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休日の本棚 読書の技法

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1067人、そのうち東京270人、神奈川117人、埼玉101人、千葉113人、愛知40人、大阪77人、兵庫24人、京都8人、福岡52人などとなっています。新規感染者数の減少傾向が鈍化し、下止まりしているように感じます。首都圏以外の6府県について、明日緊急事態宣言が解除されますが、尾身会長をはじめ政府分科会の専門家から出ていた言葉は「リバウンド」です。これからは、緊急事態宣言後のリバウンド対策がきっちりと取られているかが重大な課題になります。われわれ国民一人ひとりも気を緩めることなく、引き続き感染防止対策に取り組んでいきましょう。

今日は、佐藤優著「読書の技法」(東洋経済新報社を紹介します。佐藤氏と言えば、元外務省主席分析官で、作家ですが、月平均300冊を超える本を読む読書家としても知られています。本書は、その佐藤氏流の「本の読み方」を初公開されているもので、大いに参考になります。

佐藤氏は、最近の教養ブームについて、「知力を強化していかなければ生き残っていけないのではないか」という日本人の集合的無意識が反映していると分析しています。こうした傾向は、今回の新型コロナ禍でさらに顕著になっているように思います。佐藤氏の言葉を借りれば、「知は力」で「力は知」で、知識を身につけるのに不可欠なのが読書です。そういうこともあって、私も毎週休日に本の紹介を行っています。

本書は、単に佐藤氏流の「本の読み方」に留まらず、物の見方・考え方、表現の仕方まで視野に入れて書かれていますので、「読書の技法」というよりは「知の技法」と言った方がよいように思います。「知の技法」については別に「知の操縦法」(平凡社というう本を書かれていますが。

まず、読書の大前提として、佐藤氏は、読書とは単に字面を追うことではないので、正しい方法を身につけることが重要だと言います。最初に正しくない知識を身につけるとその矯正には白紙から勉強するよりも時間がかかり厄介です。その意味で、間違った中途半端な知識が書かれた本や基礎知識がないと理解できないような本は論外です。知識を着実に身につけ、人生を豊かにするためには、正しい道に沿って読書をすることが重要なのです。

佐藤氏は、高校教科書レベルの基礎知識をつけるのが、知の伝統を押さえるために、最も確実で効率的だと言っています。大学受験などで勉強した内容は、かなりの部分が記憶の蔵に蓄えられているので、仕事や人生の欲に立てるために再活用するという意欲を持って、再度勉強に取り組めば、効率的に生きた知識に転化するというわけです。

しかし、誰にでも時間という制約がついてきます。その意味で「何をしないのか」「何を読まないのか」という選択を行うことも大切な「知の技法」のひとつとなります。

1.多読の技法

 佐藤氏は、1日に300冊の本を読むと言います。普通の考えれば、よほどの速読の技術がなければ、1日に300冊の本を読むなど不可能です。1冊の本を最初から最後まで一字一句読む必要はありません。しっかりと頭に入れておかなければならない情報だけを選別し、その選ばれた重要情報だけを丁寧に読めばいいということです。佐藤氏も、1日に300冊と言いながら、熟読する本は月に3~4冊だと言っています。

 重要なのは見た目の読書量ではなく、その根底にある基礎知識と強靭な思考力を身につけるための熟読法です。うわべだけの読書量を真似しても意味はなく、基礎知識があるからこそ大量に読みこなすことが可能になるのです。そして、基礎知識は熟読によってしか身につきません。

2.熟読の技法

 本には、「簡単に読むことができる本」「そこそこ時間がかかる本」「ものすごく時間がかかる本」の3種類があります。

 速読術なるものが流行っていますが、佐藤氏によれば、速読術は熟読術の裏返しにすぎず、熟読術を身につけないで速読術を体得することは不可能だと言っています。いくら速く本を読めてもその内容を理解していなければ意味はありませんし、内容を理解するためには最低限の基礎知識が必要です。そのため、佐藤氏は、速読術の目的は「読まなくてもよい本をはじき出すこと」だと言います。数ある本の中から、真に読むに値する本を選び出す作業の過程で速読術を利用するというのです。

 熟読する本を選ぶ際に最も確実な方法は、その分野に詳しい人に聞くことです。周囲にそのような人がいない場合には、書店員の知識を活用する、雑誌や新聞から説得力ある論者を見つけ、自説の根拠なった出典・参考文献の中から入門書を選べばよいのです。そして、基本書を3冊若しくは5冊購入し(1冊では偏ってしまう・最初は奇数冊でないといけない(多数決で決めることができる))、あまり上級の知識をつけようと欲張らないことが重要です。

 そして、重要なことは知識の断片ではなく、自分の中にある知識を用いて、現実の出来事を説明できるようになることです。それができないようなら、本物の知識が身についていないということです。

 佐藤氏が紹介する具体的な熟読の技法ですが、まず本書は書き込みをするために私物を用いることです。

  1. 熟読の技法1 本の真ん中くらいのページを読んでみる(第1読)・・・真ん中くらいというのは、その本の一番弱い部分なので、あえて、その部分を摘まみ読みすることで、その本の水準を知る。
  2. 熟読の技法2 鉛筆、消しゴム、ノートを用意する(第1読)
  3. 熟読の技法3 鉛筆で重要な部分に線を引きながら読む(第1読)・・・重要な部分に鉛筆で線を引き、特に重要と思う部分はページの端を折る。
  4. 熟読の技法4 本の囲みを作る(第2読)・・・1回目で線をひいた部分で特に重要と思う部分を囲む。
  5. 熟読の技法5 囲み部分をノートに書き写す・・・よく分からない部分には「分からない」、説の対立があれば「○○の言説とは対立」と欄外に書き込む。
  6. 熟読の技法6 結論部分を3回読み、もう一度通読する

3.速読の技法

 佐藤氏は、速読にも1冊を5分で読む「超速読」と、30分で読む「普通の速読」があると言います。「超速読」は試し読みで、これによって①熟読する必要があるもの ②普通の速読の対象にして読書ノートを作成するもの ③普通の速読の対象にするが、読書ノートを作らないもの ④超速読だけでやめるもの に分類するというのです。この超速読は本の仕分け作業です。と言っても、どのような書物を超速読するにせよ、当該分野の基礎知識がないとできないことなので、基礎知識があることが前提です。

 「超速読」の技法は、5分の制約を設け、最初と最後、目次以外はひたすらページをめくるのです。

 次に、佐藤氏が薦める「普通の速読」は次の通りです。

  1. 普通の速読の技法1 「完璧主義」を捨て、目的意識を明確にする
  2. 普通の速読の技法2 雑誌の場合は筆者が誰かで判断する
  3. 普通の速読の技法3 定規を当てながら1ページ15秒で読む
  4. 普通の速読の技法4 重要個所は鉛筆で印をつけ、ポストイットを貼る
  5. 普通の速読の技法5 本の重要部分を1ページ15秒、残りを超速読する
  6. 普通の速読の技法6 大雑把に理解・記憶し、「インデックス」をつけて整理する

 ビジネスパーソンを始め多くの人は、朝の限られた時間で新聞に目を通します。この普通の速読の技法は新聞の読み方を応用したものだそうです。

4.読書ノートの作り方

 本を読み終えてもしばらく経つと、何が書いてあったか記憶が薄らぎます。いかに内容の良い本を読んでも必要な時に引き出せなければ意味がありません。その点を改善してくれるのは、読書後30分かけて、線で囲んだ部分をノートに書き写し、その下に簡単なコメントを書くという読書ノートの作成です。

 読書ノートを作る最大のポイントは、時間をかけすぎないこと、書くべきことを取捨選択することも記憶の定着に大きく寄与します。大切なのは、正確な形でデータを引き出せること、積み重ねた知識を定着させることで、完璧なノートを作ることではありません。コメントも最初は「分からない」「違和感がある」「反対」というだけでよいのです。自分の意見が書けるようになれば、十分に理解して運用できる水準に達している証拠です。

本書には、教科書や学習参考書の使い方や小説や漫画の読み方についても触れられています。

佐藤氏は、「小説や漫画で基礎知識をつけようとしてはいけない。あくまでも『動機づけ』に留めるべきで、そこで書かれていることを鵜呑みにしてはいけない」と言っています。小説や漫画で、歴史や経済について学ぶという横着な発想を持つべきではなく、知識は概説書や専門書で身につけるものです。また、佐藤氏は、小説や漫画は「社会の縮図」「人間と人間の関係の縮図」としてアナロジー的に読むことで、現実の社会や人間を理解する手掛かりにすることができると言っています。また、小説や漫画で、読者に支持される作品には、何かしら時代を映し出す部分があるので、小説や漫画を否定して、一切手を付けない、読まないというのは、小説や漫画で勉強しようというのと同じくらい間違った考えだと言っています。

以前、藤寺郁光著「『鬼滅の刃』の折れない心をつくる言葉」(あさ出版)や古野俊幸著「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれるあなたの知らないあなたの強み」(日経BP)を紹介しましたが、「鬼滅の刃」や「宇宙兄弟」が流行る理由も分かります。

佐藤氏流の「正しい読書法」を身につければ、人生を何倍にも豊かにすることができるように思います。読書によって数十人分もの経験を身につけることができますし、自分とは異なった見方や考え方に触れることもできます。

人生は限られていて読書に費やすことができる時間も限られています。しかし、読書をすると言っても、知識を身につけるために専門的な本や概要書だけを読んでいても息が詰まります。時に息抜きが必要です。そうした時には小説や漫画を読んで、そこから、社会や人間関係を理解する手掛かりを得ることも重要です。

何はともあれ、読書は素晴らしいものです。

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