで傲慢で、欠陥だらけの痛ましい動物です。人間はこれまで、自分は完璧で安全が保障され、状況をコントロールできると信じてきました。実際には、有害の生物や災難に晒されている、傷つきやすい薄い皮のような存在です。
- しかし、私たち人間はたとえ生き続けたいと願っていても「死に方」を知っています。余命数ヶ月と宣言され恐怖のどん底に突き落とされても、その事実を受け入れます。死に方を知っていることで安らぎを見出せます。心に平安をもたらす唯一の方法は、最悪のシナリオを想定することです。そうすれば、何が起ころうとも、大丈夫。なぜなら、最悪の事態を受け入れる準備ができているからです。
- 不安とは未知、若しくは制御不能なことに対して、必死に対処・コントロールしようとする心の動きです。しかし、現実をコントロールしようとする試みは失敗する運命にあります。この現実がパンデミックならなおさらです。不安をコントロールするのは不可能だと気づくべきです。
- いい死に方と悪い死に方があります。もしコロナ危機で命を落とすならそれも仕方ないことです。私たちは永遠に生きる必要があるという考えを捨てるべきです。私たちは明日も今日と全く変わらずにやってくると思っています。しかし、死は突然やってきますからその準備をしておく必要がります。その時が来たら楽観から悲観へ、思考を転換するのです。現実を受け入れる叱りません。
- 私たちには「絞首刑の希望」が必要なのです。人間はみな、最終的には絞首台へ向かいます。しかし、そこに至る道のりには、素敵な果樹園があるかもしれません。コロナ危機の時代であっても、世界は希望に満ちたものであふれています。今後は、今まで以上に、絶望と隣り合わせのささやかな希望が私たちの人生に生きる価値を与えてくれるでしょう。
2回にわたり、16人の賢人によるインタビュー記事を見てきました。納得できるところもあれば、ちょっと違うかなと首を傾げたくなるところもありました。コロナ後の世界はこの件人にとっても、誰にとっても未知の世界だと思います。そこでは、一人一人が希望を胸に切り開いていくことが望まれるのではないかと思います。