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休日の本棚 いま世界の哲学者が考えていること

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2279人、そのうち東京639人、神奈川201人、埼玉206人、千葉227人、愛知120人、大阪188人、兵庫91人、京都37人、福岡99人、北海道78人などとなっています。大幅な減少傾向がみられているものの、ようやく昨年11月末頃の水準に戻ったというところです。「我慢の3連休」と言われた11月21日~23日の前後の水準ですが、減少したことで気を緩めてしまうと、我慢の3連休後、年末年始に感染拡大したのと同じように、再び感染拡大につながります。まだまだ気を緩めることはできません。3月7日まで緊急事態宣言延長が決まりましたが、一方で緊急事態宣言解除に向けた動きがあります。大阪府の吉村知事は、①1日の感染者数300人以下が7日連続で続くか➁重症病床使用率60%未満という基準を設け、そのいずれかをクリアした場合に緊急事態宣言解除を要請しようとし、京都も大阪と同じように感染者数か重症病床使用率と言った独自の基準を設け解除要請を行おうとしています。しかし、1日当たりの新規感染者数は減少傾向にあるものの、重症者数はいまだに高い水準にあり、かなりの方が亡くなっています。①1日当たりの新規感染者数と②重症病床使用率は「OR」ではなく「AND」でなければならないと思います。いまだに医療体制のひっ迫状況は続いていますので、むしろ②の方が重要です。安易な解除は、再拡大を招くだけで、却って経済には痛手となります。

さて、今日は、岡本裕一朗著「いま世界の哲学者が考えていること」(ダイヤモンド社という本を紹介します。

哲学とは何でしょうか? 広辞苑によれば「古代ギリシアでは学問一般を意味し、近代における諸科学の分化・独立によって、新カント派・論理実証主義現象学など諸科学の基礎付けを目指す学問、生の哲学実存主義など世界・人生の根本原理を追求する学問となる」とあり、大辞林では「世界や人間についての知恵・原理を探求する学問。もと憶見や迷妄を超えた心理認識の学問一般をさしたが、次第に個別諸科学が独立し、通常これらと区別される。存在論形而上学)、認識論(論理学)、実践論(倫理学)、感性論(美学)などの分門を持つ」とあります。これだけ読んでもよく分かりません。

ヴィトゲンシュタインは「論理哲学論考」の中で「哲学の目的は思考の論理的明晰化である。哲学は学説ではなく、活動である。哲学の仕事の本質は解明することにある。哲学の成果は『哲学的命題』ではなく、署命題の明確化である。思考はそのままではいわば不透明でぼやけている。哲学はそれを明晰にし、限界をはっきりさせねばならない」と言っています。

ハイデッガーは「古来以来、哲学の根本的努力は、存在者の存在を理解し、これを概念的に表現することを目指している。その存在理由のカテゴリー的解釈は、普遍的存在論としての学的哲学の理念を実現する者に外ならない」と言っています。ハイデッガー(「存在と時間」)にしろサルトル(「存在と無」)にしろ、「なぜ何もないのではなく何かがあるのか?」という実存主義的問いこそが、人間存在を問う究極的な問いに他ならず、ほかのあらゆる問いの背後に控える謎と言ってもよいのです。

それにもかかわらず、科学技術が発達した現代において、哲学など一体何の役に立つのか、哲学など無用であるという意見があります。しかし、格差が広がり、更にコロナ禍で生きにくい世の中、何のために生きているのか・何のために生きねばならないのか、怖れや不安が渦巻いています。そういうこともあってか、最近哲学に関する書物が多く出版されています。

世界の哲学者は、今何を考えているのか、本当に、哲学は科学文明が発達した現代無用の長物なのかを本書から見てみたいと思います。

大学の哲学の授業では、例えばカントやニーチェの学説を説明し、それに対する研究者の解釈を加え批判するなど、教授が研究する哲学者の説を延々と説明するだけで終わっている場合が多いのです。それは哲学者ではなく、哲学説の研究者にすぎません。この本でも書かれていますが、こうした研究者が、ただ学説に留まって、その先に向かわないことです。ホンモノの哲学者であれば、問題とする事柄に直面し、それをどうとらえるか格闘しながら、理論を作り上げていくはずです。ホンモノの哲学者は、問題とする事柄の現場に赴き、事柄と格闘しなければなりませんし、哲学説を理解するためにも、哲学者が直面した現場に迫っていかなければなりません。哲学は机上の学問ではないのです。フランスの哲学者フーコーは「『啓蒙とは何か』という問いを発した時、カントが言わんとしたのは『たった今進行しつつあることは何なのか、われわれの身に何が起ころうとしているのか、この世界、この時代、われわれが生きているまさにこの瞬間は、いったい何であるのか』ということであった。(中略)われわれは何者なのかー歴史の特定の瞬間において」と言っています。

哲学とは、「自分の生きている時代を概念的に把握すること」で、哲学者は「自分が生きている時代(われわれは何者か」)を捉えるために現在へと至る歴史を問い直し、そこからどのような未来が到来するかを展望する」のです。

20世紀のポストモダン以降、21世紀を迎えるころになると哲学は大きく変容しました、

第1章 哲学者は今、何を考えているのか で、哲学の変容を次の3つの潮流として説明されています。

  1. 自然主義的転回・・・「言語」の哲学から「心」の哲学への転換=認知科学的に「心」や「脳」を考える。
  2. メディア・技術的転回・・・コミュニケーションの土台となる媒体・技術を考える。
  3. 実在論的転回・・・思考から独立した存在を考える。「新実在論」を提唱するガブリエルは「物理的な対象だけでなく、それに関する思想・心・感情・信ねん、更に空想さえも存在するという。

こうした21世紀の潮流から、本書では、現在の世界の哲学者が考えている問題を、次のように分けています。

第2章 IT革命は人類に何をもたらすのか

  1. 人類史を変える二つの「革命」・・・バイオテクノロジー革命とIT革命
  2. 監視社会化する現代の世界・・・マイナンバー制は監視社会を生むのか。監視の手段としてのSNS。ITが生み出した自動監視社会。
  3. 人工知能が人類にもたらすもの・・・ビッグデータ人工知能ルネサンス
  4. IT革命と人間の未来・・・シンギュラリティ。人間の仕事がロボットに奪われる。

第3章 バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか

  1. 「ポストヒューマン」誕生への道・・・人間のゲノム編集は何を意味するのか。バイオテクノロジー優生学を復活させるのか。
  2. クローン人間は私たちと同等の権利を持つだろうか・・・クローン人間の哲学
  3. 再生医療によって永遠の命は手に入るのか・・・不老不死になることは本当に幸せなのか。老化遅延と生命延長の是非
  4. 犯罪者となる可能性の高い人間はあらかじめ隔離すべきか・・・脳を見れば犯罪者が分かる?近代的な刑罰制度はもう役に立たない
  5. 現代は「人間の終わり」を実現させるのか・・・BT革命が人間を終わらせる。生命科学遺伝子工学の発展により人間主義が終わろうとしている

第4章 資本主義は21世紀でも通用するのか

  1. 資本主義が生む格差は問題か・・・「ピケティ現象」の意味するもの。格差は経済ではなく政治問題。格差は悪か?
  2. 資本主義における「自由」を巡る対立・・・一体何からの自由か?
  3. グローバル化は人々を国民国家から解放するか・・・21世紀の帝国とは何を指すのか。アメリカ「帝国」の終焉。
  4. 資本主義は乗り越えられるか・・・仮想化する通過フィンテック革命と金融資本主義の未来。ITによって変容する資本主義

第5章 人類が宗教を捨てることはありえないのか

  1. 近代は「脱宗教化」の過程だった・・・理性的に宗教を考える。多文化主義から宗教的転換へ
  2. 多様な宗教の共存は不可能なのか・・・文明間の衝突は避けることができるか。多文化主義モデルか社会統合モデルか
  3. 科学によって宗教が滅びることはあり得ない・・・無神論ドーキンスの宗教批判宗教を自然主義的に理解する。

第6章 人類は地球を守らなくてはいけないのか

  1. 環境はなぜ守らなくてはいけないのか・・・人間中心主義は環境破壊につながるのか。
  2. 環境論のプラグマティズム的転換・・・ディープ・エコロジーと生命圏平等主義。経済活動と環境保護は対立するか。環境の価値を考える際、経済的な分析と異なるアプローチが必要。
  3. 環境保護論の歴史的地位とは・・・基本に据えるべきは「費用・便益」分析ではなく「リスク」評価。人間の利益を維持しながら、近代の技術の環境的な代価を最小にとどめる。

このように、現代の世界の哲学者が問うている問題は、概念的な人間存在に留まらず、極めて現代的かつ実践的な人間存在に関わる多様な問題です。それは従来の哲学の領域を超えて、脳神経科学から生命科学、更にはITをはじめとした科学技術、環境問題と極めて多彩です。これこそが「なぜ」を問う哲学の本来の姿かもしれません。哲学が現代を生きる人々に必須のものであり、哲学が扱う問題は現代の私たちに否応なしに関わってくる問題でもあるわけです。すべての人が、現代がどのような時代であり、どこへ向かっているのかを知るためにも、また、従来の常識が通用しなくなり新しい発想が求められる現代という時代においても、哲学を改めて学び、考える必要があるように思います。

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