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休日の本棚 新型コロナウィルスから生命を考える

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おはようございます。

新型コロナウィルスによる死者200人、感染者1万人を超えSARSを超える勢いで世界に広がっています。SARSの2003年頃に比べ中国経済の状況も変化し、人々の移動距離・範囲が格段に広がっていることも原因です。日本においても中国人旅行者の数は20倍以上になっています。遅まきながらWHOは緊急事態宣言を発表し、日本政府も指定感染症に指定する政令施行を前倒しし、湖北省に2週間以内に滞在した外国人と湖北省発行の旅券を所持する外国人の入国を拒否することにしました。こうした中、国立感染症研究所が新型コロナウィルスの分離・培養に成功したと発表しました。これにより、新型肺炎に対する治療法やワクチンの開発が進められるようになります。SARSのときを考えれば、新型コロナウィルスのピークは4月、5月頃になり、終焉は8月末頃と言われています。これは東京オリンピックの開催時期と重なりますし、中国経済ひいては世界経済へ及ぼす影響を考えますと、できるだけ早く治療法やワクチンの開発が確立されることを期待します。

今日は、ウィルスから生命について考えたいと思います。そのために、「池上彰が聞いてわかった生命のしくみー東工大生命科学を学ぶ」(朝日新聞出版)、福岡伸一著「生命と無生物のあいだ」(講談社現代新書)を取り上げます。また、以前にも紹介した須田桃子著「合成生物学の衝撃」(文藝春秋)についても改めて紹介します。

まずは、「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ」ですが、この本は、池上さんが東京工業大学生物学教授の岩﨑博史・田口秀樹両先生に訊くという対話形式でつづられた本です。また、最後に「オートファジー(細胞の自食作用)の仕組みの解明」でノーベル生理学賞を受賞された大隅義典博士との特別対談が載っています。

この本は、「生命とは何か」「生きているとはどういうことか、死ぬとはどういうことか」ということを細胞レベルから、池上氏の問いに岩﨑・田口両先生が答えるという形で説明されていてわかりやすく面白い内容になっています。生物には1つの細胞からできている単細胞生物と複数の細胞からできている多細胞生物があります。人間の細胞の数は、かつて約60兆個と言われていましたが、最近では約37兆個といわれています。すべての生物は細胞からできていますが、細胞の定義として、境界・自己増殖・代謝の3点が挙げられます。まず、境界ですが、細胞膜によって他から隔離されているということです。次に自己増殖ですが、細胞分裂によって増えていくということです。最後に代謝ですが、外からエネルギーや物質を取り込んで、袋の中でエネルギーを生み出したり新たな物質を作ったり排出したりなどいろいろな化学反応を起こすということです。

ここで、ウィルスが生物なのかという疑問が出てきます。ウィルスは自己増殖せず、自分自身の中でエネルギーや体を作ることができません。入り込んだ先の細胞の力を借りて自分の材料を作っているのです。生物の3つの定義に厳密に従えば、ウィルスは生物ではないということになります。しかし、自己増殖や代謝に他の細胞の助けを借りてもよいとすれば、ウィルスも生物ということになります。中屋敷均著「ウィルスは生きている」(講談社現代新書)という本がありますが、この本ではウィルスを生物としています。

池上彰が聞いてわかった生命のしくみ」では、DNA,遺伝子、ゲノム、染色体についてわかりやすく説明され、クローン・ES細胞・iPS細胞についてもわかりやすい説明がなされています。さらに、DNAとタンパク質をつなげるセントラルドグマについても説明されています。タンパク質は生命維持に重要な物質ですが、DNAからRNAに情報が渡りRNAからたんぱく質が作られるのです。これは人間だけでなくすべての生物に当てはまることです。このセントラルドグマは生命の統一原理とも呼ばれ、地球上に存在する多種多様な生物の細胞内で起こっていることはすべて同じなのです。このことからすべての生命は同じ祖先から生まれたと言えるのです。この本は、生命科学に興味を抱いた人が最初に読む本としてお勧めです。

次は、「生物と無生物のあいだ」です。この本の出版は2007年と古いですが、今読んでも十分に面白い本です。この本も「生命とは何か」という問いに、「生命が動的な平衡状態にある」とする「動的平衡論」をもとに、生物を無生物から区別するものは何か、われわれの生命観の変遷とともに考察されています。

「生命という名の動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバランスを取りつつ同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている。・・・それは決して逆戻りできない営みであり、同時に、どの瞬間でもすべてに完成された仕組みなのである。」「これを乱すような操作的な介入を行えば、動的平衡は取り返しのつかないダメージを受ける。・・・生命と環境との相互作用が一回限りの折り紙であるという意味からは、介入が、この一回性の運動を異なる岐路へ導いたことにかわりはない。」「私たちは、自然の流れの前に跪く以外に、その生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはないのである」

目次の付け方も面白いです。「第6章ダークサイド・オブ・DNA」 「第10章 タンパク質のかすかな口づけ」「第11章 内部の内部は外部である」 「第15章 時間という名のほどけない折り紙」など。

ときに詩的な上手い文章が続き、なるほどと感心させられる記述があって興味深く楽しくワクワクしながら読める本です。

この生命の流れに介入しようとするのが合成生物学です。「合成生物学の衝撃」は本当に衝撃を与えてくれる面白い本です。すでにコンピュータ上で設計された生命が誕生しています。コンピュータ上でDNAを設計し生物を作るという研究がアメリカの国防高等研究計画局(通称DARPA(ダーパ))や軍部によって行われています。この本の中から、恐ろしい話(あくまでも架空の話ですが)を一つ取り上げます。

例えば冷戦下の米国で、「ラッサウィルスの突然変異体に対応する新たなワクチンの開発」という研究プログラムがあったとしましょう。ラッサウィルスは急性ウィルス感染症の一つ、ラッサ熱を引き起こすウィルスです。ウィルスは遺伝物質のDNAやRNAがタンパク質の殻に包まれただけの単純な構造をしていて、通常のワクチンはこのたんぱく質からウィルスを識別して攻撃し感染を防ぐのです。ところが、敵国であるソ連が遺伝子組み換え技術によってラッサウィルスのタンパク質の殻の構造を変化させ、生物兵器に使う恐れが出てきました。殻の構造が違えば従来のワクチンはウィルスを識別できないので効きません。そこで米国は自国兵士を守るためにその変異体にも効果を発揮するワクチンを急遽開発します。これはあくまでも防衛目的です。研究によって狙い通りたんぱく質の構造を変えたラッサウィルスの変異体とそれに対応するワクチンができました。しかし、それは新たな兵器の候補ができたことを意味します。なぜなら、唯一効くワクチンは米国しかもっていないからです。もちろん、試験的に作られたウィルスの変異体を生物兵器として応用するにはさらなる研究が必要となります。しかし、兵器転用技術やウィルス株を保有するだけでも軍事上有利になります。こういう応用研究は生物兵器禁止条約などで禁止されていますが、条約を無視し研究する国がないとは言えません。

今回の新型コロナウィルスがどこかの国が作り出した合成生物による生物兵器でないことを祈るばかりです。

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