中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

アーキテクト思考

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で204人と一応落ち着いているように見えますが、北海道は40人と増えています。これまで北海道での感染者数増加に従うように他の地域も増加に転じる傾向があります。今後の感染者の動向に気を注意する必要があると思います。また各地でクラスターも発生し、ワクチン2回接種した人にも感染者が出ています。ワクチンを過信するのではなく、これまで通りの感染予防策は続けていきましょう。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「大企業でイノベーションを起こすための効果的な方法」という記事を取り上げます。

イノベーションを起こすことは大企業のみならず中小企業でも困難です。特に、環境変化が著しく先行きを見通せない今の時代においては、なおさらこれまでの方法や思考は通用しません。この記事では、今の時代に必要な思考方法は「アーキテクト思考」だと言っています。

アーキテクト思考」とは、「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のことで、「具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法」と言われています。

これまでであれば、比較的問題や課題が単純・明確であり、解決策を見つけることが重視されていましたが、混迷する時代では何が問題で何が課題かすらわかりません。問題や課題の解決以前に問題や課題を発見することが重要になってきているのです。

アーキテクトというのは建築士や設計士のことで、すでにある場からスタートするのではなく、何もない更地にゼロベースで線を引くという、あたかも何もない更地に建築家がどのようなコンセプトを持った建物の全体像をどのように描いてユーザーの望む生活を実現するのかといった発想が「アーキテクト思考」です。

1.出来上がった組織からはアーキテクトは生まれない

 先日「イノベーションが上手くいかないワケ」で書きましたが、どのような企業も時が経つにつれて老化していくので、組織の老化は避けて通ることはできません。

 創業時やスタートアップ企業では

  • 一枚の白紙から構想を描き
  • 会社全体を視野に入れ
  • 時に孤独で一人で熟考し
  • 既存の常識やルールの制約を取り払って自由に発想し
  • 会社の代名詞として個人色を打ち出す

ということができています。まさに「アーキテクト思考」で物事を考えて事業に活かしているのです。しかし、組織が硬直化すると、出来上がったルールや制約に縛られて自由な発想ができなくなってきます。

 これまでであれば、イノベーションやトランスフォーメーションを起こすことができなくても生き延びることは出来ました。しかし、先行きが見通せず何が正解かわからない混迷した今の時代では、これまでのような方法や思考では生き残ることは難しくなっています。

 先日も書きましたが、イノベーションを起こすことができればそれに越したことはないのですが、スタートアップ企業と同じようにイノベーションを起こそうと考える必要はないのではないかと思います。問題は自社が抱える問題や課題は何かを明確に把握することとその解決方法を見つけることです。この点に焦点を当てることなく「イノベーションイノベーション」と叫んでみても何も始まりません。小手先だけの改善を試みても組織全体の変革はできません。

2.様々なレベルや場面で変革や新たな発想が求められている

 イノベーションを起こすか起こさないかは別として、これまでの考え方を変えなければ、この激変するビジネス環境の中で生き残ることはできません。

 先ほども書きましたが、今の時代、何が問題で何が課題かすらわからなくなっています。このような時代には、様々なレベルや場面で、変革や新たな発想が求められています。解決以前に問題や課題を明確にする「アーキテクト思考」は有効です。

3.経営陣に多様性を持たせるためのガバナンス改革が重要

 出来上がった組織ではアーキテクトが生まれにくいのはやむを得ないことですが、この記事では、「老化した企業が生き残っていくためには新陳代謝を挙げ、新陳代謝をしっかりと行うことが重要」と言っています。そして、そのためには、「多様性のある経営陣を選ぶ仕組みを作る」ことが大切になります。

 スタートアップ企業であれば、起業家がアーキテクトとして企業の成長を推進していくことに集中でますが、大企業では、アーキテクトの役割に加えて調整型や独裁型のマネジメントの能力も求められ、マネジメント人材の多様性が更なる成長のカギとなります。スタートアップ企業とは異なり、成熟期、衰退期を迎えている事業を管理しつつアーキテクト思考力を備えた人材を見出し、新規事業の創出や新製品の開発を担う人材として適所に配置すること、更にはアーキテクト思考を身につけた人材の育成にも力を入れることが重要になってきます。

4.事件は現場で起きている

 多様性という点でガバナンス改革の話をすると、社外取締役を増やし、女性や外国人を社外取締役から迎えるという形式論に走りがちです。小手先だけの多様性など何の意味もありません。ダイバーシティ(多様性)の基本は、多様性でくくられることになった特性(性別・人種・宗教・価値観・障碍者・ライフスタイルなど)を持った存在を認め合い、活かしあうことです。会社内で、外国人、女性、障碍者、若手・パート・再雇用者など区別されやすい存在を差別的な目で見ることなく、認め合い、いかにその特性を生かし活躍できる環境を作っていくかということが重要です。形式ではなく中身です。それぞれの企業、事業におけるライフサイクルのステージに合わせマネジメントの多様性が担保されていれば、別段男性だけの経営陣であっても日本人だけの経営陣であっても問題はありません。

 また、経営陣を刷新したところで、現場が変わらなければ意味はありません。

 この記事では「具体と抽象を行き来しながらゼロベースで全体構造を描くことで全体のバランスが取れた地図を描くことができる」と言っています。そしてこの地図を現場と共有することが大切なのです。

 「SF思考」の時にも書きましたが、未来像がポジティブであればあるほど、共感する人が多ければ多いほど実現する可能性は高まります。経営者が語る未来像が社員に腹落ちし納得できれば、「一緒にやろう」という人は増えていきます。現場の共感なくしてイノベーションも組織改革もできません。

 

 

 

モチベーション幻想?

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で153人で、26県で新規感染者ゼロとなっています。このところ、日本で新型コロナ感染は落ち着いていますが、欧州、ロシア、中国、タイなどで感染拡大しており、第6波の懸念は払しょくできません。国民の7割以上が2回のワクチン接種を終えていますが、時間の経過に伴い有効性も低下するので第3回目のワクチン接種をいつ行うかで、第6波を先送りすることができるでしょう。厚労省も3回目のワクチン接種を前倒しして来月1日から実施できるようにするようですが、ワクチン接種には自治体の協力が不可欠で、準備ができていないのが現実です。医療従事者等への接種が12月から始まったとしても一般の人が接種できるのは来年2月以降になりそうです。そうなると、来年1月頃から第6波が起きます。これを抑えるには、医療体制の充実と国民一人一人の意識を高め感染防止対策を進めていくしかありません。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「優秀なリーダーは『部下のモチベーション』を高めない」という記事を取り上げます。

これまで、部下のモチベーションを高めるにはどうすればいいのか、について色々書いてきましたが、この記事では「部下のモチベーションを高める必要はない」と言っています。今本当に求められているのは、「部下を厳しく『管理』することなく、それでも『圧倒的な成果』を上げ続けること」です。そのためにリーダーはどうすべきかということです。

1.「モチベーション幻想」に縛られない

 「やる気がない」「本気が見えない」「言われたことしかしない」リーダーにはいろいろな悩みがあります。こうした悩みを解決しようとするとき、「どうやってモチベーションを高めればいいか」と考えがちです。つまり、リーダーは、メンバー(部下)のモチベーションを高めればあらゆる悩みは解決すると考えてしまうのです。

 この記事では、これは多くのリーダーがとらわれている「幻想」だというのです。

 確かに、モチベーションを高めれば必ず成果が上がるということはありません。モチベーションが高くても成果を出せない人もいますし、モチベーションが低くても成果を出している人もいます。一概に誰でもモチベーションを高めれば成果を出すとは言い切れないのです。

 しかし、多くの人はモチベーションを高めれば成果を上げますし、チーム全体で見た場合、モチベーションを上げれば個々人の成果にはばらつきが出てもチーム全体の成果は上がります。

この記事のように「モチベーションは幻想」とは言い切れないのではないかと思います。だからこそ、これまでも多くの学者がモチベーションを高めるにはどうしたらいいのかを考え、様々なモチベーション理論が展開されているのです。

2.真面目なリーダーほど「やる気低下」を気にする

 人というのは、時が経つにつれてモチベーションは下がるものです。入社早々は気概に満ちてやる気満々で仕事に取り組んでいても、数年経つと要領を覚え気を抜きやる気が低下します。メンバーが要領よく仕事をこなしていると、真面目なリーダーは「モチベーションが下がっている」と判断し、気にするようになります。そして、「部下のモチベーションを高めるにはどうすればいいか」と悩みはじめます。

 真面目なリーダーほど「部下のモチベーションを高めることがリーダーの仕事」と考えています。部下のモチベーションを高めるために、𠮟咤激励したり、あえて難しい課題を与えてチャレンジ精神に火を付けたり、賞与・昇給・昇進などのアメをちらつかせたりとありとあらゆる手段でモチベーションを高めようとします。

 この記事では、「こうしたやり方はもはや上手くいかなくなりつつある」と言っています。その理由として、熱量の低い部下への働きかけが、ハラスメント回避やリモートワーク、VUCAといった環境変化の結果、ある種の機能不全に陥っているからだというのです。

 果たしてそうでしょうか。ハラスメントやリモートワーク、VUCAといった環境変化がモチベーションと直接関係しているものではありません。上司が部下のモチベーションを高めようとすることがハラスメントになるわけではありませんし、リモートワークや環境変化でもモチベーションを高めることは可能です。こうした問題・課題があったとしてもモチベーションを高めることはできますし、それによって成果を上げることはできるのです。

モチベーションは、具体的でチャレンジングな目標設定と恒常的なフィードバックで、人為的に高められるものなのです。そしてそのためにリーダーの役割は大きいのです。

部下の育成方法についてはこれまで何度も書いていますが、「認めて、任せて、褒める」です。部下は上司から褒められ場合、認められた・信頼されていると感じ、モチベーションは自然と高まります。しかし、その前提にあるのは、あくまでも、部下との信頼関係・人間関係です。信頼関係がないのに小手先だけでモチベーションを高めようとしても上手くいくはずはありません。

まずは、コミュニケーションを通じてより良い人間関係・信頼関係を築き上げることです。部下のことを心底思い、部下の心に響く言葉をかけることです。「褒める」時だけでなく「叱る」ときも同じです。

部下のモチベーションを高めることがリーダーの仕事ではありません。これはこの記事が言っている通りです。

リーダーの仕事は部下を成長させることです。部下を「認めて、任せて、褒める」こと、心底部下のことを思い、言葉を心に響かせるならば、部下は素直にその言葉に従い、期待に応えようと、自己を成長させようとモチベーションを高めていくでしょう。

     

SF思考

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で79人で、29県で感染者ゼロとなっています。昨日6月~9月期のGDPが発表されましたが、2四半期ぶりのマイナス成長です。新型コロナによる緊急事態宣言の長期化、無観客の東京五輪などが影響しています。緊急事態宣言の解除により人出も増加し、10月~12月期は消費は上向きつつあるようですが、原油価格の高騰に伴う物価上昇、半導体不足の影響や第6波の懸念などで先行きは不透明です。アメリカではコロナ前の水準に戻っていますが、日本ではコロナの被害が小さい割に回復が遅れています。もともとコロナ前から成長率は低く、アベノミクス以来の政府の政策によるミスです。コロナのせいではありません。コロナが比較的落ち着いている今こそ、経済の回復に向けた抜本的な対策を行うべきです。バラマキの小手先の対策では何の役にも立ちません。長期的な視点でもって日本経済の立ち直りを図ってもらいたいものです。

さて今日は、ダイヤモンドオンラインの「優れた経営者にはもう常識!世界標準のビジネスをドライブする『SF思考』」という記事を取り上げます。

SF思考」というのは、三菱総合研究所筑波大学との共同研究から生まれたもので、現在と非連続的な未来を構想し、現実を変えていくためにSFを活用しようとするものです。

文学にしろ、映画にしろ、漫画にしろ、SFは「科学的思考法から発想した世界構造」を掘り下げるという点に特色があります。SFの場合、現代社会のリアリティや人間心理の掘り下げよりは、まず世界の構造を考え、その後にそこに生きる人間の行動や思考に思いをはせるというアプローチです。このアプローチはまさに未来を構想するための方法論と合致します。

複雑な新技術が実装された社会をシミュレートしたい場合もSFは役立ちます。例えば、AIは便利な反面、これまで人間が行ってきた判断をAIに委ねるというリスクが伴います。例えば「自動運転AIの問題点や決断のポイント」という問題について、SF的な発想をすれば、背景世界から各場面を想像でき、難しい決断をするためのヒントが得られるはずです。

新規事業を構想する場合でも、ゼロカーボンの温暖化対策にせよ、競合の動きや過去の成功体験に学ぶだけでは革新的な取り組みはできません。日本だけでなくグローバル(地球全体)に、更には宇宙まで視野を広げなければなりません。これからのビジネスにはどうしてもSF的な発想は不可欠なのです。

1.日本人のSFリテラシーは世界一

 欧米では、SF的な発想をビジネスに活用するということが、ごく普通に行われています。

 日本人は、「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「銀河英雄伝説」「エヴァンゲリオン」などといったSFアニメで育ってきました。日本人は、SFの英才教育を受けたSFエリートなのです。それにもかかわらず、日本企業にはSFプロトタイピングが広がらないのです。それは、日本人が真面目すぎるからだと言われています。趣味と仕事は別、仕事にSF的な話を持ち込むのはNGと考えているのです。

 この記事では、「今の45歳~50歳くらいの人は受験戦争も厳しかったし、真面目に一社で勤め上げようというマインドが強くて考え方が固まってしまっています。変人が少ないのです」と言っています。企業に変革をもたらすためには、良い意味での変人でなければなりません。

 日本の企業では、これまで「自分はSFが好きで」などと公言するのもはばかられるような雰囲気がありました。自分が好きなものを堂々と公言し、それをビジネスに活かすことはできないのか、そこから新しいアイデアは生まれないのかを考えることでイノベーションを起こせるかもしれないのです。

2.「腹落ち」していない人は変われない

 日本では、自分の意見をはっきりと口に出して言葉にするのがはばかられ、自分の意志を言葉にする機会が極端に少なくなっているように思います。

 日本では、組織や企業だけでなく、社会全体に「同調圧力」が蔓延し、自分の考えや意見と異なる判断基準を押し付けられ、その押し付けられた判断基準に従って行動してしまいます。多数派の意見に従わなければ不利益を被るかもしれないと感じ、多数派に同調してしまうのです。

 しかし、こうした閉鎖的・同質的な日本のの社会構造や企業の体制では、IT化やグローバル化に伴い大きく変化した社会では上手く回りません。社会構造や企業の体制を大きく変革しなければなりません。

 自分の意志を言葉にできないということは「暗黙知の形式化」ができていないということです。

 この記事では、SF思考も「自分がやりたいこと」を他人に伝わるように形式化する手段だと言っています。今の時代に正解と言えるものはありません。誰も先が見通せず、何が正解かわからないのです。だからこそ「何をやりたいか」という意思がなければ前に進めないのです。

 「自分は何のために働くのか」という意思が明確でないまま、上から降りてくる仕事だけをこなすというのでは、どんなに優秀な人でもリスクは取れませんし変化もできません。成長できないのです。

 先日書きました「パーパス経営」も、企業としての意志=存在意義を明確にして、従業員に腹落ちさせようというものです。従業員にパーパスを浸透させ、従業員がそれに共感できなければ、パーパス経営などできません。

 日本企業の多くはパーパスを上手く作ることはできていません。

 それには経営者の任期が短いというのが原因の一つです。大企業や社外から社長を招聘している企業では2年2期、3年2期と決めている会社がほとんどです。それでは「任期中上手く乗り切ろう」ということになり、思い切った改革などできませんし、パーパスを作ってもそれを浸透させる時間がありません。それでは本気になって取り組もうという気にもならないでしょう。

3.未来を意味づけることから「納得」が生まれる

 日本でもグローバルで強いオーナー型の企業の経営者はSF的な思考をしています。ここでは、日本電産会長の永守重信氏が挙げられています。永守氏は「10兆円企業になる」という目標を語るとき「やがて自家用ドローンが普及し、ロボットの数が人口を超える」という未来像をセットで語ります。永守氏が描いているイメージはSF的ですし、やっていることはSF思考です。永守氏の話にはストーリーがあり、聞く人が「ワクワクし面白いし、共感し、やる気にさせてくれる」ものです。

 優れた企業、優れた経営者は時間軸が長く、少なくとも、30年、50年策を見据えています。ソフトバンク孫正義氏に至っては300年ビジョンまで語っています。

 未来像がポジティブであればあるほど、共感する人が多ければ多いほど実現する可能性が高くなります。経営者が語る未来像が社員に腹落ちすれば「一緒にやろう」と言う人は増え、更に腹落ちした社員から社外の人にまで広がり実現の可能性は大きく高まります。

 先が分からない不確実な時代ですから、ある意味未来なんてどのようにも解釈できます。それを腹落ちできるストーリーにまとめて、意味づけできるか、つまり、そのストーリーを聞いた人が納得できるかにかかっています。この記事でも「正確性より納得性」と言っています。

4.ビジネスパーソンの「知の探究」のためのSF思考

 長く続いている組織や企業は探索よりも深化に偏っています。これはまさにイノベーションのジレンマが表しているとことです。業界トップの企業が、顧客の声に耳を傾けすぎ、更に高品質な製品やサービスを提供することでイノベーションに立ち後れ、新興企業に後れを取ってしまうのです。

 イノベーションを起こすためには探索が必要不可欠です。そして、探索を行うには「未来像の腹落ち」が不可欠です。「30年後にこんな会社になろう」「ビジネスでこんな価値を出そう」というビジョンが腹落ちしていれば、多少リスクがあっても前進できますが、そうでなければ些細な失敗で躓いてしまいます。

 イノベーションの出発点は「知の探究」です。新しいものを生み出すには、自分が当たり前と思っている認知の外へ飛び出さなければなりません。地球を飛び出して宇宙へと旅立つようなものです。

 意識を遠く飛ばすタイプの「知の探究」には、SFは認知の外に出て未来を考えるには格好のものです。SFを読むだけで新しい発想やアイデアがわきイノベーションを起こせるわけではありませんが、意識的に異文化を掛け合わせていくことで幅が広がりアイデアや発想の芽が生まれます。

日本企業もSF 思考やSF的な発想を取り入れることで変革を起こしましょう。

 

 

  

イノベーションが上手くいかないワケ

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で134人で、26県で感染者ゼロとなっています。新型コロナの感染が再拡大するオーストリアで、ワクチン未接種者を対象にロックダウンが始まりました。中欧ではワクチン接種率の高いところでも再拡大しています。ワクチン未接種を対象とするロックダウンが社会を分断しないか一つの実験ケースとして見ておく必要がありそうです。日本でもワクチン証明書の有無によって行動規制緩和に差を設ける動きがありますが、ワクチンを打ちたくても体質などによって打てない人もいます。こうした人を差別することが社会の分断につながります。差別や分断を引き起こさないような柔軟な対策が必要です。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「なぜ、大企業では、スタートアップのようなイノベーションが起こしづらいのか?」という記事を取り上げます。

大企業の多くも、イノベーションの必要性やトランスフォーメーションの重要性は認識し、社員に伝えていますが、現実にはスタートアップ企業のような成果は見られていません。何故、大企業では変革を起こすことが難しいのでしょうか?この記事はこの点について説明されています。変革を起こすことが難しいのは大企業に限りません。中小企業においても変革は難しいのです。

スタートアップ企業は、まだ世に出ていない、新たなビジネスモデルを開発する企業で、変革それ自身を目的としていると言っていい企業ですから、ある意味、イノベーションは十八番です。それに引き換え、大企業も中小企業も、これまでの事業に行き詰りを感じ、イノベーションの必要性や重要性を認識し、これから変わろうとしています。もともと変革が目的に組み込まれていないので、何をしたらよいのか、何から手を付けてよいのかがわからないのです。

1.製品にはライフサイクルがある

 製品にも、生物に寿命があるように、市場に導入されてから最終的に市場から消えるまでの周期・寿命があります。製品ライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、衰退期という周期をたどります。

 ここでは人間の一生に例えて説明されています。子供のうちは、収入がなく、食費や教育費など出ていく一方ですが、「将来への投資」と考えられます。大人になれば出費もかさみますが一方で収入も上がり、壮年から老年期に入るに従い、「将来への投資」は減少し、それまでの貯蓄を意識しながら、いかに出費をコントロールするかといった方向に重要性が移ってくるものです。

 ビジネスにおいても同じです。導入期に少なかった競合は、成長期で一気に増え、成熟から衰退期になるとその数が淘汰によって減少していき、やがては買収や合併と言う形で数社に絞られていくというのがどの業界でも見られるところです。

2.ライフサイクルのステージによって、マネジメントスタイルは異なる

 スタートアップ企業が展開する製品は導入期から成長期にあり、大企業が展開する製品の多くは成熟期から衰退期にあります。

 導入期から成長期の投資を成熟期に回収することで事業は成り立っているのです。成熟期の製品を多く抱えることで、企業は成長を生み出し、キャッシュを新たな製品を生み出すために投資することで企業は事業を継続します。

 導入期から成長期は、新たな顧客ニーズや社会課題に目を付けて、ビジョンを明確に打ち出し必要があります。

 成熟期には形成された市場でいかに安定して利益を生み出すかが重要になるので、調整型のマネジメントが求められます。

 衰退期には衰退する市場に残るのか撤退するのか、ファクトに基づいたトップダウンでの意思決定が求められます。

3.組織の老化は避けられない

 どんな企業も、創業当初は顧客の問題解決をするために邁進しますが、成長期に差しかかると、途端に競合を意識し始めます。そして、競合に勝つために様々な施策を講じ、優秀な社員を採用してリテンションのために様々な制度を導入し始めます。こうして、経営陣や社員の目は社内に向いていくようになり、外部からの刺激に鈍感となった組織では一気に加齢が進みます。

 老化が不可逆的変化であるため、多少スピードを遅らせることができても、いつまでも若々しくいることはできません。人と同じく組織も年と共に老化していくものなのです。組織の老化は避けることはできません。

大企業や中小企業も、スタートアップ企業と同じようなイノベーションやトランスフォーメーションを起こすことは難しいのです。むしろ、スタートアップ企業と同じようにイノベーションを起こそうと考える必要はないのかもしれません。自社が抱える課題は何なのかを明確にすることとその解決方法を真剣に考えることが重要です。その課題から描いた問題解決の全体構造が現場と共有できていないならば、いくらイノベーションと言っても何ひとつ解決できません。小手先だけの改善を試みても組織全体の改革はできないのです。

コロナ禍でイノベーションが脚光を浴びていますが、「これからはイノベーションである」などと華々しく宣言しながら、その後の施策が凡庸なために尻すぼみに終わるケースが後を絶ちません。その後は、コスト削減でイノベーションチームは解散に追いやられます。また、経営者が変わると、新しいイノベーション志向が掲げられますが、同じことの繰り返しです。

環境も変わりイノベーションの種類も様々ですが、同じジレンマに陥っています。それは目先の成功に欠かせない既存事業の売上と、将来の成功に欠かせない新コンセプトの開発を両立することの難しさです。

クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ」で指摘したように、業界トップの企業が顧客の声に耳を傾けすぎ、更に高品質の製品やサービスを提供することでイノベーションに立ち遅れ、新興企業に後れを取ってしまうという事態が生まれます。これは業界トップだけではなく、中小企業にも見られます。

イノベーションのジレンマについて多くの知見が示されていますが、経営者の多くは無知や弱気のままです。「更なるイノベーションはあるのか」と言いながら「前例はあるのか」と問い、「新しいアイデアを求めている」と言いながら、出てきた新しいアイデアを却下してしまうというのが現実なのです。

既存企業がイノベーションをとん挫させてしまう罠に陥るのを回避する方法は次の通りです。

  1. 新しいアイデアを探す範囲を広げる
  2. 厳しすぎる管理と硬直した組織構造を緩める
  3. イノベーションの推進責任者と既存企業の連携を改善する
  4. コミュニケーションとコラボレーションのスキルを磨く 

このことは、以前、休日の本棚で紹介したロザべス・モス・カンターの「イノベーションの罠」で書いていますので、参照してください。

休日の本棚 成功はゴミ箱の中に

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昨日の新規感染者は全国で202人で、19県で感染者ゼロとなっています。下止まりしている感はありますが、行動制限緩和に踏み切った欧州では、1箇月も待たずに再び感染拡大し、ロックダウンを実施する国も出てきています。日本では緊急事態宣言解除から1か月以上たちますが、感染拡大の兆しは見えません。その違いはどこにあるのでしょうか?ワクチン接種率にそれ程の違いはありません。違いがあるとすればマスクです。欧州では行動規制緩和になりマスクを着用している国民は10人に1人程度、日本ではほとんどの国民がマスクを着用しています。昨日も書きましたが、「日本はワクチンに医療体制で負け国民意識で勝った」のです。第6波を起こさないためにも、いましばらくはマスク着用を続けましょう。

さて、今日は、レイ・クロック著「成功はゴミ箱の中に」(プレジデント社)を紹介します。著者のレイ・クロックはマクドナルド兄弟と出会い、マクドナルドのフランチャイズ権を獲得し、全米8000店舗へと拡大した起業家です。

ユニクロ柳井正氏とソフトバンク孫正義氏が「これが僕らの人生のバイブル」と絶賛する起業家レイ・クロックの自伝です。

クロックは、高校卒業後、ぺ-パーカップのセールスマン、ピアノマン、マルチミキサーのセールスマンとして働いていました。

彼は、「一度にミルクシェイクを6つ作れるミキサーを8台も使う店がある」と聞き、実際にマクドナルド兄弟が経営するハンバーガー店を訪れます。すると、そこでは客が大行列をなし、マルチミキサーはうなりを上げてフル稼働していました。

当時、席にいる客の注文を取ってから料理に取り掛かるというのが常識でしたが、マクドナルド兄弟のハンバーガーショップでは、店員は糊のきいた白シャツとズボンに紙製の白い帽子をかぶり、清潔で好印象、店内にはゴミ一つ落ちていません。長い行列ができていますが、客はほとんど待たされることなく、注文するとすぐにハンバーガ出てきてテイクアウトして外で食べるという形態です。メニューはハンバーガー、フライドポテト、ミルクシェイク、ソフトドリンクだけ、いたってシンプルです。硝子張りの厨房では、全工程の作業が単純に標準化され店員が手順に従って作業をしているようです。手順さえ覚えれば誰でも簡単にできるようになっています。

クロックがマクドナルド兄弟に出会い、彼らの洗練された販売システムにほれ込み、この事業展開を始めようとしたのは、52歳の時でした。

クロックは飲食業の経験がありませんが、直観的にこのビジネスの可能性を感じ、フランチャイズ化して全米展開を図りたいとマクドナルド兄弟と契約するのです。

クロックの課題は、品質を維持し規模を拡大するということでした。

フランチャイズなので、経営はクロックではなくフランチャイズオーナーです。当初はひどい品質のハンバーガーを作ったり、勝手にメニューを増やしたり、ゴミが出ても放置されたりと散々な状態でした。クロックは試行錯誤を繰り返し、「ハンバーガー大学」を作り、そこで認定されたフランチャイズオーナーやマネシャーだけが店舗を持てる仕組みに変え、商品開発研究所をつくり、作業を標準化することに努めました。

マクドナルド兄弟との契約では、何かを変更する際には、兄弟の承認が必要とされていました。マクドナルド兄弟は、クロックがやろうとする新しい挑戦をなかなか認めてくれません。そこで、クロックは、マクドナルド兄弟に270万ドルを支払い契約を破棄し、新契約ではマクドナルド兄弟が「マクドナルド」という店名を使用できないこととし、完全に兄弟と手を切ったのです。さらに、マクドナルド兄弟の店「ビッグM」の前に新店舗を出店し、兄弟の店を閉鎖にまで追い込みます。

クロックは、卑怯なことは大嫌いですが、一方で勝つためには手段を選びません。競争相手と徹底的に戦い続けます。

「競争相手にスパイを送り込もう」という意見には怒って反対する一方で、「競争相手を知りたかったらゴミ箱を調べればいい。私も深夜2時にゴミ箱をあさり、ライバルの肉の消費量を調べた」と言っています。これがこの本のタイトルの由来です。

クロックは、敵を徹底的に攻撃しましたが、それは、すべて「顧客にとって何がベストか」を考え抜いた結果です。

クロックは「マクドナルドのフランチャイズになるには、100%のエネルギーと時間を投入する覚悟が大切だ。頭脳明晰である必要もないし、学歴もいらない。しかし、マクドナルドへの情熱とオペレーションに集中する力が必要だ」と言っています。

クロックの成功は、情熱と執念の結晶です。クロックは次のようにも言っています。

  • やり遂げろ。この世界で継続ほど価値のあるものはない。才能があっても、天才であっても、教育を受けても、失敗している人はたくさんいる。信念と継続だけが、全能である。
  • 未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる。

この本は、マクドナルドを創った経営者の自伝で本当に面白いです。

楠木建教授は「僕の勝手な想像だが、クロックはマクドナルドの店でハンバーガーを食べながら30分だけ話を聞く分にはものすごく楽しい人だが、一緒に仕事するとうんざりすることもしばしばありそうだ。それでも、いなくなると妙に寂しいというのがクロック」と言っています。「おそらく実際に横にいたら『もう勘弁してよ』と言いたくなること請け合いの強烈なパーソナリティの経営者」ですが、大成功する創業経営者とは案外そういうものかもしれません。

横にいられると強烈すぎて逃げ出したくなりますが、本の中では時折突っ込みたくなれるので、肩も凝らず面白く読める本です。

休日の本棚 競争優位の終焉

f:id:business-doctor-28:20201107083156j:plainおはようございます。

昨日の新規感染者は全国で201人、20県で感染者ゼロとなっています。一方で下どまり、若干増えてきている地域もあり、予断は許しません。「日本はコロナに医療体制で負け国民意識で勝った」と言っていた医師がいましたが、第6波に向けて医療体制を充実させるとともに、緩んでいる国民意識を再び高めなければなりません。

さて、今日は、リタ・マグレイス著「競争優位の終焉」(日本経済新聞社出版)を紹介します。著者のマグレイス氏はコロンビア大学ビジネススクール教授で、不確実性の高い事業環境における経営戦略を研究する傍ら、アメリカ企業に対するコンサルティングを行っています。

ダイナミック・ケイパビリティ」の時にも書きましたが、ポーターの5F(ファイブ・フォース)やバーニーのRBV(リソース・ベースド・ビュー)の考え方は、企業環境が安定しているときに妥当するものです。混迷し変化の激しい時代には、一旦競争優位を獲得してもすぐに真似られてしまいますし、顧客のニーズも刻々と変わるのですぐに飽きられてしまいます。

マグレイス教授は「現在用いられている戦略のフレームワークやツールはほぼすべて、ある一つの考え方に支配されている。つまり、戦略の目的は持続する競争優位の確立だというものである」「本書で私は、この『持続する競争優位』という概念に立ち向かい、経営陣はそれに基づく戦略論を放棄する必要があると訴える」と言います。

そのうえで、マグレイス教授は「かわって『一時的な競争優位』に基づく戦略について展望する」と言い、「不安定で不確実な環境で勝つためには、経営陣はつかの間の好機を迅速につかみかつ確実に利用する方法を学ばなければならない」と言うのです。

要は、「持続的な競争優位」に基づく従来の戦略論は間違っているというよりは時代遅れ、今の環境変化には妥当しないということです。そこで、新しい「一時的な競争優位」の考え方、つまり競争優位の状態が長期的には持続しないことを前提とした新しい考え方に従って経営を行うべきだということです。

マグレイス教授は、世界の時価総額10億ドル以上の上場企業5000社から、2000年以降の10年間で収益と純利益を毎年5%以上成長させた10の企業を選び出し、分析しています。成長し続けるこの10社は「一時的な競争優位」を獲得し続ける能力を有しているとして、この10社に共通する6つのポイントを抽出し説明しています。

この6つのポイントについて紹介します。

1.継続的に変わり続ける—安定性とアジリティーの両

 この10社は、安定性とアジリティー(俊敏さ)を両立させて、常に変わっているというのです。

 一時的優位性の環境を上手く生き抜いてきた企業に見られるのは、古い優位性から絶えず資源を引き上げ、新たな優位性の開発に投資するというパターンです。私たちは、極めて不確実な事態に直面すると、どうしていいのか分からなくなり、立ちすくんでしまいます。しかし、この10社では、社員が不確実性と変化になるたけ直面しないように、ソーシャル・アーキテクチャーを生み出し、社員が組織上の役割や構造に気を揉んで時間を無駄にしないようにしています。

 安定性を保つための源泉として5つが挙げられています。

  1. 野望・・・大きすぎるくらいの野望は長期的な変革には意味を持つ。企業が独りよがりに陥って過去の優位性の追求で満足してしまわないためにも、それは欠かせない。
  2. アイデンティティと文化・・・文化および共有された価値観の創造が他社との差別化の要因になる。
  3. 人員配置・人材開発も・・・従業員があちこちに移動できる能力を身につけるための投資は、変革に対する巨大な障害を取り除くとともに、単なる人員配置から移動能力の養成に重心を移すことに他ならない。
  4. リーダーシップ・・・戦略をブレさせないリーダーシップを持つ
  5. 安定した関係・・・クライアント、エコシステムパートナーの間の関係も極めて安定している。

 アジリティー(俊敏さ)をもって変わり続けるための源泉として、次の5つが挙げられています。

  1. 痛みを伴わない小さな変革を重ねる。
  2. 予算編成で資源の抱え込みを許さない。
  3. 柔軟性=大規模な年度予算作成のプロセスや効率重視の価値観よりも、柔軟性の強化に投資する。
  4. イノベーションを本業と捉える。
  5. オプション志向で市場を開拓する=小さな初期投資をして好機を探り、上手くいきそうなものが見つかればその後もっと本格的に投資する。

 安定性とアジリティー(俊敏さ)が相乗効果を生み出し、一時的な競争優位性を獲得し続けることができるのです。

2.衰退の前兆をつかみ、上手く撤退する

 持続する競争優位という想定と、よりダイナミックな戦略との最大の違いは撤退にあります。撤退は、イノベーション、成長、活用と同じくらい事業において中核をなしているものです。撤退は、失われた栄光の落胆すべき印ではなくて、価値ある資源を開放し、再び目的を持たせる手段なのです。

 事業衰退の兆候はアンテナを巡らしキャッチすべく意識を向けていれば意外と見つかります。しかし、日々の業務の忙殺されていると、アンテナに引っかかっても見逃してしまいます。常に注意を巡らせチェックすることが大切です。

3.資源配分を見直し、効率性を高める

 一般的な企業では、資源配分は既存の有力事業によって決められ、全世代の競争優位を支配していた人が力を持っています。一時的優位を志向する企業では、資産の競争力は、会計上の価値と一致しないことが周知徹底されており、もはや競争力を失った資産は土壇場を迎える前に処分策が講じられます。

 一般的な企業では資産を所有することが重要と見なされますが、一時的な競争優位の企業では、資産の所有ではなく資産へのアクセスの方が、柔軟性や拡張性があることを認識しています。

 既存の大企業では、事態が計画通りに進まない時にも、事業の継続に頑なに固執してしまいます。不確実な環境の下でもっとも効果的なアプローチは、不確実性が減少した場合に限って資産を投じること、資産を徹底して倹約し続ける行動規範が大切です。肝心なのはキャッシュフローが黒字になる売り上げを確保できるまでは、投資を最低限に抑え、黒字になった段階でさらに投資を増やしていくことです。

4.イノベーションに習熟する

 新しい事業を立ち上げるにはイノベーションが必要になります。しかし、イノベーションには失敗はつきものです。以前から言っていますが「失敗から学ぶ」という姿勢が重要です。

 イノベーションに習熟する6つのステップは次の通りです。

  1. 現状を分析し、成長ギャップを明確にする
  2. 上級幹部から指示と資源配分を受ける
  3. イノベーション管理プロセスを作り上げる
  4. システムの構築と組織への導入に着手する
  5. 具体的かつ現実的なところから始める
  6. イノベーションのサポート体制と築く

 一時的優位性の世界では、イノベーションはやってもやらなくてもいいといったものではありません。またイノベーションは副業ではありません。専門的に構築され管理されなければならない能力なのです。

5.リーダーシップとマインドセットを変える

 持続的優位性があった時代では、今よりもよりうまくやることが求められていました。しかし、一時的優位性の世界では、変化を早く察知し、問題の本質を捉まえることが極めて重要になります。昔の成功モデルを変えなければなりません。

 かつての成功モデルを変える必要性を素直に認め、進んで受け入れる姿勢は、一時的な競争優位を志向する企業のリーダーシップには必要不可欠です。

 変化の激しい優位性という難題に対処するには、より安定した時代とは異なる組織の想定とリーダーのマインドセットが必要なのです。

 しかし、リーダーの考え方が変わっただけでは上手くいきません。社員全員の意識や考え方を変える必要があります。そのためには、リーダーが思いを込めた言葉で発信し広げていくことです。

6.あなた個人への影響について考える

 持続的競争優位性の時代には、組織への忠誠心が求められました。しかし、一時的優位性の世界では、個人のあり方が変わってきます。個人が持つ新しい知識やスキルが求められるようになりますし、個人も新しいスキルを身につけるべく自己を磨かなければならなくなります。

マグレイス教授教授が描いた状況が今や当たり前になってきています。特にコロナ禍で先行きが見通せなくなったVUCAの時代では、これまでの持続的競争優位に立脚した戦略では生き残ることが難しくなっています。

今必要なのは、この本が描く一時的競争優位の戦略であり、先日の「ダイナミック・ケイパビリティ戦略」ではないかと思います。

  

パーパス経営

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で215人で、東京31人で前週同曜日より17人増え、大阪は64人で前週同曜日より44人増えています。今日1日の新規感染者数では判断できませんが、このところの各地の人出を見ると増えてくるのも当然のように思います。行動制限を緩和する、政府のワクチン・検査パッケージ制度の概要が明らかになり、飲食店での会食人数制限の撤廃などが盛り込まれているようです。感染が落ち着いているのか増加に転ずるのか、もうしばらく様子を見て段階的に行動規制緩和を行うべきです。これまで行ってきた対策と効果についての検証も行わないまま、先日のステージ見直しやワクチン・検査パッケージ制度を決めても、また同じ轍を踏むことは明らかです。結局は後手後手に回り、感染者が増加し、再び緊急事態宣言発令という繰り返しです。危機管理能力がない人が上にいて物事を決めていたのでは下にいる者が迷惑を被るのは国も企業も同じです。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「『そのパーパスはどこまで本気か?』パーパスブームに違和感を覚える理由」を取り上げます。

2021年を代表するビジネスワード「パーパス」、パーパス経営が世界中で注目されています。これには、次のような外部市場の変化が背景にあると言われています。

  1. 顧客市場・・・倫理的な消費が台頭し、地球や社会に負をもたらす企業は市場から締め出される。
  2. 人材市場・・・ミレニアル世代、Z世代といった若者たちは、「働きがい」を求め、いくら働き方改革を行っても、地球や社会に優しくない企業には、良い人材が集まらない。
  3. 金融市場・・・ESG(経済・社会・ガバナンス)が投資や融資の基軸になっている。企業が社会的責任を果たしていることを評価しながら投資する「社会的責任投資(SRI)」

パーパス」という言葉は「存在意義」と訳されます。

この記事で、宮島英昭・早稲田大学教授は「日本でも自らの存在意義を再定義しようという動きが目立つが、英米とは前提となる状況がまるで違う」と指摘しています。

1.日本のパーパスブームはなぜ起こったのか?米英の動きとの違いは?

 英国や米国では、2010年後半以降、株主至上主義への疑問を背景にパーパスを巡る議論が活発化しました。多くの企業で「社会的な価値を生み出すことが長期的な成長につながる」「従業員など他のステークホルダーの価値を重視すべきだ」と考えるようになってきたのです。

 これまでは「株主とそれ以外のステークホルダーの利益が対立する場合には、株主価値が優先される」という考え方でしたが、それが「場合によっては株主価値が劣後することもありうる」という考えに変わってきたのです。

 英米の動きは「行き過ぎた株主主権の揺り戻しとして企業が自らの存在意義を規定した」ものですが、そもそも日本では株主主権が十分に実現されていません。宮島教授は「日本において、安易に英米の動きに追随するのはおかしい」と言っています。

 欧米で流行った経営理論が、日本でももてはやされてそのまま適用しようとするケースは枚挙に遑がありません。しかし環境も文化も慣習も異なる日本に英米の理論をそのまま適用するのは間違っています。

2.「世間」の範囲は昔と違う

 日本企業におけるパーパス議論の際によく持ち出されるのが近江商人の精神、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」です。

 日本には、もともと株主以外のステークホルダーを重視する文化がありましたが、半面、本来「売り手」の中に含まれるはずの株主が「売り手」から抜け落ち、株主が軽視されてきていたように思えます。

 英米では「強すぎる株主のガバナンス」が問題視され、日本では「弱すぎるために事業の入れ替えや、結果としてROE(自己資本利率)の改善が遅れ、保守的な経営が蔓延している」という状況で、お金をため込むばかりでリスクを取って積極的に投資を行わなかったことが「失われた20年」の一因だとされています。

 株主の力を高め経営に関与させることで、こうした状況を変え長期的な成長力を高めようとしたのがアベノミクスですが、その効果は限定的でかえって格差を引き起こしました。ガバナンス改革でリスクを取る経営に転換しようというのは過大な期待で、むしろ間違いです。

 日本において、リスクを取った経営ができないのは、従業員を簡単にクビにできないからという点もあります。長期雇用の前提や労働市場流動性のところに手を付けない限り、変われないのです。「45歳定年制」について書いた時にも言いましたが、人生100年時代には、労働者はかつてのように企業に固定された存在ではなく、移動可能な存在になっています。自分の強みや仕事の仕方を活かし、自分の価値観に合致する企業へ移動することで、更に自己を成長させることができます。変化が著しい時代において、企業も事業再構築・再編成を行わずして持続的に成長できません。

 ステークホルダーの概念自体も大きく変わってきています。世間と言っても、近江商人の時代の狭い世間ではありません。すべてがグローバルになっています。

 この記事でも、「三方よしもアップデートが必要であり、安易な日本型モデルへの回帰が、株主価値追求を怠る言い訳になってはいけない」と言っています。

 株主主権が弱い日本では、まずは株主の地位の向上が先決だということです。

3.日本企業がパーパスを再定義することに意義がある

 日本企業がパーパスを再定義することには意義があります。マーケティング戦略やたんなるキャッチフレーズで終わっては意味がありません。本気になってパーパスを再定義しなければなりません。

 例えば、地球温暖化を課題と考えるなら、社長自ら真剣に考え、ただ考えるだけでなく、それに沿った形で事業を構想したり、組織内部に刷り込む、さらにガバナンス体制を変える、ここまでやってはじめてパーパスの再定義です。パーパスというのは企業の存在意義です。経営者が本気になって再定義しなければ、パーパス経営などできるものではありません。

4.パーパス経営の落とし穴

 ここからはダイヤモンドオンラインの記事から離れ、東洋経済オンラインの「なぜ『パーパス経営』が「御社」に実装できないのか」という記事をベースにパーパス経営の落とし穴について書いていきます。

 ⑴落とし穴1:定義の勘違い

 自社なりの定義が必要ですが、サスティナビリティをパーパスに掲げている企業の多くは、サスティナビリティをパーパスとはき違えています。自社ならではの本質的な価値創造ストーリーが何ひとつ語れていません。楠木建教授の「ストーリーとしての競争戦略」ではありませんが、パーパスも、すべてのステークホルダーが聞いて「ワクワクし面白く、共感し、やる気になる」ものでなければならないと思います。

 ⑵落とし穴2:投資の勘違い

 パーパス経営を掲げるだけでは、掛け声倒れに終わります。未来を拓く無形資産へのを見極め、そこに非連続的な投資を続けることで、はじめてパーパス経営が企業価値向上をもたらします。人材への投資も必要ですし、顧客がパーパスへの共感を醸成するために顧客との双方向のコミュニケーションを図り、共感を広げる「仕組み」づくりも重要です。

 ⑶落とし穴3:社員への浸透の不徹底

 経営陣だけがパーパスに思いを託していても意味がありません。すべての社員に浸透することが重要です。社員に浸透しなければ、社員以外のステークホルダーに浸透するはずはありません。インフラネットやミーティングなどを通じて、ことあるごとにパーパスを発信することです。経営陣が思いを込めて魅力的な言葉で発信し、社員の共感を得ることができなければなりません。社員に共感が生まれて初めて、社員はほかの社外の人に語ります。そして広がっていくのです。

繰り返しになりますが、単に経営者がパーパスを持っているだけでは何の意味もありません。社員に浸透させることです。

以前、稲盛和夫氏の成功方程式を紹介した時に書きましたが、「経営者が強い意志を持って『目標(考え方)—これがパーパスに当たります』を立てて、従業員から『情熱』を引き出し、従業員が持っている『能力』を最大限に引き出して経営目標を達成していくことが重要」なのです。

従業員にもいろんなタイプがいます。大きく分ければ、「不燃型」(燃えない人)、「消火型」(燃えようとしている人を燃えなくする人)、「自燃型」(自分でどんどん燃える人)、「可燃型」(皆がやろうと言えば燃える人)の4種類です。

「不燃型」や「消火型」が主導権を握っているようでは、意思の共有はできません。「自燃型」や「可燃型」が中心となって盛り上げなければなりません。

まずは、経営者が思いを込めてパーパスを魅力的な言葉で語り、「自燃型」「可燃型」の従業員に伝えていくことです。最初は小さな火種かもしれませんが、それが次第に大きく燃え上がり、「不燃型」「消火型」の従業員にも広がり、彼らも「可燃型」へと変わっていくはずです。

リーダーの新ルール?

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で205人、20県で感染者ゼロとなっています。政府は、米国製薬大手メルク社と新型コロナの飲み薬「モルヌピビル」を購入する契約を結んだとのことですが、コロナ治療に新たな武器が手に入ったということは喜ばしいものです。しかし、日本の製薬会社はいったい何をしているのでしょうか。日本製のワクチンや治療薬が、いまだに出てこないのは嘆かわしいことです。

さて、昨日、公明党に押し切られ、18歳以下の子供に10万円支給が決定されましたが、橋下徹氏が言うように「世紀の愚策」です。経済対策なのか、コロナ対策なのか、子育て支援対策なのか、全く目的が分かりません。経済対策やコロナ対策なら年齢制限を設けることは間違っていますし、子育て支援なら短期的な金のバラマキで解決できるものではありません。いずれにせよ、長期戦略の視点が全く欠けています。これでは、公明党の泥船に乗せられて、岸田政権は沈没します。岸田政権が沈没しようとどうでもいいことですが、日本の政治と経済の回復がさらに遅れます。もう少し、まともな戦略の下で政治を行ってもらいたいものです。

さて、今日は、Forbes JAPANの「リーダーの新ルール。『素顔』で疲れ果てる前に、管理職こそ『仮面』をかぶれ」という記事を取り上げます。

「出社時間は自由、サークルのようにワイワイ仕事をし、夜はみんなで飲みに行く、リーダーを優しいし、ルールもきっちりと決まっていないから楽である」こんな理想的な会社で働きたいと思う人も多いと思いますが、自由な職場ほど息苦しくなるのです。

この記事では、自由な会社が息苦しい理由・その解決法を通じて「私たちが本当に目指す理想の組織とはどういうものなのか?」あらためて考えてみようというのです。

1.感情を入れない。「ルール上の関係」がベストな理由

 仕事は趣味や遊びではありません。一定のルールがあって秩序に従って動いています。当然に上下の関係があります。そこでは、ルールや規則があり、それに従わなければなりません。しかし、従っている限り、特に問題は生じません。

 ところがルールや規則、上下関係がない職場では、各自が勝手に動きますし、何に従って動いていいのかがわからなくなります。逆に自由であるがゆえにストレスを感じるのです。

 交通ルールがあるために車はスムーズに流れ、交通ルールにストレスを感じる人はいないでしょう。交通ルールがなかったなら、道路事情は無茶苦茶になり、車の運転手だけでなく通行人もみんながストレスを抱えどうしていいかわからなくなります。これと同じです。

 まず、リーダーがやるべきことは「ルールを決める」ことです。

 組織を運営するうえで、必ずルールが必要になります。それを現場レベルで決めるのがリーダーの役割です。ここで問題なのが、ルールを守らせるときに、個人的な感情を加えてしまうことです。例外を作ってしまうと、チームや組織は脆くなります。「急いでいる場合赤信号を無視していい」では一気に道路は混乱してしまうのと同じです。

 「あの人は許されているのに自分はなぜダメなのか」と言い出す人が出ると、組織やチームは無茶苦茶になります。

 「上司」と「部下」という関係もルールが作り出したものにすぎません。別に人間的な優劣がついているわけではありません。組織やチームというのは、一定の目標に向かって共に突き進んでいくためのもので、目的達成のための「機能」にしかすぎません。上司と部下というのもルール上の関係にすぎないのです。ルール上の関係はルールで運営するのがいいのです。そこに感情が入り込むと「ルール上の関係」という意識が希薄になります。

 ここでは、「リーダーは個人的な感情で動くのではなく、組織の人間として仮面をかぶり、ルールを守らせないといけない」と言っています。

 しかし、「すべての感情を押し殺して、ロボットや機械のようになれ」というのでは違うように思います。いつも言っているように会社や組織・チームは人と人との関係で成り立っています。より良い人間関係、信頼関係が必要で、そのためには相手を思いやる心が必要です。感情を抜きにより良い人間関係・信頼関係は築けません。

2.フォーカスすべきは5つのポイントだけ

 部下やスタッフを持つと、これまでの仕事の延長ではなくなり、「全く別の次元の能力」が必要になります。これが「マネジメント能力」です。

リーダーに必要なのが「マネジメント能力」であるという点は間違いありません。

 この記事では、リーダーがフォーカスすべき5つのポイントとして、「ルール」「位置」「利益」「結果」「成長」を挙げ、これに絞ってマネジメントすべきと言っています。カリスマ性も人間的魅力も一切不要というのです。しかし、リーダーにカリスマ性や人間的魅力がなければ、部下やメンバーはその人のために、チームのために仕事をしようという気にはなりません。

 以前、リーダーに必要なものとして「謙虚さ」を挙げたことがあります。ここでいう「謙虚さ」は「ひたすら低姿勢」ということではなく、「確固たる信念やポリシーを持った」謙虚さです。また、「優秀」というのは「優しさに秀でている」ことと書きました。優秀なリーダーは優しさに秀でていなければなりません。それは、相手のことを親身に思い、相手のことを知り、理解して、相手と共感できる優しさです。

 これらは人間的な魅力でありカリスマ性を生み出してくれるものです。これらを否定するのはいかがなものかと思います。

3.「素顔」で疲れ果てるか「仮面」で生まれ変わるか

 自分らしく「素顔」のままでいたいと思うことはあります。しかし、素顔でいることは疲れます。時には「仮面」をかぶりたくなります。

 人間だれしも、「仮面」をかぶっています。いかに親しい友人や家族であっても仮面をかぶっているものです。

 いつも「素顔」でいることなどできません。場合に応じて色々な「仮面」をかぶればいいのです。したがって、この部分については否定するつもりは全くありません。

 しかし「リーダーの仮面をかぶって仕事を進めて、人に嫌われても、それはあなたの人格が否定されたわけではありません」という記述には違和感を覚えます。

 リーダーが自分の素の部分を隠して「仮面」をかぶるのは、リーダーとして部下とのより良い人間関係や信頼関係を築き上げるためでなければなりません。先ほども書きましたが、カリスマ性や人間的魅力を投げ捨ててドライになることではありません。

 鬼や夜叉の仮面をかぶるのではなく、謙虚で優しさに秀でた仮面をかぶるのです。

色々と批判的なことを書きましたが、リーダーのあり方、組織のあり方を考えるには良い記事ではないかと思い取り上げました。

大切なのは「何を目的としてDXするのか」 

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で204人、15県で感染者ゼロとなっています。減少していますが、下止まりしているように見えます。ウイルスが消滅したわけではないのである程度の感染者が出ることはやむを得ず、増加に転じないことを良しとするべきでしょう。いつ起きてもいいように第6波に向けた医療体制の充実と国民一人一人の感染防止策と節度ある行動でが重要です。

さて、今日もDXです。さくマガの「『DX』自体が何かを生み出すわけではない。大切なのは『何を目的としてDXするのか』」という記事を取り上げます。

何度も言っていますが、DXは手段であって目的ではありません。この記事が言うように、大切なのは「なにを目的とするのか」ということです。DXは目的達成の手段なのです。自社が抱えている問題や課題を解決するためにDXやデジタル化が有用ならば導入すればいいのです。社会が「DX」と叫んで流行っているから飛びついても何の役にも立ちません。これも言っていますが、DXは単なるデジタル機器やツールの導入とは違います。トップが率先して取り組まなければならない全社的な戦略なのです。

この記事は「頻繁に『DX』が飛び交う現場で見え隠れするのは、DXという言葉の使い勝手の良さに依存して、安易に頼るリスクがある」と言っています。その通りです。

1.本質と離れて便利に使われがちな「DX」

 もともとDX(デジタルトランスフォーメーション)は、スウェーデンウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」ことです。

 一方で、ビジネスの場面では少し意味が違い、2018年経産省の「DX推進ガイドライン」では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。このことから、先ほども言いましたように、ビジネスにおいてはDXは全社戦略なのです。

 それはさておき、「DX推進」が政策として掲げられて以降、DXという言葉が独り歩きをしているように思います。

 「DXをやらなければ乗り遅れる」といった変な風潮が生まれ、ここぞとばかりにDXに飛びついているといった感じです。そうした企業ではDXの何たるかを知らず、デジタル技術やツールを導入すればDXをやったと自己満足し、結局は何一つ使いこなせず、DXの目的である組織の変革や競争上の優位の確立とは程遠いところにあります。

 経産省の定義でもわかるように、ビジネスにおけるDXは「顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すること」ですが、実際には、顧客や社会のニーズに関する場面(顧客に対する価値創造を生む現場)で「DX」という言葉を聞くことはほとんどありません。単にデジタルツールを導入しデジタル技術を使えるエンジニアを増やし、あるいは外部の情報システム会社に丸投げするだけではDXはやったことにはならないのです。

 DXが有効に機能するということは、組織・制度の改革だけでなく、社員全員の意識改革が必要であり、そのためには経営者自身の意識改革・行動変革が重要です。

2.DXそれ自体が何かを生み出すわけではない

 DX自体が何かを生み出すことはありません。大切なのは、「何を目的としてDXを行うのか」「DXで何を達成したいのか」ということです。「流行っているから自社も」というのでは必ず失敗します。

 ①目的は何か? ②何のためにやるのか? ③なぜやるのか? この3点に焦点を当てることです。そうすれば、必ずしもDXにとらわれることはなくなります。まずはそこからのスタートです。目的達成や課題解決にDXが有用なら導入すればいいわけですし、ほかの方法で目的達成や課題解決ができるなら現段階でDXは必要ありません。

 先ほども言いましたが「『DX』という言葉が独り歩き」しています。これでは思考停止に陥ります。「DXを通して具体的に何をするのか」が明らかでないのに「DX」という言葉を使いさえすれば、まるで正しいことのように感じられ、誰も反対しないというのでは、間違いです。

3.DXに意義を与えるのはDXを利用して顧客に提供する「価値」

 DXという言葉に惑わされることなく、顧客にどんな価値を提供すべきか、ビジョンを鮮やかに描き出すことが重要です。

 ストルターマン教授の「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」というのがDXの元々の考え方です。「顧客の生活に、良い方向に変化を起こすために何をなすべきか?」これを考えるのがDXのスタートラインです。DXを通して顧客の生活に起こす変化こそが、フォーカスすべき最重要ポイントです。

 経産省の定義でもわかるように、DXは、顧客のニーズや社会のニーズと密接にかかわっています。顧客が何に困っていて、どんなニーズがあり、何が好きで何が嫌いなのか、顧客を深く知れば知るほど、提供すべき価値の解像度は上がります。どんな価値を提供すればよいのかが把握できれば、そのための手段や業務に必要なツールはおのずと選定できる状態になります。

 「何をするのかビジョンを描くのが先、手段であるDXはそのあと」です。この順番を間違えないことです。

顧客に提供したい価値と、そのための手段としてDXが必要かどうかは別問題です。流行りだからと言う理由でDXに飛びつくのは筋違い、まずは自社の課題と問題を洗い出し、そのための手段としてDXが有用かどうかを考えて導入してください。

DX推進のための総務の三大課題

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で107人で、23県で感染者ゼロとなっています。二桁であったのは東京18人、神奈川11人、大阪15人の3都府県だけで、もともと少ない月曜日とはいえ、順調に減少傾向が続いています。政府分科会がコロナ新指標を決めました。これまでの感染者数を重視した「ステージ」分類を止め、医療提供体制に着目した「レベル」分類に改めたということです。基本的には、医療体制のひっ迫度合いで分類することは妥当だと思いますが、新指標では数値の目安が乏しく、基準を明確化して迅速かつスムーズな運用を可能とすることが重要です。

さて、今日は、ITmediaビジネスオンラインの「ITは二の次?DX推進のために、総務が解消すべき『三大課題』」という記事を取り上げます。

これまでもIT化、DXについては書いてきています。その時にも触れていますが、デジタル化やDXは手段であって目的ではありません。また、単にデジタル技術を導入すればいいというものでもなく、経営トップが率先して取り組む全社的な課題です。

当然、総務部もデジタル化・DXの対象です。この記事では、デジタル化・DXに対しての総務部の問題点・課題が指摘されています。

コロナ前から総務が率先してデジタル化を進めなければならなかったと言えます。

総務三大業務」である代表電話の取次ぎ、社員の対応、郵便物の処理、これらの業務は、既に便利なツールが登場しており、真っ先にデジタル化できたものです。それができていないから、コロナ禍でテレワークが導入されても、総務は出社せざるを得ないという事態に陥るのです。

この記事も言っていますが、総務の仕事というのは、「総務のために行う」ものではなく、現場へのサービス提供であり、それがデジタル化できれば、全社員の業務も効率化できるのです。つまり、総務のデジタル化は全社に大きな影響を与えるものなのです。

1.総務の三大課題

 「総務の三大課題」と言われているものは、「業務の非可視化」「従属化」「無変化」の3つです。

  1. 業務の非可視化・・・誰がどんな仕事をしているかが明らかでなく、総務としてどこまでの仕事を担当しているのかマネジャーも把握していない状況です。業務の非可視化の原因は、個々の仕事のやり方が共有されていないことにあります。これにより、個々の仕事に改善の目が届かず、従前のままの業務をダラダラと受け継いで行っているのが現状です。この状態でデジタル化を進めても、部分最適が優先され、本来的な改革とは程遠いと言えます。
  2. 従属化・・・これは「言われてやる仕事」に忙殺されている状態です。現場からの依頼や問い合わせに多くの時間が取られ(これも総務の仕事ですが)、総務として本来やるべき、あるいはやらねばならない仕事に回せるリソースがなくなっています。「言いなり総務」に陥っては、コロナ禍で大きく変化した働き方に対応する余裕すらありません。
  3. 無変化・・・総務は多種多様な業務を回さなければならず、それがマニュアル化されています。マニュアル化自体悪いことではありませんが、一度マニュアル化されてしまうと、思考停止という悪癖に陥る可能性があります。マニュアルに従っていれば問題ないという安直な考えで、時代・社会の流れや変化についていけなくなっています。一度作ったマニュアルでも、見直し改善していかなければなりません。

2.総務の業務改善

 どのような企業でも、上述の「総務の三大課題」を有しています。デジタル化やDXに取り組む以前に、これらの課題を解決しなければ、デジタル化やDXを行ったところで、不十分な効果の少ないものになってしまいます。

 それでは総務の三大課題を解決するにはどうすればいいのでしょうか。

 前提となるのは、自社の総務の業務を見定めることです。案外、総務が何をしているのか、どんな業務をしていたのか、経営者自身もわかっていないのです。

 まずは自社の総務の業務を把握し、そのなかに不要な業務はないか、付け加えるべき業務はないかを検討することです。その際、行う価値があるのか、何のために行っているのかを確認することが重要です。

 次に、無駄な確認業務はないか、ボトルネックはないか、時間や人手などを総合的に考慮して、最も効率的にできる方法を考えます。

 そして、仕事の量と質が把握できれば、その中でテクノロジーツールに置き換えることができるものがあればデジタル化すればいいですし、場合によっては外部委託という選択肢もあり得ます。

3.紙の存在から見直してみる

 ぺーバーレスと言われながら、いまだに多くの企業では、紙中心になっています。

 「紙」から業務改革するというのがスタートとしてもっとも行いやすいものです。

 紙の上に記載されている情報をデジタルに置き換えるだけなので、取り組みやすいと言えます。ただ、ここで重要なのは、これまで紙に記載されていたすべての情報をデジタルですべて記載するのかということを考えなければなりません。本当にその情報は必要なのか、その情報は何の役に立つのか、その情報を最終的にどこに集積させ、何をしたいのかといったことが重要なのです。

 これまでやっていたことをそのままデジタルに切り替えるだけでは何の意味もありません。デジタル化、DXは全社戦略なのです。

4.総務の効率化がDXのスタート

 上述のように、総務には三大課題があります。その改善なくしてデジタル化、DXは不可能だと言っても過言ではありません。総務が徹底的に効率化を図り、その成功のイメージを全社に横展開していくことが、最も適切なデジタル化、DXのあり方ではないかと思います。

総務だけでなく、各部署にはその部署なりの課題があります。まずは上述の総務と同じような方法で課題を洗い出し、その改善を図り、デジタル化・DXにつなげていくことです。