休日の本棚 「時間は存在しない」ってどういうこと？

                                                                                                            （大阪黒門市場）

おはようございます。

年末年始は読書にもってこいの時期です。

今日は、物理学に関する本を取り上げます。カルロ・ロヴェッリ著の「時間は存在しない」（NHK出版）、「すごい物理学講義」（河出文庫」を紹介します。

「時間は存在しない」ってどういうこと？我々は、この空間と時間の流れの中に存在しているではないか？

時間とは何か？この問いに本書の著者カルロ・ロヴェッリは「時間というものはそもそも存在しないのだ」と言います。カルロ・ロヴェッリは物理学者で「ループ量子重力理論」の第一人者です。その「ループ量子重力理論」を解説したのが「すごい物理学講義」です。こちらの本は難しいです。専門的過ぎて読んでいて分からないところが多々ありました。それをできるだけ優しくかみ砕いて説明してくれているのが「時間は存在しない」なのです。古今の科学者だけでなく哲学者、神話から宗教、古典文学、さらに脳科学まで幅広いたとえ話やエピソードを取り入れ、詩的な表現で知的好奇心を刺激してくれる本です。

さて、アインシュタインの特殊相対性理論・一般相対性理論によれば、時間と空間は相対的なものであり、速度が速くなれば時間の進みは遅くなり空間は歪むとされています。つまり、極端な例を言えば、ロケットに乗り光速で宇宙旅行をして数年後に地球に帰還すれば知った人はすでにいなくなっているという浦島太郎状態になるのです（日本では「浦島効果」と名付けられています）。しかし、時間は存在しないとまでは言っていません。アインシュタインは時間に空間を加え曲がる時空（4次元時空）というものを考えたのですが、その後の量子論では、ボーア、ハイゼンベルグなどのコペルニクス派の人々は量子の不確実性を唱えます。量子は粒であり波であり、観測されるまでは霧状のぼんやりしていたものが観測されて初めて収斂して形を成すというのです。「シュレディンガーの猫」の「生きていて死んでいる猫」がそれです。

量子論を取り入れたループ量子重力理論は、分割不可能な最小単位である「空間量子」が連続することで、まるで時間や空間といった一つなぎのものが存在するかのように見えるだけだと言います。世界を「収容する」空間も事象の発生を「順序づける」時間も存在しない。この世界に存在するのは、空間と物質の量子が絶えず相互作用を行っている基礎的な過程だけである。持続的な空間と時間は我々の幻想であるというのです。

確かに、現在の物理学においては、過去、現在、未来という時間の流れは幻想であり、時間に順序はないとしています。つまり、過去への時間旅行（タイムトラベル）は可能だとされているのです。こうした時間の概念は本書だけでなく、ブライアン・グリーン著「宇宙を織りなすもの（上・下）」（草思社文庫）の中でも書かれています。

本書は、それをさらに推し進めて、「空間の各点に、異なる時間が存在する。唯一無二の時間ではなく、無数の時間があるのだ」「『時間』と呼ばれる単一な量は砕け散りたくさんの時間で編まれた織物になる」「この世界は、ただ一人の指揮者が刻むリズムに従って前進する小隊ではなく、互いに影響を及ぼしあう出来事のネットワークなのだ」と主張しているのです。そして、物理学的に時間が存在しないのに、なぜわれわれは時間が存在すると考えるのか、それについて、著者はわれわれの知覚の在り方や記憶が関わっていると主張しています。

第一部「時間の崩壊」で、時間に特有の性質が剥がれ時間の存在が崩れ落ちる「時間の崩壊」について述べられ、第二部「時間のない世界」では「時間の崩壊」後の世界について述べ、ループ量子重力理論により時間のない世界を意味あるものにしようとする試みがなされ、第三部「時間の源へ」では、第一部で崩壊した時間のかけらを再発見し慣れ親しんだ時間へ立ち戻る帰還の旅に出ようとしています。

ロヴェッリらループ量子重力理論が考える「事物の入れ物としての空間や時間が存在せずすべては相互作用の渦中にある量子場でしかない」という見方が本当に正しいのか、それとも超ひも理論、Ｍ理論、枝分かれする多世界解釈、はたまたこれから出てくる新しい別の理論が正しいのか。それは今後のお楽しみといったところでしょうか。ワクワクします。

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