中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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トップに必要な「勇気」と「共感能力」

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2831人、そのうち東京508人、神奈川215人、埼玉122人、千葉99人、愛知288人、大阪226人、兵庫70人、京都46人、岡山31人、広島57人、福岡102人、沖縄244人、北海道300人などとなっています。新規感染者数は減少傾向にありますが、重症者数は1277人と1000人超えの高い数字で、死者も111人と3日連続で100人を超えています。まだまだ予断を許しません。

さて、今日は、NIKKEI STYLEの「『あうんの呼吸』は通用せず 言葉は力、雑談も英語で」という記事を取り上げます。この記事は、医療機器大手テルモの佐藤慎次郎社長に話を聞いたものですが、参考になるところが多いので紹介します。

テルモは、160の国や地域で事業を展開し、売上の7割を海外で稼いでいるグローバル企業です。佐藤社長は、多様性に富む職場でいかに使命感を持って働いてもらうかに心を砕き、最も大切にしてきたのは「現場で一緒に考える姿勢と、一人一人が抱える感情に思いを致す共感力である」と言っています。

1.外国人に「あうんの呼吸」は通用せず

 日本人同士であれば、あえて言わなくても相手は分かってくれるはずだと甘えてしまうところがありますが、外国人には通用しません。むしろ「はじめに言葉ありき」です。すべてを言語化しななければ通用しません。

 コロナ禍という厳しい環境下で、多様な人々をつなぐのは「自分たちは何のためにこの会社で働いているのか」という共通の理念や価値観です。それらを普段から言語化して共有しておくことが大切です。

 これは外国人だけに限ったことではありません。コロナ禍でリモートワークが進み、対面のコミュニケーションが減少し、日本人同士でも「あうんの呼吸」が通用しにくくなっています。昨日も書きましたが、おじさん世代とZ世代とでは「あうんの呼吸」などほとんど不可能です。

 リーダーは、これまで以上に言葉やコンセプトを提示し、丁寧なプロセスで浸透させていく力が求められます。

 佐藤氏は、「日本人に対しても杓子定規ではなく、カジュアルなコミュニケーションの機会を持つようにしている」と言います。用件だけを話して、ハイ終わりではなく、できるだけ雑談をするというのです。先日来書いているように対話や雑談は、暗黙知形式知化するためにも、より良い人間関係を築くためにも有用です。

 さらに、佐藤氏は、もう一つ大切なことは「一緒に何かに取り組む姿勢」と言います。相手が悩んだり、息詰まったりしているときに、リーダーは自ら動き、一緒に考えることが大事だと言っています。メンバーと一緒になって真剣に考えることで「この人は一緒に考えてくれた」という認識が生まれ、信頼や一体感が生まれるのです。

2.人材配置 「専門性」と「強み」は違う

 人材配置においては、一人一人の強みを生かすことが重要になります。概して人事において、「この人はこういう専門性があるから次も同じような部署で」となりがちですが、佐藤氏は、「『専門性』と『強み』は違う」と言います。

 「専門性」だけを見ていたのでは適材適所に人材を配置することはできません。その人の本当の「強み」はどこにあるのかを見極めることです。そうすることで、その強みを生かし、なおかつ仕事の幅を広げられる場として、これまでとは違う別の部署を任せてみようかなどと考えることができます。人事にもクリエ―ティビティーが必要なのです。これまで何度も書いているジョブ型雇用では、職務記述書により職務内容が明確に定義されており、むしろ「専門性」に重点が置かれています。これではその人が本来持っている「強み」が生かされないことにもなりかねません。ジョブ型雇用にも利点はありますが、「強み」を生かし適材適所に人を配置できるメンバーシップ型雇用の利点も見逃せません。その意味で、以前書いたハイブリット型雇用が有用です。

 また、佐藤氏は、リーダーシップについて、「勇気」と「共感能力」が必要であると言います。

 「勇気」というのは決断力とは違い、もっとエモーショナルな意味を込めたものだそうです。「うまくいくか、いかないかではなく、うまくいかなくても納得できるか」ということで自分を奮い立たせることです。つまり、決断に至るプロセスに恥じるところがないかを自分に問いかけ、「自分が納得するまで考え抜いた」という自信が持てれば、勇気が湧いてくるのです。経営者やリーダーは「失敗したらどうしよう」という恐怖に打ち勝ち、自分の筋立てに納得し、覚悟を持つこと、それが佐藤氏が言う「勇気」です。

 「共感能力」というのは、一人一人の事情や気持ちに思いを致し、理解しようとすることです。企業には多くのステークホルダーがいます。全員を満足させることは不可能ですが、リーダーには少なくとも「共感能力」は必要です。

3.トップの後ろには誰もいない

 経営トップにまで上り詰める人は、たいてい高い知性や実行能力を備えています。しかし、「勇気」と「共感能力」は、これまでの出世競争で培われてくるものではありません。佐藤氏は、「トップとその一つ手前のポジションの決定的な違いは、振り返っても誰も後ろに控えていないという点である」と言っています。それは、最終的な責任は自分が取るしかないという重みです。その立場にならなければわかりませんし、なって初めて問われるのが「勇気」と「共感能力」と言っています。私自身、「勇気」と「共感能力」がトップ以外に必要ないのかと言えば疑問で、トップでなくてもある程度の地位・立場にある人にも「勇気」と「共感能力」は必要だと思います。もっと言えば、すべての社員にも「勇気」と「共感能力」は必要かもしれません。しかし、トップ以外の人の「勇気」と「共感能力」は、トップにある人に求められるものとは質が違います。

 トップに求められる「勇気」と「共感能力」は極めて重いものです。

 経営トップは、すべてのステークホルダーの気持ちに思いを致し理解したうえで、何が最適かを考え、自分の筋立てに納得し決断する必要がありますし、その責任はすべて自分にかかってきます。経営者というのはある意味孤独な戦いを強いられるものなのです。しかし、勝てば喜びはひとしお、その喜びをすべてのステークホルダーと分かち合うことができるのです。