中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 数理を楽しむ

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おはようございます。

今日は、ダンカン・ワッツ著「偶然の科学」(ハヤカワ文庫)とイアン・エアーズ著「その数学が戦略を決める」(文春文庫)を取り上げます。いずれも社会科学系の本ですが、専門書でなく一般向けで興味のある人には面白い本です。また、ビジネスにも役立つ本だと思います。

まず、「偶然の科学」ですが、著者のワッツは、スモールワールド現象(わずか数人の知人をたどれば世界中の人間につながる)をネットワーク理論の見地から解明したネットワーク科学の世界的第一人者です。この「偶然の科学」ですが原題は「Everything Is Obvious *Once You Know the Answer」です。和訳すれば「すべては自明 一度でも答えを知ってしまえば」ということになります。著者は言います。「企業や文化、市場、国民国家、世界規模の組織が絡む『状況』は、日々の状況とはまったく違う複雑性を呈する。このとき常識は数々の誤りを犯し、われわれは否応なく惑わされる。だが、常識に基づく推論の欠陥にめったに気づかない。むしろ、『その時は知らなかったが、後から考えれば自明のこと』であるかのようにわれわれの目には映る。」だから「常識を用いるな」と。

本書は、われわれの「常識」に光を当ててその常識が形作る「推論」がいかに危ういものかを明らかにしていきます。例えば、ルーヴル美術館モナ・リザですが、何故モナ・リザが素晴らしいかについて、今では「斬新な絵画技法だ」とか「謎めいたモデル」「神秘の微笑」などが挙げられますが、モナ・リザが有名になったのは20世紀以降でそれまではたいして目立たず評価されていなかったのです。モナ・リザを有名にしたのは盗難事件なのです。われわれは芸術作品をその特質に基づいて評価しているように思えるのですが、逆のことをしているというのです。つまり、まずどの作品が最高かを決めたうえで、その特質から評価基準を導き出しているということです。結局は循環論法で「モナ・リザが有名なのはそれがほかの何よりも<モナ・リザ>的だから」と言っているに過ぎないのです。

注目を浴びている有名人には流行を広めたり製品を売ったりする力があると見られています。しかし、こうした特定のインフルエンサー(芸能人やスポーツ選手等)に法外な広告料を支払うマーケティングについては思ったほど費用対効果が上がらず、もっとも有効なのはツイッターにおける一般のインフルエンサーだと言います。製品をヒットさせるのは、その中でタイミングと状況の偶然によって生まれる「偶然の重要人物」だというのです。

常識に基づく推論のせいで、実際は何かをただ述べているだけなのに原因を理解していると思い込み、立てられない予測を立てられると信じてしまうのです。しかし未来が訪れるころにはその大部分を忘れて起こったことの意味付けに取り掛かるころには都合の良いように後付けしてしまうのです。このことは政府の政策や企業の戦略にも当てはまります。戦略計画の最良事例を体現しているように見える組織、例えば非常に明確な展望を持ち果断な行動をとる組織が最も計画の誤りを犯しやすい組織になる場合もあるのです。これが「戦略のパラドックス」と呼ばれるものです。戦略のパラドックスを解消するためには、予測に限界があることを認め、この限界を念頭に置いた計画法を開発しなければならず、その業界の未来に関わる不確実性を計画の過程に組み入れなければなりません。「戦略的不確実性」の管理は中核的な要素を中心として戦略を立てるとともに、様々な戦略上の選択肢に投資して偶発的な要素に備えることによって「戦略的柔軟性」を作り出すのです。

専門家の予測は当てにならず、歴史も教訓にならないと言います。社会と経済の「偶然」のメカニズムを知れば予測可能な未来が開けるのです。より賢い意思決定のためにこれまでの常識を疑い、一歩立ち止まって考える必要があるのかもしれません。このようなことを教えてくれる本です。

次は「その数学が戦略を決める」です。この本のテーマは、大量のデータ解析が経営や政府の政策判断のみならずいろいろな意思決定に活用されているということです。その範囲は、ワイン、野球、さらに出会い系サイト、医療、教育と様々な分野に広がっています。このことを面白く生き生きと紹介するとともに、そうした動きがもたらす社会的な変化や危険性にも触れています。まずこの本で興味が惹かれるのが初っ端に出てくるワインと野球の話です。ワインの品質(市場価格)についての専門家の予測は当てにならず、生産地の気候条件による分析に基づいたワイン品質方程式の方が優秀であてになると言います。また、野球でも専門家の観察眼によるスカウトよりデータ分析に基づくスカウトの方が優れているというのです。さらに従来の出会い系サイトは意識的ではっきり言語化された嗜好に基づいて人々を集めマッチングしていたのですが、最近の出会い系サイトeHarmonyは回帰分析の手法を使い、巨大なデータベースをもとに感情、ライフスタイル、知覚属性など嗜好を予測する方程式を作り、それでカップルになって最も幸せな性格がどのようなものかはじき出すというのです。

大量データの実用例としてコンビニが挙げられています。コンビニの成功例は、POSを活用して商品のデータ管理を徹底し、売れ筋、死に筋の商品を分析し、棚の回転を最大化して在庫を減らしたことに理由の1つがあります。また、客が買い物するたびに何歳くらいの男女かというデータも併せて入力され、いつ、どこで誰にどのようなものが売れているのか、そのデータをもとに品ぞろえの方向性が決められるのです。また、売れ筋商品の属性をデータ収集しそれを分析することで、コンビニオリジナル商品を手掛け売上増につなげているのです。

多くの人は知らないうちに、多くの個人情報を収集されて、例えばアマゾンのお勧めサービスやグーグルのアドワードなど絶対計算の対象にされているのです。AIを用いた大量データの収集、解析によりさまざまのことが可能になり素晴らしい未来が開かれるように思えますが、個人情報の不正使用などの危険性、AIによって格付けされることに抵抗を感じるのは私だけでしょうか? 

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