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休日の本棚 人間は不合理。行動経済学を読む

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西宮神社

おはようございます。

今日は、行動経済学の本を取り上げます。ダニエル・カーネマン著「ファースト&スロー(上・下)」、エヤル・ヴィンター著「愛と怒りの行動経済学」(いずれもハヤカワ・ノンフィクション文庫)です。ダニエル・カーネマンノーベル経済学賞受賞者で行動経済学の先駆けと言っていい経済学者です。エヤル・ヴィンターはヘブライ大学の教授です。いずれの本も一般向けに書かれていて実験例が多く挙げられ読みやすく面白い内容です。

従来、経済学では、人間は合理的に行動するものとされ(ホモ・エコノミクス)、消費者行動でも企業行動でも、効用の最大化あるいは利潤の最大化を目的に行動するとされています。しかし、人間は、経済理論が想定するように必ずしも合理的な行動をするわけではありません。

ゲーム理論ゲーム理論の本については後日取り上げる予定ですが)において最後通牒ゲームというものがあります。簡単な例を示します。

A君、B君の二人がいてA君に10万円を渡します。A君は受け取った10万円から自らの判断でいくらかをB君に分け与えます。B君が分け前を受け取ればA君B君共にお金がもらえます。B君が分け前を拒否すればA君B君共にお金をもらえません。A君はB君にいくら渡せばいいでしょうか?

B君が従来の経済理論による合理的な経済人(ホモ・エコノミクス)ならば、100円でも、しいて言えば1円でももらえば得になるわけですから、受け取るはずです。しかし、現実にはそのような端金(?)では受領を拒否する者が多いのです。A君だけが得するのは気に食わないという感情が働くからです。国・文化によぅて違いがあるようですが、半分近い金額を提示されなければ受け取りを拒否する民族もあるようです。ちなみに日本人は比較的低い金額(15%前後)でも受け取るようですが・・・

まず、「ファースト&スロー」です。この本のテーマは「認知的錯覚」です。誰でもが陥ってしまう認知的錯覚について多くの実例を挙げその原因を探ります。脳内の情報処理や認識をつかさどるシステムを2つに分けて説明します。システム1は感情や直感を、システム2は熟慮を担い、システム1は素早く自動的に発動し、システム2は遅く意識的に努力しないと起動しないのです。われわれが頻繁に認知的錯覚、誤りを犯すのはシステム2の知識や能力不足によるというのです。どうしたら、我々は認知的バイアスに陥らないのでしょうか?これについて、カーネマンは「あまり期待できそうにない」と言いますが、「判断や選択のエラーを突き止め理解する能力を高めること」とか、数値化できる場合には直観に頼らず数式で表す、個人で決定せずに組織に任せる、あるいはシステム1に起因するエラーなら「思考をクールダウンさせ、システム2の応援を求める」というような対処方法を提示しています。また、カーネマンは、資本主義の原動力は認知的錯覚にあると言います。起業家の多くは、自分は他者よりも優れているという自信過剰や思い通りに運ぶはずという楽観バイアスという認知バイアスに陥っていると言います。なかなか面白い分析です。人々の欲望を生み出し商品を売ろうとするマーケティング手法もCMから陳列棚の配置、限定品、お買い得品、店内のBGMまですべて消費者のシステム1を刺激しそれを利用しているのです。このように、人はいかに錯覚に陥り不合理な決定を行うかを浮き彫りにしています。ビジネスにおいても役立つ本だと思います。

次は、「愛と怒りの行動経済学」です。これまでの行動経済学においては、愛や怒りといった感情は予測可能だが不合理なものとされてきましたが、本書は、感情は実に合理的なもので様々な利益をもたらしてくれるものとしています。そして、多くの事例を挙げ、感情が進化の過程で取り残された大昔の遺物ではなくわれわれの合理的な面を補ってバランスを保つための高度な優れた道具であるとしています。本ブログの最初に述べたゲーム理論が本書の主要な柱となっていますが、そのほかに進化論が取り上げています。経済学において、最近進化経済学という分野もできています(本書は進化経済学を取り上げているわけではありませんが)。

本書は、同じ行動経済学の立場でありながら、カーネマンらの行動経済学の立場に批判的です。カーネマンのシステム1とシステム2のように対立的にみるのではなく、ヴィンターは感情と理性の相互作用として人間行動をとらえています。カーネマンらの研究は一人の人間の意思決定に焦点を置いていましたが、ヴィンターはゲーム理論のように他者との関係性、特に信頼や愛など人間関係性に焦点を置いているのです。

このように立場の違う行動経済学の本ですが、いずれも一般向けで興味深く読める面白い本なのでお勧めします。

 

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