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休日の本棚 「ZERO to ONE  君はゼロから何を生み出せるか」

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おはようございます。

昨日の感染者数は全国で601人、そのうち東京218人、神奈川69人、大阪81人、愛知31人などとなっています。東京は2日続けて200人を超え、まだまだ安心できる状況ではありません。ここ1週間の感染状況では、東京1164人(前週1105人)、大阪536人(前週503人)と東京が大阪の約2倍で前週より増えています。東京の1週間の陽性率は3.8%、大阪の陽性率は4.8%で、重症者は東京23人に対し大阪40人となっています。感染者数だけを見ると東京の方が深刻なように見えますが、実際のところは大阪の方が深刻な状況です。

4連休が始まり、観光地や繁華街の人出が8割ほどに戻ってきているようですが、3密を避け新たな生活様式に基づいた行動をとらないと4連休明けに感染者数の急増の懸念が出てきます。毎日言っていますが、各人が気を緩めることなく自覚をもって行動すべきです。

さて、今日はピーター・ティール著「ZERO to ONE」(NHK出版)を紹介します。著者のピーター・ティールは、シリコンバレーで最も注目されている起業家・投資家の一人で、Facebook初の外部投資家となり、航空宇宙、人工知能、先進コンピュータ、エネルギー、インターネットなどの分野で革新的な技術を持つスタートアップに投資しています。この本は、ティール氏が、スタンフォード大学で行った起業に関する講義録です。この本の序文は、先日亡くなられた京都大学産官連携本部イノベーションマネジメントサイエンス准教授で経営コンサルタントでもあった瀧本哲史氏が書かれています。

ティールは、「世界に関する命題のうち、多くの人が真でないと思っているが、君が真だと考えているものは何か」という質問をします。強い個性を持った個人が、世界でまだ信じられていない新しい真理・知識を発見し、人類をさらに進歩させ社会を変えることを究極の目的とし、多数派の意見を覆すことを意義あるものと考えているのです。政治的には個人の絶対的な意思、自己決定を重視するリバタリアンの立場をとっています(昨日もリバタリアンな話をしました)。

ティールは、優秀な学生が経営戦略コンサルタントや弁護士、銀行員などのキャリアについて「あいまいな楽観主義」に基づいて小さな成功を求め社会を変革しようとしないことを痛烈に批判します。

「新しい何かを作るよりもあるものをコピーする方が簡単だ。1がnになったとしても、見慣れたものが増えるだけだ。だけど新しい何かを生み出すたびに、ゼロが1になる。何かを創造する行為は、それが生まれた瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、全く新しい誰も見たことのないものが生まれる」「さて、君はゼロから何が生み出せるのか」 これがこの本のタイトル「ゼロ・ツウ・ワン」です。

ティールは、「新しいものを生みだすという難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない」と前述のような新しいテクノロジー・革新的技術を持つ企業に投資し続けています。まさに、日本においても同じで新しいものを生み出す企業が出てこなければ日本の未来はありません。ところが、日本のスタートアップの場合、ゼロから1を生み出そうとしているのではなく、アメリカで流行っていることを日本向けに焼き直しているケースがほとんどです。スタートアップと言いながら、1をnにしているだけです。

200年4月にドットコム・バブルの崩壊がシリコンバレーを襲います。シリコンバレーに残った起業家たちはそこで次のような教訓を得ます。

  1. 少しずつ段階的に前進すること
  2. 無駄なく柔軟であること
  3. ライバルのものを改良すること
  4. 販売ではなくプロダクトに集中すること

これらの教訓がスタートアップ界の戒律になり、それを無視するとハイテク・バブルの二の舞になると考えられるようになりました。しかし、ティールは、「正しいのは、これらとは逆の原則だ」と言います。つまり、次に4つです。

  1. 小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
  2. できの悪い計画でも、無いよりマシ
  3. 競争の激しい市場では収益が消失する
  4. 販売はプロダクトと同じくらい大切だ

ティールは、完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精いっぱいで長期的な未来に備える余裕はなく、イノベーションを起こすこともできないと言います。ティールが重視するのは独占企業です。独占企業が市場を独占すれば、自由に価格を引き上げますが、独占企業はその収益でイノベーションを起こすことが出来ますし、顧客は高い値段を払ってでも自分の欲しいものを選ぶ自由を手に入れることが出来るのです。ここにまさしくリバタリアンの発想・考え方が出ています。

競争を避けることで独占企業になれたとしても、将来にわたって存続できなければ偉大な企業とは言えません。自問すべき最も重要な問いは「このビジネスは10年後も存続しているか」というものです。

独占企業の特色として次の4つが挙げられています。

  1. プロプライエタリ・テクノロジー…製品やシステムの仕様・企画・構造・技術を開発メーカーが独占的に保持し公開していないこと。これにより模倣されることがなく独占的優位が築ける
  2. ネットワーク効果…利用者が増えることで利便性がより高まること。小さな市場から初めて規模を拡大していく。
  3. 規模の経済…独占企業は規模が拡大すればさらに強くなる。
  4. ブランディング…強いブランドを作る。

これらのいくつかを組み合わせることが独占につながるのです。先ずは小さなニッチ市場(ニッチと言うのはスキマ・誰も手を付けないスキマ)から始め、ニッチ市場を支配したら少し大きな市場に徐々に拡大していくのです。

「成功は決して偶然ではない」と言います。「企業は、確実にコントロールできる、何よりも大きな試みだ。起業家は人生の手綱を握るだけでなく、小さくても大切な世界の一部を支配することが出来る。それは偶然という不公平な暴君を拒絶することから始まる。人生は宝くじじゃない」と言うのです。

ティールは「誰も築いていない、価値あるビジネスとはどんな企業だろうか?」と問います。その正解は「隠れた真実」にあると言います。それは重要だけれど知られていない何か、難しいけれど実行可能な何か、です。この「隠れた真実」を発見すれば世界を変えるような会社が生まれるというのです。その「隠れた真実」を見つけるには誰も見ていない場所を探すことだと言っています。隠れた真実には自然について隠れた真実と人間について隠れた真実の2つがあります。問うべき質問は、自然が語らない真実は何か?人が語らない真実は何か?の2つです。ティールは自分の頭で考えて、隠れた真実を探し出し、そのような企業に投資し続けているのです。

ティールが「ティールの法則」と呼ぶものについて触れます。これは「創業時がぐちゃくちゃなスタートアップはあとで直せない」ということです。偉大な企業はいずれも独特ですが、どの会社も一番最初は正しく行っておかなくてはならないということです。例えばパートナー選びに失敗したり、できない人間を雇ったりと、初めに判断を間違えると、あとで修正できないということです。創業の第一の仕事は、一番初めにやるべきことを正しく行うことです。

創業者にとって、技術的な能力やスキルも重要ですが、お互いをどれだけ知り上手くやっていけるかという相性も重要です。社員においても同様で、社員みんながうまく仕事できるということも重要になります。更に、所有:株主は誰か、経営:日々会社を動かしているのは誰か、統治:企業を正式に統治するのは誰か、ということも重要です。スタートアップで問題・トラブルが起きるのは、この所有と統治の間、つまり創業者と投資家の間です。そして仕事に100%打ち込んでもらうためには報酬が適格でなければなりません。こうしたところをきちんと決めたうえでスタートアップしないといけないのです。最初に間違ってしまうとどうすることもできません。

先の先まで見据える起業家でも20年、30年先の未来を予測できません。しかし、確実に言えることは、未来は自然に起きるわけではないということです。絶滅なのか、それとも進歩なのかはわれわれ自身が選ぶこと、未来が勝手に良くなるわけではなくわれわれが創らければならないということです。

最後にティールは「今できることは、新しいものを生み出す一度限りの方法を見つけ、ただこれまでと違う未来ではなく、より良い未来を創ることーつまり、ゼロから1を生み出すことだ。そのための第一歩は自分の頭で考えることだ。古代人が初めて世界を見たときのような新鮮さと違和感を持って、あらためて世界を見ることで、僕たちは世界を創り出し、未来に残すことが出来る」と言っています。

世の中で真だと考えられている常識を疑い、自分の頭で考えて、「悪れた真実」を見つけ出し、これまで誰もが思いつかなかったような新たなテクノロジーを生み出すというのは、至難の業ですが、これが出来たスタートアップだけが未来を大きく変えることができるのでしょう。日本の未来のためにもこうしたスタートアップが生まれることを期待します。世の中にどうやって新しい価値を創出するのか、新しい何かを創造する企業を立ち上げようとする人には読んでもらいたい本です。

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