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休日の本棚 地政学を読む

 

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おはようございます。

今日は地政学に関する本を取り上げます。

地政学とは、地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究する学問です。ここでの地理的要因には、自然の要塞になり得る山脈や川筋といった物理的な地形はもちろん、気候や人口統計、その土地固有の文化、天然資源の埋蔵量も含まれます。地政学的な視点は、過去の歴史を紐解くうえでも現在の国際情勢・ニュースを見るうえでも役立つものです。

まずは、T・マーシャル著「恐怖の地政学 地図と地形でわかる戦争・紛争の構図」(さくら舎)です。イギリスでベストセラーになった本の日本語版です。世界を10の地域に分けて、地形が他の地域との物理的・文化的なつながりを形成し、戦争・紛争を引き起こしていることを説明しています。

中国は、市場に送り出す商品とその製造に必要な原料を中国に運ぶために南シナ海シーレーンの安全を確保する必要があります。そのために南シナ海の全域と海底資源の所有権を主張しています。そして近隣諸国にアメ(経済支援)とムチ(軍事力)の政策を展開しています。アメリカや日本との衝突が果たして避けられるのか、もし避けられたとしても現実的な危険は中国国内にあるとしています。万一、世界的な大恐慌が起こった場合、数十年前の中国に戻るというのです。中国は世界経済の枠組みの中に自らを閉じ込めていて、誰も商品を買わなければ何も作れないし、大量の失業者が出て社会不安が生まれるというのです。今回の新型コロナウィルスによる中国経済の悪化がこのような事態を引き起こすことがないことを望むばかりですし、日本企業も中国での製造に頼りすぎる体制を考えねばならない時期に来ているように思います。

一方、アメリカでは、アジアと太平洋諸国で世界の人口の半数が暮らし世界の経済生産の半分を占めるようになると、東アジアでの存在感と発言力を強めようとするというのです。例えば中国が尖閣諸島をめぐり日本の駆逐艦攻撃さらなる軍事行動に出ようものなら、中国海軍への威嚇射撃や直接行動にも出る、同じように北朝鮮が韓国を攻撃すれば、最終的には威嚇攻撃、直接攻撃するというのです。それに対して、中東においては、沿岸沖合での掘削等で天然額や原油を自給自足できるようになったのでペルシャ湾への執着が消えるというのです。

日本については、朝鮮半島と一緒に書かれていてあまり重要性が置かれていない印象です。中東については現在の中東情勢がなぜ起こっているのかよく理解できます。

次に、ピーター・ゼイハン著「地政学で読む世界覇権2030」(東洋経済新報社)です。この本は、何故アメリカが超大国となれたのか、2030年以降の世界はどうなるのか、地政学の立場から読み解いている本です。地政学の専門家で影のCIAとも言われる情報機関ストラトフォーの元分析部門の幹部であった著者によれば、今後アメリカはさらに力を増し一人勝ちすると言います。自由貿易体制の終焉、世界的な人口減少、エネルギー供給の激変、ヨーロッパと中国の没落、2030年までに古い冷戦体制は一掃され、新しい時代が訪れる、それがアメリカ一人勝ちの世界というわけです。本当なの?と疑いたくなりますが、中国とロシアの危うさが緻密な分析によって示されています。トランプ大統領誕生前の本ですが、アメリカはパワー不足ではなく必要がなくなるがゆえに世界への影響力を縮小すると書かれていて、まるでトランプの「不介入主義」「アメリカ・ファースト」を予言しているかのようです。日本については、必ずしも強くも安全でも安定していないが、ドイツ、中国、ロシアなどのほかの国に待ち受けている運命ほど過酷なものではないとされています。喜んでいいのかどうかは分かりませんが・・・

地政学的な観点から中国とアメリカを取り扱い、「米中戦争は本当に起きるのか」を読者と共に考えようというのが、ピーター・ナヴァロ著「米中もし戦わば」(文藝春秋)です。

この本は、米国、中国のみならず、米国、中国のみならず、ベトナム、フィリピン、台湾、韓国、北朝鮮、そして日本といった国々のパワーバランスの中で、中国が何を求め何を狙っているのか、又同盟国の中に何が足りないのかを説明してくれています。

質の米軍vs量の中国軍と言われますが、技術的な差は急速に縮まっており、戦争が起きた場合短期間で終わることはあり得ないし、核戦争でないにしろ長期戦の通常戦争のダメージを考えれば論外で、戦争にならない方法を考えねばなりません。だが、本当に交渉の余地があるのか、この点についても考察されています。お互いの経済協力も軍事面に影響を与えるとは限りませんし、核の抑止力も直接的な平和に結びつきません。アメリカがアジアから撤退すれば紛争と不安定な状況はさらに悪化し、攻撃的で不透明な中国相手に実りある交渉を行うことも困難です。そうすると、「力による平和」しかないことになりますが、ここに言う「力」とは、軍事力や核兵器能力だけでなく、経済力、労働力の熟練度、政治体制の安定度、天然資源基盤の底深さと幅広さ、教育制度の質、科学的発見の状態とそれに伴うイノべーションや技術革新の程度、さらにはその国の外交的・政治的同盟の性質や強度などを含めた総合国力を言います。アメリカとアジア同盟諸国が取るべき様々な方策を検討し、総合国力という強力な抑止力を基礎とする力の連合によって平和を構築する道を探るしかないようです。

昨年末に米中貿易摩擦の第1段は合意が締結されましたが、今後の情勢は不透明です。新型コロナウィルスが世界的に蔓延する中でも尖閣諸島近海に中国海軍は毎日のごとく出没しています。米中が戦争になれば、当然日本は巻き込まれてしまいます。日本にとって打つ手はあるのでしょうか?色々考えてみてもこれといったものはありません。あるとすれば、日本の総合国力をあげ近隣諸国と友好関係を維持することしかなさそうです。不謹慎ながら、新型コロナウィルスによって中国の国力が低下してくれることに期待することでしょうか。そうなれば経済的には影響を受けますが・・・

最後に宮家邦彦著「AI時代の新・地政学」(新潮新書)をあげます。この本は週刊新潮に連載されたコラムをまとめたものです。戦闘の舞台がサイバー領域や宇宙空間に及び、さらにAIの出現によって、軍事面でも人間の関与を低下させ国家間の地理的距離を変容させています。最近のサイバー攻撃やドローンを利用したAI兵器など、AIが伝統的な地政学、戦争に影響を与えていることは明らかです。

地政学を学ぶことは、世界情勢を見る目を養ってくれるはずです。それはビジネスにも一般人の教養にも役立つと思います。

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