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休日の本棚 「笑ゥせぇるすまん」喪黒福蔵と「悪の脳科学」

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おはようございます。

今日は、中野信子著「悪の脳科学」(集英社新書)を取り上げます。中野信子さんは、フジテレビの「ホンマでっか!?TV」に出演されている脳科学者です。

この本は、藤子不二雄Ⓐ氏の漫画「笑ゥせぇるすまん」の主人公喪黒福蔵に学ぶ「人のココロの操り方」とあるように、喪黒福蔵の人を陥れる手口を脳科学の見地から説明しています。

喪黒福蔵は、「ココロのスキマ・・・お埋めします」という名刺を持ってターゲットに近づきますが、いきなり地獄に突き落とすわけではありません。まずは、ターゲットのココロのスキマをぴたりと埋める甘い蜜を与えるのです。そして誰でも守れそうなルール・約束を課すのです。しかし、喪黒が課す約束は絶対守れない約束なのです。このことを中野さんは、心理学者ダニエル・ウェグナーの「皮肉過程理論」で説明します。人間の思考には「実行過程」と「監視過程」があって、「守らないといけない」という意識が働くことで、かえって「監視過程」がその思考を記憶に刻み付け、人間の脳は約束やルールを破ってしまうように作られていると主張されています。

また、中野さんは、喪黒はターゲットの心理をコントロールするために「コールド・リーディング」という技法を使っていると言います。「コールド・リーディング」とはマジックなどで利用される相手の境遇や心理をズバリと言い当てる技法のことです。ズバリと言い当てられたターゲットは喪黒を信用し信頼関係(ラポール)が生まれます。ラポールを形成するのは極めて簡単なのです。誰でも服装や身体的特徴から自分に対する多くの情報を垂れ流していますし、誰にでも当てはまる千里眼もあるので、それを使って相手のことをある程度言い当てることができます。この当たり前のことで人はころりと騙されるのです。また相手の目を見て話したり、相手の後ろめたさを利用することでラポールを形成できると言います。

そのほかにも「ゲイン効果」「返報性の原則」「新規探索性」「我慢の総量」などの理論を「笑ゥせえるすまん」の喪黒福蔵を使って上手く説明しています。

人間には「騙される人」と「騙されにくい人」がいますが、本来人間は騙されやすくできています。「騙されにくい人」というのは「メタ認知」の能力が高い人(自分を客観視できる人)で自分で自分の感情をコントロールできる人で、騙されにくいのは「人間とは騙されやすい生き物だ」と理解しているからだと言っています。

中野さんの本は、脳科学の本でありながら、専門的な話は少なく、内容的に軽く物足りなさを感じることもありますが、一般向けで読みやすい本になっています。正月休みに読むにはちょうど良いでしょう。

本の最後に中野さんと藤子不二雄Ⓐ氏の対談があります。これも面白いです。

中野さんの本で「脳はどこまでコントロールできるか?」(ベスト新書)、「あなたの脳のしつけ方」(青春出版社)も軽くて読みやすく面白い本です。こちらは、自分の脳を騙して聞き分けの良い脳を作る方法について書かれています。

人の心をコントロールする方法(「悪の脳科学」)、自分の脳をコントロールする方法(「脳はどこまでコントロールできるか?」「あなたの脳のしつけ方」)はビジネスにもきっと役立つはずです。

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もう少し専門的に脳に関する本をというならデヴィッド・イーグルマン著「あなたの知らない脳」「あなたの脳のはなし」(いずれもハヤカワノンフィクション文庫)がお勧めです。

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