中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 社長のテスト

f:id:business-doctor-28:20200504084156j:plain

おはようございます。

久しぶりにビジネスに関係する本を取り上げます。と言っても肩の凝るビジネス本ではなく痛快ビジネス・エンターテインメント小説です。山崎将志著「社長のテスト」(日経文芸文庫)を紹介します。「ビジネス書にしては面白すぎる。小説にしては勉強になる」と評判になった本です。

登場人物は、西村健一、藤原基彦、阿部常夫の3人。西村は阿部が経営するIT関連会社の社員。藤原は阿部の会社を買収しようと画策しますがうまくいかないことから、西村をスカウトして同業の会社を立ち上げようとしています。一方、阿部はひそかに社長の座を西村に譲ろうとしていますがコミュニメーションが悪く阿部の思いは西村に伝わりません。それぞれに葛藤があり、コンプレックスありで、様々な人間模様が描かれ、秘かな企てから社会を騒がす大事件へと発展していきます。

各章ごとに3人の登場人物のうちの一人が語り部となって物語は進行していきます。

まずは「西村健一の場合」です。明け方に電話で起こされます。会社が火事になったらしい。現場に赴く西村。西村の会社はPCデータの復旧を請け負うベンチャー企業で、顧客から預かった機器類が被害を受け大変な状況になります。西村ら社員がクレーム対応に追われる中で、西村に責任を押し付け逃げ回る社長阿部。西村が主導しながら、顧客対応方針を決めて行きます。だが、会社は火災保険にすら入っていません。西村はどのように顧客に対応するのでしょうか。

  • ここでは、緊急事態が発生した場合、経営者(社長)として、あるいは社員としてどのように対応するかということが問われています。

顧客対応に当たる中で、西村は顧客の一人藤原からテストされて藤原が行おうとしている事業の社長にスカウトされます。

次は、「藤原基彦の場合」です。藤原は元銀行員で、今はいくつかの事業をしているが自販機屋のおやじです。それが嫌で仕方ないというコンプレックスを持っています。藤原は2年前に阿部と知り合い、阿部の会社の買収を考えるようになります。その際社長に据えるべき人間として営業も十分にやれそうな西村に目を付けます。ベッドの横で寝ていた澤井マキの電話に会社が火事だという連絡が入ります。そうした中で藤原は西村を引き抜いて新しい会社を創ることを思いつきます。藤原は西村を食事に誘います。西村は社長就任を受諾する方法で検討していると言います。

  • ここでは社長としてどのような資質が必要かが問われています。

藤原は、自分の半額自販機ビジネスの大口投資家の西園寺に投資額の返済期日や金額の変更を申し入れけんもほろろに断られます。西園寺からバーのフロアーマネージャーのヒロという人物を紹介され、阿部の会社の乗っ取りを依頼する人物の紹介を頼みます。藤原はうさん臭さを抱きながらも「合法的な方法で頼む」と念を押しますが、阿部の会社が火事になったのはその数日後のことでした。これで、新会社を設立し、西村をスカウトして阿部の会社の従業員をヘッドハンティングしたほうが出費が減り西園寺の返済も可能となったのです。

次に「阿部常夫の場合」です。阿部は消防署からの電話で目が覚めます。会社が火事だということです。阿部は秘書の澤井に連絡し従業員らに電話をかけさせます。阿部は札幌に来ています。会社が火事だと聞いて、阿部は「会社を売却して次のビジネスを始める計画を前倒しできるチャンスかもしれない」と思います。阿部は、最近何をしても面白くない、遊び回っても楽しくないし、タワーマンションを手に入れても最高級のベンツに乗っても高揚感が湧かないのです。目標がない、従業員が優秀で任せておけばいい、創業者である以外に自分がすることがないというのです。これ以上自分が社長を続けても、この会社は大きくなれない、自分は大きな組織の経営者に向いていないと思うのです。阿部は札幌で小さなビジネスをしようと考えています。西村から会って相談があると言われ寿司屋で待ち合わせをします。西村から「社長はこの会社を始めようと思ったきっかけは何ですか」と聞かれます。子供の頃から大学、就職、会社を始めたきっかけなどを話します。そして、西村の相談よりも先に「社長をやってくれ」と切り出します。西村から「逃げるんですか。逃げて僕に全部仕事を押し付けるんですか」と詰め寄られます。そして西村からも「会社を辞める」という話が出ます。

  • ここでは、何のために会社を創り、どのように育てどのような姿勢でいくのがよいのかが問われています。

次に「それぞれの展開」です。西村は同僚に声をかけヘッドハンティングを行っています。声をかけた小嶋から、色々と疑問をつきかけられます。藤原から社長にならないかと声をかけられ舞い上がっていたのも事実です。西村は改めて自らの会社の構想を練ります。こうした折、藤原の会社の自販機で販売されていない缶飲料から日本で認可されていない食品化合物が出たというニュースが流れます。ネットで色々叩かれています。西村は、小島から藤原のことについて聞かされます。藤原の会社のPC1台しか修理に出ていないのにクレームがひどかったこと、火事の1週間前に持ち込まれたこと、藤原と澤井の関係などです。西村は、「社長をやらないか」という言葉に舞い上がり、藤原のことを何一つ調べないですぐに藤原の誘いに乗ってしまったことを後悔しています。西村は阿部との話の中で、藤原と会社を創る話をします。話の中で、西村も阿部も藤原という人物がどのような人物であったかが分かりある程度状況が見えてきます。ここで「ビジネスマンとして成長するにはどうしても修羅場を潜り抜ける経験が必要だ」という話が出てきます。阿部は、「俺は火事が起こった時社長としてやる気のない自分に対する神様からの罰だと考えた。西村に成長のチャンスを与えて、自分は罰を受けて暫くおとなしくする。そして頃合いを見つけて別のビジネスを始めようと考えた。ところがことは俺の計画通りに進まない。・・・天与の修羅場。こんな風に思い通りにならないってことは、俺の計画は天から祝福されていない。つまり見直さなきゃならないってことかもしれないと考えた。それからもう一つ、俺にこの試練―テストが課されるということは、天はまだ俺に期待している、ってことかもしれないと」。そう言って阿部は西村に「俺はこのテストを受けようと思う。それには西村の協力が必要だ。なあ、西村。頼む。一緒にやってくれないか」と頭を下げられ、西村の目から涙がこぼれます。

藤原は、ソウルに来て一発逆転を狙い地下カジノで金をかけますが、ここでも天に見放されています。藤原は、自販機ビジネスも売ることが出来なくなり、追い詰められていました。自販機ビジネスでファンドの投資家から集めた金の半分以上をカジノですってしまっていました。

最後に「西村健一の決断」です。ここでは「仕事はいつの時代も人から頼まれることから始まる。だから、いつも人から頼まれる状況を作っておく必要がある。そのためにためておくべきものはお金じゃないかもしれない。ありふれた言葉だが、遅拓それは信頼だろう」と言って、「阿部は僕を信頼してくれている。周りの人間も僕のことを信頼してくれているようだ。もう一度阿部のことを信頼してみよう」と決心するのです。

あれから半年、西村は副社長に就任し、阿部とともに新たに札幌に設立する新会社の準備に追われています。藤原は放火容疑で逮捕されます。彼らは警察から事情聴取を受けていますが、彼らがいま見据えているのは次の未来です。

ビジネス・エンターテインメント小説としても面白い内容ですが、経営者として、ビジネスマンとして、危機的状況でどう対応するか、社長の資質とは何かを考えるにも役立つと思います。社長というのは誰でもできる仕事ですが、続けることが難しいのです。会社自身を成長させ、自分も成長していくためには、好奇心を抱いてあくなき挑戦を続けていくことが必要なように思います。

f:id:business-doctor-28:20200504125305j:plain