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休日の本棚 世界標準の経営理論を読む

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おはようございます。

今日は経営理論・経営学の本を取り上げます。入山章栄著「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)と同著「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版)を取り上げます。著者の入山氏は、現在早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授です。「世界標準の経営理論」は昨年末に出版され、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」は入山氏がニューヨーク州立大学バッファロー校のアシスタント・プロフェッサーをされていた時(2012年)に書かれたものです。

まず、「世界標準の経営理論」です。世界の経営学者の英知の結集というべき、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた世界標準の経営理論が約30あります。これら世界標準の経営理論を可能な限り網羅・体系的に、わかりやすく説明してくれているのが本書です。著者が言われるとおり、ビジネスパーソンに読んでもらいたい本ですし、経営者をはじめビジネスパーソンがこれらの経営理論を思考の軸とすることがビジネスの上で有力な武器となると思います。

経営理論とは、入山氏によれば「経営・ビジネスのhow,when,whyに応えること」を目指すものです。howとは因果関係のことであり、whenはその理論の適用範囲のことです。そして何よりも重要なのがwhyで「なぜそうなのか」が説明されなければ理論ではありません。

著者は、「なぜビジネスパーソンに、今こそ経営理論が必要か」について、「説得性」「汎用性」「不変性」の3つの理由があると説明されます。

まず第1の「説得性」について、whyの「説明」「納得」がなければ人は動かないからです。現代は「ダイバーシティ」「ガバナンス改革」「SDGs」「イノベーション」など新しいビジネス課題が次々出てきますが、人や企業は「何故それに取り組む必要があるのか」納得できなければ行動に移しません。経営理論はもはや机上の学問ではなく行動に直結する理論なのです。

第2の「汎用性」ですが、「理論を思考の出発点にするか」(理論ドリブン)か「現象を思考の出発点にするか」(現象ドリブン)で、理論ドリブン思考の方が圧倒的に汎用性が高いと説明されます。「理論⇒現象」の思考軸で経営学を学ぶ方が効率的で応用が利くというのです。

第3の「不変性」ですが、経営理論の説明力は時代を超えて不変だと言われます。理論は、組織と人間の行動・意思決定の本質を根本原理から説明し、そこにwhyの思考の軸を与えるものなので、ビジネス現象が時代とともに変わっても「理論ドリブン思考」が身についていれば思考の軸は分からないということです。

経営理論が実務に貢献しうるルートとして、まず第1は、経営理論がフレームワーク化されることです。理論自体は抽象的で実務で使いやすいとは限らないので、理論を使いやすいフレームワークに落とし込むのです。しかし、この方法はポーターのSCP理論以降発展していません。そこで、本書では、経営理論をビジネスパーソンに直接届け、whyに重点を置いてわかりやすく説明し、ビジネスパーソンの思考の軸になるようにしています。

本書は800頁を超える大作で、もちろん最初から順に読んでもいいでしょうが、関心のある所から、また経営理論の辞書のように使っても良いと思います。最新の経営理論が学べ、かつビジネスの思考の軸が得られるはずです。

次に「世界の経営学者はいま何を考えているのか」です。この本は、当時、ニューヨーク州立大学バッファロー校のビジネススクールでアシスタント・プロフェッサーをしていた著者が、世界のビジネススクールの最前線にいる経営学者が取り組んでいる研究内容を知ってもらうことを目的に分かりやすくエッセイ風に書かれたものです。まず、冒頭に日本人が経営学に抱くイメージや実態に3つの勘違いがあるとされています。その1つにアメリカの経営学者はドラッカーを読まないというのがあります。日本では、ドラッカー・ブームで「欧米の経営学の代表と言えばピーター・ドラッカーの考え」と言われるほどでした。「小学生でもわかるドラッカー入門」とか「もしドラ」の名で有名になった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」その他多数のドラッカー本が大流行になりました。アメリカの経営学者がドラッカーに関心を持っていないというのはこれを読んだときにショックを受けました。しかし考えてみれば、経営学の趨勢からして当然のことです。近時の経営学の流れは、経済学・社会学認知心理学などの理論を取り入れて、「理論⇒統計分析」という演繹的なアプローチが採られるようになっているのです。日本のビジネススクールでみられるような事例分析はあまり流行らないようです。また、ポーターの競争戦略だけでは通用しないと言われています。先ほどのフレームワーク化だけではダメだということがこの本でも書かれています。入山氏の思考の原点がこの本にあるように思います。まず、この「世界の経営学者はいま何を考えているのか」を読んで、「世界標準の経営理論」に取り組んだ方がよいかもしれません。

また、やっぱりドラッカーだという人にお勧めは國貞克則著「現場のドラッカー」(角川新書)です。ドラッカーの教えを実践する方法が伝授されていますが、理論ドリブンではありません。現象ドリブン思考です。ここに書かれている方法が自社に役立つかどうかは分かりません。一つの事例として読んでください。

「理論ドリブン思考」か「現象ドリブン思考」か、正直なところどちらが良いのかはわかりません。それぞれに一長一短があるように思います。両方の思考を身に着け臨機応変に使い分けることができれば、「鬼に金棒」のような気がしますが、これもなかなか困難です。「理論⇒現象」に進み、そのうえで「現象⇒理論」に戻っていくというのが良いように思います。

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