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休日の本棚 イノベーションの罠

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2093人、そのうち東京235人、神奈川251人、埼玉142人、千葉119人、愛知173人、大阪240人、兵庫115人、京都39人、福岡115人、沖縄61人、北海道63人などとなっています。感染者数だけを見ると、第4回目の緊急事態宣言発令前の状態に戻っていますが、緊急事態宣言解除には医療体制のひっ迫度を中心に判断されるべきで、解除期限の直前まで見極める必要があると思います。緊急事態宣言解除後の行動制限緩和について色々と議論がなされていますが、これまでの経験から、解除後一気に気が緩み2週間後にはリバウンドして感染者が増加することが分かっているので、気を緩めることなくこれまで通り基本的な対策をとり続けていくしかありません。韓国では、連休で人出が増えたことや会食の人数制限を緩めたことで、再び感染者数が急増しています。こうした海外での事例も参考にしながら、行動規制緩和も、どうしたらリバウンドを抑えることができるのか、どうすれば普通の生活に戻すことができるのか、一つひとつ段階的に確認しながら急ぐことなくゆっくりと進めていくべきです。

さて、今日は、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビューに掲載された論文の中から、ロザベス・モス・カンター氏の「イノベーションの罠」を紹介します。カンター氏は、ハーバード・ビジネススクール教授で、経営管理論が専攻です。

コロナ禍でイノベーションが脚光を浴びていますが、イノベーションは決して一過性の流行ではなく、流行ったり廃れたりを繰り返しながら企業の成長要因として注目されるものです。

「これからはイノベーションである」などと華々しく宣言しておきながら、その後の施策が凡庸なために尻すぼみに終わるケースが後を絶ちません。その後、コスト削減に傾くとイノベーション・チームは解散に追いやられます。また、経営者が変わるたびに、新たなイノベーション志向が掲げられますが、やがて、イノベーションの阻害要因という、古くて新しい難問に突き当たります。

これまで、環境が変わりイノベーションの種類も様々でしたが、同じジレンマに陥っています。それは、目先の成功に欠かせない既存事業からの売上げと、将来の成功に欠かせない新コンセプトの開発を両立することの難しさです。

クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ」で指摘しているように、業界トップとなった企業が既存顧客の声に耳を傾けすぎ、さらに高品質の製品やサービスを提供することでイノベーションに立ち後れ、新興企業に後れを取ってしまうという事態が生まれます。

このようにイノベーションのジレンマについては多くの知見が示されているにもかかわらず、経営者の多くは、無知や弱気のままです。「更なるイノベーションを」と言いながら「前例はあるのか」と問い、「新しいアイデアを求めている」と言いながら、新しいアイデアが出されるとすべて却下してしまうというのが現実なのです。

カンター教授は、この論文で、イノベーションの罠に関する知識とその忘却を回避する方法を提示しています。

1.イノベーションの罠

⑴戦略面の過ち:高すぎるハードルと狭すぎる視野

 高価格と高マージンにつられた経営者は、大ヒットをもたらすイノベーションを探し求めます。その過程において膨大な経営資源が投入されますが、そもそも大ヒットには当たることは難しく、しかも予測不可能なものです。その間、キラー・テクノロジーを追い求めるあまり、一見すると小粒のチャンスをなおざりにしてしまいます。その小粒のチャンスにこそ、将来の大ヒットにつながる芽があるのを見落としてしまうのです。

 多くの企業では、数年である程度の規模の売り上げが見込めないアイデアはすべて却下されているのが現状でしょう。その結果、既存路線と大差のないおよそイノベーティブとはいいがたいアイデアが採用され、昔ながらの市場調査と測定方法になじまないアイデアや、経験則から外れるアイデアへの投資は控えられているのです。これでは何も新しいものは生まれません。

 画期的なイノベーションとは呼ぶことのできない、せいぜい製品にささやかな変更を施すだけのアイデアは、製品を増殖させるだけで、その結果、ブランド価値が希薄化したり、顧客を混乱させたり、社内プロセスの複雑さを増やしたりして、最終的にはクリステンセン教授が言うように新興企業に後れを取って企業自体が衰退するのです。

⑵プロセス面の過ち:厳しすぎる管理

 既存事業と同じ計画立案、予算編成、業務評価という厳しい管理を通じて、イノベーションを縛ろうとします。しかし、イノベーション・プロセスは、そもそも不確実なものであり、脱線したり、後戻りしたりと想定外の事態は避けることはできません。既存事業のプロセスの枠組みの中で行うには限界があるものです。

⑶組織面の過ち:弱すぎる連携と強すぎる組織の型

 生まれたばかりの新規事業に既存事業と同じプロセスを当てはめるのは危険ですが、さらに、企業文化や相反する重要課題との衝突を避けるには、これら新旧事業体の組織構造にも配慮しなければなりません。

 その場合、新規部門と既存部門の連携が重要になります。縦割り組織では、イノベーションのチャンスが巡ってきても、これを逸しやすいのです。事業の姿を一変させるイノベーションは、既存の販売チャネルをまたぐものや、様々な既存能力を新たな形で結合させたものが多いのです。既存部門と新規部門の連携が図れる組織構造に再編しなければならないのです。

⑷スキルの過ち:弱すぎるリーダーシップとつたないコミュニケーション

 イノベーション活動における人間的側面を過小評価するという過ちです。

 多くの場合、経営者は、プロジェクト・リーダーに向いている人材ではなく、最高の技術者にイノベーションを任せてしまいます。技術志向が強いマネジャーは、アイデアが役に立つかどうかは自明の理であると思い込み、外部とのコミュニケーションを怠りがちになります。チームの結束こそ最重要であるにもかかわらず、任務を優先してチームの結束を固めるチャンスを失ってしまいます。これでは、多様なチームメンバーの強みを活かすことができません。

 素晴らしいアイデアが触発されるような信頼関係や相互作用を、メンバー間に築き上げるには時間がかかります。そのためには強いリーダーシップが必要ですし、コミュニケーションをないがしろにしてはいけないのです。

2.イノベーションを成功させる処方箋

 ブレークスルーとなるアイデアや製品、サービスをいかに追い詰めても、上で述べた過ちのいずれか、あるいはすべてで頓挫してしまう恐れがあります。しかし、カンター教授は、過去に学ぶことによって、イノベーションを成功させる方法を知ることができるとして、次の方法を提示しています。

⑴戦略面の改善策:イノベーションを探索する範囲と活動領域を拡大させる

 カンター教授が「イノベーションのピラミッド」と呼ぶ階層は三層に分かれ、その各層に効果が及ぶようなイノベーション戦略を策定することです。

  • 最上位に属するもの:大規模イノベーション 小さな成功を牽引する作用があるため、ピラミッドの上から下へとその影響が波及していく。下から上へと波及する場合もある。
  • 中層に属するもの:中規模の有望アイデア群 これらのアイデアを広げ、テストを担当するチームが中心となって取り組む。
  • 最下層に属するもの:まだ生煮えのアイデア 継続的改善による斬新的イノベーションからなる、いわばくぃのベーションの苗代である。

 イノベーションは、全員参画の文化から生まれ、育っていくものです。専任チームが大型プロジェクトを推進し、臨時チームが中規模のアイデアの展開を図り、残りの全社員から提案を募ります。全社員がもれなくアイデアの提案者となり、プロジェクトの予備軍になることです。

 アイデアを幅広く募り、小さなアイデアをたくさん集められる企業の方が、大きなアイデアを獲得できる可能性が高いのです。イノベーションを次々に生み出している企業は共通して試行回数が多く、これが成功のカギになっています。

⑵プロセスの改善策:計画立案と管理システムの柔軟性を向上させる

 イノベーションは既存事業と同じプロセスでは上手くいきません。想定外の事象が多く起きます。硬直的な計画策定と管理システムでは画期的なイノベーションを起こすことはできません。画期的なイノベーションには柔軟性が必要です。

 計画スケジュールに縛られることなくイノベーション活動を活発化させるうえで、予想外のチャンスに備えて別勘定の資金をプールしておくことも有用です。

 また、イノベーション・チームが予期せぬ障害で再考を迫られた場合、状況に柔軟に対応できるかがカギになります。

⑶組織面の改善策:イノベーション・チームと既存部門を緊密に連携させる

 既存部門と同じ管理体制の下では、イノベーションは途中で潰れることにもなりかねません。そうならないためには、杓子定規な管理を緩める一方、イノベーション・チームと既存業務に携わる社員たちとの連携を強化しなければなりません。

 イノベーションを起こすには、これまでの縦割りではなく、組織横断的に連携する必要もあります。

⑷スキル面の改善策:人間関係を重視するリーダーを選抜し、声安保レーションによってコミュニケーションを支援する文化を醸成する

 プロジェクト・リーダーのスキル開発のたけた企業ほど、イノベーションの成功率は高いものです。

 得てして、新しい製品やサービスを連鎖的に生み出すイノベーションにミドル・マネジメントは反感を抱くものです。ミドル・マネジメント層に生じた緊張を緩和させるためには、自分に協力的な上層部との人間完成を強化し、上層部を通じてイノベーションの必要性、イノベーション・チームの特殊性を伝え、ミドル・マネジャー層へ働きかけてもらうことが重要になってきます。

既存企業が、イノベーション活動をとん挫させてしまう罠に陥るのを回避する方法は、次の4つということになります。

  1. 新しいアイデアを探す範囲を広げること
  2. 厳しすぎる管理と硬直した組織構造を緩めること
  3. イノベーションの推進責任者と既存事業の連携を改善すること
  4. コミュニケーションとコラボレーションのスキルを磨くこと

イノベーションは、企業の将来を創造するアイデアをもたらします。しかし、カンター教授は、「経営陣が真摯に過去に学ばない限りイノベーションを求める旅は徒労に終わる」と言います。

既存企業から得られる利益の最大化と新規事業の探索のバランスを図ることが重要です。そのためには、組織の柔軟性と人間関係への配慮は欠かせません。このことは、昔も今も、そして将来においても不変の事実なのです。